デクのヒーローアカデミア 再履修!【完結】   作:くろわっさん

43 / 72
第七章最終回です、今回ちょっと長いよ!



小さな大戦の終幕

 

斜陽の射す保須の街で三人の脳無と対峙した僕は、数に圧されながらもそのうちの一人、翼の脳無を100%スマッシュで倒す。

しかしその反動による隙を残りの二人に突かれてしまいピンチに陥る、そんな僕を救けるために怒りと炎を燃やしながら轟君が現れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「緑谷を…離せこの野郎っ!!」

轟君は口調を乱しながら四つ目の脳無に向かってその左手から地を這うような炎熱を放つ。

四つ目の脳無は轟君の炎に反応して、舌を収めて僕を解放し迎撃態勢に移っていた。

 

「―――っは!ダメだ轟君!!」

僕は叫びながら地面に着くと同時に轟君に向かって駆け出す、四つ目の脳無は既に轟君の炎を吸収しており、轟君はそのことに驚いているようで足が止まっている。

 

「なん―――」

カッと目を見開いた四つ目は先程の吸収した炎を放出し轟君の身体が呑み込まれそうになる。

 

「危ないっ!!」

「―――んだとぉぉおおおお!!!」

炎が轟君に届くよりも早く脳無を蹴り飛ばしながら近づいて、僕は轟君を右腕で抱き抱えながらビルの外壁を登って屋上へ逃れた。

 

「轟君、大丈夫!?」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ…」

僕は抱えたままの轟君に話しかける、轟君は動揺しながら返事をしていた。

 

間一髪ってところだったな…!身体が動いてくれてよかったよ、まあ左腕は死んでるけど……

 

「というか轟君、なんでここにいるのさ!?ここは最前線だよ?プロの引率も無しにきたらダメじゃないか!それにヴィランに個性も使って……」

「ああ、悪い…説明するからとりあえず下ろしてくれ……な?」

僕は興奮ぎみに轟君を揺らしながら質問責めにする、轟君は俯きながら顔を赤くしてそう言った。

 

ははーん、さては助けに来たつもりが逆に助けられちゃったんで恥ずかしいんだな?稀にあることだよ、うん。ここは黙ってスルーしてあげるのが優しさってもんだろう。

 

「やつらもすぐに動き出すだろうから手短にね!で、なんでここに?」

「おう、緑谷の気配がしたから…来た」

「……え?」

轟君の説明にならない説明に僕は間抜けな声を出す、きっと顔もひきつっていることだろう。

 

気配がしたから…?つまり勘ってこと?なにそれ怖い。

 

「あー……その…冗談だ…」

「あっ、うん。冗談ね!ハハハ!轟君もそういう冗談言うんだね!ハハハ…………うん」

「「…………」」

轟君は少し困ったような顔をしてそう言う、僕も苦笑いで返してしまい互いに微妙な空気が流れてしまう。

 

そっかー、冗談だったかぁ…ならいいんだけど、かなりマジっぽいからちょっと焦っちゃったよ!

 

「親父と保須に出張パトロールに来ててな、んでこの騒動に巻き込まれたんだ。

親父には後ろで見てろって言われたんだが……ビルの上で跳ねながらヴィランをブッ飛ばしてどっかにいくお前の姿が見えて、んでイヤな予感がしたから後を追ってきたら……こんな感じだ」

轟君は沈黙を破って坦々と説明をし始めた、なるほど…そんなに目立ってたのか、僕は…!でも今の話だと…

 

「そうだったんだ……ってエンデヴァーからの戦闘許可は!??貰ってないの!?」

「ああ」

「ああって!ダメじゃないか!!助けられた僕が言うのもなんだけど、許可も無しに個性をヴィランにぶっぱなすなんて…!」

「緑谷を助けられたなら、後悔はねえ…!」

なんと轟君はエンデヴァーからの個性の使用許可をとらずに戦うつもりだったらしい、キリッとした顔で言っている轟君だがダメなことはダメだろう。

イケメンだろうと許されないこともあるのだ。

 

ああ…エンデヴァー、御愁傷様です。今回も減給コースみたいですね…

 

「もうやってしまったものは仕方ないけど……これ以上の戦闘はダメだよ。僕は仮免があるから闘うけど、轟君はとにかくエンデヴァーを急いで呼んできて!

