デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】 作:くろわっさん
てなわけで続きになります!どうぞ!
再びの敗北。 それはかっちゃんとの喧嘩を軽く見て、その気持ちを蔑ろにした僕への当然の帰結だった。
もっと僕がしっかりしていれば……あの時になんとかしていたら……そんな“たられば”を浮かべずにはいられなかった。
地面を殴り続けた拳の痛みが僕を孤独へと
「もっとかっちゃんのことを気に留めていられれば……いや、この襲撃自体を僕がもっと素早く解決出来ていれば、かっちゃんも轟君も救けられたのに。 マスキュラーに手間取り過ぎた?それとも二人の脳無が原因だったか? 肝試しの組み合わせを無視してかっちゃんについていればよかったのかも。 ダメだ、それじゃかっちゃんの気持ちを無視している。 そもそも喧嘩なんてしてなきゃ良かったのか。どうすればよかったんだ……教えてくれ、オールマイト…かっちゃん……」
自問自答を繰り返し、意味のないたらればだけが積み重ねられていく。 折れる、折れてゆく。 支えを失った柱が自らの重みで折れてしまうように。
永遠にも感じられたその刻を動かしたのは、頬に走る鈍痛だった。
「しっかりせえっ!デクさんはっ!こないなとこで立ち止まっていられへんやろっ!!」
一発、二発、三発と立て続けに頬を叩かれて、目の前の人物を見る。 そこには涙を流しながら必死の形相で僕へと呼び掛ける麗日さんの姿があった。
「麗日さん…?」
「デクさん!――」
確かめるように名前を呟くと、彼女は僕の首に腕を回して力一杯に抱き締めてきた。でも僕の腕よりずっと細いそれは優しく僕を包み込む。背中に回されたその手は震えていて、どれだけ僕を心配していたのか伝わってくるようだった。
ごめんね麗日さん……やっぱりバカだな僕は。 自分で勝手に塞ぎこんで、見たくないものを見ないようにしてしまった。 こんなにも僕を思ってくれる人がいるというのに……
麗日さんの言う通りだ。こんなとこで立ち止まってる場合じゃない! 前に、前に進まなければ! 動かなければ誰も救うことなんて出来ない。轟君も、かっちゃんも、オールマイトも…そして僕自身さえもだ。
僕は麗日さんの肩を掴んでそっと身体を引き剥がす。 心地よさが失われてなんだか名残惜しい気もするが、いつまでもこうしてはいられない。
「麗日さん、ごめんね。あと、こんな僕を見捨てないでいてくれて、ありがとう」
「あっ、うん。こっちこそごめん、頬いっぱい叩いちゃった…」
「大丈夫だよ、寧ろありがたい痛みっていうか―――って麗日さん血塗れじゃないか!!大丈夫なの!?」
「え?私の傷はそんなに大したことないよ――ってこれほとんどデクさんの返り血だよ!デクさんこそ大丈夫なの…?」
「平気だよ、深い傷はないから。 服、汚しちゃってごめん」
「いいよ、他でもないデクさんのだもん」
麗日さんは僕の血に塗れた頬を吊り上げて笑う。 こんなボロきれみたいな僕を躊躇いなく抱き締めてくれた麗日さんに、僕は返す言葉がついに無くなる。
僕はいつだって麗日さんに助けられてばっかりだ。 折れる寸前の僕をこんなに優しく支えてくれた。 こんなデクを支えてくれるなら折れることなんて出来ない。僕は立ち上がらなきゃ……木偶ならデクなりに、愚かしく立ち続けてやる。
「麗日さん、いろいろなことがあったけど。まずはこれからのことを考えていいかな?」
「考えてって……またさっきみたいに塞ぎこんだりしない?今は休んでもいいんだよ、デクさん?」
「ありがとう麗日さん。大丈夫だよ、麗日さんが僕を支えてくれるから―――
麗日さんの手を握り、安心させるために優しく力を込めた。僕はこの手に支えられたのだから。
考えろ、この先どう動けば一番いいのかを、全てを救けられる方法を。
かっちゃんが裏切りヴィラン連合に着いていってしまった。これは信じがたいことだが事実で……いや待てよ? 本当にかっちゃんは僕を裏切ってヴィランになったのか? そんなことはあり得ないんじゃないか? 前世のかっちゃんような粗暴な面が出てきたとしても……というか今より遥かにクソだった前世でもかっちゃんは裏切ったり、ヴィラン連合に乗せられたりしなかったじゃないか!
