戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—深凌の楔魔、とある一日—

 

 

 

パイモンに聞きたいことがある俺は、現在進行形であいつを探している……のだが

 

「どこにいんだよあんにゃろう」

 

一向に姿が見えない。ブレアード迷宮(ブレアードが作った迷宮の総称)は段々と広大化しており、探すのも一苦労だ。

 

「あいつがいそうな場所と言えば……ヴェルニアの楼か?」

 

ヴェルニアの楼。そこは俺ら深凌の楔魔が最も集まる場所であり、俗に言う本拠地だ。迷宮の最も東に位置している。

その場所は元々、三神戦争の時に取り残された魔族の居住地であり、地獄の一つだった。大迷宮建造の知識を、ブレアードはそこで得たらしい。

 

ということで俺はいつも通り、空間の歪みで移動する。いるかどうかは定かではないが、行ってみて損はないだろう。

 

で、案の定いた。

今まで探してた俺の体力返せよ。

 

「おや、ゼアノス様。どうかしましたか?」

 

「以前言った通り、お前に聞きたいことがあってな。……ラーシェナはいないようだな」

 

「ええ、最近はカファルーやエヴリーヌさんと共にいますよ。お呼びしましょうか?」

 

そういえば最近一緒にいるのをよく見るな……仲良くなったのならそれはいいことだ。

今度迷宮に行くときは一緒に行かせてもらおうかな。迷宮を広げるのはいいけど、そこらにいる魔獣の数が多くてメンドイんだよ。弱いけど。

 

「いや、むしろいない方がいい。あいつがいると騒ぎになりそうだからな」

 

俺はそう言いながら、異空間からあるものを……『核』を取り出す。

三神戦争のときに見つけた、七大魔王の神核が一つに融合(?)した物だ。あれから数千年経っているのにも関わらず、覚醒する前兆すらないので、パイモンに何か教えてもらおうと思ったのだ。そんなことに詳しそうだったし。

 

「それは一体なん……これは、ルシファー様、ですか?」

 

「惜しいな。これはルシファーを含めた、あの七柱の残滓(ざんし)。その融合体だ。あの宮殿にあったんで持ってきたんだが、目覚める気配が全然ないんだ。お前ならその理由がわかるかと思ったんだが……どうだ?」

 

核をパイモンに渡す。途端に様々な術式が現れては消えていく。どうやら解析などを行っているらしい。俺の頭ではこういうのは理解不能だ。

 

「……これは推測ですが、七柱、それも強大な力を持つあの方々が一つとなってしまったことによる、力の暴走のようなものだと思います。七つの力と精神が拮抗し合い、再生を妨げている状態ではないかと」

 

「……それじゃ、これをまた七つに分離できれば回復するかもしれないってことか?」

 

「いえ、それは不可能でしょう。拮抗し合っているとはいえ、もはや融合してしまっていることに変わりはありません。一つの生物を七つに分けても、元の方々には戻らないでしょう。非常に惜しいことですが、」

 

「そうか……」

 

ちなみに、「何で『腕』で治さないのか?」という質問は受け付けない。作者と小説の都合とだけ教えておく。

ハッ!? 何か電波が……

 

「相も変わらず、凄いですね、ゼアノス様」

 

「はは、ありがと。ラーシェナにはまだ秘密にしておいてくれ」

 

「了解です。……一つお聞きしたいのですが、あの方々を復活させられた暁には、貴方様は何をなさるおつもりですか?」

 

「今の所は無計画。それはその時になってから考えるさ。……あぁ、それと最後に一つ教えろ。熾天魔王ルシファーと、地獄魔王サタン。まさかとは思うが、あいつらは……同一の存在か?」

 

突拍子もない質問だが、これは結構重要な話だ。というか、俺が何千年も前から疑問に思っていた事だ。あいつらの雰囲気が似すぎていて、何度も間違えそうになった。

 

「……よく、おわかりになられましたね。その通りです。その経緯は私も知りませんが、あの御方は、ルシフェル様は堕ちた際に、二つになりました。片方は我ら堕天使を導く存在に、もう片方は地獄を管理する存在に」

 

パイモンはそこで一度止め、何かを思い出すような顔をする。

恐らく、堕天した時のことを思い出しているのだろう。

 

「その内、より傲慢となられたのがルシファー様。より憤怒を起こしやすくなられたのが、サタン様です」

 

「やはりそうか……姿は似ていなかったが、雰囲気がアレだからな。前々からそうじゃないかと思っていたんだが、ありがとう、スッキリした」

 

これ以上聞きたいことは無いので、このヴェルニアの楼を回ることにする。未だに迷宮の内容が覚えられない。ブレアードめ、これは広すぎだ。

 

「やはり、貴方様は変わりませんね。あの時から、何も」

 

最後にそう言われたが、俺には聞こえていなかった。

 

 

 

ヴェルニアの楼を探索していると、グラザとカフラマリア。そしてゼフィラが一ヶ所に集まっていた。何か話してるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「おのれ貴様ら! 我のことがわからぬと申すか!?」

 

「わからぬも何も、貴様のような奴は見たこともないわ!」

 

何か、ちっこいのとゼフィラが言い争いしているように見える。というか、あの小さいのは一体誰……って、は?

