デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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今回より最終章になります。ここまできた以上、もう止まりません!




最終章 ONE FOR All, All FOR ONE.
001.ODD FUTURE


かっちゃんは轟君を救うため単独でヴィラン連合の本拠地に乗り込んだ。 かっちゃんに渡した発信器の反応は神野区から動かない。 かっちゃんと轟君を救けるために、僕もあの地へいかなきゃ!

 

 

 

 

 

あれから消防、救急、警察が揃って合宿施設に到着した。ヴィラン九名を警察に引き渡して、怪我人やガスを吸ってしまった人達が救急隊に搬送されていく。前世より重体の人は少なくっていたが、被害は免れなかった。

 

僕も搬送されそうになったが、応急処置だけを受けて警察と先生と共に雄英高校へそのまま向かった。

かっちゃんから送られてきた情報を元にオールマイト達と作戦会議を開くためである。ついでにリカバリーガールに治癒を施してもらい、傷を一気に癒す為でもあった。

 

移動の車内と会議までの空き時間を仮眠にあて、襲撃の翌日の13時から会議が始まったのだが―――

 

 

「貴様が居ながら何故!焦凍が拐われているんだ!!何をしていたァ!」

僕は激昂したエンデヴァーによって壁へと叩きつけられる。

 

「やめろエンデヴァー!緑谷少年だって必死だったんだ。ヴィラン九名の内六名を撃破、更に内二人はあの脳無だったのだぞ!それに緑谷少年だって襲撃を受けた生徒。言うなれば被害者なんだ!!」

「こいつを被害者の生徒と同列に置くのか? 貴様に鍛えぬかれ、他とは比べ物にならないほどの力を持つこいつを!……いいか、強大な力には大きな責任が伴う。力を持ったお前の弟子は皆を救わなければならない責任があった筈だ!」

「エンデヴァー、責任と云うのであれば全ては教師である俺の責任です。オールマイトの言うとおり緑谷はよくやってくれた。誉められることはあれど、責められることはないでしょう」

エンデヴァーを後ろから羽交い締めにして抑えるオールマイト。僕の前に出て頭を下げる相澤先生。既に会議の場は混乱を呈していた。

 

「ある程度の話は聞いた。それ言うなら、そもそも貴様の息子が拐われるほど弱いのが原因だろ、エンデヴァー。貴様がもっと息子を鍛えていれば拐われることなどなかったし、爆豪勝己もそれを救けに敵地に乗り込むこともなかっただろう」

「焦凍が悪いとでも言いたいのか、サーナイトアイッ!焦凍はまだ16歳の学生だぞ…!それをヴィランと――」

「なら緑谷だって同じ条件だろうが!自分の息子を棚上げにして批判などするな!!緑谷はたったの一年で強くなって、貴様の息子はそうでなかった!それだけの話じゃないか!」

「なんだと貴様ァ!!」

「落ち着けナイトアイ!エンデヴァーもだ!今は緑谷少年と轟少年を比べても仕方ないだろ!!」

サーナイトアイの舌戦により、エンデヴァーは更に激昂する。オールマイトが二人を止めるも火は収まりそうにない。

 

「さっきから何を言い合ってんだよ!!今はこんなことをしてる場合じゃないだろ!」

僕はその場の誰よりも大きな声で心の底から叫んだ。皆の視線が一気に僕へと集まるのが分かる。

 

「僕は力があったのに轟君を救えなかった。かっちゃんも止められなかった。どちらも事実で、エンデヴァーの言う通りでしょう。自分でだってわかってますよ! だから…だからこそ僕はこの手で二人を必ず救けるっ!そのために皆ここに集まったんじゃ無いんですか? もっとしっかりしてくださいよ!ヒーローでしょう!?」

僕の叫びは静まりかえった会議室に響く。オールマイトもサーナイトアイも、エンデヴァーでさえばつの悪そうな顔をしていた。

 

「皆、緑谷君の言うとおり。拉致されてしまった轟君と爆豪君を救出するために我々は集まったんだ。ヒーロー同士の(いさか)いはここまでにして、今後の話をしよう」

「塚内さん…」

「ああ、すまなかった緑谷少年、そして皆!」

「ふんっ……ならさっさと始めろ」

塚内さんの言葉にヒーローたちは皆席についた。エンデヴァーも轟君の心配があっての怒りだったし、僕をどうこうしたいわけじゃないだろう。

 

