IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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作者の方ならご存知かと思われますが、実はこのサイト、自分の作品に自分で評価を入れることができます。そして僕は自分の作品に10点つけてます。というのも、自分で自分好みの作品を書いているわけですから、それで10点をつけられないような文章になるようなら投稿しちゃダメだという考えだからです。……というのはさっき2分で考えた言い訳です。


第3話 2人の距離感

 予想だにしなかった場所での、セカンド幼馴染との再会。正直頭の中はいまだに正常な状態ではないが、それでも俺はぎこちないながらも鈴に声をかけて、向こうもそれに応えた。

 

「………」

 

「………」

 

 ――で、一年ぶりに挨拶をかわしたのはいいんだけど、その後互いに言葉がまったく続かない。話すことなんていくらでもあるはずで、事実頭の中には聞きたいことや報告したいことが山のように浮かんでいる。……だというのに、それらを言葉に変換することができないでいる。

 周りのクラスメイト達も、俺たちの間に流れるなんとも形容しがたい空気に呑まれたかのごとく、全員が無言を貫いている。いつも騒がしいはずのIS学園1年1組の教室から放たれる異様な雰囲気につられて、いつの間にやら廊下に他クラスの生徒が集まり始めていた。――まずい。何がまずいのかはわからないが、この状態を放置しておくと後でいろいろ妙なことになる気がする。……たとえば、俺と鈴の間に真実の欠片もない噂がでっちあげられるとか。

 

「おい、お前達。HRの時間だ、さっさと自分の教室に戻れ」

 

 そんな空気を一声で打破してくれたのは、廊下を歩いてやってきた千冬姉だった。さすがのカリスマ(別名恐怖政治)というべきか、廊下に固まっていた生徒たちは文句ひとつ言わず指示に従い、それぞれの教室に戻っていく。

 

「………じゃ」

 

 そして鈴も、聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームの声を残して、1組の教室から出て行った。……結局、何も話せずじまいだったな。

 箒やセシリアをはじめとして、みんな俺に何か聞きたい風な様子だったが、すでに千冬姉が来ているためあきらめたらしい。各自席に座って授業の準備を始めた。次の休み時間は面倒なことになりそうだなあなどと考えつつ、俺もカバンから必要なものを取り出す。……鈴のことは気にかかるが、だからといって授業に手が抜けるような状況ではないのだから。

 

 

 

 そして昼休み。

 

「……なんでこんな大所帯になるんだ」

 

 食堂に向かって歩く俺の後ろには、20名ほどの女子たちが各々雑談しながらついてきていた。この学園に来てから注目されることにはそれなりに慣れたつもりだったが、正直これはかなりキツイ。周りからの好奇の視線が半端じゃない。

 

「一夏さんがあの転校生のことは昼休みに話すと言ったからではありませんか」

 

「さっさと説明しておけばこんなことにはならなかったのにな」

 

 隣を歩くセシリアと箒が不満げに答える。2人とも鈴のことを相当気にしていたらしく、授業中もぼーっとしていて何度も千冬姉に叩かれていた。それだけに、この時間になるまで焦らされたことに多少お怒りのようだ。せめて自分たちにくらいは説明してくれてもよかったのではないか、とその目が語っている。

 ……そうは言ってもな、1人2人に話した時点で結局クラスのみんなに事実が知られ、根掘り葉掘り聞かれることになったであろうことは容易に想像できるだろ。何事も例外を作るのはよくない。話さないと決めたら親しい人にも固く口を閉ざすことが大切なのだ。

 途中に授業をはさんだおかげで、鈴との再会でオーバーフロー気味だった頭も大分冷えている。今なら言葉に詰まることもなく、この大人数を相手に話すことができるだろう――と思っていたのだが。

 

「あっ……い、一夏」

 

 廊下の曲がり角で、渦中の人物と鉢合わせてしまった。……お、落ち着け。まずは深呼吸だ。

 

「……ず、ずいぶんモテてるみたいね」

 

「い、いや、そういうわけじゃない。いつもはこんなに多くないんだけど……俺と鈴の関係について聞きたいからって」

 

 俺の後ろで事の成り行きを見守っている箒たちを見て何やら元気をなくしている鈴に、素直に事情を説明する。よし、とりあえずまともな会話をすることに成功した。

 

「か、関係ってあんた……そんなの、ただの幼馴染に決まってるじゃない」

 

 そうだな。ただの別れ際に唇同士でキスを交わした幼馴染だな……だけど、残念ながら世間一般ではそれを普通の幼馴染と呼ぶのは難しいんだぞ、鈴。ちなみに朝思い出したばかりなので、例のシーンを思い出しても脳はそれなりに働いてくれている。

 

「お、幼馴染だとっ!?」

 

「どういうことなんですの一夏さん!」

 

「そうだよ!」

 

 鈴の幼馴染発言を聞いて、今まで静観していた箒やセシリアたちが説明を要求し始めた。とはいえここは通路で、こんな大人数がいつまでも立ち話をしていていい場所じゃない。さっさと食堂に移動したいところだが、鈴とも話をしなくちゃならないし――

 

「……そういうわけだから、鈴も一緒に来てくれないか。……その、積もる話も、あるだろうし、な」

 

「……う、うん。別にいいけど」

 

 相変わらずぎこちないことこの上ない会話。うーん、早く何とかしたいんだけどなあ。

 

 

 

 ――そもそも、なぜ俺が鈴に対してこのような態度をとってしまうことになっているのかというと、発端は別れ際に鈴がかました行為にある。

 

『……好きよ』

 

 不意打ちのキスに加え、2度にわたる告白。これだけのことをしたのだ、まさか冗談だった、なんてわけはない。鈴は俺のことが男として好きだった――そのことを、俺はあの時初めて知った。

