戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—二回目の別れと出会い—

 

 

 

フェミリンスがいるこの地域から別れるこの日の朝。俺は久しぶりに、彼女と出会ったあの町へ行くことにした。大体4年振りだろうか?

 

「ま、また来たぞ!」

 

「まだこの近くにいたのか……」

 

「神よ、我らをお守りください」

 

俺が町に入った途端に聞こえる声や悲鳴。ちなみに『腕』は出したままだ。そうでもしないと、俺のことを女だと勘違いした人間の男にナンパされるからだ。

悲しいことに慣れてしまったが、された直後に『腕』を出して怯えさせるというのも飽きたので、どうせなら最初から出していようと思った。

 

果物類を売っている店が視界に入ったので、買おうとしてその店に近づく。何かを食べようと思ってたので丁度いい。

 

金はもちろん払う。この町付近に盗賊がいたので、そいつらの金品を奪ってフェミリンスに渡し、お礼として受け取ったものだ。

礼は何が良いかと聞かれて、金が欲しいと答えた時は大変だった。人間から何かを買う際はしっかりと『買う』と言ったら、「魔神がちゃんとお金を払うなんて」と大笑いされた。代わりに、その日の特訓の厳しさが跳ね上がったわけだが。

 

「あ、あの、何か御用ですか?」

 

「……これの値段はどれほどだ?」

 

「は、はい?」

 

「値段はいくらかと聞いている。金ならあるから安心しろ」

 

茫然とする店番と周囲の人間。ま、こうなるよな、魔神が金を払って物を買うなんてことをすれば。

フェミリンスとは反応が違うが、驚く内容は同じだろう。

 

リンゴのような果実を買い、食べながら歩いて町を出る。その際に聞こえたのは安堵の溜息や声。それに反応して振り返ると、一気に緊張が走る。

 

「1000年だ」

 

俺の発した言葉に、疑問符を頭上に掲げる人々。逆の立場なら、おれもあのようになっているだろう。これだけでは意味不明だ。

 

「最低でも1000年間、俺はここに来ない。ここら一帯は飽きた。良かったな、お前らの恐怖の対象がいなくなるぞ?」

 

再び背を向けて町外へ出ると、先程の安堵や緊張が一気に消滅した。そして俺が完全に森の中に入ると、人間の耳でも聞こえたであろう大歓声。……うるせぇ。

つか信じたのか?本当にしばらくは来ないけど、魔神の言葉を信じたのか?

…まぁいいか。

 

 

正午、太陽が真上に昇ったこの時間。いつもの場所(・・・・・・)に行くと、予想通りというべきか、フェミリンスがいた。

 

「……来るの早ぇな」

 

「もちろんです。絶対に見送ると決めましたから、遅れないように朝から待っていたんです。朝とはいっても、1時間程前ですが」

 

—ほとんど朝ではありませんね。—

そう言って苦笑するフェミリンス。その姿は見てて可愛らしいが、さすがに彼女を連れて行ってはいけない。ただでさえ原作が崩れかけているというのに、これ以上は壊したくない。

……始まった後は壊しまくる予定だけど。

 

「そして、見送ると同時に伝えたいことがあるのです」

 

「そういえば昨日もそんなこと言ってたな。何だ?」

 

「……私は貴方が好きです。それは未来永劫、変わることはありません。私が他の男性と結婚しようとも、私は貴方を想い続けます。例えヨボヨボのお婆ちゃんになってしまっても、それこそ死んでしまってからもずっとです。覚悟しておいてください」

 

死んだ後もって、それは結構怖いな。悪霊になって出てきたりするのは勘弁だぞ?