「よし、先ず爆豪君が身に付けていた発信器の信号から敵のアジトが二ヶ所判明した。どちらも横浜市神野区、距離もそう遠くはない」

「待て、発信器を敵に奪われて逆に利用されている可能性はないのか?」

「他にもふたつ根拠がある。 ひとつは以前から続けていた神野区での聞き込みの結果だ。緑谷君から神野区でヴィラン連合のメンバーらしき人物を見かけたという情報から、聞き込みをしていたんだが……その話の中に今回襲撃してきたヴィランと特徴の一致した人物が現れた。 荼毘と呼ばれているヴィランが、空きテナントしかないビルに出入りする姿が目撃されていた。当時は大した情報じゃないと思われていたが、今は重要な証拠になったんだ」

 

以前、相棒生活(サイドキックライフ)をしていた頃から玉川さんにお願いして神野区の調査を行ってもらっていた。根拠は僕の前世の記憶なので、適当な理由を作っていたが。

 

「そして、もうひとつ。こっちはなぁ……」

「なんで言い淀む?なにか問題が…?」

「いや、もうひとつは今回の襲撃で逮捕したヴィランの自白なんだ。 九名の内、分倍河原 仁(ぶばいがわら じん)渡我被身子(とがひみこ)の二名がやたらと協力的で、なんでもかんでもしゃべるもんだから、逆に信用出来なくて困ってる。でもどの供述も我々の裏取りがとれていたものばかりだから嘘では無いようなんだ」

「…そうなんですね」

「特に渡我の方はなんでも話すと言って司法取引まで要求してる。 本人曰く「出久くんに会うためなら、なんだってします」とのことだが…緑谷君、彼女に何をしたんだい?」

「えっ、心当たりが無いんですけど!? 首を絞めたり、腹に拳を捩じ込んだりして気絶させたくらいしか関わりないですよ…」

皆の懐疑的な目線が僕へと集まる。オールマイト…貴方までそんな眼で僕を見ないでくださいよ。

 

またトガちゃんか!彼女が関わると真面目な空気が死ぬな。

 

「兎に角、これで居場所は掴めた。あとはかちこむだけ……この緊急事態だ、急いで人材の召集を掛けている。ここからは時間勝負!決行は明日の夜だ。 各地の実力者に要請をだしているが間に合わない者もいるだろう。ここいるイレイザーを除くプロヒーローと機動隊、そして……」

「……僕も出ます。止められたって勝手に行きますから!」

「緑谷少年……」

「当然だ!貴様のような戦力を腐らせる理由はない。むしろそこのメガネの方が要らんだろ。第一線では役に立たん」

「私が戦力に成らないことぐらいわかっている。私はいつものようにバックアップに努めるから、後詰めは任せてもらおう」

「ナイトアイが後ろに居るなら安心だ。我々は目の前のヴィランをぶっ飛ばすことに集中すればいい!」

バシッと拳を合わせるオールマイトとメガネをくいっと上げるサーナイトアイ。長年のコンビだからこその信頼関係だろう。

 

前世とは違う…正面から殴り込んでのかっちゃん、そして轟君の救出だ。僕の持てる全てを使って二人を必ず救け出してやる。

 

「近郊の若手にも緊急召集をかけた。メンバーはシンリンカムイ、Mt.レディ…………―――」

 

 

―――――それからも会議は続いていく。プロヒーローの威信をかけた一大救出作戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 轟 side in ―――

 

 

気がつけば俺はこの無いもない空間にいた。 ぼんやりと会話のような音が響くがよく分からない。 明るくなったり暗くなったりする、上下も右も左もわからないこの謎の空間。

 

何時間経ったのか、襲撃はどうなったのか、皆は無事なのか、そんなことを考えていると突然空間が無くなり、俺は外へ放り出された。

 

「いった…何処だここ…?」

飛び出したのはバーのフロアのような場所だった。辺りを見回そうとする前に後ろから声をかけられる。

 