「――つまりかっちゃんは裏切ってなんかいない…」
「爆豪君がデクさんを裏切るなんてあり得ないって、私だってそう思うよ」
「だよね、麗日さん! なにか……そう、なにか理由がある筈なんだ」
僕と麗日さんは協調して自らの思考を肯定的していく。
そう考えればかっちゃんの態度は度々おかしかったように感じる。 特に最後にかっちゃん様子はそれまでと違った。 あのときかっちゃんが言ったことを思い出せ…あれはなにか別の意味があったんじゃないか?
『悪いなデク…俺はそっちにはいかねえ。お前の事情は呑み込んだ。その上で俺は行くんだ。俺は俺のやり方でやらせてもらう』
『轟のことなら心配すんな、俺が責任を持って処理してやんよ。だから俺は素直にコイツらに付いていくことにした。お前ならこの意味、分かるよな?』
よし、要素をひとつひとつ整理していこう。気になったところは……
僕の事情ってのは再履修の話のことだと思ってたけど……だったら普通“分かった”とか“理解した”とかって言うんじゃないか?
その上でのかっちゃんのやり方とかいうのが、僕のもとへ戻らずやつらと行くって …どういう意味だ?
轟君を処理する…ヴィラン的に考えるなら、止めを刺すってことになるけど。なんでかっちゃんがやりたがるんだ? 彼は連合の目標だったのに。
“素直にコイツらに付いていく”……なんだこの違和感…ここが一番引っ掛かる。あのかっちゃんが素直に誰かに付いていくなんて……素直に…?―――ハッ!
「わかった……ツンデレだ…」
「え?デクさん?」
「だからかっちゃんはツンデレなんだよ! しかもかなーりめんどくさいツンデレだったんだ!そんな男が素直になんて言うことがおかしかったんだ!!」
「よくわかんないんだけど…閃いたんだね!デクさん!」
麗日さんは両手を合わせてパアッと笑顔を見せる。「やっぱりわからんけど!」と付け加えながらだけど。
かっちゃんが素直じゃないツンデレなことを念頭に置いて考え直せば全てがわかる!なにがこの意味わかるよな?だよ!ホントにめんどくさいなぁかっちゃんっ!
素直に付いていくのは仕方なく付いていくってことで。つまり轟君を処理するってのは、轟君は自分がどうにかして救けるってこと。
僕の元へといかないんじゃなくて行けなかったんだ!轟君が捕まってるから…これがかっちゃんのやり方で、かっちゃんが考えた救けるための行動だ。
ってことは呑み込んだ事情ってのは―――
「―――スマホっ!…は当然壊れてるよな。 なら施設に戻らなきゃ…!」
「ちょっとデクさん!ヴィランたちは!!?」
「おっと!無力化したけど、連れていこう。じきに警察がくるだろうし、引き渡さなきゃ」
僕は脳無を引きずり、茂みに投げたトガって名乗った女の子を担いで、施設を目指して走り出す。麗日さんも僕の一歩後ろにピッタリとついてきていた。
「……もしかして俺、忘れられてる?」
「ドンマイ!」
「黒影…ありがとう……」
「――なにしてんの常闇君!早く帰ろう!!」
「あ、ああ!緑谷!いま行く!…!」
施設前まで着くとそこにはAB組の生徒たちとブラド先生が集まっていた。どうやら整列しているあたり、点呼をとっていたのだろう。
「戻ったか緑谷!それに常闇と麗日だな!その二人は…?」
「ヴィランです!二人とも気絶してます、ブラド先生!」
「わかった!施設の地下でイレイザーとマンダレイが捕まえたヴィラン達をまとめて監視してる、そこに連れていけ!あとは轟と爆豪か…」
「わかりました…それと轟君とかっちゃんはヴィラン連合に連れてかれました!それじゃ!」
「おいちょっと待て!どういうことだ、緑谷ー!」
「常闇君、説明任せた!―――」
驚きの隠せないブラド先生を置いて僕は施設へと駆け込む。きっと常闇君ならうまいこと説明してくれるだろう。
地下に行くと、相澤先生の捕縛布で縛られ目隠しをされた四名のヴィランと、それを睨む相澤先生、そして連絡役のマンダレイがいた。
「先生!ヴィラン二名追加です。女の子の方は気絶してて、こっちの脳無は動かなくなりました。捕縛お願いします!」