だが、

 

「男としては嬉しい、とだけ言っておく」

 

「そうですか? ならよかったです。……もう、行ってしまわれるのですよね?」

 

俺は頷いて肯定。あえて声には出さずに、やめる気はないぞ、と伝える。

聞こえてくるのは、溜息。

 

「わかりました、諦めます。どうやらいつもとは違って、言っても聞いてくれなさそうですし」

 

「……お前が死んだ後も、俺はお前の子孫には手は出さない。むしろ、できるだけ助けてやるさ。……できるだけ、だがな」

 

「はい、お願いします。貴方の可能な範囲でいいので、助けてあげてください。例えその子らが、貴方に危害を加えても」

 

「……そうだな。俺もお前の、弟子の子孫らを殺すのは抵抗あるし、そうしよう」

 

「……初めて、弟子だと言ってくれましたね。ありがとうございます。貴方から教わったことは、全て後世に受け継がせてもらいます」

 

「あぁ、そうしろ。……それじゃ、もう出発するか。達者でな」

 

俺は後ろを向いて歩きだす。フェミリンスも言いたいことは言い切ったのか、『凛っ!』としていて、初めて会った頃と何も変わっていなかった。

あえて言うならば、身長はもちろんのこと、その身に内包する魔力だろう。特訓のおかげか、当初と比べて膨大になっている。

 

「今まで、ありがとうございました!」

 

 

 

—————————————○

 

 

 

フェミリンスの謝礼の言葉を背中で受け取ってから、千年程経過した。……いや、もっと経っているかもしれない。それこそ千ではなく、二千年は経ったかもしれないが、数えてないのでわからない。

 

そんな長い時の中で、俺は自分の着ているコートの色を少し変えた。

今までは黒一色だったが、今では白地に黒い茨模様が描かれているもので、結構気に入っている。

凶腕として活動しているときはこれを。ただのゼアノスとして動く時は、以前の黒だけのものを着ることにした。ちょっとした区別だな。

 

そして俺が今どこにいるかなのだが、実はとある人物(?)に呼ばれて……

 

「で、俺に何の用だ? わざわざこんな所へ来てくれ、なんて正気の沙汰と思えないぞ? 現神のお前が魔神である俺に頼み事をするというのはな」

 

何やら近くで戦いが起きたので、南方へ下り、山脈近くの村の宿で寝ていたら、夢の中で「頼みを聞いてほしい」と言ってきたのだ。

……どうやって俺の夢に出てきたのかは不明だが、恐らく青い月が満月だったことが関係してると思う。

 

さて、今のでわかる人はわかったと思うが、俺を呼んだのは処女神とも青の月女神とも言われているリューシオンだ。今俺はディジュネール地方(大陸中原の最も南)にあるリブフィール山脈の山頂、そこの月昌石の目の前にいる。ここはあいつの加護を受けられる場所だからだ。

途中で亜人間族に襲われるかと思ったが、誰も攻撃してこなかった。むしろ何も見かけなかったのが不思議だ。

 

思い返していると、儚い光が集まっていき、一つの形になっていった。

 

「わざわざこのような地に足を運んでくださり、感謝の言葉もありません。凶腕のゼアノス」

 

そう言って頭を下げたのは、美しき現の女神が一柱、リューシオン。とはいってもしっかりとした姿ではなく、映像のようにぶれている。彼女は本体ではないのだ。

彼女が俺のことを凶腕だと何故知っているかと言うと、アークリオンは光の現神のほぼ全員に俺の容姿等を伝えていたかららしい。

 

「……現神はこの大陸では姿を維持することができない、だったか?」

 

「その通りです。戦争時ならばともかく、現在は不可能です」

 

どんな理由なのかは知らないが、そういうことらしい。何故だろうな?

 

「んで、その現神様が何の用だ?」

 

「貴方も気が付いているはずです。この近辺で再び戦争が起きています。……それも、古神と現神の間で」

 

「まぁ気付いてはいるが……戦争ねぇ、俺に頼みってのはそれに関係するんだよな?」

 

「はい。その古神は、全部で七柱いるのです」

 

リューシオンの説明によれば、戦争で出ている古神は、

 

蒼玄のレア

黒炎のエルテノ

白冥のエンプレス

冥幽のラヴィーヌ

紅雪のレシェンテ

黄墟のイオ

極光のランジェリー

 

だということだ。

……どこかで聞いた名だな。

 

「そしてその中の、黄墟のイオ。彼女は……私の姉神なのです」

 

「………なら、何故そいつは現神勢力にいない? お前の姉ならば現神だろう」

 

「正確に言えば違います。私達は、現神と古神の間で生まれたのです。そして現神は私達を現神だと、古神は私達を古神だと言っていました。その結果、私は現神としてここにいますが、姉様は……」

 

「古神になった……というわけか」

 

「はい…」と力無く頷いてきた。

ということは、こいつの頼みってのも簡単に想像がつく。

 

「お前は俺に、そのイオとやらをどうしてほしいんだ?」

 

「……やはり、わかってしまいますよね。……お願いします。姉様を、どうか助けてください。彼女達は今、負けて封印されかけているのです。謝礼はかならず致します」

 

「助けろと言ったってな……」

 

しかしレアってどこかで……って、アストライアの姉か! ということはこれ、七魔神戦争か! やっと思い出せたぞ!

