デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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005.だからひとりじゃない

 

僕は選ばされた。憧れと夢を。ひとりでは選べなかった僕へオールマイトは道を示した。

 

僕は選んだ。憧れを捨て、憧れを継ぐために。 僕はヒーローに成る。

 

 

 

 

 

 

 

「――オールマイトォ!!!」

僕は槍を殴り付け弾いた後に振り向いて、大声で救けられなかった名前を叫ぶ。

 

後悔してもしきれない。全てが手遅れ。惨状しか待ち受けていないだろう。それでも名前を呼ばずにはいられなかった。

 

枝にも槍にも見えるオール・フォー・ワンの腕は、ひとりの男の腹を貫いていた。

 

 

 

 

「……え?」

僕は気の抜けた声を出して立ち尽くしてしまう。そこに見えた光景は、自分が想像していた悲惨な光景とは程遠く離れているものだったから。

 

確かに槍は腹を貫いている。金髪の骸骨のように痩せ細った男……ではなく、金の短髪の筋骨隆々の男の腹を。そこにはひとりしかいなかった筈なのに、どこからかワープしてきたように()()()()()()()

 

 

「ギリギリセーフ!救けられた!えっと…オールマイトですよね?」

「あ、ああ…こんな姿だが…」

「……え?」

オールマイトを天に掲げるように両腕で持ち上げている男とオールマイトの短い会話。僕は未だに目の前の状態が信じられないで混乱していた。

 

頭が混乱する僕。しかしその答えはすぐにわかるようになった。

 

「フゥーハッハッハ!!!最高のタイミングだったぞ!やはり!やはり、オールマイトを救うのはこの私と、その弟子であるミリオだったな!!どうしましたオールマイト?顔が真っ赤ですよ?もしかして死ぬかと思って、感傷的な気持ちになってたんですか!?大丈夫!なぜかって?――私たちが来たっ! ハハハッ、どうだ緑谷出久!これが私の育てたルミリオンッ!百万を救うヒーローだっ!!ハァーハッ――ッガ!…ゴッホォゴホッ……」

少し離れた瓦礫の山の上からとんでもない高笑いをしているサーナイトアイが、滅茶苦茶自慢気に僕らを見下ろしていた。僕だけでなくオールマイトも、オール・フォー・ワンですら、呆れたような視線をむせかえる彼に送る。 だがお陰で頭が冴えてきた。

 

サーナイトアイ……貴方って人は…!こんな時まで…ホントにオールマイト馬鹿ですよ。もう…!ふたりともだ!

 

「ミリオ先輩っ!」

「よう、デク!救けにきたよね!よっと。オールマイト、救けることができて光栄です」

「あぁ、ありがとう。通形少年…いや、ルミリオン」

ミリオ先輩は貫かれた腹の槍を何ともないように透過ですり抜けて、少し大きく跳ねて僕の傍までオールマイトと共に来た。 オール・フォー・ワンの追撃があると思ってヤツを睨み付けたが、僕が自由に動けるのを見ると槍をシュルっと元の腕に戻す。どうやら二撃目は無理だと悟ったようだった。

 

「それに救けに来たのは俺たちだけじゃないよね!」

「それはどういう―――」

ミリオ先輩の言葉の意味を尋ねようとした瞬間、離れた瓦礫の上から大きな声が聞こえてきた。

 

「その姿はなんだ、オールマイトォ!!!」

「俊典ぃ!出久ぅ!待たせたなぁ、無事か!?」

「エンデヴァー…!グラントリノ…!!」

現れた二人のヒーローの名をただ呼ぶ。それが終わりではなかった。

 

「我らは救けに―――」

「――俺達は救けに来たんだ。大丈夫か、お嬢さん」

「はいぃ…」

樹木の腕を伸ばしながら颯爽とシンリンカムイが現れた。しかしその後ろから超高速でカムイを追い抜いて紙肢を伸ばしたエッジショットが、僕の後ろで瓦礫に挟まっていた女性を救い出して、抱き上げていた。

 

「お、俺の伸ばした腕は……」

「一歩遅かったな、カムイ。相手はNo.4だぞ?」

「まあまあ、人助けは取り合いじゃないからね」

がっくりと肩を落とすカムイの背をデステゴロが叩き、続いて現れたガンヘッドが慰める。僕が抜け出してきた救出班のヒーロー達が駆けつけてくれたのだ。

 

皆、あの脳無の大軍を退けて、ここまできてくれたのか…!