「緑谷、その怪我…! 後で救急が来るから診てもらえよ…とりあえずそのデカイ方から縛る。そこに転がせ」
「はい。それと崖の上でも二人倒してます。 身体を埋めといたんで逃げ出してることはないと思いますけど、警察が来たら引き渡してください」
相澤先生は脳無を手際よく器用に縛って拘束する。その間もヴィラン達をチラ見して個性を消していた。
続いて僕が小脇に抱えていたトガって子を渡そうと床に下ろしたとき、彼女が目を覚ましてしまった。
「ここは……あれぇ…出久くん!はぁぁ、カッコいいねぇ!!夢みたいです!――じゅるッ――ボロボロの身体、美味しいぃよ、出久くんっ」
トガは目を覚ましと直ぐに僕の首に手を回して、首筋の血を舐めとって甘ったるい口調で話しかけてくる。 その感覚に背筋がぞわりと冷たくなって鳥肌がたつ。
「デクさんから―――離れろっ!!」
「よくやった麗日!」
僕の後ろから飛び出た麗日さんが、トガの手首と首筋を掴んで僕から引き剥がすように床に叩きつける。すると、相澤先生が流れるような早さで捕縛布で拘束していった。
「またお茶子ちゃんに捕まっちゃったのです……でもでも、私たちひとつになれたんだから
トガは完全に拘束されたのにも関わらず、狂喜的な笑顔で僕へ問いかける。“なにいってんだコイツ”と誰もが思った。相澤先生も懐疑的な目で僕を見る。 その一瞬、相澤先生が目を離した僅かな間に、トガの姿が変化していき、とんでもないパワーで捕縛布を引きちぎっていく。
身長190センチ、髪は緑、筋肉モリモリで、ピッチピチのセーラー服を纏うマッチョの変態が目の前に現れる―――っていうか僕だった。
「気持ち悪っ!!」
「――ア゛ッ!……」
僕は咄嗟にその鳩尾に手加減なしの一撃をぶちこむ。考えるより先に身体が動いていた。 変態はカエルの潰れたような声を上げて気絶すると、どろどろと身体が溶けて元の華奢な女の子の肉体に戻っていった。
「忘れてください……」
「おう…」
「わかった…」
「うん……」
気まずい空気が地下室に漂っていく……誰も得しない最低の光景だった。
「って!こんなことしてる場合じゃないんですよ! ここは任せます!」
「えっ!? おい、緑谷どこ行く気だ!!」
「部屋に戻ります!―――」
我に返った僕は本来の目的を果たすために、地下室を飛び出して、施設の自分達の部屋に向かう。
部屋に戻ると、すぐに荷物を漁って目的の物を取り出した。
「デクさん、それは?」
「スマホ壊れちゃったけど、これで代用できる! えーと、これ起動して……こうして…こうだ!―――」
後からやって来た麗日さんに取り出したタブレットPCを見せながら起動していく。 そしてアプリケーションを立ち上げて設定をしていった。
僕の考えが正しければ、かっちゃんは裏切ってなんていなくて……
PCの画面には地図が表示され、その中心には座標を示す赤い点が点滅している。その座標はこの合宿施設ではなかった。
―――かっちゃん…君はなんて無茶なことしてるんだ……
――― 爆豪 side in ―――
黒モヤのゲートを抜けた先は、薄暗い倉庫のような場所だった。 辺りにはよく分からない大型の機器が立ち並んでおり、その駆動音が広い倉庫内に響いていた。
「ここがお前らのアジトか? 結構薄汚ねえとこで暮らしてんだな」
「失礼な。ここはアジトじゃなくて見ての通りの工場ですよ。私の店はもっと綺麗なんですよ?」
「なんでこっちに来たんだ黒霧? 今日はいろいろあって疲れたし、あの店で早く一杯やりたいぜ」
「元々脳無も連れてくる予定でしたからね。片付けてから店に戻るつもりだったんです。 まあ貴方の今日の功績を鑑みれば……高いのを一本くらい開けますか 」
「お、いいねえ!そりゃ楽しみだ!」
お面と黒モヤの会話を耳に入れながら辺りを見回す。 階下に見えるぼんやりと光る巨大なコンテナの中には確かに脳無がいた。
なんて数だ……これ全部あの脳無って化け物なのか…?