 

「おお、ゼアノスではないか! お前なら我が誰かわかるだろう!?」

 

「ゼアノス……お前は、こいつのことを知っているのか?」

 

俺に気付いたらしく、小さいのが寄ってくる。

ゼフィラはゼフィラで、グラザがいる時だけ今までと違った感じで話してくる。あの戦争以来ずっとこんな口調だ。それまではあんな不遜な態度だったのに、急に変わったから当初は驚いた。今はもう慣れたけど。

 

「………」

 

「まさか、貴様も我がわからんのか!?」

 

「いや、どうしたらこうなるのかと思っただけだ。何があった? ……ディアーネ」

 

俺の言葉に、ちっこいの……ディアーネ以外の顔が驚愕に染まる。

魂が変わらないからディアーネだとわかったが……普通なら無理だな。こんなに背が違うのでは、わかれと言う方が無茶だ。あまり姿は変わってないけど、わかりにくい。

あ、今更だけど何故か俺には生者の魂が見える。やろうと思えば、死者のも見えると思う。

 

「な、これが……ディアーネだと?」

 

「さすがゼアノス、我と交わっただけのことはある! やはり我の下に来ぬのは惜しいぞ!」

 

「……で? 何故そんな姿をしているんだ?」

 

「……だ」

 

はしゃいでいた先程とは違って意気消沈した雰囲気で言ってくるが、身長だけでなく、声も小さくなってしまい、聞き取れない。

 

「全く聞こえん」

 

あ、グラザ。俺の気持ちを代弁してくれてありがと。

 

「だから! 力を使い過ぎてしまったのだ!!」

 

それだけではよくわからないので、さらに詳しく聞いてみる。

 

要約してみると、魔力を使っていつもの身体を維持してきたが、使い過ぎて魔力の残量が空になった。となると維持するための魔力も無くなるため、身体が縮んだ……と。

……うん、かなり魔力減ってるな、こいつ。

 

「ということは、この姿がお前の本当の姿ということか?」

 

「ぐぬっ! そうでは……ない」

 

微妙な間の後に否定するディアーネ。

しかしそれでは肯定してるのとあまり変わらない気がするが……

 

「魔力が少なくなっているというのなら、供給すれば直るのか? もしそうならば供給してやるぞ?」

 

「本当か!」

 

「嘘は吐かん。ただ、寝るのだけは勘弁させてもらうぞ。その姿ではヤル気が起きない」

 

「なんだと!?」

 

当たり前だ馬鹿。レヴィアタンもそうだったが、俺をロリコンにする気か?

さすがの俺もそこまで落ちぶれる気はない。

 

「ぐぬぬ、ではどうしろというのだ? 元に戻るまでこの姿なのは屈辱的だぞ!?」

 

「知らんがな。ブレアードにでも頼んだらどうだ?」

 

そう言って俺は踵を返す。後ろで何か叫んでくるが知るか。この前勝手に俺を襲ったこと、まだ許しちゃいない。あいつの所為で……トラウマが……色欲魔神(アスモデウス)にヤられたことを思い出しちまったんだからな!!

 

 

 

 

「で、あいつは結局パイモンに直してもらったわけか」

 

「はっ。どうやら、パイモンの術により魔力を供給したようです」

 

「相変わらず、パイモンはすごいな。俺はそういうのは専門外だから全くの無知なんだよなぁ。知ってても助ける気ゼロだけど。お前はどうだ、ラーシェナ。できるか?」

 

「いいえ、我にもできません。パイモンはかつて、ルシファー様直属の四方の王でありました。確か、西方の王でした。恐らくその際に、他の三柱と共に学んだのかと」

 

四方の王。それはかつてルシファーの領地の四方を支配していた者達の総称だ。

それはパイモン、オリエンス、アリトン、アマイモンの四柱。

ラーシェナは俺よりも年上だが、パイモンはさらに上だ。なんでパイモンがこんなにも微妙な序列にいるのか、正直謎だ。

 

「なーる、そういうことか。……ところでラーシェナ、ちょっとこっち来い」

 

「は? ……わかりまし……」

 

近くまで来たラーシェナの頭に手を置き、昔のように撫でる。……この闘気と魔力。あのころとは違い、かなりの力を身に着けたようだ。

 

「な、何をするのですか!?///」

 

「はは、お前らはほんとに変わらんな。お前も、パイモンも」

 

「それならば、ゼアノス様も変わりませんよ。そのお顔もですが」

 

「そこはほっとけ。正直好きじゃねえんだよ」

 

不貞腐れたように俺がそう言うと、ラーシェナが笑った。そんなにおかしいか?

 

「そうだったのですか?」

 

「そ。……アイドスやアストライアにも間違えられたし」

 

「……それは女の名前ですよね?」

 

ん? 何か不機嫌のような……

 

「あぁ。仲良くなった古神の姉妹だ。俺が凶腕だと知っても、態度を変えずに接してくれた良い奴らだよ」

 

「……そうですか」

 

何だろう。拍車が掛かってさらに悪化してる気がする。こいつの地雷でも踏んだか?