「動くなよ、轟焦凍」

「誰だてめえら……っ!爆豪…!!」

振り向けば四人の男が立っており、その真ん中には頭に拳銃を突きつけられた爆豪が椅子に拘束されていた。そのがくりと下がった頭は意識を感じさせない。

 

「彼には眠って貰っているだけだ。さあ、話をしようか」

「お前……前に雄英に襲撃してきたやつらだな?」

「覚えてたか、俺たちはヴィラン連合。お前と関わるのはこれで三度目だな。雄英高校、保須、そして今回……」

「お前ら……」

俺に悠々と話しかけてくるのは顔に手を着けた白髪の男、名前は確か死柄木だった。こいつがリーダーで間違いはなさそうだ。

 

俺はこれまでの怒りも籠めて思い切り奴らを睨み付けた。

 

「おお、怖い怖い。眼だけで殺されそうだ。ホントにいい眼をするなぁ、轟。先生が気に入るわけだ」

「なにが言いてえ…?」

「俺らの仲間にならないか?」

「ふざけんな…!!!」

死柄木の発言のバカらしさに一気に苛立ちが募り、よりいっそうと眼が険しくなった。

 

ヴィランになれだと?マジでふざけた連中なんだな。話に聞いていた以上だ。

 

「怒りと憎しみの籠った眼をしてるな、轟焦凍。まるで――エンデヴァーみたいだ」

「……あ?」

顔面継ぎはぎだらけの男が話に入って、聞き捨て成らないことをいい始めた。親父の眼だと…?バカな、親父はメディアの前ではオールマイトに対する確執をそれなりに隠ししていた筈だ。なぜこいつがそんなことを知っている…?

 

「憎いよなぁ?自分の子供を道具みたいに扱ってよ。要らなきゃ捨てちまう。成功品のお前ですら酷い扱いだもんな……お母さんまで奪われてちまってよ。悲しいなぁ、轟焦凍」

こいつはいったい何処まで知っているのか?そんな考えが頭の中を占めていく。

 

「殺してやりたいと思わなかったか?思ったよな、それも一度や二度じゃない筈だろ? でもお前のやり方じゃエンデヴァーに仕返し出来ない……けど俺たちとなら出来るんだ」

俺の考えていたことまでお見通しと言わんばかりに言葉を続ける目の前の男。 こいつと親父がどんな関係なのか、何を知っているのか、全てを問い質したくなる。

 

「お前を苦しめて、お前からお母さんを……家族の温もりを奪ったあの男を(ゆる)せないだろ? 轟焦凍、俺たちと一緒に来い。エンデヴァーを……一緒に殺してやろう…!」

俺の感情が流されそうな言葉を並べ続け、最後には手まで差しのべてくる。 この男は俺のことを…エンデヴァーの息子のことをよく解っている―――だがそれだけだった。

 

「お前は今更なんの話をしてんだ…?確かに昔の俺なら思わずお前の手をとっちまったかも知れねえが……今の俺がそんな誘いに乗ると思ってんのか?」

「……何?」

「クソ親父のことは未だに赦しきれてねえが、それでも俺達は家族として歩いていくって決めたんだ。まだまだ始めたてかも知れないけど、それでももう失わないって決めたんだよ…! 俺も…クソ親父ですら…一からやり直そうって頑張ってんだ、体育祭で緑谷に救われたあの日から…!」

「なんだよ…そりゃ…?エンデヴァーが家族と…?」

「そうだよ、親父は俺たちと向き合ってんだ。だから俺も憎しみで生きるのは辞めた。緑谷が教えてくれた、俺はヒーローに成りたかったんだってな! だから俺はお前らの仲間になんてならない…!俺に新しい道をくれた緑谷と一緒に歩み続けて、俺は俺の人生を歩む…!!」

 

柄にもなく話し続けてしまった。きっと親父の話で心を揺さぶられてしまったせいだろうな。 こんなとき緑谷ならなんて言うだろうか…?

