デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

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お久しぶりです皆様、恥ずかしながら帰って参りました、エタってませんよ!(2回目)

更新遅れて本当に申し訳ないです、よかったらまた見てくれると嬉しいです。

それでは第八章スタートです!




第八章 筋肉バカとテストと相棒
緑谷出久、相棒(サイドキック)になる。


僕らは1ヶ月のAB組合同近接格闘自主練会を終えた、なかなか辛く厳しい特訓だったがみんなでソレを乗り越えて、一段と強くなれたと実感できた。

そして期末試験が始まる…僕の実技試験の相手はおそらく前世と変わらずにオールマイトなるだろう。

 

 

 

だが僕とオールマイトが闘う機会は過去にもあったのだ。

 

 

 

なぜそのようなことになったのか、記憶は仮免試験を合格した次の日まで遡る―――

 

 

 

 

「さて、まずは仮免合格おめでとう、緑谷少年!」

「ありがとうございます、オールマイト!」

僕はオールマイトから賛辞を送られる、オールマイトに褒められるのは何回だって嬉しいもんだ。

 

ここは僕らの暮らす……いや今日からは僕だけが暮らすあのマンションの部屋だ。

そこにオールマイトがやって来た、理由はこれから明かされるだろうが…おそらく今後の修行の内容についてだろう。

 

「それでオールマイト、今日はどうしたんですか?やはり今後のことで?」

「HAHAHA!気が早いな緑谷少年!そんなに私からの修行が楽しみなのかね?まあその話もあるのだが、まずはこれ!」

そう言うとオールマイトは楽しそうに笑いながら僕に金属製のスーツケースを渡してきた、僕はそれを受けとるが結構な重みがあり少しバランスを崩しそうになる。

片手で受けとるのはちょっとキツイぞこれ…!

 

「デカイケースですね…なんですこれ?」

「フフフ、それは私からの合格祝いだよ!開けてみるんだ!さあ!さあ!!」

「ご、合格祝い!?ありがとうございます、じゃあ早速失礼して―――」

待ちきれないといった感じの表情のオールマイトに急かされて僕はケースを開いた。そこ入っていたのは―――

 

「これはっ!オールマイトの銀時代(シルバーエイジ)コスチューム後期型!!…の緑色のカスタムカラー!?それに同系色のバイザー付きのヘルメット…?」

意外なプレゼントに僕は動揺しながらその中身を物色しては口走る。

 

なんで急にコスチュームを…?それにこのヘルメットのデザイン……昔読んだバトル漫画の主人公の息子がヒーロー変装する時に被ってたやつにそっくりだな。名前はなんだったかな、確かグレートタイヤマン?いや違うな……駄目だ思い出せない…!

 

「HAHAHA!驚いたかね緑色少年?これが私からの合格祝い、君のヒーローコスチュームだ!!前に君が持ってきていたやつは大分ボロボロになっていたからね、私のスーツ開発をしているとこに作ってもらったのさ!!機能の詳細はその説明書を読んでくれ!」

僕はご機嫌なオールマイトに促されるように説明書を読み込んでいく、どんな機能が…?

 

なるほど、スーツは頑丈でブーツはスパイク付なのか。(詳細は第二章三話の通りです)

 

そしてこのヘルメットとマントは……カッコいいと思うのでつけときましたって感じだな、特に変わった機能はなさそうだ。でもなんでヘルメットなんてつけたのだろうか…?

 

「本当にありがとうございますオールマイト!でもこのヘルメットってなんでついてるんですかね?サポート企業の趣味ですか?」

「ホントいいところに気がつくな緑谷少年…!!私がこのタイミングで君にコスチュームとヘルメットを授けた意味…それはね―――」

僕の質問にオールマイトは含みのある笑顔で答えていく、いったいなんの為に…?

