将来原作にも関わる超重要人物、大魔術師ブレアード。そんな人間が、俺の目の前にいる。というよりそいつに召喚された。
ブレアードは召喚した俺らを一通り見定めた後、名前を聞いては勝手に序列を決めていった。どうやら俺以外が決まったようで、全員が俺に注目している。
「最後に貴様だ。名は何というのだ?」
「………ゼアノスだ。よろしく」
「「!?」」
名乗った途端、過剰に反応する魔神が二柱いた。パイモンとラーシェナだ。
「……そうか……貴様の序列は十位だ、覚えておくがいい」
「俺は最下位というわけか?」
「………」
俺の呟きには答えず、ブレアードは去っていく。
視線の端に懐かしの二柱が見えたので、色々な意味を含めて笑っておいた。すぐに顔を逸らしたけどね、俺が。
だってさっきからずっとこっちを見てくるから、少し鬱陶しい。
それにしても十位か。原作だと確か……ヨブフとかいう魔神だったはずだけど、この世界だと俺なんだな。そいつの代わりか?
「くっくっく、貴様は十位となってしまったようだな? ゼアノスとやら」
俺にそう話しかけてきたのは、序列九位のディアーネ。
捩じれた角を生やした、薄い茶色の髪の綺麗な魔神だ。背中からは、蝙蝠のような灰色の翼が生えている。
「ディアーネ、といったか? そう言うアンタも、九位と俺とあまり変わらないな。どうやらあの魔術師は実力を測るほどの力はないらしい。アンタはとても、九位という序列には当て嵌まらないだろうな。もっと上のはずだ」
「……ほぉ、初対面の我の力がわかるのか?」
いいえ、出鱈目です。
それとちょっとした原作知識かな? それに精々七位程度だけど。
「少しはな。……ここにいる全員、あの魔術師よりは強いってこともわかる。そして、アンタは特に力を隠している節がある」
ま、一番隠してるのは俺だけど。そして次は、恐らくパイモンだ。ルシファーの部下で、ソロモンの魔神であるあいつが、こんなに弱いはずがない。
「そこまでわかるか……ふん、気に入ったぞ。ゼアノスよ、これが終わったら我の下に来い。良く扱ってやる」
「残念ながら、俺はできれば誰かに仕えることはしたくない。経験もこれだけで充分だ。丁重に断らせてもらう」
その言葉を最後に、踵を返して俺は適当な場所へ移動する。
後ろから視線を二つ感じるが……気にしなくていいか。
「残念だな。気が変わったらいつでも来るがいい」
ディアーネもそう言い残してどこかへ飛んで行った。
ブレアードが言うには、戦が始まるまではここの構造を覚えておけとのこと。どうやらここは、かなり大規模な迷宮らしい。
各々がそれぞれしたいことをしていると、俺に付いてくる者がいた。
第五位になった魔神、エヴリーヌ。二つに束ねた美しい銀色の長髪を持っている。だが見た目はまだ幼少にしか見えない。恐らく見た目同様、精神的にも幼いのだろう。
「エヴリーヌ、といったか……どうかしたのか?」
「あ、エヴリーヌの名前、もう覚えたんだ。お兄ちゃん凄いね」
「……お兄ちゃん?」
「うん、お兄ちゃん」
……俺にシスコン及びロリコン属性は無い。だがこれは新鮮だ。
「そうか、兄か……これからよろしくな、エヴリーヌ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
頭を撫でてそう言うと、はにかむような笑顔で答えた。
何このカワイイ生物。本当に魔神か? ……とても純粋な、それこそ子供のような性格だ。というか俺が男だとよくわかったな。
一通り喋ってからエヴリーヌが去り、改めて近くにいる気配に話しかける。さっきからじーっとした視線を感じ続けていたので、止めてほしいと思ったのも事実だ。
「それで、さっきから俺に何の用だ? 序列三位ラーシェナ、序列六位パイモン」
すると闇から現れるようにして、二柱の魔神……堕天使が舞い降りた。
黒を基準とした鎧に、髪を束ねた長い黒髪の女魔神、ラーシェナ。
緑色の長い髪に山羊のような角。白い簡素な服を着ている魔神、パイモン。
どちらも魔王ルシファーの部下であり、ベルゼビュート宮殿を最後に会っていない懐かしの顔だ。
「その喋り方、服装、先程のエヴリーヌへの対応、そして、何よりもその顔。全てが、あの御方と同じ……やはり貴方は……」
