デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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002.THE DAY

 

かっちゃんと轟君の救出の為、一大作戦が神野区で行われる。 仲間と過ごす当たり前の日常と自らの未来を掴み取るため、僕は改めて決意し闘いへと臨む。

 

 

 

 

 

家に帰ると母さんが心配そうに駆け寄ってきたが、怪我ひとつない僕の姿を見て、暗かった表情が苦笑いへと変わる。

リカバリーガールの治癒のおかげで変な心配をかけずに済んだ。流石は雄英の保健教諭と言ったところだろうな。

 

お風呂に入って、そのあと久々に母さんの手料理を食べる。二十年以上食べてきた母の味がなぜだか今日はとても美味しく感じた。

明日の作戦の為に早めに床につくことにし、部屋に行く前に母さんへ「おやすみ……それと、いつもありがとう」と言ったところ、照れ臭そうな母さんに背中をバシバシしばかれた。慣れないことはするもんじゃないな……

 

 

 

明日……明日だ。泣いても笑っても明日で全てが決まる。再履修(やりなおし)の12年間、そのためだけにやってきたんだから。

そんなことを考えながらベッドに寝転がる。明日のためにも早く寝なくては。だが―――

 

「眠れない…」

 

―――気持ちが落ち着かず全く眠れる気がしなかった。

 

こんなときは……少し筋肉を動かすか。それに限るな。

 

簡単に身支度を整えてランニングをするために夜の街へと繰り出していく。

走り慣れた道を駆け抜ける。少しでも無心に成れるように、このざわついた心が落ち着くようにと。

 

 

ある程度走ったとき、見慣れたとある場所で足が止まった。

 

「田等院商店街か……」

少し古びたアーケード街の看板を見つめながら呟く。

 

僕がかっちゃんを救ける為に飛び出して、オールマイトに救けられて、そして認められた場所。僕のオリジンの場所。

 

「あれ?デクくん?」

そんなことを考えていると後ろから聞き覚えのある声に呼び掛けられる。僕は振り向いてその姿を確認した。緩く巻いたロングの金髪、切れ長の綺麗な眼、誰が見ても間違いなく美人だと言うであろう整った顔立ちの女性。

 

「優さん?」

そこにいたのは私服姿のMt.レディこと岳山優さんだった。

 

そういえば優さん……Mt.レディと初めて会ったのもここだったな。

 

「こんなとこでなにしてんのよ?明日も忙がしいでしょ?」

「ランニングです。なんだか寝れなくて……優さんは?」

「仕事帰りよ。知っての通り私の事務所、この近くだからね」

よくみると優さんは真夏だってのに、長袖のシャツに長ズボンの肌を晒さない格好をしていた。たぶんこの下にあのコスチュームを着ているのだろう。

 

「お疲れ様です。それじゃあ僕はこれで……」

「待ちなさい。ちょっと付き合ってもらうわ」

「えっ!?ちょっ、引っ張らないでくださいよ―――」

優さんも明日の作戦があるのに引き留めちゃ悪いと思っていた僕だが、その優さんに急に腕を引かれて連れていかれる。

 

こうして急遽、二人での夜の散歩が始まった。僕は寝れなかったから全然構わないんだけど、優さんは疲れてないのか?

 

最近のことやそれにまつわる昔話をしながら暫く散歩を続ける。そして気がつけば多古場海浜公園まで歩いてきていた。そして優さんに促されるまま、二人でベンチに腰かける。

 

懐かしい。前世ではオールマイトからチカラを受けとるためここの清掃をしたっけな。 今世では小学生の頃に筋トレ目的で自主的に掃除してたらどんどんと人が増えて、市のボランティア活動になってたんだよなぁ……

 

「さて、そろそろ話してもらおうかしら?」

「え?話すってなにをです?」

「デクくんの悩み事よ。会ってからずっと険しい顔してるし、またひとりでなんでも抱え込んでるんでしょ?」

優さんに言われてハッとする。顔を触って確認すると、ずっと眉間にシワが寄っていたらしく、まだシワが残っていた。

 

こんなに思い詰めてたのか…それも顔に出続けるくらい。常に笑顔でってのはやっぱり難しいのかな。しかし話すったって何をどう話せばいいんだ…?

