IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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ついに最終章突入!……ですが、今回4500字と少し短いです。


「オリムライチカ」編
第41話 動き出す影


 夏休みも終わり、IS学園では2学期初の実戦訓練が行われていた。

 

「背後への警戒が薄いですわよ、一夏さん!」

 

「くっ……」

 

 1年1組と2組の合同授業において、千冬姉に模範演技をしろと指名されたのは俺とセシリアだった。

 試合開始からいくばくか経ち、白式のエネルギーは半分近くにまで差し掛かっている。ブルー・ティアーズの方もそのくらいまでダメージを受けていてほしいのだが、果たして実際はどうなのだろうか。

 

「らあっ!」

 

 俺の背中を狙っていた2機のビットに対応するべく盾を構え、同時に右手に握っていた雪片弐型を粒子化させる。代わりに呼び出すのは、倉持技研に用意してもらった小型ライフル『紫電』だ。

 

「近接用武器を捨てた……やはり、以前の白式とはまったくの別物ですわね」

 

 セシリアまでの距離は遠く、ビットによる牽制をかいくぐって懐に潜り込むのは現時点では困難。一応、瞬時加速を駆使すればダメージ覚悟で特攻することはできるだろうが、その作戦が有効なのは一撃で戦況をひっくり返せる零落白夜があってこそである。ぼろぼろになってまで近距離に持ち込んで、相手に浴びせることができるのが何の変哲もない斬撃では話にならない。

そう判断した俺は、1ヶ月の間練習を重ねてきた、銃による遠距離射撃へと攻撃の手段を切り替える。

 

「ですが、まだまだ精度が足りませんわ!」

 

「んなことこっちもよくわかってるっての!」

 

 刀を使った動きに関しては、過去の剣道の経験および千冬姉の模倣がかなり有効に利用できていた。ゆえに、自分でも驚くくらい上達が速かった。

 だが射撃は違う。縁日でコルク銃を扱ったくらいしかその手の経験がない俺にとって、銃とは完全に未知の代物なのだ。弾丸の軌道の把握、目標までの到達時間の瞬時の判断

――そういった射撃の勘は、短期間で簡単に身につくものではない。

 

「けど……」

 

 このままじゃ、あいつには勝てない。

 

「負けられねえ」

 

 いつの間にか、俺はブルー・ティアーズを通して別の機体と相対していた。

 セシリアと同じくBT兵器を使い、彼女以上に6機のビットを巧みに扱う、千冬姉にそっくりのあの少女。

 

「うおおっ!」

 

 サイレント・ゼフィルスを倒すためには、もっともっと強くならなければ……!

 

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

 模擬戦が終わり、生徒たちはグループごとに分かれて各々訓練機を動かし始める。俺をはじめとする専用機組は、グループの長として適当なアドバイスを送る役割を与えられている。

 

「織斑くん、どう?」

 

「ああ、いい感じだ。うまいじゃないか、空中での姿勢制御」

 

「これでも隊長にいろいろ教えてもらってるからね~」

 

 くるくると得意げにその場で回転している相川さんの姿は、見ていてなんだか微笑ましい。ちなみに彼女の言う隊長とはラウラのことである。シュヴァルツェ・ハーゼ日本支部が着々とその規模を拡大しているというのはどうやら本当らしい。

 

「一夏さん」

 

「っと、セシリアじゃないか。どうかしたのか?」

 

「少し、お話ししておきたいことがありまして」

 

「いいけど……持ち場を離れて大丈夫なのか?」

 

 俺がそう尋ねると、セシリアはちらりと自身のグループの方に視線を向ける。

 

「皆さん理解力が高いようなので、ちょっとの間シャルロットさんに2グループ分お願いしていますの。……織斑先生には内緒ですわよ」

 

「……そんな危ない橋渡らなくても、授業の後とか、いくらでも話す機会はあるだろ?」

 

「それも考えましたけど、一夏さんの悩んでいる姿を見ていると、できるだけ早くに伝えておきたいと思いまして」

 

 ……俺、そんなに感情が顔に出ちまってたのか? 確かにセシリアとの勝負に負けて、いろいろ課題点が浮き彫りになっていたのは事実だが。

 

「今の一夏さんは、少し焦り過ぎているのではありませんこと?」

 