 

「それはそうと、お前、どれだけ強くなった? 今度見てやる。パイモンと一緒か、それとも個人でするか、どっちがいい?」

 

「本当ですか! それでは、一対一でお願いします!」

 

「おう。ああ、それともう一つ。その丁寧語やめろ。聞いてて痒くなる。他の奴らと同じように様付けも無しだ」

 

「で、ですが貴方様は」

 

「言葉」

 

指摘すると口を閉じた。

どうやらかなりの葛藤が頭の中で繰り広げられているようだ。既に頭から湯気が出てきている。これは時間が掛かりそうだな。

 

1分。5分。10分 30分 1時間 ………

 

長ぇ、長すぎる。いつまで待てばいいんだ?

 

「わ、わかり……うぅ」

 

やっと了解したのにまたしても言葉が直ってない。しかし今の「うぅ」は可愛かったな。またやらないかな? もう一回見てみたい。

 

「わかった、ゼアノスさ……ゼアノス。……これでいい、か?」

 

「ああ、今はそれでいい。後は慣れろ。そうすりゃ勝手に言えるようになるさ」

 

「それまでにかなりの時間を費やしそうだがな。……うぅ、やはり違和感が……」

 

はい、二回目の「うぅ」いただきました。ごちそうさま。

しかしラーシェナの言う通り、時間が掛かるなこりゃ。違和感ありまくりだ。

とはいっても、何回か一緒に迷宮に赴けば慣れてくるだろう。そうすれば鍛錬も同時にできるし、都合がよさそうだ。

 

「おし、んじゃ今度から迷宮に行くときは俺に声を掛けろ。鍛錬とその口調の調整も同時にできるからな」

 

「はい、わ………了解した」

 

……何? この必死さは。……メッチャ可愛いんですけど。持ち帰っていい?

 

 

 

ラーシェナの言葉遣いを直す練習をしていると、ブレアードから直接心話がきた。

心話というのは、テレパシーのようなものだ。

 

内容は簡単で、要は「儂の所へ来い」というものだった。居場所もわかったので、ラーシェナに一言断ってから闇の回廊で移動する。

 

「……来たか」

 

「呼ばれたからには来るさ。……ってお前もいたのか、ザハーニウ」

 

ブレアードの所へ行くと、ザハーニウまでいる。さて、何だろうな?

しかもブレアードが創った合成魔獣までいる。それは俗に言うキマイラ等ではなく、ブレアードが独自に創り上げた魔獣だ。

 

「貴様は凶腕の部下でもあったな? 凶腕の支配地であり、魔力の供給に適している場所を知っているのならば教えろ」

 

「それを何に使うのかは知らんが、一つだけ心当たりがある。レスペレントの南にあるオウスト内海。その海中には、かつて魔界王子ベルゼブブが君臨していた宮殿が沈没している。三神戦争の戦時中に沈んだが、やろうと思えば見つけられるだろう。そしてそこは、今では凶腕の宮殿といってもいい。勝手に住み着いていたしな」

 

わかると思うが、これはベルゼビュート宮殿のことだ。今では俺の家だし、間違いではないだろう。

……ベルゼブブに了解は取ってないけど、いいよな?

 

「そのような場所にあるのか……ゼアノスよ、貴様はこれからそこへ向かい、私とその宮殿を接続しろ。必要ならば凶腕の許可も取るがよい。さすがに奴を相手にするつもりはない。それと戦力がいるならば、こいつらも連れて行け」

 

あ、魔獣達(こいつら)はそれでここにいるわけね。

要は、ブレアードと宮殿でパスを繋げればいいんだろ? そのくらいなら簡単だし、下手な準備もいらない。海に潜るのが面倒なだけで。

 

というか、現神に喧嘩売ってるくせに(凶腕)とは戦いたくないってか? 伝承ってのも怖いな、おい。

 

「別に許可なんぞなくとも大丈夫だろ(だって俺だし)。宮殿を探すのは面倒だが、その任務はしかと(うけたまわ)った。……で、ザハーニウは何故ここに?」

 

「儂は御主とは違い、神の墓場と現世を繋ぐ閂となっている。御主の任務が成功したのち、儂が神の墓場への門を開いて新たな魔獣を創るとのことだ」

 

あぁ、だからここにいるわけね。

 

「そうか。あとブレアード、そいつら、魔獣共はいらん。もしかしたら、ベルゼブブの残党がまだいるかもしれん。万が一いたら、侵入者と勘違いされてそいつらと戦わなきゃならん可能性もある。それは避けたい」

 

あの時は気配を探っても見つからなかったが、もしかしたらいたのかもしれない。死に掛けてたら、気配なんかわからないからな。

 

「……いいだろう。では行け」

 

「了解」

 

かくして、俺は懐かしの宮殿に行くこととなった。

 

 

 

 

 


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