 

「君にこれから私の相棒(サイドキック)として私について回って実戦を経験してもらうためさ!!!さあ修行も最終段階へと突入だ!!!!」

「え?」

オールマイトの言っていることの意味がよくわからず僕は間抜けな顔で間抜けな声を出してしまう。

 

そして数秒考え込んでから僕はその言葉の意味を理解した。

 

「エエエェーー!!?僕がオールマイトの相棒(サイドキック)にぃい!!!???」

 

 

 

オールマイトの突然の宣告、僕は前世から続く憧れの存在オールマイトの相棒(サイドキック)としての活躍が始―――

 

 

 

 

 

始ま―――――

 

 

 

 

 

 

―――――結論から言うと、始まらなかった。

 

「またやったんですか、オールマイト!?」

「すまない、ナイトアイ!つい……」

「これで7日連続ですよ!?本末転倒ってもんじゃすまないですよ……」

オールマイトの衝撃の宣告から一週間が経った今日、僕の目の前ではサーナイトアイがオールマイトに苦言を呈していた。

その原因は僕…というより僕に対するオールマイトの扱いだ。

 

「緑谷出久に実戦経験を積ませるために相棒(サイドキック)という形をとったのに、貴方が一撃でヴィランを倒してしまったら意味ないでしょう!?」

「いやぁ…ヴィランの強さも未知数だし…返り討ちにあって大ケガでもされたら困るし……なによりヴィランが目の前に現れると身体が勝手に動いてるんだよね!私の中の正義が止められないって感じでさ!!」

「その心意気は素晴らしいですが、今回は話が別です。緑谷出久に強くなってもらわなきゃならないでしょ?というか緑谷出久なら大概のヴィランには負けませんよ…過保護すぎるんだオールマイトは!!」

二人の話し合いは白熱していく…僕の相棒(サイドキック)生活が始まらなかったのは(おおむ)ねサーナイトアイがいった通りだ。

 

この一週間、相棒(サイドキック)としてオールマイトに着いて回っていたがヴィランと闘う機会は一切訪れず、相棒(サイドキック)というよりサポーターというほうが相応しいなにかになってしまっていた……まあオールマイトの活躍が最前線で見られて(デク)としては最高なのだが、オールマイトの弟子(オールライト)としては全くもって最低だろう。

 

「……やはりオールマイトではなく他のプロヒーローの相棒(サイドキック)として着けるべきだったんですよ、いきなり業界最高のヒーローオールマイトの相棒(サイドキック)は無理があったんだ!」

「緑谷少年は私の弟子なんだけど…それにそんなに都合のつくヒーローがいるかね?ナイトアイはほとんど戦闘には出掛けないだろう?いるかなぁ?なあ緑谷少年?」

「えっ!?僕に聞きますか…」

サーナイトアイの別計画(アナザープラン)にオールマイトは顔をしかめながら僕へと話を振る、僕は完全に聞きに入っていたので動揺して返事をしてしまった。

 

オールマイト…やっぱり師匠として僕を育て上げたいんだろう…でもサーナイトアイの言うとおりではあるからなぁ。

オールマイトは厳しい修行を課してくるもののそこには自分が何とかするという絶対の自信があるからこその厳しさがあるのだ、しかし、ことヴィランとなるとそうはいかない。

相手の実力は未知数、手加減もしない、危険な一線も越えてくるだろう…プロヒーローとして最前線を走り続けているオールマイトだからこそヴィランの恐ろしさを誰よりも分かっている…それ(ゆえ)、過剰なまでの心配をしている…筈だ。

 

つまりオールマイトが心配しないくらいヴィランとも渡り合えるってことを証明するためにも他のプロヒーローの相棒(サイドキック)として働くのは最適解と言える…サーナイトアイはよく考えているなぁ。

 

でも問題が一点、こればかりはなぁ……

 

「しかし実際のところそんな都合のいいヒーローが居ますかね?端から見たら正体不明の新人ヒーローですよ僕は…」

「ふむ、確かにな…緑谷少年が私の弟子だと知っていて、尚且つまだ中学生の仮免所有者ということに理解があって――」

「私のような調査中心の事務所ではなく、ヴィランとの近接戦闘を常に前線で行っているようなタイプで――」

「僕がヴィランと闘えるだけの実力があると信頼してくれて、個性の使用許可を出してくれるようなプロヒーローなんて―――」

「……」

「……」

「……」

「「「―――いるじゃないか!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから1ヶ月後、僕はある人とともに市街地でヴィランとの戦闘の最前線にいた。

 

「――ヴィランが巨大化した!?……まあ相手が悪かったわね、()()()問題ないわ!一撃で決める、準備してオールライト!」

「わかりました!いつでもいけます!!」

僕は()()からの指示を受けて大きく返事をしながらしゃがみこんでからワン・フォー・オールを全身に巡らせて、こちらに駆けてくる彼女を受け入れる体勢をとる。

 

そして彼女が僕の手の上に足をかけた瞬間―――

 