 

信じられないといった様子の継ぎはぎ男。するとその隣にいた死柄木が一歩身を乗り出して俺を見て話始めた。

 

「どうやら交渉は失敗みたいだな。 ったくネットの情報ってのはアテにならねえよな、なあ荼毘。 それにしてもまた緑谷か……何処までも余計なことしてくれる」

「てめえらの目的はなんだ?何のためにこんなことを…?」

「おいおい、さっきまでなに話してたんだよ。お前をヴィラン連合に勧誘するため、()()()

「だった…?」

「ああ、そのつもりだったんだが、予定変更だ。 お前も爆豪も強情みたいだからな、別の手を使うことにするよ。 黒霧、とりあえず眠らせとけ」

死柄木はあっさりとした口調でいい放つと、黒霧がそのモヤモヤした手に持った拳銃を爆豪の頭に押し付ける。

 

爆豪がヤられる!!―――

 

「やめっ―――ッハ!?」

止めようと右手を伸ばし氷を出そうとしたところで、首筋に刺すような感覚が襲う。そしてすぐに身体の力が抜けていき、意識が朦朧としていった。

 

拳銃はブラフだったのか…やられた…! 薬かなにかを打たれた…爆豪、すまねえ。緑谷、約束果たせなくなっちまいそうだ……すまねえ――――

 

 

 

――― 轟 side out ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救出作戦の会議はあの後も二時間程続き、明日の決行前に再び集合するという形で終わった。

 

僕とオールマイトは二人で雄英高校へと戻っていた。明日の作戦について、二人きりで話したいことが……前世の記憶から出来うる限りの話がしたかったから。

 

そして僕らはいつもの仮眠室にいる。オールマイトとの密談といえばやはりここに限るだろう。

 

「緑谷少年、班分けは本当にあれでよかったのかい?私も救出班にいったほうが良かったのではないか?」

オールマイトが心配しているの班分け、それは明日の作戦でのものだ。 僕はかっちゃんと轟君がいるであろうアジトに乗り込む救出班、オールマイトは倉庫を押さえる制圧班に組み込まれた。

本来ならオールマイトという最高戦力は救出班に充てるべきなのだろうけど、今回は救出後にも敵の襲撃があると仮定してオールマイトより力は劣るが継戦時間が長い僕が代わるという()()()()()を付けた。 エンデヴァーはオールマイトの弱体化を知らないから不思議そうな顔をしてたけど…

 

「あのときは言いませんでしたが、倉庫の方にはあの男が現れます。僕らの(かたき)――オール・フォー・ワンが……」

「ヤツが……そうか、なら私が行かない訳にはいかないな!!」

「モチロン僕もかっちゃん達を救出したら直ぐにそっち向かいます。本気で飛べば30秒とかからない距離ですからね」

「うむ……しかし、奴は危険な相手だ。君を巻き込むのは――」

「オールマイト、僕もワン・フォー・オールの継承者です。 僕にだって奴と立ち向かう義務と力があるんだ。大丈夫!僕と貴方の二人なら―――そうでしょう、オールマイト?」

「あぁ―――ああ!そうだな!やろう、緑谷少年!」

僕は力強く拳を作りながら笑顔でオールマイトへ問いかけ、オールマイトも全開の笑顔で答える。

 

「そのためにもですね……」

「なんだい、少年?」

 

 

「食え」

 

僕はオールマイトの顔真似をしながら、一本の髪の毛を差し出す。

 

 

「ええ!?どうしたんだい、少年!何故私に……」

「もしもの時のためですよ。 運命は既に変わり始めてます、何が起こるかわからない……僕にもしものことがあったとき、僕の力を受け取って欲しいんです。他でもないオールマイトに…」

「ダメだ!そんなことはさせない!君は私が必ず護るっ!だから―――」

「オールマイト!……それ、僕もおんなじこと思ってましたよ。オールマイトから継承権を託されたとき、オールマイトだって同じ様に“もしものことがあったら…”って考えてたんでしょ?」

「それは……」

オールマイトは図星だったようで小さく唸り黙り込んでしまった。 やっぱり僕とオールマイトは似た者同士だ。

 

だから言わなくちゃ、この行為で僕が伝えたかった本当の意味を。

 

「だからオールマイト、これは“誓い”です。お互いのチカラを預かることで、二人揃って無事に生き残るっていう意思を形にした…僕らにしか出来ない、誓い」

僕は真っ直ぐとオールマイトの瞳を見つめる。互いに眼は逸らさない。

 

「緑谷少年、君は前向きだな………私は正直言うとね、頭のどこかでナイトアイの言う未来を受け入れていたんだ。私にもいつかは終わりが来る、その時が来るだけなんだ…とね。でも君に出逢って君を鍛えていく内に、ホントに未来は変えられるかも知れないって少しずつ思えてきたんだ。

だが、それ以上に君を喪いたくなかった。 私はいい、でも緑谷少年だけでも運命から逃して見せる!……そう思っていた。

でもそれは君だって同じだったんだよな。私を救うために未来から来てしまうくらいに私を救けたかった。そして君は強くなった!時に私を超えるくらいに!!

