デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
皆に励まされ、支えられ、僕はここまでこれた。そして集結するヒーロー達。かっちゃんと轟君を救出するための一大作戦が、今始まる。
横浜市神野区、ヴィラン連合のアジトのあるビルの前。ふたりの雄英生を救けるため、僕らは集結した。
「おい塚内ィ!なんで
「万が一取り漏らした場合、君の方が視野が広い。それに君がいったら屋内を燃やし尽くしてしまうだろう? 救出には彼の方が適任だ」
「シヤ! でもヤツはまだ高校生だろ!ここは経験豊富な俺が行くべきだ!!」
「そのために他にもメンバーがいるんだろう? 経験豊富、目にも止まらぬ古豪グラントリノ。 隠密と素早さに長けたトップヒーローエッジショット。若手実力派シンリンカムイの拘束もある。彼らとの相性も考えたら、ここはオールライトがいくべきなんだ」
「ぬぅ……」
塚内さんとエンデヴァーが少し突入メンバーのことで揉めていたが、あっという間に説き伏せた。
「おい!貴様ァ!焦凍を救けだせよ!怪我ひとつなく速やかにな!」
「言われなくとも!任せてくださいよ」
「ひとりで気張んなよ、出久。俺たちもいる…ってもこの老体にあんまり期待されても困るがな!」
「後ろは任せて、オールライト」
グラントリノが後ろから僕の背中を軽く叩く。自虐的だが実力は本物で、僕以上に救出に必要な人物だ。それに続くのは包囲担当のガンヘッド、遠近両方を得意とする彼が後詰めにいれば逃げ切れるヤツは少ないだろう。
「いやいや、グラントリノがいれば我らも百人力! 我のような若輩がこのような大作戦に呼ばれるとは…!」
「きっとカムイなら大丈夫ですよ!」
「オールライト、お前はもっと緊張しろ…てかカムイより若輩じゃねえか?なら落ち着け、カムイ」
「デステゴロの言うとおりですよ、カムイ。落ち着けば大丈夫!いつも通りやりましょう!」
「なんで俺は後輩にも満たない仮免に励まされてんだ…」
カムイを弄りながら少しだけ、緊張が解れていく。さっきの言葉は自分自身にも言ったことだから。
「そろそろ会見の方も終盤。あの発言を受け、その日の内に突入されるとは思うまい!さあ反撃の時だ!流れを覆せ!!ヒーロー!!!」
塚内さんの合図で機動隊とエッジショットがアジトの入り口へと向かう。そして配置についたところで、遂に作戦がはじまった。
「いきますよ!―――」
僕はグラントリノとシンリンカムイを抱えてビルの三階まで跳び跳ねる。そこでふたりを放して、拳を引き絞った。
「―――スッ、マァァシュッ!!」
僕がビルの壁を殴り壊して中へと突入する。そこには目を白黒させて動揺する死柄木、黒霧、コンプレスの三人と“そっちかよ!?”みたいな顔をしている拘束されたかっちゃんがいた。
「先制必縛!ウルシ鎖牢!!」
続いてカムイが樹木の腕を伸ばして、三名のヴィランをそれぞれ同時に捕縛していった。流石は若手実力派、堅実な行動だ。
「救けにきたよ、かっちゃん!」
「頼んでねえよ、デク! 」
笑顔でかっちゃんに呼び掛けたが、辛辣な言葉で返される。でも顔がにやけてるよ、かっちゃん。ホントは待ってたんだろ?相変わらずのツンデレだな!