 

「明日の作戦のこと?」

「あっ……はい。ちょっと緊張しちゃって…」

僕の心を見抜くように優さんが助け船を出してくれる。渡りに船といった感じに僕は在り来たりな返事をした。

 

 

緊張などと言ったものの、僕の心の奥底にあるのはそんな在り来たりなモノじゃない。 考えると不意に湧き出てくる不安の種。消し去ったと思っていた闇が心の炎の隙間からこちらを覗いている。

 

あの絶望の姿を為して……そして目が合った。瞬間、闇が勢いを増して僕を取り込む。

 

 

 

―――死。

 

 

 

僕は死ぬんだ。明日、あの場所で。あの痛みと後悔と共に。

 

 

「―――デクくん!!?」

呼び掛けられながら肩を揺すられ、意識が現実へと回帰する。気が付けば僕の身体は震えていた。

 

「だ、大丈夫ですよ。ちょっと嫌なこと考えちゃって……」

「そう、わかったわ……って納得するわけないでしょう! 何があったの?話して!」

「ホントに大丈夫ですから。僕は……大丈夫じゃなきゃ、いけないので…だから大丈夫…」

俯いた顔を覗きこんで僕の眼を見据える優さんに、狼狽(うろた)えながら虚勢をはった。

 

オールマイトを救けなきゃいけないんだ。かっちゃんと轟君だって救けなきゃ。麗日さんと約束だってしたんだから。僕が大丈夫じゃなきゃ、オールライト()がやらなきゃ…!

 

 

「デクくんが大丈夫って連呼してる時って、だいたい大丈夫じゃないでしょ!わかってるんだからね!」

そんな優さんの言葉に何時だったか記憶が甦る。

 

あれは……10月の半ばだったかな…自主的に限界突破してみようと思って80時間くらいぶっ通しで起きてたときだ。

部屋に来た優さんに僕は大丈夫と何度も呟きながら、そのまま目の前でぶっ倒れたんだったよな。マッスルフォームは解けなかったけど、目を覚ましたら優さんの顔がすぐ近くにあって動揺しまくった気がする。

事情を話したら「バカじゃないの」って散々叱られたっけ。

 

ああ、そうか……僕は優さんに甘えてたんだな。 強くなるために、オールマイトにも、かっちゃんにも、自分にすら甘えを許さなかったのに。優さんにだけは僕のダメな部分を曝け出してた。 それでも優さんは僕を見捨てたりせず、面倒を見続けてくれたんだ。幻滅したり、呆れられても可笑しくなかったのに。

 

この人の前でなら、僕は強くなくたっていいのかな。

 

 

「優さん……僕、死ぬのが怖いんです」

震えた喉で精一杯絞り出した言葉。隠し続けてた僕の本音だ。

 

ああ、ついに言ってしまった。自分で自分が信じられなくなると思って封じ込めてた本音を。こんな僕を優さんはどう思うのだろう?

 

優さんの反応が気になって顔を上げると、目の前が真っ暗になる。首の後ろに回された腕と包み込むような柔らかな感触で、自分が頭を抱えられ抱き締められているのだと気がつく。

 

「バカね…死ぬのが怖くない人なんているわけないじゃない。私だって怖いわ」

「……ですよね」

「そうよ…」

優さんの優しい言葉と暖かさに(いだ)かれて、恐怖に震えていた心と身体が落ち着いていく。恐怖は未だ消えはしないが、それ以上に安心しているのだろう。

 

「優さん、ホントに怖くて恐くて堪らないんだ。僕は死にたくない。もっと生きていたい…!」

「大丈夫、大丈夫よ…」

張り詰めた心が(ほだ)されていき、奥底に仕舞い込んでいた弱音が止まらなくなる。優さんはそんな僕の頭をゆっくりと撫で続けてくれた。

 

弱音を吐ききった。脆い部分を曝けだしたけど、それでも優さんが受け止めてくれた。おかげで僕の中の別の本音も涌き出てくる。

 

「死ぬのは怖い……でも、大事な誰かを(うしな)うのはもっと怖いんです。だから僕は死んでも救けたい…!死ぬのが怖いなんて考えるまでもなく身体が動いちゃうんです。めんどくさいやつですよね…」

「ホントに面倒なこと考えてる……でも私はデクくんのそんな優しいところ、好きよ」

優さんの抱き締める力が少しだけ強くなった。僕の全てを許してくれる優さんのことで心がいっぱいいっぱいになっていく。

 

闇から覗いた恐怖さえも受け入れ火に()べる。心の炎が揺らぎなく大きく成っていった。

 

「僕は救けます。オールマイトを、かっちゃんと轟君を、皆を救けます。怖くても辛くても、絶対に救けてみせますよ。ちょっと欲張り過ぎかな…?」

「いいと思うけどね、オールライト(あなた)ならそれが出来るって信じられるし。私はそんなデクくんを救けるわ。皆を救けるその背中を私が護ってあげる!」

「そんな…悪いですよ。僕なんかの為に――」

「だってデクくんこんなに弱虫じゃない?だから護るの、私ヒーローですから」

抱き締められたままで表情は見えないが、きっと優さんはいたずらな顔で笑っているのだろう。そんな想像をしたからか、僕も少しだけふふっと笑えた。

 