「焦り過ぎてる? そうか?」

 

「ええ。先ほどの試合、途中から模擬戦ということを忘れていたでしょう」

 

「………」

 

 その通りだった。あまりにマドカのことを意識し過ぎるあまり、最終的にはかなり危険な動きを行おうとするところまで思考が過激になってしまっていた。その前に白式のシールドエネルギーが底をついたので、結局何事もなく終わったのは幸いだろう。

 

「……悪い」

 

「わたくしに謝る必要はありませんわ。鬼気迫る表情の相手と戦うことで、本番さながらの空気も味わえましたし」

 

 その言葉に、少しだけ心が救われた気がした。なんだかんだで、やっぱり俺は周りの人間に恵まれているんだと実感する。

 

「ですから……あまり、自分を追い込み過ぎないようにしてくださいね。わたくしはまだビームの軌道を変えることはできませんが、それでもサイレント・ゼフィルス戦を想定した場合の練習相手くらいにはなれます。困ったことがあれば、いつでも相談なさってください」

 

「……ああ。ありがとう、セシリア」

 

 お前のおかげで、結構元気が出てきたよ。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、アンタのクラス、学園祭は何やる予定なの?」

 

 その日の昼食は、前日の約束通りに鈴と2人きりだった。普段は箒たちと一緒にわいわい騒ぎながら食べているのだが、たまにはこういうのもいいだろうというのが俺たちの共通の見解だ。

 

「メイド喫茶。俺はたったひとりの執事役」

 

「ふーん、やっぱり喫茶店で織斑一夏って要素を押し出すつもりか。隣のクラスにとっては大打撃なんだけどなあ」

 

「そっちは何やるんだ?」

 

「中華喫茶。どうにかして1組で合同でやれないかしらね……アンタを半日借りられればそれだけで繁盛しそうだけど」

 

 俺はマスコットか何かか、と言いたくなったが、おそらく鈴の言っていることは事実なので黙っておくことにした。

 

「ま、せっかくの祭りなんだからお互い頑張ろうぜ」

 

「そうね。ところで一夏、あたしの作ったお弁当はどう?」

 

 ビッと鈴が指さしたのは、俺が両手に抱えている黒い弁当箱。これは先ほどこいつからお昼ご飯としていただいたものなのだ。

 

「うん、うまいぞ。特に酢豚が」

 

「そっか、よかった」

 

 満足げな表情の鈴は、そのまま手元の弁当箱の中にあった卵焼きをぱくりと頬張る。

 

「そっちはどうだ? 俺の弁当、まずくないか」

 

 鈴の作った弁当を俺がいただいているのと同じく、あいつは俺が今朝こしらえた弁当を食べている。お互いがお互いのために料理を作って交換しよう、というのが今日の昼食の一番の目的であったのだ。あっちは中華風の料理で固めてくることが予想されたので、こっちは和風っぽくまとめてみたのだが。

 

「おいしいわよ。この卵焼きなんか甘さが絶妙ね」

 

「そりゃどうも」

 

 良い評価をもらえたので、ほっと胸をなでおろす。最近、あまり自分で何かを作ったりとかしてなかったからな。

 

「こうやって屋上でお弁当食べられるのも、あと2ヶ月くらいか」

 

「さすがに寒い屋外に出て昼食をとる気にはならないもんね」

 

 今はまだまだ残暑が厳しい時期だが、いずれは紅葉の季節がやってきて気温も下がっていくだろう。海外出身の生徒の中には、日本の急な気候の変化に戸惑う人もいるかもしれない。

 

「ねえ、一夏」

 

 白ご飯の最後のひとかけらを口に運んだところで、鈴が神妙な面持ちで話しかけてきた。

 

「ちょっと聞きたいんだけど……アンタって、どんな髪型が好きなの?」

 

「髪型? なんでいきなりそんなこと聞いてくるんだ」

 

「べ、別にいいでしょ! なんか不都合なことがあるわけでもないんだし」

 

「それはそうだが……」

 

 何かの雑誌に影響でもされたのだろうか。結構な真剣な様子で俺の顔を見つめている。

 ……正直、髪型に好みとかは特にない。だから、ここは鈴に最も似合うものを答えることにしよう。

 