 

「お受けしてくださいますか?」

 

「……助けてやってもいいが、条件がある」

 

俺は説明する。凶腕としての、とある計画のことを。

 

「……という訳だから、その時にお前の力を少し借りる。いいな?」

 

「……わかりました。貴方が何をしようとしているのかは分かりませんが……姉様を、よろしくお願いします。そして重ね重ね、ありがとうございます」

 

 

 

〜只今移動中〜

 

 

 

「おいおい。100年前来たときは、ここ普通の陸地だったろ。何で海になってんだよ」

 

昔はこうではなかったのに、まさか戦争でここまで地形が変化するとは……原作知識がなければ信じられない状況だ。ここまですごいとお伽噺にしたくなるよな。こんな力を持った魔神がここにいるなんて、人間なら誰も信じたくねーよ。

 

すぐ近くで争っている気配がするが、数がおかしい。どちらかはわからんが、片方が圧倒的に不利な状況だ。多分、七魔神の方だろうな〜っと、見つけた。

黄色い長い髪の女が光弾で攻撃されているが……あれイオじゃね?

 

「しょうがない。せいやっ!!」

 

咄嗟に、イオの目の前まで“狂腕”を伸ばす。それだけではなく、一気に近づいてイオを抱き上げる。こうすれば、衝撃が来ても問題ないだろ。

 

—ズガン!—

 

俺の『腕』に光弾が当たる音と衝撃があるが、想像した威力よりも大したものではなかった。それの衝撃で強風が生まれるが、それは俺とイオの髪をなびかせるだけで終わった。

 

「久しぶりだな、アークリオン。何年振りだ?」

 

「……千を超えたことは確かだな」

 

(わたくし)は一体……へ? きょ、凶腕様ですか!?」

 

どうやら攻撃したのは、主神アークリオンだったらしい。会うのは三神戦争以来だから本当に久々だな。……他にも神が二柱いるな。

ついでに抱えているイオが気づいたらしく、慌てた様子でそう言ってくる。顔が真っ赤になってて可愛い。やっぱ美人は絵になるな。

 

「ゼアノスよ、そなたは何をしにこの地へ赴いたのだ? まさか我々と戦争をしにではあるまい」

 

「当たり前だ。理由なんぞ、今見たからわかるだろ。こいつを助けるためだ」

 

「では何故その古神を助けたのか、そこをお教えくれませんこと? 凶腕殿?」

 

「その前にあんたは誰だ? アークリオンは知ってるが、お前とその後ろは知らん」

 

「……そうですわね。私はリィ・バナルシア。風の女神と呼ばれている身です。こちらは雨の神、レイディンですわ」

 

あ〜、そういえば七魔神戦争に出てたのってその三柱だったか?

……全く覚えとらん。

 

「レイディンとやらは知らないが……お前は知ってるな。確かバリハルトの妹神だったか? 兄は嵐で妹は風かよ。……で、理由だったか? これも簡単だ、俺好みの可愛い娘が死にそうだったから助けた。そんだけだ」

 

「か、可愛いなんて……」

 

「……古神を『可愛い』などと仰るのは、前にも後にも貴方だけでしょうね」

 

呆れ顔の現神×3と、また顔が赤くなってる古神。

ちなみに嘘は言ってない。彼女は結構好みだ。

 

「そういうわけで、この娘は貰ってく。文句は聞かないので、じゃあな」

 

言葉が終わると同時に歪の回廊で逃げる。これ以上関るのも面倒だし。

何か声が聞こえたような気もするが気のせいだろう。イオはもちろん俺が抱えたままだ。さて、これからについて話でもしますか。

 

……そういえば雨の神とやら、全く話さなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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