無数に並ぶコンテナを警戒しながら見ていると、その間に黒モヤは携帯電話を片手に誰かと話し込んでいた。
ったく……轟と常闇を救けるためにお面に付いていっただけなのにどうしてこうなった!
最初は隙を見て、二人の珠を盗んでさっさと逃げる筈だったのに、そこにデクが現れるもんだから一気に予定が狂っちまった。
仲間になった振りをするためにデクを爆破したり、欺いたりしちまったが、そこまでは良かった。 デクに奴らがビビりまくってたお陰で、お面野郎のポケットに手を突っ込めたからな。 だが、まさか常闇と轟を別々に入れてるとは……いつの間にそんなことしてやがったんだよ、ちくしょうが。
常闇に続いて轟も取れれば、そこでデクの方へ逃げて全部解決したってのに、あのお面野郎めちゃくちゃ俺のことも警戒しちまった。 それでもなんとか奪ってやろうと虎視眈々と狙い続けてたところにあれだ。 ほんっと変なタイミングで出てきやがって麗日のやつめ…!
デクと俺、それに暴走常闇の三人ならヴィランどもを無傷で返り討ちにできっけど、麗日がいたらアイツを庇わなきゃいけねえ。あのバカが来た時点で、その場で奪う作戦は断念した。 時間をかけてプロが合流したら、鼬の最後っ屁みたいに轟を殺されてたかもしれなかったしな。
デクのやつ、俺の最後の言葉の意味分かったんだろうな…?奴らに悟られないように回りくどく「敵地に潜入して轟を救ける、これが俺の作戦だ」ってことを伝えたつもりだったんだが。 まあデクのことだ、なんとなく伝わってるだろ。
「弔がこちらに来るようなので、少々迎えにいってきます」
これまでの流れを思い返していると、電話を終えた黒モヤがゲートを開いて誰かを迎えにいった。
厄介なゲートがない隙にやっちまうかと思ったが、黒モヤは十秒くらいで帰って来た。焦って仕掛けなくて正解だったぜ。
黒モヤに続いて出てきたのは身体の至るところに手を着けた男……USJの襲撃のときにもいた、死柄木だった。 だが前に見たときには普通だった右腕が、今は小柄な人間くらいのサイズでゴツゴツとした、いかにも凶悪な腕に変わっていた。
「随分と数が減っちまったな……だが作戦成功ご苦労。よく戻ったな、荼毘、Mr.コンプレス」
「緑谷が化け物過ぎた。ありゃオールマイト級の強さだろ…ホントよく帰れたと思うぜ」
「それもこれも、素直に協力してくれた爆豪君のおかげだな。 危なく轟君を投げそうになった件は、無事に帰れたことだし水に流そうじゃあないか」
「……そりゃどうも。そんで、あんたがボスか?」
俺はお面に軽く手を上げて、死柄木を軽く睨みながら尋ねた。
「よく来てくれた、爆豪勝己君。 俺達はヴィラン連合、君を歓迎するよ」
大げさに左腕を拡げて歓迎の言葉を述べる死柄木。勧誘に来たってのは本気だったのかと思った。
次の瞬間、死柄木の異形の右腕が俺の首と胴を掴み、壁へと押し付けられる。
「――なんて言うとでも思ってたのか、クソガキ…!」
「てっめえ…」
「動くな、俺の五本の指の内四本がお前の身体に触れてる。五本揃えば―――こうなる」
死柄木は右手で俺を押さえながら、左手で俺のポケットをまさぐりスマホをつまみ上げる。そして俺の目の前で五本の指を使って握り締めた。すると俺のスマホはヒビを立てながら崩れ去っていった。
触れたものを崩壊させる個性だと…!? こんなん防御不可の即死攻撃じゃねえか…!
