IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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今回で原作1巻の内容は終了です。


第8話 まずはここから

 正体不明のISの乱入によりクラス対抗戦は中止。俺と鈴の勝負も無効ということになった。

 

「はあ……やっと終わった」

 

「根掘り葉掘り聞かれるのは当然だけど、あんなに次から次へと質問攻めしなくてもいいのにね」

 

 侵入者と交戦した俺たちは、あの後アリーナを出るなり先生たちに捕まって、そのまま尋問のようなことをされていた。とどめを刺しただけのセシリアは早々に解放されたのだが、最初から山田先生の言うことも聞かずに戦っていた俺と鈴は3時間以上拘束される羽目になったのだった。現在時刻は午後5時を回っている。

 

「………」

 

 会話が途切れて、しばし無言で廊下を歩く。互いに言いたいことは山ほどあるはずなのに、なかなかタイミングがつかめない。そんな感じの少しきまずい雰囲気だ。

 ……だけど、いつまでもこのままじゃ何も始まらない。ここは男として、話し合うための舞台を整えなければ。

 

「鈴。時間があるなら、ちょっと屋上に行かないか?」

 

「えっ? ……う、うん。別にいいけど」

 

 急に話しかけたから少し驚いていたようだが、鈴も俺の提案を受け入れてくれた。

 

 

 

「――うわ、結構夕陽がまぶしいな」

 屋上へと続く扉を開けると、西日がちょうどこちら側を照らしていた。日陰に鈴を連れて行き、そのまま2人して腰を下ろす。

 ……じゃあ、とりあえず俺の方から話をしよう。

 

「鈴。その……ごめん」

 

「……何に対して謝ってるの?」

 

 鈴の言葉は疑問形だったが、その口調はわかっている答えを確認するようなものだった。

 

「……告白の返事。ずっと伝えられなくて、ごめん」

 

 こればっかりは100パーセント俺に非がある。さっさと答えを出して連絡をとっていれば、1ヶ月もの間じれったい関係が続くこともなかっただろうから。

 

「……っ。そうよ、どうして1年間何も知らせてくれなかったのよ! あたし、ずっと待ってたのに。一夏に伝えたいこと、いっぱいあったのに……!」

 

 怒気を含んだ鈴の声と、その目にうっすら浮かんでいる涙が、俺の胸に深く突き刺さる。俺のしたことが、こいつをこんなに悲しませたんだと思うと、今すぐ自分の顔をぶん殴りたい気持ちになってしまう。

 

「なんにも言ってくれないから、あたしの方から連絡しようともした。けど、アンタが連絡くれないのは、もしかしてあたしのことがもうどうでもよくなっちゃったからなんじゃないかって思って……それで……」

 

「……どうでもいいなんて、そんなことあるわけない。今も昔も、鈴は俺にとって大事な幼馴染だ。……ただ、大事だからこそ、中途半端な返事はしちゃいけないと思った。ちゃんと自分の思いを全部表せるような言葉を用意するべきだって。その答えが、最後まで出てこなくて……本当に、ごめん」

 

 包み隠さず思いを打ち明け、深く頭を下げる。殴られようが蹴られようがかまわない。それだけのことを俺はしてしまっている。

 ……だけど、鈴は怒りをぶつけるようなことはせず、俺の顎に手を当ててクイッと上に向ける。

 

「……ちゃんとした言葉にできなくてもいい。今の一夏の気持ち、伝えられるだけ伝えて」

 

「………!」

 

 ――顔が近い。しかも目を潤ませて頬を上気させている。……空気を読めと言われても仕方ないが、俺はその表情がめちゃくちゃかわいいと感じた。

 ……とにかく、ここまできて何も答えないわけにはいかない。納得のいくものではないけれど、今の俺の精一杯の返事を告げよう。

 

「鈴のことは、もちろん好きだ。一緒にいて楽しいからな。……けど、それが友達としての好きなのか、女の子としての好きなのか、今の俺には判断がつかない」

 

 たとえば、俺は千冬姉のことが好きだ。だけどそれは家族に対する愛情であって、決して恋愛感情などではない。というか、もし恋愛感情だったら俺は越えてはならない一線を越えてしまうことになる。

 では、鈴に対してはどうなのかというと、どうもそれがはっきりしないのだ。千冬姉や箒たちに抱いている感情と似ているところもあれば、何か違うところがあるような気もする。

 

「空港で鈴にキスされた時、すごくドキドキした。たぶんあんなのは生まれて初めてだ。でもそれは、鈴にキスされたからなのか、それとも単純にかわいい女の子にキスされたからなのか。……俺にはそれがわからない」