「―――いっけええええ!!」

巨大化したヴィランの顎に向かって抉り込むような角度で僕は彼女を()()した。

 

彼女は矢のようにヴィランに向かって飛んでいく、身長162センチの女性としては少し大柄な彼女だが僕の投げた勢いとその質量だけではあの巨大なヴィランを倒せないだろう。

 

だがソレだけで終わるようなひとではない、彼女はヴィランに向かう最中、自身の強力な個性を発動し―――巨大化した。

 

「グランド・キャニオンカノンッ!!」

彼女は叫びながらそのまま飛び蹴りを放ち、僕の投擲と巨大化による超質量が合わさった圧倒的な衝撃がヴィランの顎を撃ち抜く。

 

巨大なヴィランは一瞬で意識を失いその個性が解けて、空気の抜けたアドバルーンのように小さくなりながら地面へ倒れ伏せた。

 

おっと、あのまま地面に落ちたらその質量で街に甚大な被害が出てしまう、賠償金は少ないに越したことはないだろうしさっさと僕が動かなきゃ!

 

「キャッチします!そのまま戻ってくださいっ!!」

僕は叫びながら地面を蹴りあげて彼女に向かって跳躍する、そして僕の言葉のままに個性を解除して元のサイズになった彼女を抱えて、地面を滑るよう着地した。

 

「お疲れ様です、大丈夫ですかM()t().()()()()?」

僕の実戦研修に付き合ってくれているそのプロヒーローの女性、Mt.レディに声をかけながらそっと下ろした。

 

こうなったのは一ヶ月前、三人揃ってMt.レディの存在を思いだしたその瞬間からだった。

その場でMt.レディに連絡をしてトントン拍子で話が進んでいき、気がつけば僕はオールマイト事務所からMt.事務所に貸し出された相棒(サイドキック)という形でMt.レディと共に現場に立つことになった。

 

「デクく…オールライトもお疲れ様、今日もバッチリだったわね!」

Mt.レディが僕を労いながらこちらへ笑顔でサムズアップをしてくれる、今回もなんとかうまくやれていたようだ。

 

ほどなくして警察がヴィランの身柄を引き取るために到着した、これでこの事件も解決だ。

 

「今回もスピード解決でありますな、Mt.レディさん、オールライト君!

ではいつものようにオールライト君はこちらの書類に署名を、Mt.レディさんはあちらへ…」

「玉川さん、お疲れ様です!いつもすみません、助かります」

「こちらこそ事件が大きくなる前に解決してくれるので助かってばかりだよ、将来プロに成ったときもよろしく頼むよ」

何名かの警官の中から僕らの元へひとり駆け寄ってくる猫顔の警官、というか猫そのものの顔をした警官、玉川三茶さんが話しかけてくる。

 

この1ヶ月で玉川さんとも何度も会うことになり、その度にやり取りをしていたため今ではこんなに簡潔に事が運ぶようになった、オールマイトと塚内警部が仲良しな様に僕と玉川さんもかなり仲良しになった…と思いたい、やはり警察関係者の知り合いは欲しいよね。

 

僕はMt.レディの相棒(サイドキック)として放課後や休日にほぼ休みなく働いており、それに加えて筋肉を鍛えぬくためのトレーニングも平行していた。身体はかなりキツかったが確実な経験と実力が備わっていくのを肌身で感じることが出来ていたので辛くはなかったかな。

 

ちなみに僕は仮免所有の一般人扱いなので手柄は全てMt.レディのモノになる、僕としては経験を積むことが出来ればなんでも良かったので特に気にはしなかったんだけどね。

Mt.レディのマネージャー兼相棒(サイドキック)の人の話では今月の収益が今まで類を見ないくらいの大幅黒字になっているらしく、「このままここで働かないか?」と何度も誘いを受けたくらいだ。

 

それからもMt.レディの相棒(サイドキック)モドキとしての生活は続いていき、様々な現場で時に闘ったり、救助を行ったり、他のプロヒーローとのチームアップをしたりと、駆け出しヒーローてしての経験を一気に積むことが出来た―――

 

 

―――そんな生活を続けて更に1ヶ月の時が過ぎ、11月も終わろうとしていて本格的な冬の訪れを感じる日の帰り道ことだった。

 

僕のスマホにオールマイトからの着信が入った、いつもの進捗確認だろうか?

 

「やあ緑谷少年!なかなかいい感じに実戦経験を重ねてるようじゃないか、私も最近ちらほらと君の噂を聞くようになってきたよ。Mt.レディがとんでもない新人ヒーローを相棒(サイドキック)に引き込んできたってね!