死柄木は俺の身体を服の上から隈無く探ると、不満げな顔で俺の目を睨み付けた。
「他に持ち物は無いみたいだな。発信器のひとつでも付けられてると思ったんだけど、検討違いか」
「…俺はお前らに誘われたから、仲間に成ったんだぜ?あるわけねえだろ、そんなもん…!」
「そうだぜ、死柄木。 確かに俺も最初は疑ってたが、爆豪君はあの緑谷を撒くのに充分な仕事をしてた!」
「緑谷出久か…その緑谷が少しでも嫌な気分になるようにダメ元でこいつを勧誘しろって言ったつもりだったんだが、本当にそんな役に立ったのか?」
「ああ、それは俺も見てた。 退却の成功はそいつの手柄だ」
「いったん落ち着きましょう、死柄木弔」
他の仲間が死柄木を宥めるが、俺を拘束する腕の力はまるで緩まない。
「そもそも、緑谷出久の相棒だと名乗ってる時点でお前は信用ならないんだよ」
「あの怪物の元でなら好き勝手やれる。そう思って言ってたが、別のいい渡舟が来たから乗り換えたんだよ…!」
「口では何とでも言えるだろ?それに仲間を簡単に裏切るような奴を信じろって言われてもな」
「はっ、その割りにはてめえも仲間の話を聞いてねえな」
死柄木と俺の問答は続いていく。何とかしてここを乗り切らなきゃいけねえ。
「それは心外だな。俺はこれでも仲間を大切にする
「信頼だと…?」
「黒霧は勿論のこと、コンプレスと荼毘も今回決死の作戦を成功させた大切な仲間だ……そんな俺の仲間に免じてお前にチャンスをやる。俺の信頼を勝ち取って見せろ」
手の隙間から覗く死柄木の冷たく眼、そして重い宣告。ここが勝負どころだと感じた。
「……俺に何しろってんだよ?」
「簡単なことだ―――何もするな。 おいコンプレス、珠のままでいい、轟を寄越せ」
「はいよ、死柄木」
「おいおい、俺の時とは違ってえらくアッサリ渡すじゃねえか」
「まあこれでも俺らのリーダーだからな。断る理由もないし、そりゃ従うさ」
死柄木はお面野郎から轟の珠を受けとると、掌で転がしてニヤリと笑う。
なんで今、轟を…?それに俺になにもするなだと?なに考えてやがるんだこの野郎。
「今回の作戦ってのはさ、
「嫌がらせ、ねえ…」
「そう、ヒーロー志望の人間が悪へ堕ちていく。その様を世間に見せつけてやるためのな。でもお前が俺たちの仲間になるってんなら、それは轟でなくてもいいわけだ……つまり轟はもう要らない」
「なんだと…?あんだけせっせと連れてきて、要らないってなんだよ…!」
死柄木が告げた目的と結論。俺はこの段階で嫌な予感が止まらない。
「これからの五つ数えて、ひとつずつ俺の指がこの珠に触れていく。全てが触れれば…轟は珠ごと崩壊する。 もう一度言う、何もするな…爆豪勝己」
死柄木は淡々と感情の籠らない声で俺に説明をした。これは轟の死へのカウントダウン。
「…ひとつ」
俺が考えるよりも早く、死柄木は動き出す。奴の左の掌に転がる珠を、カウントとともに親指で挟み込んだ。
どうする…どうすれば止められる? やつの信頼を得つつ、これを止める方法は…!