だからさ、私も諦めないことにした!マジに100%生き残ってやるッってね! 緑谷少年、私も誓うよ。君と二人で無事に生き残って見せよう」

オールマイトは大きく笑いながら僕の手から髪の毛を受け取り、一息で飲み込む。

 

オールマイトが初めて僕に語る後ろ向きな本音。それでもオールマイトは僕に誓ってくれた。必ず生き残ると。

 

「ありがとうオールマイト。二人で必ず未来を掴み取りましょう!」

「ああ!未来を!」

僕らは拳を掲げて呼応する。

 

―――僕の中のオールマイト、オールマイトの中の僕。僕らは血よりも深い絆で結ばれている。 誓いは絶対に、(たが)えない。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、オールマイトがチカラを受け取ってくれて良かったですよ。このままだと渡我被身子が僕の唯一の継承者に成っちゃってましたからね!ハッハッハ!」

「ハッハッハー、じゃないよ緑谷少年んん!なんでそういう大事なことを早く言わないんだね!」

「無理やり奪われるもんでもないから大丈夫ですよ!……もしもの時もこれで安心!」

「こらぁーー!!――――」

 

 

そんな下らないやり取りをしていると、オールマイトの携帯が鳴った。 簡単なやり取りをしたあと電話を切ったオールマイトは僕に1-Aの教室にいくように指示する。 どうやら、僕宛の連絡だったみたいだ。 僕のスマホは壊れちゃってるし、代わりに連絡がいったのか。

 

オールマイトと別れて教室へと向かう。 そして教室で僕を待っていたのは、塾生の皆だった。

 

 

「皆どうしたの?まだ昨日の事件の傷とか疲れが残ってるでしょ?」

「それはお前もだろ、緑谷」

「大丈夫、砂藤君!鍛えてますから!ハッハッハ~……ってそんな雑談しに来たんじゃないんだよね?」

「単刀直入に言おう。緑谷、お前は爆豪と轟を救けにいくんだよな?」

「っ!……それは――」

「いや、言わなくていい。というより言えないのだろう?相澤先生も黙して語ってはくれなかった」

「だから俺達はただ伝えに来ただけだ!」

「伝えに…?」

砂藤君と障子君は僕に気を使いつつも、しっかりと意思を見せる気でいる。何を僕に伝えるのだろう。

 

「「「二人を任せた!頑張れヒーロー!!」」」

みんなが声を揃えて僕にエールを送る。 瞬間、心が震える。

 

前世では止めたがっていた飯田君、障子君、麗日さんが。共に救けに行きたがっていた切島君が。 関わることの出来なかった皆が……僕に任せたと言ってくれる。こんなに心強いことはない。

 

「鍛えた抜かれたお前の筋肉ならきっと大丈夫だ」

「筋肉に不可能はねえ!だろ!?」

「障子君…砂藤君…!」

筋肉同盟の二人が上腕二頭筋をひとつずつ叩きながら、筋肉を輝かせた。

 

「漢、見せてやれ緑谷!」

「気合いだ!気合いだぞ緑谷!!」

「応とも!切島君、鉄哲君!」

ガチガチの硬化コンビが広背筋を叩いて根性を入れてくれる。

 

「二人を頼むぞ緑谷君!委員長の俺の思いも連れていってくれ!」

「筋肉の人!面白そうな個性のヴィランがいたら是非ともその話を詳しく――」

「君はどこまで自分本意なんだ!緑谷君はこれから懸命に人助けをだな!」

「ハッハ!相変わらずだね。飯田君、発目さん。どっちも任せてよ!」

マイペースな発目さんとそれにツッコミを入れる飯田君のやり取りに和まされた。

 