「奥の厨房に轟とヴィランが一人いる!」
「おい、なんの音だ!!」
かっちゃんが叫んだのと同時にカウンターの奥から顔面継ぎはぎの男、荼毘が驚いた様子で飛び出してきた。
「襲撃!?…燃え尽き―――」
「――
荼毘がその腕から炎を出そうと構えた瞬間、目にも止まらぬ速さでグラントリノが後頭部へ蹴り食らわしてその意識を奪っていった。
「ピザーラ神野店は、俺たちだけじゃない」
エッジショットがドアの隙間からスルリと現れ、後ろ手でドアの鍵を開けると機動隊が雪崩れ込んできた。
「これでっ!終わりだ、死柄木弔!」
かっちゃんの拘束を引き千切りながら、死柄木へと僕は力強く言い放つ。
「終わり…?終わりだと!?ふざけやがって…!」
「ふざけてんのはおめえだ…!俺たちを拐った段階でもう詰んでたんだよ、お前らは」
「轟君!」
「すまねえ、緑谷。手間かけさせた」
「ホントだよ!詫び死ね半分野郎!!」
「なんでかっちゃんがキレるんだ…」
その間にも奥で拘束されていた轟君はグラントリノに救けられて、バーのフロアに手足を気にしながら歩いてくる。
よし!かっちゃんと轟君は無事だ!これだけでもこの作戦は成功とも言える。でも死柄木は絶対にここで捕まえなきゃな。
「ガキども拐って、ヒーローの信頼を落として……これからだったんだ。これからってときにお前はァ!絶対に殺す!!黒霧、持ってこれるだけ持ってこい!!!」
拘束されたままの死柄木が怒りを露にして叫ぶ。 だが、なにも起きなかった。
「すいません、死柄木弔……所定の場所にある筈の脳無が…ない…!?」
「…は?」
黒霧は冷や汗を流しながら死柄木に報告し、死柄木も掌の奥で呆けた顔をしている。切り札を切ろうとしたら、カードがなかったみたいなものだ。それは動揺するだろうな。
「出ないさ。お前らの脳無工場は既にオールマイトが抑えてる。初めからおまえの勝ちはなかったんだよ!もう一度言ってやる。ここで終わりだ、死柄木弔!!」
威圧感を全開にして死柄木を睨む。死柄木は僕を睨み返したあと、チラリと黒霧の方へ目線を向けた。そのアイコンタクトの後、黒霧が動きをみせる。ワープゲートを出現させようとしたのだろう。だがそれをみすみす許す僕らじゃない。
「させるか!
「
黒霧を止めるためエッジショットが個性で“
そして死柄木はあり得ないくらいの剛力でカムイの樹木の拘束を引き千切る。すると死柄木の全貌が見えてくる……以前はひ弱だった腕が右側だけ巨大な異形の腕になっていたのだ。
「やっぱすげえなこの腕、指を鳴らすだけでこの威力だ」
「死柄木の個性は崩壊の力じゃなかったのか!?」
「情報が古いなヒーロー。そんなんだから出し抜かれるんだ……こんな風にな」
カムイが驚きを隠せず漏らした言葉に煽りをいれていく自慢げな死柄木。
あれは間違いなく“個性”……カムイの言う通り死柄木の個性は崩壊の五指だった筈。つまりあれは……
「……オール・フォー・ワンから貰った個性か…!」
「先生のことまで知ってるのか、緑谷出久……まあオールマイトの弟子なら知っててもおかしくない。良いだろう、これ。
《筋骨
「今からこの腕でお前を殴る。それで全て終わりだ、緑谷出久。じゃあ―――死ね」
死柄木は僕に狙いを定めて、腕を振りかぶった。圧倒的な質量と破壊力を籠めた凶悪な腕から僕へと真っ直ぐに放たれる攻撃。僕を殺すのには十分過ぎるパワーがそれにはあった。
―――だが、それだけだ。愚直に進んでくる直線的な攻撃。フェイントのひとつもないのでアッサリと軌道が読める。 右腕だけの歪な強化によって、身体の筋肉バランスが大きく崩れており、破壊力を支えるだけの下地が何一つない。腰の入っていない腕だけのテレフォンパンチ……いや、パンチとすら呼べないだろう。何故なら死柄木は自らの個性
「―――遅いっ!」
僕は左腕でアッパーを放ち、迫る死柄木の腕を上へと弾いて破壊の行く先を変える。突き抜ける衝撃は僕や周りの人々ではなく、バーの天井を突き破りビルの屋上までまとめて吹き飛ばした。大したパワーだが、当たらなければどうということはない。