「…笑ったわね?」

「いや、そういうつもりじゃなくて…!」

「ふふっ、冗談。やっと笑ってくれた…なら、もう大丈夫ね」

そう言って優さんは腕をほどいて離れていき、優しい笑みを浮かべた顔が見えるようになった。

 

「なんて物欲しそうな顔してんのよ…」

そんなことを優さんに言われて、気がつけば僕は無意識のうちにすがるように手を伸ばしていたようだ。恥ずかしさのあまり顔に熱が籠っていくのが自分でも分かる。

 

どんだけ甘える気だよ、僕! こんなに情けないやつ世の中探しても僕くらいじゃないのか!? あぁ、恥ずかしい…

 

「そんな弱虫さんなデクくんに特別サービス―――」

縮こまっている僕を見ながら優さんはニヤリと笑った。ゆっくりと髪を掻き分けるように僕の頭を撫でる。そして前髪をかきあげてゆっくりと僕の顔へ顔を近づけていき―――

 

 

 

 

―――僕の額に柔らかな感触。頭が蕩けるような甘い香りが鼻を擽り、チュッという小さな音が聴こえた。

 

 

「おまじない…これでもう怖くないでしょ?」

「あ…はい……」

妖艶な微笑みを浮かべる優さんに僕はぼんやりとした返事しか出来なかった。

 

「こんなとこ私のファンに観られたらデクくんボコボコに…されないか。強いし。 でもネットでアンチスレがめちゃくちゃ乱立しちゃうかもね!」

「それは…仕方無いですね……うん、仕方ない…」

「ちょっとデクくん?それはそれで大丈夫なの?……効きすぎちゃった?

優さんのおまじないの効果は絶大で、僕の中にあった恐怖どころか全ての感情と思考を吹き飛ばしてしまった。

 

それからのことはよく覚えていないが、ぼんやりとしたまま優さんを近くまで送っていき、その後家路につく。

 

ベッドに入ると寝れなかったなんてことが嘘のように、穏やかに微睡みに落ちていった。

 

 

長かった一日が終わり、改めた決意と希望の暖かさを胸に僕は今日を見送る。

 

 

―――そして……全ての運命が決まる、その日が来た。

 

 

 

 

 

――― 爆豪 side in ―――

 

 

 

「ぜってえまけねえ!かかってこいっ!!」

ちっぽけなクソガキがボロボロになりながら必死に声を上げている。

 

あれは……ガキの頃の俺か?また懐かしい記憶だな。

 

これが夢であると理解するまでにそこまで時間はかからなかった。

 

確か、小学校に入りたての頃に高学年の上級生と喧嘩したんだ。きっかけはゴミのポイ捨てだったか?まあ些細なもんだったと思う。

 

「このチビまだやんのか!」

「いい加減諦めろっての、バカかよこいつ!」

「オレはてめーらなんかにまけねー!」

喧嘩にならないほど、一方的にボコられるクソガキ。

 

相手は自分よりもずっと大きく、それもふたり。喧嘩したところで勝てるわけがねえ。個性を使えば(ある)いは勝てたかも知れねえが、アイツとの約束を律儀に守っていた俺は喧嘩に個性を使うことはなかった。

 

そんなときにアイツが現れたんだったけな。

 

「コラー!かっちゃんを虐めるな!」

「デク……」

上級生との間に割ってはいるデク。クソガキは半分べそかきながら嫌そうな顔でデクを睨み付けていた。

 

あの頃のデクはまだ俺と身長も変わらず、今みてえにマッチョでもなんでもなかった。それでもアイツは臆することなく自分よりも大きな相手に凛として立ち向かっていた。

 

「かっちゃんが何やらかしたかわからないけど……上級生がふたりがかりで下級生なんて寄って集って虐めちゃダメじゃないか!」

「なんだよコイツ、先生みたいなこと言いやがって」

「生意気だな!コイツっ!―――あれ!?」

説教を始めたデクに上級生のひとりが掴みかかるが、あっさりと躱されて足を払われて転ばされていく。

 

「だからさ、そんな直ぐに暴力に頼っちゃだめだよ。まずは話を―――「このやろう!!」――おっと!?」

デクが転ばせた上級生に手を差し伸べながら説教を続行したその時、もう一人の上級生が鋭く伸びた爪をデクに振り下ろした。デクは難なくそれを躱したが、不快感を(あらわ)にしてため息をつく。