 

「……な?」

「…はい!」

笑顔で問いかけるミリオ先輩に、僕も笑顔で返す。

 

僕はずっと間違っていた。僕だけが、オールマイトの死を知る僕だけが、オールマイトを救けることが出来るのだと。僕がやり遂げなくてはならないのだと。

 

だけどそれは独り善がりな勘違いだった。

 

皆がオールマイトを……誰かを救いたいと願っていたんだ。僕だけなんかじゃなかった。当たり前だよな……僕らは誰かを救いたいと想っているからヒーローなんだ。 そう、だからひとりじゃない。

 

「―――僕らが来た!もうお前の好きにはさせない! さあ、どうするオール・フォー・ワン!!」

僕は再び拳を作り構えながらヤツに宣告した。これでもまだやるつもりかという意味を込めて。

 

「ふぅ……全くこれだからヒーローってやつは嫌になる」

オール・フォー・ワンはだらりと腕を下ろしながら、タメ息交じりに話始めた。たくさんのヒーローに囲まれ孤立しているというのに、非常に落ち着いた様子で。

 

「僕の都合を省みず、いつだってノコノコと…ゾロゾロと…何処にだって現れては邪魔をしてくる。僕の大事な仲間や、信念をへし折って、奪い取っていく。 僕は君達が憎い…分かるだろ?」

「……分かるさ。私もお前たちに幾度なく壊され奪われた。 罪のなき人々を、平和な日常を、私の守りたかったモノを…!だから…私はお前が許せない…!!」

「オールマイト……」

少しずつ包囲されていくオール・フォー・ワンは構うことなく語り、ミリオ先輩に肩を借りて立つオールマイトが答える。 トゥルーフォームになろうともオールマイトの瞳は強い信念の籠った輝きを放ち続ける。その姿は依然として平和の象徴のままだ。

 

「たとえ私が燃え尽き果てようと、私の意志を継いだ者が必ずお前らを止める。 絶対にだ…!」

「そうか…そうだよな。だから君は育て上げた。その少年を……緑谷出久という最強の弟子を。全てを託すために…でもそれは君だけじゃない。僕も同じさ!()()()()()()()()()()()()―――」

オールマイトが強き瞳でオール・フォー・ワンを射ぬく。だがオール・フォー・ワンは気圧されることなく、天を仰いで嗤いだす。

 

直後、空から何かが猛烈な勢いで飛来し、砂埃を巻き上げながらオール・フォー・ワンの前に突き刺さる。そして衝撃にも似た突風が巻き起こり、砂埃を吹き飛ばしてその姿を現した。

 

「先生から離れろっ!!このヒーロー(クズ)どもがぁぁ!!!」

「よく来てくれた、死柄木弔。君を待っていた!」

傷だらけになった異形の右腕を構え、ボロボロになった衣服を身に纏い、特徴的だった全身に引っ付いていた掌さえ失っている死柄木。それでも死柄木はオール・フォー・ワンを守るために僕らの前に立ち塞がった。

 

僕らとヤツらの睨み合い。暫しの静寂が流れるが、すぐに多くの足音によってそれは打ち破られた。

 

「すまない、喋る脳無に手間取り死柄木を逃がした…!――ッ!ここに来ていたか…!」

「ギャングオルカ!そっちはもう終わったんですね?」

「ああ、少年らも無事に取り返して避難させたし、脳無も全員無力化させた。残るは…死柄木だけだ」

ギャングオルカを筆頭に制圧班のヒーローたちまでもこの場に集まってきた。

 

かっちゃんと轟君は無事に逃げ出せたようだ。これで僕も憂いなくこの場に集中できる! 正直ちょっと忘れてたってことは…かっちゃんには内緒だ。

 

「ひとりがふたりに増えても同じ事だ。僕らがお前たちを止めるさ!」

「そうか、なら最期まで足掻くとしよう……弔」

「ああ、先生ェ!!!」

ゆっくりと腕を上げてオール・フォー・ワンが最期の抵抗を始める。名を呼ばれたことに呼応して死柄木が僕らに向かって駆け出し、その異形の腕を振りかぶった。

 

だが死柄木の動きが止まる。 原因はすぐにわかった。死柄木の胸から束ねた黒い枝のようなものが生えていたからだ。でも理由がわからない。死柄木の胸を貫いていたのは、他でもないオール・フォー・ワンの右腕だったから。

 