弾きあげた異形の腕を右手で掴んで、片腕だけで振り回し死柄木の身体を床へと叩きつけた。そのまま馬乗りになり死柄木の左手首を左手で掴んで捻り、完全に拘束する。
「死柄木弔、今―――」
「――させねえよ!!」
死柄木が拘束されたことに焦った黒霧がゲートを出そうとするが、爆速ターボで急襲をかけたかっちゃんによって胴体を爆破される。周囲に割れたグラスやボトルを散乱させながら黒霧は壁に叩きつけられ、身体から煙をあげて気絶したように動かなくなった。
「前に言ったよなぁ黒モヤァ…お前は俺が必ずぶっ潰すってよお」
「黒霧…!くそっ!離しやがれ!!」
かっちゃんは至極満足げに笑っていた。余程これまでのフラストレーションが溜まっていたのだろう。僕は踠く死柄木を押さえつけながらそんなことを思っていた。直ぐにエッジショットが黒霧の体内に入り込んで気絶を確認して、こちらにハンドサインを送る。
「終わりだって言ってるだろ、三度も言わせるな。お前みたいな三下に構ってる暇はないんだよ!!」
死柄木への再三の宣告。二度あることは三度あるというが、これで本当に終わりにさせてもらう。
ヴィラン連合は先の襲撃で半壊させたし、ここにいるメンバーも全員ヒーローの手によって拘束した。特に一番厄介な黒霧を抑えれたのは大きいな。これでコイツらが逃げ出したり、オール・フォー・ワンのいる倉庫に合流したり出来なくなった。 死柄木の腕には少し驚かされたが、あんな筋肉の欠片もないモノに僕の筋肉は負けない。
あとはオール・フォー・ワンを倒せば……全てが終わる!!
「こんな……こんなところで終われるか……これから…これからだったんだ……ふざけるな…!殺す…殺す…!殺してやる…!」
「壊れちまったか…?」
死柄木がぶつぶつと呪詛のように僕の下で呟いていて、かっちゃんがその様子を哀れみの目で見ていた。だが僕にはこんな負け惜しみに付き合っている暇はない。さっさと気絶させて止めを刺すために拳を振り上げた。
その時だった。
「俺は―――お前を殺す!!緑谷ァァア!!!」
死柄木の叫びと呼応するように周囲に無数の黒い液体が吹き出してきて、そこから脳無が続々と現れ始めた。
そして死柄木の口からも同じような液体が吹き零れてくる。
「なんだ!?なにが起こってる!?」
「マズイ!全員持ってかれるぞ!!」
視線をあげ見回すと、死柄木のみならず他の連合の面々も黒い液体に包まれて、飲み込まれるように消えていく。そして―――
「お゛!!?――」「おえっ――!!?」
「かっちゃん!轟君!!」
「んだこれっ、身体…飲まれ……」
「っ!!ダメダメ、ダメだ!渡さないっ!!!」
死柄木を捨て置いて直ぐにかっちゃんに駆け寄り、身体に纏まりつく液体を掻いていくが、全て無駄だと言わんばかりにどんどんと飲み込まれていく。
「かっちゃん!!!――」
「デク―――」
黒い液体に飲まれ行くかっちゃんは僕へと手を伸ばす、僕もその手を取るため必死に手を伸ばすが……かっちゃんの手は僕の手をすり抜けて黒の中に消えていった。
「かっちゃん……―――」
今度は慟哭すら出さず、ぼそりと呟くように名前を呼ぶ。そして脱力して床に膝をついた。なにかが身体を抑えるような感覚があったが、それすら気にならないほどに身体に力が入らず、思考がまとまらない。
また、また届かなかった…手の届くところにいたのに…! これで終わりだと慢心した。目の前に集中せずにいた。これがその結果か……前世でのかっちゃんたちの転移もこれだったのか…! 黒霧の個性で来たものと思い込んでいた。黒霧と死柄木を抑えれば勝てると思い込まされていた。全部オール・フォー・ワンの手の内じゃないか……また負けるのか…僕は、ここで……
『しっかりせえっ!デクさんはっ!こないなとこで立ち止まっていられへんやろっ!!』
あの日の麗日さんの言葉が脳裏を過った。
そうだ、僕はこんなところで立ち止まっちゃダメなんだ!!二回目の敗けがなんだ!奪われたのなら、奪い返せばいいだろ!!!