対応? ……あぁ、そういえばあの時、ラーシェナの頭を撫でてたっけ。
「『あの御方』やらと同じ? 誰だ? ……凶腕か?」
「……やはり、そうでしたか。お久しぶりです、ゼアノス様」
パイモンがそう言って跪き、ラーシェナもそれに続いて跪く。だがこれを誰かに見られたら面倒なので、すぐさまやめるように言い、また後で話す約束をして別れた。
次の日。またしても適当に歩き回っていると、昨日と同じ二柱の魔神がいた。どうやら待ち伏せしていたらしい。
「どうした、何か用か?」
「……ゼアノス様、これからはどうなさるおつもりですか?」
「これから? ……そうだな。本来なら拒むが、ブレアードに従ってみるのも悪くない。人間がどのように神に挑むのか、非常に興味がある」
「このまま黙って従うおつもりですか!? ただの人間に!!」
「ただの人間。その人間が神を倒そうとしているんだ。そう思ってると足元を掬われるぞ? 人間は、創造神が創った可能性の塊だからな。……お前らの前の主、ルシファーもそう言って興味を示していなかったか?」
元人間の俺が言うのもあれだが、人間は底知れない。その人間が今こうして、大きな力を持つ十柱もの魔神の召喚に成功しているのだから。
ルシファーも、主神に抗いながらも人間に興味を示していたはずだ。最も愚かで、最も可能性のある、神の最高傑作である人間に。
「……えぇ、そのように申しておりました」
「だろ? ……それと、パイモン。聞きたいことがある。その内お前の所に行くから、待ってろ」
「はい。どのような話なのか、楽しみにしています」
誰よりも厳格で優しいラーシェナと、誰よりも純粋に仕えるパイモン。
ルシファーはこいつらを信用のおける自慢の部下だと言っていたが、俺も同意だ。こいつらが自らの意思で下にくれば、これ以上はないほどに仕えてくれるだろう。
「楽しい内容ではないがな……それとお前ら、俺のことは秘密にしとけよ?」
二つの肯定の声を聞き、とある人物に会うために再び歩いた。
適当に歩き回ってるが、それはあいつらを探すことも兼ねている。
「あぁ、やっと見つけた」
「……む? お前は確か……ゼアノス、だったか?」
「その通り。序列十位のゼアノスだ。アンタは……序列四位だったよな? グラザ……だったか?」
「確かにそうだが、お前はやたらと序列を気にするのだな。昨日もディアーネとやらを呼ぶ際に、
「なに、ただの確認だ。間違いでもして癇癪を買うことにでもなったら堪らないからな。俺はそうでもないが、プライドの高い奴ほど気にする」
「なるほど……ならば俺のことはグラザと呼べ。別段気にしないのでな」
「俺の言いたいことがすぐにわかったようで嬉しいよ」
今の所話をしたのは、ザハーニウをいれて六柱の魔神だ。残りはあと三柱、序列二位カフラマリア。序列七位カファルー。序列八位ゼフィラだ。
とはいってもカファルーは魔獣の姿をしているので、何を言いたいのか理解しにくそうだから最後。カフラマリアは……無口で何も反応しなさそうだからまた今度。となると残るは……
「序列八位のゼフィラがどこにいるか知ってるか? 一応仲間となるのだから挨拶でもと思ったんだが、どこにいるのかわからないんだ」
「変わった奴だな……それならば、先程この道の奥に向かったのを見たぞ」
「そうか、礼を言う」
グラザは数少ない男の魔神だ。ブレアードが召喚した魔神は、俺を入れて男が三柱しかいない。俺、グラザ、ザハーニウだ。
それとグラザとは今後仲よくなる予定だ。彼は原作にかなり関係のある魔神だったと記憶にあるからな。……逆に言えばそれしか覚えてないが。
その後はゼフィラとも話し合い、カフラマリアとも会話をした。
意外なことに、カフラマリアは無口ではなかった。原作だと何も喋らなかったからそう思ったのだが、結構話せる奴だった。だが大きいマントで身を覆っているので、どのような顔なのかよくわからないのが残念だ。
それにゼフィラ、あいつは露出しすぎだと思った。
肌を全く隠していない、服と呼べるのかどうかも疑わしい物を着ている。……着ているといえるかどうかも微妙だ。
山羊のような角のある赤いツインテールで、背中には悪魔のような翼があり、ズボンも
……少し思うのだが、山羊のような角が生えてる魔神多くないか?