残りは一人だけど、応援は必要だと思うから…!じゃあよろしくねっ!」

半分やけくそ気味に轟君へ一気に言葉を投げかけて僕はそのままビルの屋上から大通りへと飛び降りた。

 

しかし轟君は氷でスロープを創りながら一緒に大通りへと降りてきていた。

 

「なんでさ!?」

「緑谷、よく見ろ。相手は一人じゃねえ…!」

「マジか…!」

轟君の発言に驚きつつも正面を見据えると、そこには既に臨戦態勢の四つ目の脳無と先程轟君にやられたはずの顔無しの脳無が立っていた。

顔無しの肌は再生をしているようでボコボコと蠢いている、少し経てば轟君の炎のダメージは無くなるだろう…良かったねエンデヴァー、減給は避けられそうだ。

 

おそらく超再生の個性…!あのハイパワーだけじゃなかったか……いったいなんなんだよ脳無達ってのは!ポンポンと個性を出して来て…!!全国の無個性に謝れよ!主に前世の僕とかさ!!

 

「相手が二人だろうと、轟君が闘うのはダメだよ…!ここは僕一人で受け持つ」

「でもよ…!」

僕が轟君に意思を告げると彼は納得がいかないようで抗議の声をあげようとする。しかし脳無達は既に行動を開始しており左右にバラけながらこちらに向かって走っていた。

 

「でもじゃないっ!!」

「キェエエエ!!キェ!?」

僕もワン・フォー・オールを全身に纏って四つ目の脳無へと駆け出す、四つ目は割れた舌を伸ばしてくるが、僕はそれを右手で束にして掴む。

 

「ミネソタ・スマッシュッ!!」

「ゴオォ!!!」

舌を握ったまま思い切り引いて四つ目の身体が浮かび上がり、そのまま片腕の全力で顔無しの脳無へと叩きつける。

二人はまとめてビルの外壁へ突っ込んでいく、振り回しと叩きつけの余波で辺りには暴風が吹き荒れた。

 

「…前にも言ったけど僕の全力は周りを巻き込んでしまうんだ!わかったら―――」

「こっちで勝手に合わせるから気にすんな、もうお前を一人にはしねえぞ、緑谷!!」

「轟君!ダメだってっ!!」

轟君は僕の忠告を聞かずに脳無達へと向き、右足で地面を凍らせて脳無達を狙う。

それに反応した四つ目の脳無が這いつくばるように四足で前に飛び出し、その手に氷結の波が触れた途端に吸収されていく。

 

どういう理屈かしらないけど近接攻撃以外は吸収されてしまうのか!……ってことはこれも―――

 

「キェエエエ!!」

四つ目の脳無は奇声を上げながら辺りを凍りつかせるような冷気を放つ。やっぱり放出してきたか!

 

「ちぃ!燃えろ!!」

轟君は冷気を迎え撃つべく左腕から炎熱を放つ、だがその判断は微妙だろう。

仮に炎熱で冷気に打ち勝てたとしても今度はその熱を吸収し放出されてしまい、それに冷気を放つことになって堂々巡りになってしまう可能性がある。

 

「それじゃダメだ―――ペンシルバニア・スマッシュッ!」

僕はそれらを考慮してアッパーカットのスマッシュを放ち、炎熱諸とも冷気を暴風で真上へと吹き飛ばした。

冷気と熱気が混じり合い辺りには水蒸気が立ちこめて視界が一気に悪くなっていく。

 

炎熱も暴風も相手には届かなかったため、脳無達はそれぞれ駆け出して僕を狙って攻撃してきたのが霧の中でもなんとかわかる。

 

「ゴオオオオァ!!―――ゴッ!?」

「キェエエエェェ!!―――キェ!?」

脳無達は雄叫びを上げながら僕へと向かう、顔無しの脳無は飛びかかろうと上に跳ねて、四つ目の脳無は殴りかかろうと腕を歪に巨大化させて振り上げる。

しかし四つ目の振り上げた腕は飛びかかろうとしていた顔無しに直撃して二人は絡み合ってその場に転んだ。

 

「!―――スマァッシュ!!」

僕はその隙を見逃さず駆け出して、二人の脳無をサッカーボールのようにまとめて蹴り飛ばす。

しかし蹴りを放つ直前に四つ目の上半身が肥大化して顔無しと絡まりながら飛ばされていったためダメージは少ないだろう。

 

なんだ今のは…?視界が悪くなった途端に連携がとれなくなった…?