「出久ぅぅ!!」
現実に意識を戻すとグラントリノの声が耳に飛び込んでくる。立ち上がろうとしたが、身体中に何かが重く纏まりついていている。それは何人かの脳無……こいつら邪魔だ。
「――オクラホマ・スマッシュ!!!」
僕は自らの身体をプロペラのように勢いよく回して、纏まりつく脳無を一気に引き剥がして弾き飛ばした。飛ばされた脳無はビルの壁を突き抜け、無くなった天井から飛び出していった。
「大丈夫か!?こいつらまだ出てきやがる!!」
「大丈夫です!それよりオールマイトの方にいかないと!」
「アイツが出てきたってことかぁ…?」
立ち上がって直ぐ、グラントリノに襲いかかっていた脳無を殴り飛ばしながら話しかける。グラントリノもこの現象の原因に思い当たったようだ。
「エンデヴァー!!!」
砕けた壁から乗り出して、階下にいるエンデヴァーを呼ぶ。しかし既にビルの外も溢れかえる脳無で混乱した状況になっていた。
「倉庫に向かいます!!ここは任せましたっ!!!!」
一方的な物言いになってしまったが、それでもこの場をエンデヴァーと他のヒーローに託し、僕は闇夜へと飛び立つ。
足元に街明かりが広がる中、僕は空を全身で叩いて、暴風を撒き散らしながら空中を突き進んでいく。
―――待っていて……オールマイト、かっちゃん、轟君。今行く!!!
――― オールマイト side in ―――
―――――突入直前
「皆、準備はいいか!!?」
「勿論です、オールマイト」
「任せてや!いつでもいけるでぇ!」
「我もだ…!」
「ウチのサイドキックも準備できた。俺もな」
「俺の部下たちも準備万端。しかしこれほどまでの強者が集まるとはな」
「私、このメンバーだと浮いてません?」
私の呼び掛けに応として皆が答える。皆というのは、制圧班のメンバーのプロヒーローである……ジーニスト、ファットガム、虎、フォースカインド、ギャングオルカ、Mt.レディだ。他にも後方に機動隊とフォースカインドやギャングオルカのサイドキックが控えている。
「そんなことはないぞ!君の破壊力はこの面子の中でも随一!それに最初は―――」
「〝―――さあ、流れを覆せ!!ヒーロー!!!〟」
「さあ、作戦開始だ。ド派手にいこうか!!」
話の途中だったが、インカムから塚内君の作戦開始の合図が聞こえてくる。あちらでも始まるようだし、こちらも合わせて突入するとしよう。
「予定通り、我が弟子との技を借りる!Come-on! lady!!!」
「うぅ~なんですかそのいいかた…!い、行きます!」
私はしゃがみこんでバレーのレシーブのように腕を伸ばして構える。そこに少し恥じらったMt.レディが駆け込んで、私の腕を踏み込む。その瞬間腕を大きく振り上げながら立ち上がり、Mt.レディを上空へと射出した。 Mt.レディはぐんぐんと高度を上げて、地上からおよそ40メートルほどの高さに到達する。
Mt.レディは高所から落下していく最中に、個性を発動させその名に恥じぬ身長20メートルの巨大な姿へと変身していく。
「ナイアガラ・フォール!!」
落下の勢いを利用した超質量のフットスタンプが、圧倒的な破壊力を持って倉庫の入り口……いや、入り口のある外壁を粉砕した。
「突撃ィ!!!!」
私の号令と共に皆が倉庫内へと突入。先の衝撃で様々な機器が散乱する倉庫に足を踏み入れる。しかし、反撃など一切なく、そこには誰の気配もなかった。ただ、散乱した機器に混じる物言わぬ脳無を除いて。
「捕らえろ!なにもさせるな!!」
ジーニストの叫びをきっかけにその場の全員が脳無を確保していく。一分もしないうちに見える範囲にいた脳無を全て捕らえることに成功した。だが、私の頭にはまだ不安が残る。