 

 そこでいったん言葉を止め、溜めを作る。うだうだ言ったけど、結局のところ俺が一番伝えたいのは――

 

「だから、もう少し時間をくれないか? この学園で鈴と一緒に過ごしていくうちに、きっとわかることがあると思うんだ。……それで、自分の中ではっきりした答えが見つかった時に、もう一度改めて返事をさせてほしい」

 

 つまるところ、これは『保留』だ。こんな半端な返事で、果たして鈴は納得してくれるのだろうか。

 おそるおそる鈴の様子をうかがうと、怒っているような呆れているような、よくわからない表情をしている。そのまま何か言うのを待っていたのだが、鈴は無言のままおもむろに右手をあげたかと思うと、ぺしんと俺の頭を軽く叩いてきた。

 

「……えと、なんで叩いたんだ?」

 

「今になるまでそれを言ってくれなかった罰」

 

 そう言って、鈴はしょうがないなあ、というふうに小さく笑う。

 

「その答えで今は十分よ。だけど、いつかはイエスかノーをはっきり決めなさいよね」

 

 ……いつかは、か。それって逆に言えば1年後でも2年後でもいいってことなのかな。

 

「あのさ、鈴。……鈴は、今でも俺のこと好きなのか? 1年も会っていなかったのに……」

 

 時が流れれば、人は変わっていく。それでも鈴は、俺のことを好きでいてくれるんだろうか。今はそうだとしても、将来俺が答えを出す前に心変わりしてしまうこともあるんじゃないだろうか。

 

「……確かに、1年の間にアンタもいろいろ変わってるんだと思う。これから友達として過ごしていけば、そういう変化はたくさん見つかるでしょうね」

 

 だけど、と。鈴は普段のこいつからは想像もできないような穏やかな笑みを浮かべて。

 

「でも、アンタの一番大事なところは変わってないって、今日わかったから。……その根っこの部分が変わらない限り、あたしは一夏のことを大好きなままでい続けるわよ」

 

 そんな、言われたこっちが恥ずかしさで死にそうなことを、臆面もなく語りやがったのだった。

 

「お、お前……」

 

「な、なによ……言っとくけど、本気だからね! 本気!」

 

 ――ああいや、臆面もなく、というのは間違いだった。落ち着いて見てみたら、鈴の顔は背後の夕陽に負けないくらい真っ赤になっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

「……どう? 誰か2人が何話してるか聞き取れる人いない?」

 

「さすがにこの距離じゃ無理だよー」

 

「でもこれ以上近づくと身を隠す場所がなくなっちゃうし……」

 

 一夏と鈴が屋上に向かうのを発見した一部の女子たちは、仲間を呼んで現在屋上の入り口あたりで2人の様子をうかがっている。……だが、肝心の話し声を盗み聞きするには位置が離れすぎていた。

 

「……むう。いったいどんな会話をしているのだ」

 

「なんだかいい雰囲気に見えるのはわたくしの勘違いでしょうか……」

 

 その野次馬集団の中に、篠ノ之箒とセシリア・オルコットも混じっていた。凰鈴音というセカンド幼馴染の存在を警戒しているこの2人は、ほかの生徒以上に一夏たちの観察に気合いをいれて臨んでいる。が、さすがに聴力の限界を突破することはできない。

 

「もう付き合っているとは考えがたいが……ん?」

 

「篠ノ之さん? どうかしましたか?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 今、一瞬鈴がこちらを見ていたような気がするが……きっとただの偶然だろうと箒は考える。もし盗み聞きしている人間がいると気づけば、なんらかの反応をするはずだ。しかし鈴は特にあわてた様子も見せず一夏と会話を続けているのだから、大丈夫だろう、と。

 

 

 

 

 

 

「そうか。おばさん、夏ごろに日本に帰ってくるのか」

 

「うん。……いろいろ、気が済んだみたい」

 

 鈴からの報告を聞いて、ほっと胸をなでおろす。本当によかった。また、家族が一緒に暮らせるんだ。鈴もきっとうれしいことだろう。

 

「そいつはよかった。……ところで鈴、ちょっと相談したいことがあるんだけど」

 

「なによ?」

 

「……ほら、なんか噂になってるだろ。俺と鈴が昔付き合ってたとかなんだとか。あれ、どうしたらいいのかって思って……鈴?」

 

 なぜだか俺から露骨に視線をそらす鈴。しかもたいしてうまくもない口笛まで吹いている。……こいつ、なんか隠してるな。

 