やつらの連携は互いを視認しながら行っている様なものじゃないように見えたけど…

 

「また来るぞ、緑谷!!」

「あっちょっと待って轟君!四つ目の方は吸収と放出が個性に含まれてる、轟君の直接攻撃はダメなんだ…よっ!」

辺りの霧は僕のスマッシュの余波で晴れており、轟君の言う通り二人の脳無は適度な距離を保ちながら僕へ向かってきていた。

轟君の迎撃を手で抑えながら僕は脳無達へと近づいて腕を振るう。

 

「ふっ!はっ!よっとぉ!」

「緑谷!やっぱり一人じゃ…!今助け―――」

「大丈夫!僕が一人で―――」

脳無二人の連携攻撃を時に避けて時に弾いて捌き続ける僕、そんな様子を見て轟君は助けに来ようとするが僕はそれをまたも止めようとする。が、ひとつそこで閃く。

 

轟君はきっと止めても僕が少しでもピンチになれば手を出してしまうだろう、気持ちはわかるがやはり無許可の個性でヴィランに攻撃するのを見過ごすわけにもいかない。

ならいっそのことこっちで指示を出して個性を使ってフォローしてもらえば危険が少ないのではないか?

それに轟君の個性なら試したいことも出来る!

 

「轟君!手伝ってもらって、いいかな!?」

「!――おう、いいぞ緑谷!」

「なら僕とこいつらをっ!囲いきれるドーム状の氷壁を創ってくれっ!!出来る!?」

僕は脳無の攻勢をギリギリで捌きながら轟君に聞く、轟君は少し嬉しそうに返事をしてくれた。なら早速頼みたいね、なかなか余裕がない…!

 

「出来るが……どうすんだ!?」

「暴れるっ!!」

「――っ!了解だ!!いくぞ!」

「オッケー!!」

轟君は戸惑いながらも右足を前につき出して構える、僕はそれを確認すると脳無二人の身体を掴んで引き寄せた。

轟君の足先から氷柱が伸びてきて僕らの周りを囲んでそこから更に縦へと伸びる、その間僕は二人から抵抗の殴打を受け続けた。

 

轟君の氷壁はあっというまに僕と脳無達を閉じ込めるドームを造り上げた、その半径は五メートルといったところだろう。

 

「さあ、反撃だ…!」

僕は掴んでいた脳無の身体を地面に力で叩きつけて一歩後ろへと跳ねる。

叩きつけられた脳無達はバラバラのタイミングで立ち上がりながらこちらを睨んでいた。

 

「…………」

1秒弱の無言の睨み合いが終わり、僕に向かってそれぞれが別々に動き出す、そこには先程までの連携のようなものはみられなかった。

 

やっぱりな!どこからか僕らを見ながら指示を出していた奴がいたのだろう、そして轟君の氷壁によってそれが防がれたから脳無達は連携がとれなくなったんだ!

ならこの最大のチャンスを逃すわけにはいかない、こいつらがその気になればこのくらいの氷壁ならすぐに壊してしまうだろう…!

一瞬で勝負をつける…!―――よし、覚悟を決めろよ緑谷出久!!

 

「オクラホマ・スマッシュッ!!」

「ゴオオ!!」「キェエー!!」

僕はワン・フォー・オールを全身に満たし、脳無達に向かって身体をプロペラの様に超高速で回転させながら飛ぶ。

その衝撃が空気を掻き乱しいつもの如く暴風が発生する、そして氷壁によって密室になったドーム中を逃げ場のない風が勢いを増して吹き荒れていくことで脳無達は動けなくなっていた。

 

足止めは成功…!まずは四つ目を仕留める!!