オール・フォー・ワンの突然の行動にその場のヒーロー達の足が止まり、一瞬だが硬直した。

 

その一瞬のうちにオール・フォー・ワンは左腕を天に掲げる。そして掲げた腕から間欠泉のように黒い枝のようなものが噴き出して、辺り一面に降り注いだ。俯瞰でこの光景を観ればそれは突如黒き大樹が現れたかのように見えることだろう。

 

「避けろ!あれに触れるな!!」

サーナイトアイの声が響き渡る。 状況は一瞬のうちに混乱したが、僕らヒーローは各々の力で黒き枝を避けたり弾いたりして凌いでいく。

 

噴出はすぐに止まった。 無数に地面に刺さる黒い枝、その中心にいるオール・フォー・ワンの声が聞こえてくる。

 

「範囲を広げすぎて精度が酷いな。やはり動けるものには当たらなかったか……まあいい―――奪わせて貰う」

オール・フォー・ワンの言葉の終わりと共に、黒い枝はスパークを起こした。そして先程の光景の巻き戻しのように枝がオール・フォー・ワンに集まり収まる。

 

今のは……個性を強制的に奪ったのか…!?目につく範囲では食らった人はいなさそうだけど……そうか! 動けなくなった脳無やヴィラン連合やつらから…!

 

「先生ぇ……どうして…」

「すまない、弔。どうしても必要なことだったんだ」

オール・フォー・ワンの足元に苦しそうに(うずくま)る死柄木。その胸にはポッかりと孔が空いているにも関わらず、なぜか血は流れていない。異形だった右腕も元のひ弱な腕に戻っている。死柄木もまたオール・フォー・ワンに個性を奪われたようだ。 しかし死柄木はすがるような眼でオール・フォー・ワンを見つめていた。

 

「僕の全てを君に託そう。 君は戦いを続けろ……死柄木弔―――《オール・フォー・ワン(全てはひとつのために)》」

死柄木の胸の孔にオール・フォー・ワンの黒き腕が差し込まれ、膨大な力が流れ込んでいく。直後、オール・フォー・ワンはその場に糸の切れた人形のように倒れこんだ。

 

「ぐあぁああああ―――!!」

力を強引に流し込まれた死柄木が苦悶の叫び声を上げる。

オール・フォー・ワンと死柄木を捕らえようと皆が駆け寄るが、死柄木の身体からは衝撃波や炎、雷や水が吹き乱れて誰も近寄れない。

 

「ああぁあぁあああ!!先生ぇ!先生ぇええ―――!!!」

死柄木は尚も苦しみながら、(うずくま)って(もが)いていた。 オール・フォー・ワンによって譲渡された力が死柄木を苦しめている。

 

僕は知っている。誰かに渡された個性(ちから)はすぐに制御出来るようなものじゃない。その力が強大ならばその分だけ、力が身体を内側から蝕み、破壊していくんだ。

 

だから、僕が止めてあげなくちゃ……あの苦しみから、救わなきゃ…!

 

「―――死柄木ぃ!!!」

僕は吹き荒れる個性の嵐の中を、全身にワン・フォー・オールを滾らせて突撃していく。僕の拳で全てを終わらせるために。今も全身が様々な異形に変化していく死柄木。だが僕の声にしっかりと反応して、底果ての無い憎しみを込めた眼で僕を睨み付ける。

 

「緑谷ァ!出久ゥウウ!!俺は!お前を殺す!!殺してやるゥゥ―――――!!!」

死柄木の憎悪の叫びと共に、今までとは比べ物にならない衝撃波が発せられ、目も開けられない程の眩い光が迸って辺りを包み込んだ。

 

「何が…!?」

衝撃波に耐えながら強烈な光に眼を細めるが、そのまま光に呑み込まれた―――――

 

 

 

 

 

 

――――衝撃波が収まり、光が収縮していく。 その中心には死柄木の姿が見えた。 項垂れたままの死柄木は身体を蝕む莫大な力の渦を乗り越えて、なんとか死なずに生き残っていた。 だが様子がおかしい。ギリギリで生き残り、満身創痍な筈なのに、死柄木からは犇々(ひしひし)と威圧感が伝わってくる。

 

「――くはッ…」

死柄木が勢いよく顔を上げて、大きく口を開けて歪んだ笑みを浮かべた。不気味な雰囲気が一気に辺りを支配し、背筋に寒気が走り、本能が警鐘を鳴らし続ける。アイツは危険だと。