「僕のような者が心配するのは烏滸(おこ)がましいような気もしますが……お気をつけて!」

「ありがとう、庄田君」

庄田君は大胸筋に拳を当てて、無事を祈ってくれた。

 

「緑谷君がいない間はアタシがしっかりと皆を見ておくよ。だからまた……」

「ああ、戻ってきたらまた一緒にトレーニングしようか!」

拳藤さんと総指伸筋を合わせて笑い合う。

 

「緑谷…ありがちだけど、頑張っ―――」

「あれ尾白君いたの?」

「いたよっ!最初から!!」

「ジョークだよ、ありがとう!」

尾白君に冗談を言いつつ指筋群を叩き合わせた。

 

最後に残ったのは―――

 

「デクさん……」

 

麗日さんだ。きっと言いたいことが多いのだろう。言葉を選んでいるのか、少し俯き加減でモジモジと指あわせでまごついている。

 

「じゃあアタシらは帰るよ。ほら、皆いくよ!」

「あとは若い二人で~」

「頑張れよ…!」

何かを察した様子で拳藤さんがみんなに号令をかけて教室をあとにしていく。それに続く皆は生暖かい視線を僕らに送りながら帰っていく中、砂藤君が謎のコメントを残し、障子君が六腕全てでサムズアップしてから去っていった。

 

何なんだいったい……さっきまでの熱い空気がなんか別のモノに変わってないか?

 

 

夕陽の射した教室に残る僕と麗日さん。その間にはなんとも言えない空気が流れる。

 

「とりあえず、座ろうか」

「う、うん」

急く必要もないと思ったので麗日さんを促しながら僕は自分の席に座る。麗日さんのそのひとつ前の席……かっちゃんの席に着いた。

 

夕陽に染まる麗日さんは横向きに椅子に腰掛けて、左手でゆっくりと机をなぞったあとに話始めた。

 

「ここ、爆豪君の席だね…」

「うん…」

「爆豪君はさ、誰にでも厳しくていっつも怒鳴って、私にもキツいことばっかり言ってたよね。でもその分自分にも厳しくて、出来ないことを出来るようになるためにスゴく頑張ってた。 だから今回もひとりで敵のアジトに乗り込むなんて無茶もしたんだろうね。それだけに、誰かに救けに来られるなんてスッゴく屈辱なんだと思う……」

「……」

「でも、デクさんだけは違う。 爆豪君はデクさんにだけは弱さを見せて認めてた。デクさんだけが爆豪君の特別だったんよ」

麗日さんは複雑な表情で僕へと語りかけていく。悲しいような、困ったような、優しい顔だ。

 

前にかっちゃんに似たようなこと告げられたっけな。僕と自分だけが特別なんだって言ってさ。麗日さんもよくわかったなぁ…

 

「ホントはデクさんにも危ないことなんてしてほしくない。…昨日みたくまたボロボロになっちゃうかも知れない!今度は怪我だけじゃ済まんかもしれん!私はそんなん嫌なんよ!」

「麗日さん…ごめん。それでも僕は――」

「わかってる。それでもデクさんは行くんだよね。私がホントに嫌なんは、爆豪君や轟君がピンチなのになんも出来ない弱い自分……私はこんな時にまでただ見てることしかできん。 ううん、何時だってそうだった…」

そう言いきると麗日さんは項垂れてしまった。 弱さを故の悔しさ、僕にも痛いほど判る感情だった。

 

「麗日さん、君は弱くなんてないよ。自分の力不足を素直に認めて踏みとどまれる。それは弱さなんかじゃなくて強さだなんだよ。 それに僕は麗日さんのそんな強さに何時だって助けられてきたんだ 」

「デクさん……デクさんはいつもそう言ってくれるよね。 でもさ、デクさんが助けられたっていう私って―――()()()()じゃないよね?」

僕は麗日さんの発言に呆気にとられてしまう。 鏡で自分の顔を見られるならきっと鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしているだろう。 麗日さんは呆気にとられた僕を見ながら話を続けていく。

 