 

そうそう、勝てねえと思った上級生がここで個性を使ってきたんだよ。相手が個性を使ったから、俺も個性で反撃しようと思ってたから好都合とか思ってた気がする。

 

「どいてろデク!オレのケンカだ!」

「駄目だよかっちゃん、個性なんて使っちゃ。それにこの子達には……ちょっとキツめのお仕置きが必要みたいだ」

「うっ……うっせえ!」

「やっちまうぞ!」

デクの怒気にビビった上級生が個性を剥き出しにして襲いかかった。

 

そっからのデクは凄かった。個性を存分に使う上級生を素手で、しかも個性を使わずに体捌きだけで一方的にボコってやんの。 今思えば、戦闘訓練の経験のある強くてニューゲームなデクが只の小学生に敗けるわきゃねえって思えるが、当時の俺には自分と変わらないガキが圧倒的な強さで敵を蹂躙していくように見えて、なかなかショッキングな光景だった。

 

「お、覚えてろー!!」

「ひええ。おかーさーん!!」

「あ、おーい!もう個性を使って喧嘩なんてしちゃ駄目だぞー!」

逃げ出す上級生たちにデクは最後までお説教を続けていた。

 

「ふう……大丈夫かい、かっちゃん?」

「グスッ……たすけてくれなんてたのんでねーよ…!」

泣きべそを擦りながら気遣ってくれたデクに文句を言うクソガキ。

 

こんときは安心と悔しさと驚きが入り交じって訳がわからなくなっちまってたんだよな。我ながら情けねえガキだと思うぜ。

 

そんでもデクはいつもと変わらない調子で言ったんだよな……

 

「ハッハッハ!頼まれてなくっても救けちゃうんだな、これが!」

「わらってんじゃねえ!なんでだよ!」

「だって“余計なお世話はヒーローの基本”だからね! 」

不貞腐れるクソガキに対して、デクは笑顔で力強くそう言い切った。

 

 

そう、俺が忘れられなかったデクの最初の教えだ。

 

デクはこの頃から何一つ変わらない。そして俺はこの時からデクに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の世界が途切れ、身体の痛みでぼんやりと目が覚める。身体が椅子に縛りつけられ腕にはゴツイ金属製の拘束具が取り付けられている。

 

何時間寝てたんだ?身体の痺れから考えるに一~二時間じゃ、無さそうだしな。

 

拘束から抜け出そうと身体を捩ると、椅子がガタガタと音をたてるだけでまるで抜け出せる気がしない。

 

「お、起きたか爆豪君」

「てめえ……俺に何しやがった?」

「ちょーとお薬で長めに寝てもらってただけだよ。酒呑んでる時に目覚められても面倒だったし。だいたい一日と半分くらいかな」

お面野郎が軽い口調で俺に語る。酒盛りのために眠らされていたとは、腹立たしい。少し見回せばそこはバーのような場所で、カウンター席には死柄木が座っており、テレビを眺めている。その正面のカウンター内には黒モヤがこちらに目を光らせていた。轟と継ぎはぎの姿が見当たらない。どこか別の場所に監禁されてるのか…?

 

「見ろよ…現代ヒーローってのは堅っ苦しくて大変だよな、爆豪くんよォ…!」

「〝――それについては、私の不徳の致すところであります…〟」

テレビに映るのは報道陣に向けて頭を下げる相澤先生の姿。死柄木はそれを指差して嘲笑う。

 

「なんなんだろうなヒーローって。人の命を自己顕示や金に変換する異様な働き。それをルールでガチガチに縛り上げる社会。敗北者を励ますどころか責め立てる国民。そんなものに、お前は成りたいのか? もっと自由に生きたいとは思わないか?なあ、爆豪?」

「まだスカウトごっこしてえのか?」

「純然たる疑問だよ。お前らヒーロー候補生がなんでこんなやつらに成りたいのか不思議でしょうがなくてな。つまらないだろ、こんな人生は」

「ハッ!わかってねえな死柄木。おめえはヒーローってのを全然わかってねえ」

「何…?」

ヒーローを小馬鹿にした死柄木を俺は逆に鼻で笑う。

 

「そもそもヒーローを聖人君子か何かだと勘違いしてねえか?逆だ、逆。ヒーローなんてのはどいつもこいつも自分勝手でやりたいことやってるんだよ。そりゃそのツケを払うならルールで縛られるに決まってんじゃねえか、やりたいことやって生きてるんだからよ。わかるか?」