 

顔無しよりも動きが速く一歩だけ前にいる四つ目の脳無、僕はそれに狙いを定めて回転の勢いを殺さないように足を踏み込んでいく。

 

「100%!!――PENNSYLVANIA・SMAASH!!!」

踏み込みの衝撃と回転の遠心力、そして全力のオールマイトの力が合わさったアッパーカットで四つ目の脳無の顔面を地面スレスレから一気に撃ち抜いた。

四つ目の脳無はその力を全て食らって真上にぶっ飛ぶ、吹き飛ばされた四つ目の身体は氷壁のドームの天井をぶち破っていった。

 

限界を大きく超えた力の奔流に耐えられなかった僕の右腕には強烈な痛みが走る、しかし来るとわかっていれば堪えられない程ではない。

 

僕はスマッシュによって更に増した回転の勢いを活かして顔無しの脳無へ迫っていく。

 

顔無しもこのまま仕留め切る…でもこいつは超回復持ち…!一撃でやれるか…?

いや、やるんだ!前世でオールマイトが脳無を倒したときのように!!

オールマイトの本気の一撃を思い出せ、あれは只の100%じゃなかった筈だ……一発の中に100%以上の…!!!

 

僕の身体は回転しながら顔無しの頭上へと進む、超高速の回転の中で僕は冷静に狙いを定めて右足を振りかぶった。

 

右足に力を籠めろ、流し込め、オールマイトの力を…!100%のその向こう側へ!!

もっと、もっとだ!!ワン・フォー・オールを!僕の持てる全てを!この脚に、この一撃に!!!更に向こうへ(Plus Ultra)――――

 

 

「―――FLORIDA!!! SMAAAASH!!!!!」

ワン・フォー・オールを溢れるほど宿して振り抜いた僕の右足が顔無しの脳無の左肩に直撃して、肉を断ち骨を砕きながらその巨体を地面へと叩きつける。

 

「ゴオオオオァァァ!!!」

衝撃は顔無しの全身を駆け抜けていき、耐えられなかった部分から破壊していく。

 

破壊されるのは衝撃を叩きつけられた地面も例外ではなく、表面のコンクリートは砕けて散り、その下の土も吹き飛びクレーターを造った。

 

飛び散った地面の破片と巻き起こる暴風が氷のドームを破壊して、瓦礫と氷が舞い上がり、雨のように辺りに降り注いでいく。

 

「勝った…のかな?」

僕はクレーターの中心で仰向きで転がりながら、横目で見た顔無しの脳無が地面に埋まりつつ痙攣して動かない姿を見てそう思う。

 

左腕、右腕、右足、五体のうち三つが痺れてまともに動かないや。これじゃ立ち上がれもしない…でもなんとか倒しきれて良かった……

 

 

 

「あ、やば――――」

目の前を見てみるとそこにはさっき僕がぶっとばした四つ目の脳無が直撃コースで落下して来ていた。

今の僕に躱す余裕はない、当たったら痛そうだなぁとそんなことを思いながら覚悟を決めて目をぎゅっと瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?まだ降ってこないのか?……外れたかな?

 

何時まで経っても落下してくる脳無の衝撃が襲ってこないので疑問を感じていると、誰かが僕に話しかけてきていた。

 

「おい…これァいったいどういう状況だ?説明してもらおうか、出久よ」

そこには少し息を切らしていながら四つ目の脳無を掴んでいるグラントリノがいた。

 

「大丈夫か!緑谷!!」

轟君が慌ててクレーターの中へ駆けつけてくれる、そして僕は轟君に肩を貸してもらいながらクレーターから抜け出した。

 

「ごめんね、轟君」

「気にすんな緑谷、お前は俺の恩人だからな。むしろいつだって俺を頼ってくれていいんだ」

「はは、ありがとう、轟君」

「おう、緑谷…」

肩を借りながら轟君とそんなやり取りを交わしていると、僕らのいる大通りに集団で人影が現れた。その先頭にいるのは―――

 

「飯田君!」

「すまない!待たせたな緑谷君!!応援のプロを―――ってもう終ってるではないか!!?」

「終ってる?おい出久、いい加減説明してくれねえか?」

「あ、はい。すいません、グラントリノ!」

飯田君は僕の言うことを聞き入れてプロヒーロー達をかき集めてくれていた、その様子にグラントリノは更に混乱したのか僕に急かすように説明を求めた。

 

こんなに早く、しかもたくさんプロが来てくれるなら無理に頑張る必要なかったのでは……?いやいや、無事に全員倒せたんだ、良しとしよう!