あっさりと事が進みすぎている。これほど大掛かりな施設にも関わらず、監視や防衛の人員がいないのが不思議だ。我々の奇襲が功をなしたと考えるべきか?いや、緑谷少年の話が本当ならここには―――
「いやぁ、相変わらず土足で踏み荒らすのが得意だなァヒーローは……」
「誰だ!!?」
倉庫の奥の暗闇からうっすらと人影が見え、その声が響き渡る。先程まで気配すら感じさせなかったというのに、気が付くとそこにいたのだ。背筋が冷える感覚と心の奥底から涌き出る怒り、コイツは……
「……少し間引くか」
「皆下がれェェ!!DETROIT-SMAAASH!!!」
暗闇の人物が腕をこちらに向け、正体不明の衝撃を放つ。同時に私も腕を振り抜き、特大の暴風を放つ。衝撃と暴風が正面からぶつかり合う。完全に相殺されたというわけではなく、周囲に風と衝撃が広がり倉庫と我々を吹き飛ばした。
「皆無事か!!?」
「大丈夫です……オールマイト。おかげで皆下げられました……」
返事をしたのはジーニストだった。あの風と衝撃の中でもジーニストはその個性で他のヒーローと機動隊の繊維を操り後ろへ大きく弾き飛ばして、巻き込まれないようにしていた。だが自らはモロに衝撃を食らってしまったようで、全身から血が滲んでいる。
パチパチと手を叩く音が辺りに響く。砂埃が晴れたその先に拍手をしながら宙に浮く、ヤツの姿が見えた。
「今ので君以外は全員消し飛ばそうと思ったんだが、やるじゃないか。流石はNo.4、ベストジーニストだ」
「……オール・フォー・ワン…!!」
「その他大勢は、彼らに任せるとしよう」
両手を広げて私を挑発するオール・フォー・ワン。直後、ヤツの背後から無数の脳無が現れてきた。だがその大半は謎の黒い液体に飲まれて消えていく。それと同時にヤツのそばに黒い液体が涌き出て、そこから六人の人物が吐き出されるように出てきた。
「なんじゃ、こりゃあ!…どこだ!?」
「先生…!!」
拐われていた爆豪少年と轟少年、そして死柄木弔をはじめとしたヴィラン連合の四名が現れる。それを機に脳無たちは一斉に動き出し、私を無視して背後へと駆けていく。狙いはプロヒーロー達か!!
「ジーニスト!皆と共に少年らを救え!それと機動隊!避難区域をもっと広げてくれ!!私は―――」
「悪いね、弔。いろいろと話したいが今は忙しい。ヒーローを倒してここは逃げろ。僕は―――」
「「―――
オール・フォー・ワンと私は同時に飛び出し、空中で拳と掌で取っ組み合いになる。そしてヒーロー達とヴィラン連合の戦闘が始まった。
地上では脳無とヴィラン連合が猛威を奮い、ヒーロー達がそれに立ち向かう。少年らも抵抗を続けて今にも逃げられそうだ。そして私とオール・フォー・ワンは空中で殴り合いをしている。ヤツの指先から伸びる黒い
隙をみてオール・フォー・ワンが死柄木の援護に衝撃波を放つ度にスマッシュで相殺し、じわじわと連合はヒーロー達に追い詰められていく。
「SMASH!!――」
「《衝撃反転》」
「――ッア゛ァァ!!」
オール・フォー・ワンの顔面を殴り付けた拳にその力が全て跳ね返ってくる―――が、跳ね返された以上のチカラを込めて強引に拳を振り抜いた。 ヤツが被っていたガラス質のヘルメットが砕け、眼も鼻も失われた顔のない顔が露になる。オール・フォー・ワンは無い筈の眼でこちらを睨み付けてきた。
「思ってたより元気だなぁ、 オールマイト。僕の予測じゃもっと衰えていると思っていたよ…」
「生涯現役をモットーにしてるからな。比べて貴様は大分弱くなったな、オール・フォー・ワンッ!」
「こんな身体にされてからストックも随分と減ってしまってね。君を殺すのにお誂え向きの個性があったんだが……生憎ながら今は弔に貸しているんだ」