私の弟子で私の相棒(サイドキック)なんだ!って言って回りたいのはやまやまなんだが、中途半端な実力の内に凶悪なヴィランに目をつけられても困るからやめてくれってナイトアイに止められてしまってなぁ…」

「そんなことになってたんですね…確かにプロの方々に比べれば僕なんてまだまだですから仕方ないですよ」

「君は恐ろしく自己評価が低いな!ナンセンスだよ!!客観的に見ても君は大分強いと私は思うんだが……そこでだ、君の下馬評を覆すためにも試験をする!!」

「試験…ですか?」

電話口からオールマイトの張った声が響いてくる、僕は少し疑問を口に出しながら話を聞き続けていく。

 

「そう、試験さ!君の強さを()()知らしめてやろうじゃないか!

ナイトアイと決闘をしたあの闘技場を覚えているかい?あそこに明日の朝から来てくれ、全てはそこで明かそうじゃないか!」

「いつものように急ですね…でもわかりました!明日ですね、気合い入れていきます!!」

「いい返事だ!それでこそ私の弟子だ!!ではまた明日会おう!!」

オールマイトの満足げな声で彼との通話が終わった。

 

オールマイトが急なのは本当にいつものことなので僕もいい加減慣れたけど……試験かぁ、いったい今度はなにをやるのだろうな?無人島の時みたいな死にかけるようなやつじゃなきゃいいんだけど……覚悟だけはしておこう…!

 

そうこう考えている間に僕の部屋の前まで着いていた、僕はドアの鍵を開けて中に入ってそこで違和感を覚える。

 

部屋の明かりが点いてる?それになんだかいい匂いがする、これは―――

 

「あっ、デクくん!おかえり、もう晩御飯は出来てるわ。食べるでしょ?手を洗ってきなさい!」

「優さん、ただいまです。いつもすいません…」

「2ヶ月経ってもそういうとこは変わらず謙虚ね…まあいいわ、食べましょ?」

部屋に居たのはMt.レディこと岳山優さんだった、今日はオフだったのか僕より早く部屋に来て夕飯を作ってくれていたようだ。

 

僕が()()()といったようにこの2ヶ月の間も優さんはこうしてよく晩御飯を作りに来たりしてくれている。

おそらく先輩たちとの共同生活が終わった後も同じように僕の生活の監督を任されているのだろうな。

僕はひとりじゃあまりまともな生活しなさそうだしな…いまも優さんに頼ったり叱られたりすることが多いのは母さんには内緒だ。

 

 

「そういえばさっきオールマイトから電話があって、明日に試験をするって言われたんですよね」

僕は優さんと夕飯を食べ終えたあとソファーに腰掛けながら、先程のオールマイトの話をしてみる。

 

「試験ねぇ…もしかして卒業試験なんじゃない?私のとこで実戦経験を積むって言ってから大分経つし、そろそろオールマイト自身の相棒(サイドキック)として迎え入れるためのね」

「卒業試験…それに僕があのオールマイトの相棒(サイドキック)に……はあ…」

優さんの推察に僕は納得しつつ感嘆のため息が漏れる。

 

優さんの下での修行も終わってついに憧れのオールマイトの相棒(サイドキック)に成れるのか!……でもなんだろうすごく嬉しいはずなのに素直に喜び切れないというか、なんかモヤモヤするっていうか…なんだこれ?

 

「そっかあ、デクくんもついに私の下から飛び立っていくのね……じゃあついでに言っちゃうとね、私からもひとつ話があるの」

「優さんからも…?」

優さんは少し優しげな表情をしたあと真剣な顔になって話始める、僕はいつもと少し違う彼女の雰囲気に少し戸惑いながら話を聞くことにした。

 

「再建中だった私の事務所がそろそろ完成しそうなの、最近はデクくんの手伝いもあって黒字も伸びてきてて資金源もバッチリだしね」

「ハハハ、おめでとうございますMt.レディ!」

「うん、ありがとう……それでね、急なんだけど来月の頭には生活も事務所の方に戻そうと思ってるの。

ここに住んでたのはあくまでも事務所再建までの仮住まいの予定だったし…まあ四人も学生の面倒をみることになったり、オールマイトと知り合いになれたり、優秀な相棒(サイドキック)を仮にだけど雇えたりするとは思ってもみなかったけど!」

優さんは表情をコロコロと変えながらこの3ヶ月のことを振り返りながら話していく、本当に優さんにはお世話になりっぱなしだな僕は…!