「……やっぱり、ツインテールかな。少なくとも、鈴はその髪型してる時が一番可愛いと思うぞ」

 

「なっ……ば、馬鹿ね。あたしに似合ってるとかどうとか、そんなことは今聞いてないのに……不意打ちもいいとこだわ」

 

 ぶつぶつ言いながら顔を赤らめる鈴。……やっぱり、こいつは『美しい』というより『可愛い』系の女の子だよな。だからこそツインテールがよく映えるんだと思う。

 ……ただ、もし彼女が大人になって、色気とか艶やかさとかが増してきたとしたら――

 

「その時は、髪をおろしてみるのもいいのかもしれないな」

 

 そんなこんなで、昼休みの時間は他愛のない会話の中であっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「悪いわね。くつろいでいたところをわざわざ呼び出してしまって」

 

 とあるのホテルの豪華な一室で、スコールはひとりの少女と向き合っていた。彼女を見つめる2つの瞳は、その少女の相変わらずの不遜な態度を隠そうともしていない。

 

「お前がそう言う時は決まって面倒事を押し付けてくるとわかってはいるが……まあ、話は聞かせてもらおうか」

 

「……エム、てめえいつになったら目上の人間に対する敬意ってモンが――」

 

「いいのよ、オータム。この娘のそういうところ、私はむしろ好んでいるから」

 

「チッ……」

 

 脇に立つ女性、オータムを片手で制しながら、スコールはエム――マドカに語りかける。

 

「話といっても簡単なものよ。しばらくの間、あなたの好きなように行動することを許可しようと思っただけ」

 

「……なに?」

 

 いつもはなかなか驚きの感情を見せないマドカが、黒色の瞳をわずかに揺らす。その反応を面白がるように、スコールは柔和な笑みを浮かべた。

 

「そろそろ、あなたとしても決着をつけておきたいのではないの? 織斑一夏に……あなたの、過去に」

 

「………」

 

 無言のまま、マドカは相手を射殺すような目つきで睨み続ける。おそらく、目の前の女性が何を考えているのかを探ろうとしているのだろう。

 

「……本当に、私の好きなようにしていいんだな」

 

「ええ。……ああ、でもひとつだけ補足させてもらおうかしら。もし、あまりにも私たちに不利益を被らせるような行動をとった場合は、少し処遇を考えさせてもらうわ」

 

「身勝手な女だ。それでは好き勝手に動けるとは言えないな」

 

「そう厳しいことを言わないで頂戴。長年私に従ってきてくれたあなたに対して報いてあげたいのは本心なのよ? ただ、私にも『亡国機業』の一員としての立場があるというだけ」

 

 ニコニコと、スコールは一瞬たりとも笑顔を崩さない。

 マドカはなおも逡巡していたようだが、最後にはこくりと頷き、

 

「ならば、勝手にさせてもらおう」

 

 そう言い残して、スコールの部屋を後にした。

 

「……さて、どうするつもりなのかしら」

 

「おいスコール。どういうつもりだ? あいつにわざわざ自由を与えてやる必要なんてどこにもねえだろ」

 

 不満げな様子のオータムは、マドカが出て行くやいなやスコールを問い詰める。もともとあの無愛想な少女を毛嫌いしていることもあり、彼女のこの反応はスコールも十分予想できていた。

 ゆえに何ひとつ動じることもなく、諭すような口調で言葉を紡ぐ。

 

「ねえオータム。あなたは、私が念には念を押すタイプだということをよく知っているでしょう?」

 

「ああ、それはそうだが……」

 

「だからこそ、大きな作戦を実行する前に試すことにしたのよ」

 

 今度の笑みは、ニコニコなどという可愛らしげなものではなかった。

 

「エムは確かに優秀な人材だけれど、同時に私たちにとっての『傷口』になり得る存在でもある。……致命傷になる前に、切り落とすかどうか今一度ふるいにかけてみる、というのもいいとは思わない?」

 

 妖艶、という表現がぴったり当てはまるようなスコールの表情が何を意味しているのか。それは彼女自身にしか知り得ぬことである。

 




自らのネーミングセンスのなさに軽く辟易しているところです。
鈴とのほのぼの(?)シーンは、今後こういうシーンがほとんどなくなるであろうことを考えたうえで挿入しました。

では、次回もよろしくお願いします。

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