オール・フォー・ワンが死柄木の方を指差しながら語る。隙を見せないように横目で確認すると、死柄木の右腕は見たことの無い異形の腕になっており、ヒーロー達に十分に対抗している。
なるほど、力押しに弱かった死柄木にパワー系の個性を渡したのか。かなりの破壊力を持っているだろうし、崩壊の個性と合わせれば確かに驚異的な強さになるだろう。でもこの状況では焼け石に水だ。 脳無をほぼ制圧しつつあるヒーロー達。更にはここに集まったのは近接格闘を得意とするタイプも多い。付け焼き刃の死柄木の腕ではいくらパワーが有っても通用しない。
「選択を間違えたなオール・フォー・ワン。死柄木弔がやられるのも時間の問題だ。そして貴様も私の手で倒し、死柄木もろとも刑務所へぶちこんでやるっ!!!」
「っ!随分と死柄木弔が追い詰められるのが嬉しいようだね、オールマイト?」
「貴様も死柄木も悪の権化のようなやつだ。この国の平和を守るために、捕らえるのが私が師から継いだ使命だっ!!」
「ハハハ、先代…志村菜奈からねえ……フフっ…」
腕と拳を交わしながらオール・フォー・ワンと私は言葉を重ねる。だがお師匠の名を聞いた途端に不気味に笑い始めた。
何がおかしいというんだ…!穢れた口からお師匠の名を出して…!揚げ句嗤うだと? 許せんっ…!! お師匠から受け継いだこのチカラでこいつを倒す、それで全てが終わるのだ!チカラを貸してくださいお師匠…!
グッと拳を握る力が強くなり、そのまま腕にチカラを込めて引き絞る。
「あのね……死柄木弔は志村菜奈の孫だよ」
「―――は?」
頭の中が一瞬にして真っ白になった。
直後、無防備な身体に衝撃波が直撃し、地面へと叩きつけられる。
「―――ぐっ!!」
「隙だらけだったよ!オールマイトっ!」
立ち上がろうとするが立て続けに衝撃波が襲い、動くことすらままならない。
「君が嫌がることをずぅっと考えてた! 嘘だって思ってるだろう?事実さっ! わかってるだろう?僕のやりそうな事だ! 君は弟子と二人で何度も弔を下したね!なにも知らず、勝ち誇った笑顔で!!ハハハ!いつもの笑顔はどうした?オールマイト!……やはり…楽しいな!」
勝ち誇ったオール・フォー・ワンの声と共に何度も何度も衝撃波を叩きつけられ、全身がズタズタになりながら地面に抑えつけられる。
私はこれまで……お師匠の家族を……私はなんということを――――……
「平和の象徴は…今日ここで折れる。もう少し君の歪んだ顔を見ていたかったが、時間も惜しい。さあ、終わりにしようか、オールマイト」
先程までより強大な溜めを作りながらオール・フォー・ワンが私へ腕を向ける。 私の身体は動いてはくれなかった。
もう……私は――――――
「――やはりきたか…!」
「―――スマァァァッシュッッ!!!」
それは突然の出来事だった。オール・フォー・ワンは上空に振り向いて溜めた衝撃波放つ。それに対抗する乱入者は拳を振り抜き衝撃波を打ち消していく。
緑色の影が私とオール・フォー・ワンの間に舞い降りる。
「オールマイトは絶対に殺させやしないぞ!オール・フォー・ワン…!!!」
緑の髪に、緑のコスチュームを身に纏う筋骨隆々なその背中の持ち主は身体中からチカラを迸らせながら力強く叫んだ。
「……緑谷…出久…!」
―――私を救うと言い続けてきた少年が、ついにその舞台に立った瞬間だった。
――― オールマイト side out ―――
転んだっていい。泣いたっていい。いつかその全てが花になるから―――――
総合評価7,000ポイント突破、ありがとうございます!!
まだまだ駆け抜けてきますので、これからもよろしくお願いします!