「やっぱそうだったかぁ……始めは私を気遣うために言ってるのかと思ってたんだけど、そのうち私を見てるのに私じゃないだれかを見てるってことに気付いたんだ。 Mt.レディとか波動先輩とかの他の女の子かと思ったけど、二人とのやり取りを見てるとそれも違うなって……それで気づいたんだ。

何て言ったらいいのかわからんのやけど…確かに麗日お茶子()への言葉なんだけど、私のことじゃないのかなって」

「…なんでそう思ったのかな? 」

「勘、かなぁ?」

「勘、かぁ……」

僕は気の抜けた感嘆のため息をつく。 ここまで見事にバレてしまっていては否定する気にもなれない。しかし、女の子の勘ってのはホントに凄いな。

 

「別にね、説明してほしいとかそういうんじゃないんよ。デクさんにそう言われるのは私宛じゃないとしても嬉しいし、それがデクさんの支えになれてるのなら私はそれでもいい。ただ……」

「……ただ?」

「いつかデクさんがそれを教えてくれたら嬉しいかなって……私はそれまで待ってるから!」

麗日さんは向日葵のような笑顔で僕に告げる。僕はその姿に見惚れて言葉がなかなか出てこなかった。

 

麗日さんはやっぱり優しい子だ……今だって僕に無理強いをしないで助けてくれている。こんなに優しい子にこれ以上心配かけさせられないな。だからこそ、今はまだ……

 

「麗日さん、ありがとう。でもひとつだけ訂正させて欲しい。僕が助けられて、支えられているのは()()()だ。今ここにいる麗日さんにだって僕は感謝してる。

いつか……いや、全てのケリがついたら、全部話すよ。だからその時まで待ってて!」

「うん、待ってるよ。デクさん」

麗日さんはまたしても優しい笑顔で受け入れてくれた。

 

 

夕暮れの教室で僕と麗日さんの間に心地よい沈黙が流れる。 暫くして麗日さんの方を見ると、麗日さんもこちらを見ていた。

 

少しの間、二人して眼を見つめ合う。だけど段々それが可笑しく思えてきて、二人して笑いだしてしまった。

 

友達と過ごす朗らかな時間。こんな良いものが今の僕に与えられてもいいのだろうかと思ってしまうほど、心地の良い時間だった。

 

暫く笑ったあと、麗日さんが目尻の涙を拭きながら話しかけてきた。

 

「いやぁ、脱線しちゃったね。 なんの話をしようとしたんだっけ。 ふぅ……爆豪君と轟君のこと、任せたよデクさん」

「うん、任された! 二人は必ず僕が救けてくる。そしたら今度は二人と、それに飯田君も入れて、さっきみたいに楽しく過ごそう。この僕らの学校で、なんでもない日常を過ごすんだ」

「うん…うん!そうだね、デクさん!二人を取り戻して、そしてデクさんも必ず無事で帰ってきてね」

僕らは当たり前の未来を思い描く。そんな当たり前を取り戻す。それが僕のやるべきことだ。

 

「デクさんっ! んっ…!」

麗日さんは椅子から立ち上がって拳をこちらに向けてきていた。その意味を少し考えて、直ぐに理解した僕は立ち上がる。

 

「――約束だ」

「うん――約束!」

僕と麗日さんは拳を軽く合わせて笑いあった。僕とかっちゃんの……親友との約束の合図だ。

 

「爆豪君とデクさんのこれ、やってみたかったんだ」

「ははっ、特に深い意味はないけどちっちゃい頃からずっとやってきてたんだよね」

「どっちから始めたのかな?―――」

「これはね―――――」

 

その後、様子を見にきた相澤先生に叱られるまで教室で話をしていた。 この非常時に感じれた僕の日常をギリギリまで楽しみたかったんだ。

 

斜陽がかかる街を歩きながら二人で帰る。麗日さんと帰り道が分かれるまで話を続けて、そして「またね」と手を振り、それぞれの帰路を進んでいく。

 

 

 

 

―――こんな日常を喪わないために、二人を必ず取り戻す。

 

 

――――そして残り少ない未来を、踠いても足掻いてでも生き抜いて、確かな未来を掴みとってやる。

 

 

 

001. ODD FUTURE

 




ゴング鳴りそれぞれの天命を―――――


残りも少ないですが、最後まで応援よろしくお願いします!

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