そういえばあれほど酷使したはずの右足がそんなに痛まないな……両腕よりマシなくらいだ。

っとそれよりグラントリノに説明しないと!いい加減痺れを切らしてるし!

 

「えっとですね、ヒーロー殺しを探してここまでやってきたんですが、友達とプロヒーローがヒーロー殺しに襲われてたので救出するために戦闘になりまして……倒しました。今はそこの路地裏に縛って寝かせてます」

「バカ野郎!二人でやるっていった筈だぞ?…ったく無茶しやがる…んでこいつらは?さっきまで街で暴れてた奴らだよな?」

「すいません……そのヴィランはヒーロー殺しを拘束したあと襲ってきた集団でして、そこの彼に応援を呼んでもらってる間足止めしようと闘ってたんですが……三人とも倒して無力化しときました!」

飯田君にも肩を貸してもらい立ちあがり、僕はグラントリノの質問に簡潔に答えていくと、グラントリノは怒りながらも段々とあきれた様子で僕の話を聞いていた。

 

「ハァー……お前は全く……!変なところで師匠譲りなとこが多すぎる!!なっとらん!!」

「ひぃ!すいません!!」

「無事だったからいいものの……ん?おい待て出久、三人だと?」

グラントリノは僕を叱り、僕は平謝りする。そのときグラントリノが懐疑的な顔でよくわからないことを言い出す。

 

「ええ、三人の脳無……変わってるヴィランで―――」

「ここには二人しか倒れてなかったぞ…?」

「――え? 」

グラントリノの突然の指摘に僕は理解が追い付かない、三人の脳無が二人に…?それはいったいどういうことなんだ?

 

僕がそんなことを疑問に思って考え込むより早くその答えはやって来た。

 

地面に大きく浮かぶ黒い鳥のような影、見上げるとそこには鉤爪を立てながら僕に向かって急降下する翼の脳無の姿があった。

 

「まだ動けたのか!――くっ!!」

僕は迎撃しようと拳を構えようとするが、100%の反動が身体に響いているためまともに対応出来ない。

グラントリノは予想外の襲撃に反応できておらず、その爪は一直線に僕を狙って迫る。

 

 

ザクリという鋭い音が聞こえた後、辺り一面に暖かな血が飛び散り僕も赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

翼の脳無が僕の上をすり抜けて地面に()()する、その背にはこいつの象徴である翼もろとも貫いて刀が刺さっていた。

 

「偽者が蔓延るこの社会も―――」

その男は倒れ伏した脳無の前に現れ、その背から自ら投げたであろう刀を引き抜きながらしゃべりだす。

 

(いたずら)に“力”を振り撒く犯罪者も―――」

その男は刀を翼の脳無の頭に突き立てて言葉を続ける。人を殺すことを当然のように、なんの躊躇もなく……

 

「粛清対象だ―――」

その男は突き立てた刀を抜いて……僕らに突き付けながら顔を上げた。

その拍子にその男の目の周りを覆うぼろ切れが外れて全貌がわかるようになる。

 

「―――全ては正しき社会の為に……」

「ステイン…!」

狂った信念を炎を絶さず瞳に宿し続けた“ヒーロー殺し”ステインが、自らの信念を貫き通すため僕らの前に立つ。

突然すぎる出来事の連続とステインの放つ強烈な殺気によって僕もグラントリノも駆けつけたプロヒーローも、誰一人動き出せずにいた。

 

「……数多くの…偽者……正さねば―――」

ステインはグラントリノ達を一瞥したのち、呟きながら先程よりもさらに殺気を増していく。

 

「誰かが血に染まらねば…!」

ステインが刀をその場で振り下ろす、その血濡れた刃から鮮血が飛沫(しぶ)く。

 

「“英雄(ヒーロー)”を取り戻さねば!!」

ステインが一歩踏み込んでこちらへ向かってくる、迸る殺気や威圧感は僕が戦っていた時の比にならないほど熾烈で、その場に居る者全てを戦慄させていた。

 