 

「デクくんとこうしてゆっくり過ごせるのも今日で終わりかもしれないわ、明日からは引っ越しとか新しい事務所の準備とかもあるしね」

「そうなんですね……あの!僕、引っ越しでも準備でもなんでも手伝いますから!優さんにはとてもお世話になってきたし……そう、本当にこの3ヶ月間優さんには世話になりっぱなしで、まだお返しもお礼も出来てない!だから…!その……」

優さんが告げるこの生活の終わり、僕はいろんな考えが頭に浮かんでは混ざってきてそれを口にしていく、しかし次第にこんがらがっていき…最後にはなにを言っていいかわからなくなってしまった。

 

「ふふ、ありがとうデクくん。でもね、改めてお礼やお返しなんていらないの。

サーナイトアイからは契約金だって貰っていたし、みんなと過ごした生活は確かに大変だったけどとっても楽しかったもの!

それにデクくんには仕事だって手伝ってもらってたし、大切なことも教えてもらったしね…」

「そう…ですか……」

「そうよ…こちらこそありがとうね」

優さんは普段のキリッとしたものとは違う優しい顔で、混乱気味の僕に諭すように語りかけてくれる。そして最後には微笑みながら僕にお礼を言ってくれた、僕はそれに対して黙ってしまいなにも返せずにいた。

 

 

僕らの間に沈黙が流れていく。

 

 

僕はオールマイトの弟子として更にステップアップをしていく、優さんも事務所をしっかりと構え直して元の生活に戻れる。

互いにいい方向へと進んでいく筈なのに僕はそれを素直に喜べないでいる…何故なんだろう……自慢の筋肉もそんなことは教えてはくれない。

 

 

そんなことを考えていると優さんが遂に沈黙を破って僕に話しかけくる。

 

「ねえ、デクくん…?最後だからさ……思い出、作らない?」

「はい…!?お、思い出?!」

隣座っていた優さんは肩が触れ合うくらいの距離に近付いて目を見つめながらそんなことを言ってくる、僕はというと急に近くなった優さんにドキドキしてしまい混乱気味だった頭がショート寸前まで混乱しきっていた。

 

「お、お、思い出…!…はっ!写真とかですかね!!えっとスマホ、スマホ…は…!!」

僕は動揺と混乱に飲まれながらなんとか優さんの言葉の意味を考えて、ポケットに入っている自らのスマホを取り出そうとするが、伸びてきた優さんの手によってそれは遮られた。

 

「馬鹿ね、そんなことなわけないじゃない?……ほら、眼…瞑って…?」

優さんは伸ばした手で僕の手を握りながら、やや紅潮した妖艶な微笑みを浮かべて、ゆっくりと、ゆっくりと顔を近付けてきた。

 

思い出!?思い出ってそういうあれなのか!!?いやいやいや、僕はまだ15歳でそういうのはまだ早いって言うか…いや精神的には26歳なんだけど、そういうのよくわからないし!!

どうすればいいんだ!?教えて筋肉!助けてオールマイト!!……返事がない、圏外のようだ。肝心の時にほんとに役に立たないな筋肉は!?

と、とにかく一旦、優さんに待つように言って―――

 

 

 

「…嫌?」

優さんは困り顔で囁くように僕に尋ねる、その吐息が僕の顔にかかる距離でだ。

 

 

 

 

「嫌じゃ……ないです…」

僕はそれだけ伝えて、眼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして僕の額に強烈な衝撃が与えられる。

 

「痛ったぁ!!??」

僕はその衝撃に驚きながら眼を開けると、そこにはしたり顔の優さんが僕の額を弾いたであろう指を見せつけながら立っていた。

 

「ふふふ、冗談よ。期待させちゃったかしら?デクくんにはまだ早いわ!

さて、明日もあるし帰ろっと。デクくんも大事なオールマイトの試験があるんでしょ?