「…ふたつ」
続いて人差し指が珠に乗せられる。
時間が足りねえ、救けもこねえ、どうする。なにか話しかけて気を逸らすか? いや、それすら行動ととられたらそこで終いだ。
「……みっつ」
三本目の中指が珠を完全に掌に固定した。
考えろ、考えろ…! こいつを爆破して轟を強奪、三人を撹乱しながら振り切って脱出……無理だ。こいつの腕の強度もわからねえし、この場所が何処だかも知らねえ。建物を出れたとしても、他に仲間がいないとも限らない。
「…よっつ。 次で最期だ」
薬指が横から珠を支えるように触れていく。死柄木の口から最終勧告が為された。
くそ!くそっ!くそがぁ!!解決の一手が出てこねえ。 このまま轟をやられちゃここまで危険を犯してきた意味が無くなる! だが動けばここまでの積み重ねもパァになる! どうする!?どっちだ!?俺は、俺は―――
「ふぅ…そうか……いつ―「やめろっ!!」――それがお前の選択か、爆豪」
死柄木の最後の指が珠に触れる、その前に俺は声を上げて手を伸ばしてしまっていた。死柄木はその手を素早く避けて、珠をお面に投げ渡す。
「コンプレス、次からはもっとしっかりと意思確認をしてから新人を連れてこい」
「すまねえ…死柄木。処分するか?なら責任を持って俺がやるが…」
「いや、こいつはこいつで利用価値がある。 でもまあ、自由はいらない…!!」
死柄木の異形の右腕から衝撃波のようなものが生じて、俺の胸部から鳩尾にかけて突き抜けていく。 あまりにも突然の衝撃に胃の中身が逆流し、嘔吐しそうになるが喉元で再び飲み込み耐え抜いた。
吐き出すことだけはできねえ…! コイツらが気が付かなかった俺の切り札。お面野郎に付いていく前にコッソリと
「まだ意識があるのか、スゴいタフネスだな。じゃ、これでどうだ……!!」
死柄木が右腕の拘束を解いたことで俺は自由になるが、先程のダメージのせいでまともに立ち上がれない。そして地面に膝を着いた俺の後頭部に強い衝撃が走った。どうやらあの巨大な拳で直接殴られたようだった。
「―――拘束してアジトに連れてけ。轟とは別の――捕らえておけば、互いを人質に―――下手に動けな――だろ」
「――了解し――死柄木」
「アジト―――ったら一杯――。 黒霧が大事に――た――箱に入った―――」
薄れ行く意識の中、飛び飛びに死柄木達の会話が頭の中を巡る。
――――すまねえ、デク。俺は…しくじっちまった……
――― 爆豪 side out ―――
PCに表示されているのはかっちゃんに渡した小型発信器の信号だ。 途絶えることなく、この施設から別の場所の座標を示す。
「また移動した。でも今度はそんなに離れてないな…」
「デクさん、ここが…」
「ヴィラン連合のアジトってことになるね」
麗日さんと一緒にモニターを見ていたが、信号がある場所に留まったことで僕はそこが終着点だと確信した。
神奈川県横浜市神野区。ヴィラン連合のアジトがある街で、かつてのあったオール・フォー・ワンとの決戦の地―――そして、僕とオールマイトが命を散らした場所だ。
――――待っていてくれ、轟君、かっちゃん。 必ずそこへ僕が救けにいくから。
爆豪が繋いだ最後の希望。いざ最終決戦へ―――――
これで第九章は終わりになります。いやあ長かったですね、今章。デクさん以外も書いてたら延びに延びてこうなりました!そして次章が最終章になります…!
ひとまず、ここまで読んでくださりありがとうございました!
次章からも応援よろしくお願いします!