「来い―――来てみろ偽者ども」

皆が気圧される中、ステインだけが立ち止まらず前に前に進んでいく。

 

 

「俺を殺していいのは―――本物の英雄だけだ!!!」

大人も子供も、ヒーローも素人もない、全ての人を呑み込む狂気の信念の中―――

 

 

 

 

「―――ふざけんなよお前ぇ!!!」

―――僕はぶちギレて叫んだ。

 

本物の英雄(オールマイト)も!認めた者()も!お前を殺したりなんてするものかよ!!僕はお前を認めない!!!―――」

僕は身体の動くところにワン・フォー・オールを滾らせて威圧感を放ちながら叫び続ける。

 

オールマイトを汚すこいつはだけは、ここで止めなくては!!

 

「お前を狂気の象徴になんてさせない!只の犯罪者として捕らえてやるっ!!」

僕は動く左足だけで跳躍してステインへと迫る。

 

「ハッ!…貴様は本物だぁ!!オールライトォ!!!」

ステインは僕の突進をヒラリと躱して、背中に蹴りを叩き込んできた。

左足しかまともに動かせない僕はそれを避けることも叶わず吹っ飛ばされた。

 

しかしステインを氷の柱が襲う、僕に合わせて轟君が動き出していたのだ。

それでもステインは後ろに跳ねて氷柱を躱してしまう。

 

「避けられたか!でも本命は俺じゃねえ……いけ!―――」

轟君は悪態をつきながらも少し余裕のある顔をしていた。

 

そして氷柱の影からステインに向かって飛び出すのは―――

 

「―――飯田ぁ!!」

轟君の叫びと共に飯田君がステインに迫っていた、二段構えの攻撃…!あの一瞬そこまでやってたのか!

 

「うおおお!レシプロ・エクステンド!!!」

「お前もやはりいい…!―――」

飯田君は雄叫びを上げながらエンジンを暴走状態で回し超高速の蹴りをステインに放つ。

ステインはニヤついた表情で飯田君を睨みながら更に後ろへと大きく跳ねて蹴りを回避しようとする。

 

「―――だがあと1センチ足りなかったな…!!」

飯田君の蹴りはステインの目の前を空振りしてしまい、奴は宙に舞う。

 

くっそ!!逃げられる…!!ここまで追い詰めたのに……

 

「だが俺も本命じゃない、ちょうど10分…流石だ―――」

「何……?」

飯田君は蹴りが外れても冷静にステインを見続けていた、ステインもその余裕の意味が分からず困惑の表情を浮かべている。

 

だが少し離れたところに居る僕からはその余裕の訳がはっきり()()()。ステインよりも更に後ろから迫る超高速の人影が―――

 

 

「いっけええ!兄さん!!!」

「うおおおおおおお!!!」

その影はターボヒーローインゲニウムであり、既に宙に浮かんでいるステインに逃げ場はなかった。

 

「俺達の因縁もこれで終わりだ!ヒーロー殺しぃ!!!」

「偽者がぁあーーーー!!」

ステインは怒号を上げるもインゲニウムの肘のエンジンによって超加速したパンチを避けることなと出来ず、その鳩尾に拳が捩じ込まれる。

インゲニウムはそのまま拳を振り抜きステインを地面へと叩きつけた、ステインはピクリとも動かずその場で気を失う。

 

「捕らえたぞ!―――んでこれはいったいどういう状況なんだ?」

着地したインゲニウムはステインを取り押さえながら、あっけらかんとした顔で僕らに笑いかけるのだった。

 

 

 

 

―――その後すぐに警察とチーム韋駄天のメンバーが駆けつけて場を収め、この保須の騒動は終わりを告げる。

 

それから遅れて駆けつけたのはエンデヴァーだ、轟君が場所も告げずに居なくなったのでずっと探していたらしい。

 

轟君と飯田君はヴィランに直接的な危害を加えた証拠がなかったため罪に問われるようなことはなかったが、個性の無断使用と危険な現場に飛び込んでいったことに対して警察とそれぞれの監督ヒーローにこってりと叱られていた。

 

僕は仮免を持っていたから事情聴取のみで終わったんだけどね。

 

 