「まさか鈴、あの噂を流したのはお前だったりして――」

 

「ばっ!? そ、そんなわけないでしょうが! あたしはただ……あ」

 

「ただ、何をしたんだ」

 

 墓穴を掘った鈴を容赦なく責め立てる。あの噂には俺も辟易しているんだ。さっさと対処法を考えるためにも、真実は知っていた方がいいからな。

 俺の言葉と視線に観念したのか、鈴は素直に過去の出来事を白状し始めた。

 

「あたしがクラス代表を替わってもらおうと思って、前に代表だった子のところに交渉しに行った時のことなんだけど」

 

「……お前、クラス代表を力ずくで奪ったなんてことはないよな?」

 

「そんなことしないわよ! むしろ向こうは代表交代を快く受け入れてくれたし」

 

「へえ、そりゃまたどうして」

 

「……凰さんと織斑くんの秘密の関係の行方をじっくり見守っていきたいからって」

 

 ……2組の前のクラス代表がどんな人かは知らないが、多分出歯亀趣味を持っているんだろう。そうに違いない。

 

「で、お前それになんて答えたんだ」

 

「……いや、あの時はあたしも気が立ってたというか、勢いで行動していたというか、ね?」

 

「言い訳はいいから。鈴は元クラス代表の人になんて答えたんだ」

 

「……期待しておきなさいって」

 

 なんて思わせぶりなことを言ってくれやがったのだろう、この幼馴染は。それじゃあ俺たちの間に何かあったと公言しているようなものだ。……そうなると、噂が広がった原因の半分くらいは鈴にあったというわけか。

 

「お前馬鹿だろ」

 

「馬鹿じゃないわよ! だ、大体、噂が広がったのは一夏にも責任があるんだからっ。アンタが相変わらず天然タラシだから、余計にそういう男女関係の噂が立っちゃうの!」

 

 さすがにそれはむちゃくちゃな理論だろう。というかただの責任のなすりつけだし。

 

「……とにかく、責任とってなんとかしてくれ。俺もできる範囲で手伝うから」

 

「……わかったわよ。誤解を解けばいいんでしょ」

 

 そう言って、鈴は腕を組んで考えごとを始める。ちゃんと噂を消す方法を見つける気になったようだ。

 

「……あ、そうだ」

 

 少したって、何かを思いついたらしい鈴が声を上げる。何やら不穏な笑みを浮かべているが、いったいどんなことを考えているのだろうか。非常に嫌な予感がする。

 

「そこで盗み聞きしてるやつ! 全員出てきなさい!」

 

 屋上の入り口の方へ向いて声を張り上げる鈴。急に何を言い出すんだ、盗み聞きなんて酔狂なことしてるやつがいるわけ……

 

「くっ、やはりばれていたか……!」

 

「不覚ですわ……」

 

「あ、あははははー……」

 

 いたよ、それも大勢。箒にセシリアに、その他見たことのある顔がちらほらと。総勢14名といったところか。

 

「なんで、みんなここに……?」

 

「あたしたちのことが気になったからに決まってるじゃない。わざわざこんなところまでついてきたってことは、積極的に噂を流しているメンバーが紛れ込んでる可能性も高いわね」

 

 なるほど、一理ある。屋上にまで来て覗きをするというのは、それなりに根気とやる気の必要な作業だからな。……実際、1年の集団の中に2年の新聞部副部長がしれっといるし。逆に考えると、ここで誤解を解いておけば、あとはそれが勝手に学園中に広がってあらぬ噂もなくなってくれるかもしれない。

 きっと鈴も同じことを考えていたのだろう。俺に目で合図を送ると、向こうで身構えている女子たちの方へ歩いていく。ついていかない理由もないので、俺も後に続く。

 

「こ、こうなったらやけくそで直接聞くしかないね。凰さんに織斑くん、ぶっちゃけあなたたち2人はどういう関係なのかを簡潔にどうぞ!」

 

 もう逃げも隠れもしない! という感じで直球な質問を投げかける黛先輩。ちゃっかりボイスレコーダーまで用意しているあたり、この人は根っからのジャーナリスト気質なのだろう。

 まあとにかく、これは噂をかき消す絶好のチャンスだ。きちんと否定すれば、さすがの黛先輩でも事実を捏造したりはしないだろうし。

 さて、どう話そうかなと慎重に言葉を選んでいると、鈴が目配せで『任せろ』のサインを送ってきた。そうか、なら鈴に説明してもらおう。

 

「なんだか妙な噂が流れてるみたいだけど、あたしと一夏はただの幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもありません。昔付き合ってたとか、今付き合ってるとか、そういうのは全部事実無根の嘘っぱちです」

 

 やれやれ。これでやっと元の平和な日常が帰ってくる。

 

 ガシッ

 

「ん?」

 

 突然、鈴の腕が俺の腕にからみついてきた。いったいなんのつもり――

 

「……今はまだ、だけどね」

 

 …………え。え、え? 