「……続けろ」

「はいはい。その癖、何時だって後からノコノコとやって来て、こっちの事情も都合もお構い無しに好き放題やった後、決まってこう言うんだ「救けにきた」ってな!」

「ムカつく連中じゃねえか……やっぱりヒーローなんてくそ食らえだ。成りたい理由にはならないだろう?」

「だからだよ。ルールに縛られてるんじゃなく、やりたいことがルールの中にあんだ。だから俺は好き放題生きてやりてえからヒーローに成る。 誰よりも強くて、誰よりも自分に正直に生きる……その姿に俺は憧れた。てめえらがどんだけ御託を並べようが…誰に何を言われようがそこはもう曲がらねえ」

俺は死柄木に言い切る。俺の憧れは、目指す場所はそこしかないのだから。

 

「〝――現在、警察と連携して捜査を進めて―――〟」

暫しの沈黙、テレビから流れる声だけがやたらとよく聞こえる。

 

「思い当たる人物が二人程いたが……どっちも俺の大っ嫌いなやつらだった…」

「そりゃ気が合うな、死柄木。俺は二人とも大好きだぜ…!」

「お前とはもう少し話が合うと思ってたんだが、ここまで強情だとは思わなかった。奴等も捜査を進めてるらしいし、悠長に話をするのはおしまいだ―――先生、力を貸せ」

そう言いながら死柄木がテレビの方へ振り向くと、先程まで会見を映していた筈のテレビは砂嵐が流れるだけのモニターと化していた。

 

先生だと…?コイツらには更に上の存在が……そうか、連合の親玉。名前は確かオール・フォー・ワン…デクを殺すヤツ! ソイツが出番(でば)ってくれば俺らはどう足掻いても無事じゃいらんねえと考えた方がいいな。ならさっさと轟を救けてトンズラしねえと…!ヤツとデクが出会えば……くそっ、()んじゃねぞ、デク……

 

「時間がねえか……今だ!轟ぃ!!!」

「何ぃ!?」「しまった!!」「何だと?」

俺の叫びにクソカスどもは揃って同じ方向を向いた。 カウンターの奥、おそらく厨房があるところだ。これで轟の居場所はわかった。あの工場みたいな別の場所じゃないだけだいぶマシだ。

 

あとは俺の拘束をどうにかして、コイツらぶっ殺して脱出するだけ…!今出来うることでこれをぶっ壊すには……死柄木に触れさせるしかねえ。危険な賭けだが、やるっきゃないだろ!

 

「おまえ…!引っ掻けたな…!」

「釣られるバカなお前がわりぃんだよ!死ねカス!!」

「…もういい、お前は要らない。死体に成っても緑谷を苦しめる道具にはなるだろ…」

「誰がお前ごときに殺されるか!さっさとかかってこいってんだ!!」

出来るだけ死柄木を挑発し、俺に注意を向けさせ近付かせる。触れられる直前に小爆破で動揺させられれば、この拘束具だけを崩壊させられるって算段だ。

 

もっと、もっとだ。もっと近寄ってこい…!

 

 

じりじりと俺らの距離が詰まり、一髪触発の雰囲気の中……突然扉をノックする音が飛び込んでくる。

 

 

「どぉもー、ピザーラ神野店ですー」

「今は手が離せねえ!勝手に入ってこい!」

扉から響く男の声。呆けた奴等の顔色。俺は直感で頭を巡らせ、即興で返事をする。俺はここにいると。

 

「おい!爆豪君、いつピザなんて頼んだ!?」

「あ?―――頼んでねえよ?」

「――ッ! 下がれコンプレス!ドアから離れろっ!!!―――」

俺の言葉を真に受けたコンプレスがノコノコと扉へ近付き、勘づいた死柄木が叫ぶと同時に後ろのドア――ではなくバーの()()()()が吹き飛んだ。 激しい衝撃が辺りに散らばり、耳鳴りで一瞬全ての音が消える。

 

砕けた壁の塊と共に破壊の原因である男がバーの中に飛び込んでくる。 そして無数の樹木のような触手が男の後ろから伸びて、その場のヴィラン連合の面々に絡み付いた。

 

 

殴り込んできたソイツは、昔から変わらず俺の都合も思惑も憂いもまとめて吹き飛ばしていく。 俺の憧れたその姿は昔と何一つ変わらない笑顔で言った。

 

「―――救けにきたよ、かっちゃん!」

 

変わらないその姿勢に思わず口角がつり上がる。ならば俺の言うことも昔と変わらないだろう。

 

 

「―――頼んでねえよ、デク!」

 

 

 

――― 爆豪 side out ―――

 

 

 

 

002.THE DAY




踏み出すその一歩一歩が変えていけるさ。THE DAY HAS COME―――――



次回もよろしくお願いします!

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