 

 

ヒーロー殺しステイン、ヴィラン連合の脳無三名、時間にすると10分程度の戦闘だったが……僕にはとても長く苦しい闘いだった。

 

おまけに最後は戦闘不能になってしまったし……もっと、もっと強くならなきゃいけない…!この筋肉と個性(チカラ)で―――

 

 

 

 

――――この変わり始めた運命に負けないくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい出久、これから雄英に向かうぞ!」

「えっ?なんでまた雄英に??いまから行ったら夜になっちゃいますよ?」

唐突なことを言い出すグラントリノに僕は困惑しながら返す。

グラントリノは少しだけニヤリと笑うがすぐに怒りの形相へと変わった。

 

「夜でいいんだよ……お前と俊典!これから一晩中説教だぁーーー!!!」

「ええええ――――――」

 

 

 

―――――それから本当に一晩中グラントリノの説教は続き、僕とオールマイトは二人して戦慄しながら正座で夜を明かすこととなり、僕の再履修(やりなおし)での職場体験は締め括られたのだった。

 

 

 

第七章 ヒーロー×ヴィラン×ヒーロー殺し 保須SOS

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― Dark side in ―――

 

「ああ…ちくしょう!なんなんだよあの化け物は!!高性能(ハイグレード)脳無三体を一人でボコるなんてありかよ…!!

くそが……絶対に殺してやる…緑谷出久…!」

ヴィラン連合のアジトの隠れ家のバー、そのカウンターを叩きながら死柄木は悪態をついて殺意を振り撒く。

 

「しかしエンデヴァーの息子の邪魔もありましたし、なにより奴が規格外過ぎるのですよ……もう奴にこだわり続けるのは―――」

「うるせえぞ黒霧!それでもアイツは殺さなきゃダメなんだよ!!」

黒霧は死柄木を宥めようとするが逆効果だったようで、死柄木は更に荒れて叫び散らす。

 

高価なグラスや酒は片付けておこう……黒霧が心の中でそう思ったとき、奥の方にあるモニターの映像が切り替わり通信が入る。

 

「やあ、また負けてしまったようだね…死柄木弔」

モニターには薄暗い部屋に居るような人影が映る、ヴィラン連合の真の親玉、オール・フォー・ワンが死柄木に語りかける。

 

「先生…!やられたのはあの弱っちい脳無どもだ!俺はまだ負けてない!!」

「なに別に君を責めているわけじゃないよ、でもあの脳無達も弱い訳じゃない。

緑谷出久が強いんだ……今の君よりもね」

「――ッ!……わかってる……わかってるよ、先生……!」

興奮する死柄木にオール・フォー・ワンは諭すように言葉を続けていく、そんな先生の正論に死柄木は悔しさを隠しきれずにいた。

 

「……強くなりたいとは思わないかい?」

「…なりたい、なりたいよ先生。アイツよりも…誰よりも強くなりたい…!!」

先生からの問いに普段の無気力な様子とはうってかわって真剣な表情で強くなりたいと願う死柄木。

 

「フフフ、それでいいんだ…死柄木弔」

そんな死柄木をオール・フォー・ワンは笑いながら肯定する、全てが思惑通りに進んでいくことを確信しながら。

 

「君に“チカラ”を授けよう、使いこなせるかどうかは…君次第だが」

「先生…!ありがとう、必ず先生の期待に応えて見せる」

「礼はいいよ。何故なら僕は君の()()だからね、君を教え導こう―――強くなれ死柄木弔」

「ああ、了解……先生。俺は必ず強くなって―――緑谷出久を殺してやる!!」

まるで普通の先生と生徒のような二人のやり取り、オール・フォー・ワンと死柄木弔はそれぞれの思惑と決意を持って行動を始めていく。

 

 

 

 

―――――緑谷出久と死柄木弔、正義(ヒーロー)(ヴィラン)、偉大な師を持つ正反対の二人が、奇遇にも同じ時に強くなると己に誓うのだった。

 

 

 

 

 

――― Dark side out ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第七章もこれで終わりです!思ったより書くのに時間がかかってしまった章でした…

ひとまずここまで読んでいただきありがとうございました!
これからも応援よろしくお願いします!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。