 

静寂が辺りを包み込む。僕だけでなくその場にいる全員が死柄木のから目を離せず、不用意に動くことすら憚られた。そんな空気の中、死柄木の身体がうすぼんやりと輝き始め、ゆっくりと宙に浮いていく。

 

「……」

死柄木は無言のまま確かめるように、光る自身の身体をマジマジと見つめる。そして真横に軽く右腕を振るった。

 

直後、死柄木の右側一帯のビル群が瓦礫へと変貌した。死柄木はただ腕を振っただけなのに、“破壊”としか表現しようのないものが吹き荒れて、風景を一転させたのだ。

 

何だよ…!何をしたんだ!!?全く、何も見えなかった、わからなかった…!どんな個性で何をどうしたらこうなるんだよ!!?―――個性…そう、これはきっと個性によるものだ。オール・フォー・ワンはいったい何の個性を死柄木に渡したんだ…?

 

死柄木が不思議そうに自分の右手を見つめている。そんな姿を見て、僕は額から冷や汗を流しながら考えた。圧倒的などという言葉では表しきれない程の破壊。生命の危機を感じ取った僕の頭は尋常ではない早さで回り、そしてひとつの仮説に至る。

 

まさかオール・フォー・ワンは、持っていた全ての個性を混ぜてひとつにして死柄木に植え付けたのか…? その結果がこれだって言うのか…!?

 

僕の頭の中で様々な考えが浮かぶ。その中で、オール・フォー・ワン対策で個性について調べていた時に得たひとつの知識がふと浮かんできた。個性特異点と呼ばれる終末論のことだ。

 

世代を重ねるにつれて深化していくことで、個性はより複雑化しより強力になっていく。 そして最終的には誰にも制御出来ない程の強大な力になってしまうというものだ。 世代を経て個性が混じり合うということは……オール・フォー・ワンによって無数の個性がひとつに束ねられたことも同じだ。 そしてその個性はこの特異点に到達していると言えるだろう。

 

では誰にも制御出来ない筈の個性(チカラ)を使いこなす目の前の死柄木はなんだ? 人間が行き着くであろう終末すら武器に変え、僕らの前に現れたコイツは……人間なのか…?

 

宙に佇んで僕らを見下ろし、全身から輝きを放ち続ける死柄木の姿は、どこか幻想的で……それでいて絶望的だった。

 

個性によって創られたこの超常社会の始まりは発光する赤子が産まれたことだったという話だ。そんな超常社会の行き着く先…混沌とした特異点に至った個性。 人類の終末を身に宿し、光り輝く死柄木。特異点すら超越した存在。僕には死柄木が終末の化身に見えた。

 

 

 

―――死柄木が動き出す。終末の化身の手によって、終わりが始まった。

 

 

「死柄木弔ァァ!!」

誰しもが身動きを忘れる程の威圧感と絶望感の中で、僕はヤツの名を叫びながら、チカラを全開にして殴りかかる。

 

やらせない。僕らの世界を、この超常な日常を壊させやしない。 僕らの未来を終わらせて堪るか!!僕は護るんだ!ヒーローとして!!

 

ワン・フォー・オール――プルスウルトラ!!……

 

「DETROIT!!SMAA―――」

「止まれ」

「――ッ!!?」

死柄木が静かなトーンで一言だけ呟いて、僕に掌を向ける。すると死柄木に向かって突撃していた筈の僕の身体がピタリと動かなくなってしまった。

 

身体が…なんで…! 全身に何かが張り付いてるみたいに動かない…!!

 

「緑谷出久、俺はお前が化け物だとずぅっと思ってたんだ。何をやっても止められない、殺せない、勝てないってな。 でも今はお前ですら、只の人間にしか見えないぜ」

死柄木が宙を滑るように僕へと近づいてくる。その口調は実に穏やかで今までに聞いたことのないような死柄木の声色だった。

 

「じゃあな、緑谷出久―――お前が()()()()()

死柄木はまるで友人と帰り道で別れるときのような気軽さで僕を呼ぶ。

 

そして死柄木が僕を指差した。 額に軽い衝撃を感じ―――

 

 

 

―――僕の視界は暗転し、意識が途絶えた。

 

 

 

005.だからひとりじゃない

 

 




絶対に譲れない心を叫べ。もう逃げない――――――


真のラスボス死柄木さん、遂に登場です。構想してからここまで長かったですね。

UA55万突破!ありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!


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