それとカファルーだが、カファルーは炎の両翼を持つ大きな馬の魔神だ。話しかけてみたら、意思の相通ができたので仲良くなった。
ちなみに俺が男だと言ったら、エヴリーヌ以外の全員に驚かれた。そしてディアーネに食べられた。性的に。
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フェミリンス戦争。もしくは解放戦争という名前が付いたのが、今俺が体験している戦争だ。今俺は、第一回戦の前衛で補助を優先して行動している。攻撃よりもそちらの方が得意だと、仲間内では周知の事実(嘘)になっているので、疑問に思う者はいない。
……ラーシェナとパイモンを除いて。
とにかく、俺は模擬戦などでも攻撃をあまりせず、補助や治癒をしていたので、本当の俺を知っている二柱以外は俺をそう認知するようになった。最初は何故こんなのが魔神なのかと怪しまれそうだったが、肉弾戦では中位の魔神程度で実戦したので、そんな疑いも今では無くなった。
「グラザ! ほれ、【覚醒の付術】だ!」
「フッ、礼を言っておくぞ!」
グラザに【覚醒の付術】を掛けると、腕力と脚力を上がったことで突っ込んでいった。
いやはや、相変わらず元気だねぇ。
俺らが敵対しているのは、戦争の名前でわかる通り現神、女神の姫神フェミリンスだ。
何千年も昔に、俺が魔術を教えた人間と同じ名前の現神。系譜を調べてみると、予想通りあいつの子孫だった。あいつの子孫が神格を貰い、神にまでなったらしい。
あいつからは「子孫が敵対しても守ってくれ」って言われてるし……どうしよう。
「邪魔だっつーの」
斬り掛かってくる天使にカウンターをして、再び補助の位置に着く。
それとどうでもいいことだが、
それを教える時に、「この黒いコート、もしくはこれと同じ形の白いコート(ブランシュが使用)は凶腕の部下の証だ」と
何故かって? 将来的に面白そうだったから。
あと、ブランシェってのは三神戦争の時に創った眷属の1人だ。身体が白かったやつ。
もう1人の黒かったやつには、ノワールという名前にした。
それぞれ、白と黒という意味がある。我ながら安直だけど、気にしたら負け。
パイモンはそれを聞いて苦笑していた。ラーシェナは引き攣っていたが。
これも、本当に凶腕の部下なのか疑われたが、そこはノワールとブランシュを使って本当だと思い込ませた。うん、面白かったとだけ言っておく。
あ、深凌の楔魔ってのは俺ら十柱の魔神の総称だ。いつの間にかそう呼ばれてた。
「で、俺は何でこんな場所にいるんだろうな? ディアーネ、知ってるか?」
俺は補助及び治癒役だ。なのに何で俺は前衛にいる? いや、ブレアードに命令されたからだけど、何故に前衛?
「我が人間の考えることなんぞわかるか! ええい、鬱陶しいわ!」
— キル・ディアーネ —
それは暗黒の槍を放つディアーネの必殺技だ。
自分の名前を入れている辺り、余程あの技に自信があるのだろう。現に、何体もの光の眷属を消滅させている。
「……ん? おいゼアノス、あやつはあそこで何をしているのだ!?」
ディアーネが怒鳴り、その視線を追うと、そこには何百もの天使に囲まれたゼフィラの姿があった。そこはかなり奥にあり、まだ光陣営が多量にいる場所だ。
ディアーネはゼフィラとは犬猿の仲だから、助けは期待できない。他の魔神らも、場所的に間に合わない。
だがそこに、突っ走る一つの影があった。あれは……グラザ!
「独断専行しすぎだぞ!!」
グラザが周りの天使を無視し、ゼフィラを抱きかかえた。いくつかの光がぶつかるが、グラザは躱そうともしない。あいつは結構仲間思いらしい。
俺はディアーネの首を掴み、
「おい、行くぞディアーネ」
「……何故我が命令されている?」
そう呟いたのを無視して天使の集団へ向かう。
そしてグラザに攻撃が当たらぬよう、ブレアードの部下(魔神ではない)も使って天使たちを迎撃する。
「クックック。ゼフィラ、貴様面白いことになっているな」
「ディアーネじゃないけど、確かに面白い。こんなの、滅多に見れないしな」
「な!? ディアーネ! それにゼアノス! 見るな!」
……いつもの喧嘩が始まった。うるせぇ。つか助けてやったんだから礼くらい言えや。
あれから色々あったが、取り敢えず一回目の戦いは終わった。これからはさらに俺らがいる場所……つまりは迷宮だが、迷宮をさらに広げるらしい。
次の戦いまではやることがない。
暇を持て余していたので、パイモンに前に話そうとしたことを言おうと思い、彼の所へ行こうとした、その時だった。ゼフィラに呼ばれたのは。
「ゼアノス、あの時は言えなかったが助かったぞ、礼を言う」
「ん、どういたしまして。……グラザとディアーネには言ったのか?」
「ディアーネには言わぬ。後が面倒になる。だが、その……グラザには……」
前半は納得。あいつには借りなんか作るもんじゃない。
それにしてもどうしたんだ?『グラザ』の名前を出すだけで顔が赤くなって、まるで恋する乙女…………まさか、
「……グラザに惚れでもしたか?」
「!? ち、違……いや、そうだ……」
おや、案外素直。
「命を助けられたときに、その、抱きしめられてな。それで……」
それで好きになってしまったと。しかし素直すぎて弄り甲斐がない。つまらん。
……ゼフィラが身体をクネクネし始めた。ヤバイ、今までを知ってるから少しキモイ。
……早くパイモンの所へ行こう。