あとさっき言ったなんでも手伝いますって言葉忘れないからね、存分にこきつかってあげる!じゃあまたね、おやすみ~」

「……えっ…あ、おやすみなさい……」

優さんはイタズラに笑いながら口早にそう告げて去っていく、なにが起きたのか未だに理解しきれていない僕は虚ろげに返すことしかできなかった。

 

暫く独りでぼーっとしてから段々と頭が回り始めた。

 

「か、からかわれたぁぁーーー!!!!」

誰もないマンションの一室に僕の独り言が木霊した。

 

ダメだダメだ!まださっきまでのドキドキがとれない!!なんだったんだよあれぇ……こういうときは落ち着くために―――筋トレをしよう。

 

そうして僕は黙々と腕立て伏せを始めた、心が落ち着いて眠れたのは既に日付が変わった頃だった――――

 

 

 

 

 

 

 

――― 岳山 side in ―――

 

デクくんの部屋から戻った私はベッドに飛び込んで枕をちぎれるくらいに強く抱き締めて顔を埋めた。

 

「なにやってんのよ私はぁぁーーー!!!!」

枕に向かってモゴモゴと叫ぶ私、叫ばずにはいられない。

 

私は!中学生相手になにをしようとしていたのか!年の差とかそういう話ではなく事案になるところだったわ!!仮にもヒーローが犯罪スレスレの危ない橋を渡ってどうするというのか!!

 

この生活の終わりに寂しさを感じて心が変な方向へ躍進してしまった…でも寸前のとこで留まって上手く誤魔化せたと思うし、きっとセーフね!……危ないところだった。

 

これからはもう少し距離感を大事にいきましょう…この引っ越しはいい機会だったかもしれない、物理的に距離があれば今日みたいな暴走することなんてなくなるだろうし。

 

「やっぱりこの気持ちは墓まで……いやそれは長すぎるわね。うん、デクくんが大人になるまでしまっておこう…」

 

――――私はそう自分に誓ってそのまま眠りについた、いつかこの思いを届けられるようにと願いながら。

 

 

――― 岳山 side out ―――

 

 

 

 

 

 

次の日、僕はオールマイトに言われた通りあの闘技場に着いたが、そこには誰もいなかった。

 

あれ?オールマイトもサーナイトアイもいないなんて珍しいな…とりあえず電話してみようかな。

 

「もしもし、オールマイト?闘技場についたんですけど、どうすればいいですかね?」

「やあ緑谷少年、私もナイトアイもちょっとたてこんでてね、そこの入り口から入ってくれたまえ、係りの者がいると思うからあとはその指示に従ってくれればいいからさ!じゃあよろしく!」

それだけ告げるとオールマイトとの電話は切れてしまった、どういうことだ…?

 

とりあえず言われたまま入り口のドアを開けるとそこにはいかにもな黒服のおじさんがおり、そのまま更衣室に案内された。そこには僕のコスチュームが置いてあり、それに着替えてから別の部屋に移動するらしい。

 

着なれたコスチュームとヘルメットを装着して黒服のおじさんのあとについていく、そして着いたのは闘技場の会場に繋がる大きな扉の前だ。

中からは人の気配がする、そして同時になにか嫌な予感も……

 

そして扉が開き、中から眩い光が溢れて僕の眼を眩ます。

 

黒服のおじさんに促されて中へと進んでいくと、そこには闘技場の真ん中の辺りに10人ほどの人影が見えてきた。

そしてその中でも一際目立っているのはマイクを手にしたオールマイトだった。

 

いったいこれは…?それに集まっているのは…プロヒーロー!?しかもみんな見たことある人達ばかりだ!!なにがなんだかさっぱりわからない…!

 

『そして最後の挑戦者が今、入場だぁ!!新進気鋭!正体不明のニュービー、オォォォルゥッ!ライトォオオ!!!』

マイクを通したオールマイトの声が闘技場に響いて僕の名を超巻き舌で呼ぶ、まるでそれはK-1やプロレスの入場アナウンスのようだ。

 

えっ?どういうこと!?最後の挑戦者?それになんだよこの状況!!オールマイトの試験ってなんなんだ!?今まで以上に訳がわからなすぎる!!

 

『――以上の八名を挑戦者として……第10回オールマイト(カップ)の開催をここに宣言します!!!』

 

 

 

 

 

―――オールマイトのその一言が止めとなり、僕はこの状況を理解するのを諦めた……もうどうにでもなれよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




導入?知ったこっちゃねえのがオールマイト流!!―――


相も変わらず唐突で自由な過去編が始まりました、おそらく最後の過去編になると思います、たぶん。




ちょっと別の沼に嵌まってしまって更新が遅れてしまっていました……バーチャルYouTuber…恐ろしいコンテンツやでぇあれは…!

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