 

「おお~~!!」

 

 女子たちからは割れんばかりの歓声。

 

「い、一夏! 今はまだとはどういうことだ!!」

 

「早急に説明を要求しますわ!!」

 

 ついでに一部からは怒号が飛んできている。鈴の馬鹿、なんでこの局面であんなことを……

 

「って、あれ?」

 

 問い詰めようと思っていた当の本人が、いつの間にか俺の隣から消えている。すぐさま周りを見渡すと、俺に群がる女子生徒の向こう側で、悠々と屋上から出ていくツインテールが一瞬見えた気がした。……あいつは忍者かよ。

 

「ふざけんな! 事態を最大級にややこしくしたまま逃げるんじゃねえ!」

 

 すぐに追いかけようとするが、すでに俺に対する包囲網は完成していて、一寸の逃げ場もない。そして、俺の正面には箒、セシリア、そして黛先輩がでーんと仁王立ちをしている。

 

「一夏」

 

「どういうことか」

 

「説明してほしいね! 記事にするから!」

 

 ……ああ、ちょっと前までの晴れやかな気持ちはなんだったのだろう。鈴と仲直りできて、これからあいつのことをしっかり見ていこうと決意を新たにした矢先にこれだ。さっきの鈴の笑顔とか、もしかして全部夢だったんじゃなかろうか?

 ――でも、これはこれでいいのかもしれない。急に甘酸っぱい青春物語みたいな雰囲気に俺たちがなれるはずもないし、こうやってぎゃーぎゃー騒がしい方がよっぽど心地よくてお似合いだ。

 鈴との関係が元通りになったことで、俺のIS学園での生活は今まで以上にはちゃめちゃなものになるだろう。疲れもどっと増すだろうが、そのぶん楽しいこともたくさん待っているはずだ。

 ……でもやっぱり、俺ひとりが被害をこうむるのは納得いかない。鈴には後できつい仕返しを考えておこう。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、自分の部屋に戻っていた鈴はというと。

 

「ああー、言っちゃった言っちゃった言っちゃった~~!!」

 

 自分の言動を振り返りながら、ベッドの上で悶絶している真っ最中であった。

 

「……ああ、やっぱりこの子変だわ」

 

 同時に、ルームメイトであるティナの鈴に対する評価も決定されたのだった。

 

 




ようやく仲直りしたところで1巻は終了です。

さて、とりあえず物語に一区切りがついたところで、ここまでやった感想や今後の方針、目標について少々語っていきたいと思います。たいしたことは書いていないので、興味のない方は読み飛ばしてもらってかまいません。

この作品を始めようと思った一番の理由は、それはもちろん僕が鈴を好きだからです。原作では(たぶん)箒がメインヒロインなので、じゃあ鈴をメインにしたものを自分で作ってみようと考えたのがきっかけです。その際、他のヒロインについても結構扱いを変えてみました。どんな感じになっているのかは今後の展開でわかるかと思われます。

それである程度プロットを作った後、この新興サイトであるハーメルン様で今まで投稿させていただいたのですが……正直、ここまで評価してもらえるとは思いませんでした。ありがとうございます。お気に入りも300件を軽く越え、たくさんの人が高評価のボタンをクリックしてくれました。特に感想をくれた皆様、大変力になりました。しかし0~2点の低評価もあるので、これからも精進していきたいと思います。

次に今後の方針についてですが、更新スピードは今までとたいして変わりません。2,3日に1話更新していく感じになりそうです。
本編の展開についてですが、まず2巻では原作との大きな変更点があります。3巻ではさらに増えます。4巻は完全に別の話になります。……といった感じで、だんだん原作から離れていくことになる予定です。どうなるかはネタバレなので言えませんが。

最終的な理想は、この作品がセカン党のハーメルン支部になることです。ちょっと高すぎる気もしますが、今のところはそれを目標にしてやっていきたいと思います。あ、もちろん完結させるのは絶対条件です。

それでは、これからもこの作品とお付き合いいただけるとうれしいです。

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