 それからしばらく――というか春休みの間はずっと、俺の頭の中は鈴のことでいっぱいだった。まず最初の2、3日は、一体いつ鈴は自分に惚れたのだろうだとか、惚れている素振りなんて見せていただろうかなどと言ったことをぼーっとしながら考えていた。その後は、じゃあ俺はいったいこれからどうするべきなのかということに論点が移り変わった。

 告白された以上、男らしくきちんと返事を返さなければならないだろう。鈴の連絡先は教えてもらっていたし、手紙でもなんでも気持ちを伝える手段はしっかり用意されていた。だから、俺がやろうと思えばすぐにでもそれを実行することは可能だったのだ。

 ――だが、ここで問題が2つほど浮上した。まずひとつ目は、単純にものすごく気恥ずかしいということ。告白されたことなんて生まれて初めてだし、キスももちろんファーストキスだった。……鈴の方はどうだったんだろう。向こうも初めてのキスで、それを俺なんかにくれたんだろうか。そういうことを考えるとすぐに顔が熱くなって、とても返事の文章を書くなどという作業に入れなかったのだ。

 そして2つ目。こちらの方が問題なのだが――そもそも、俺自身の中で答えが見つからなかったということ。なんとも情けない話だが、俺は自分の気持ちというものを分析することができなかった。確かに鈴はいいやつだ。たまに暴力をふるうこともあるけど、あれで結構面倒見もよかったりするし、何より一緒にいて楽しい。友達として評価するなら文句なしに好きだと答えられるだろう。

 しかし男女の関係ということになると勝手が違う。……恋愛経験が皆無な俺には、そもそも人に恋するというのがどういうものなのかまったくわからない。鈴のことは可愛いと感じるし、できればずっと仲良くしていたいとも思っているが、それははたして恋愛感情なのか、それとも友情の域を出ないものなのか。

 答えが出なかったから、返事を書けなかった。それならそれでその旨を伝えればよかったのかもしれないが、先に言ったような気恥ずかしさと、はっきりとした答えのない返事に意味があるのかという感情が邪魔をして、この1年間鈴に1度も手紙を出すことができなかった。

 そして、手紙をよこさなかったのは向こうも同じだった。鈴の性格から考えて、たとえ俺が返事をしなくても何かしらの近況報告くらいは送ってくるだろうと思っていたのだが……

 ――要するに、俺たちは空港で別れて以来、まったくお互いの状況を知らなかったのである。だからいきなり鈴がIS学園に現れたことに驚いた。まさか1年で中国の代表候補生になっているなんて予想だにしなかったからだ。

 久しぶりに見たあいつの姿は、なんだか色気が増していた。背は大して伸びていないし、本人に言えば怒られるだろうが、胸が大きくなったというわけでもない。それでも、ある程度成長した女性が持っている特有の雰囲気が感じられた。 そんな幼馴染の変化に対する緊張と、いまだに告白の返事をしていない、というかそもそも返事が見つかってすらいない罪悪感とが合わさって、朝から鈴に自然体で話しかけることができないでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 中学2年生の春休みに中国に帰った後の数日間、凰鈴音は一大告白の副作用に苦しんでいた。

 

「――ああっ、言っちゃった言っちゃった言っちゃった~!!」

 

 ――そもそも彼女、元来照れ屋なのである。普段は思ったことをズバズバ言うのだが、いざ他人への好意を示そうということになると急に素直になれなくなるのだ。そのため、これまでは織斑一夏に対する恋慕の情を打ち明けることができないでいた。

 そんな彼女が自身の殻を破ったのは、日本を離れる直前のこと。自分で決めたこととはいえ、しばらく好きな男の子と会えなくなるという寂しさと、自分がいない間にこのモテ男は彼女を作ってしまうのではないかという不安が、彼女に最後の一押しを与え、あの行動に及んだのだった。

 その選択に後悔はない。あのくらいはっきりやらないと、空前絶後の鈍感である一夏に気持ちを伝えることはできないからだ。さすがの彼も、これで凰鈴音という『女の子』を意識せざるをえないだろうと鈴は考えていた。

 ――ただ、その行為が正しかったとしても、それが生む膨大な恥ずかしさが消えるわけではない。なんて大胆なことをしちゃったんだろう、と布団にくるまって意味もなくごろごろと部屋の中を転がっている娘の姿を見て、彼女の母親が本気で心配したというのは余談である。

 そのような症状から回復し、普通の生活が送れるようになった後、鈴は一夏からの手紙を今か今かと待っていた。告白の返事をしろと言ったわけではないが、律儀な面がある一夏のこと、すぐに自身の気持ちを伝えてくれると思っていたのである。振られる可能性も十分にあったが、それでも今まで通り友達として過ごしていれば、再びチャンスが巡ってくることだってあるはずだ。そう考え、一夏の決定を受け入れようとしていたのだが。

 

「――――来ない」

 

 3ヶ月経っても音沙汰がない。告白の返事どころか、近況報告のひとつもよこして来ない。鈴の方からも何も送っていなかったが、それは一夏の気持ちを知らない以上どんな感じの文章を書けばいいのかわからなかったからだ。向こうから手紙が来たらすぐに返事を書くつもりで、彼女は『一夏へ知らせる事柄リスト』みたいな代物まで制作していた。

 

「ま、まあ、もう少し待ったら何か送ってくるわよね。これってあれでしょ? 『焦らしプレイ』ってやつなんでしょ?」

 

 ――さらに3ヶ月後。

 

「………なによ。なんか送ってきなさいよ、ばかぁ」

 

 ……何一つ連絡がないまま、半年が経った。いい加減にしびれを切らした鈴は、どんな文体でもいいから手紙を書こうと思い立ったのだが、そこである考えが頭をよぎった。

 

「――一夏は、もうあたしのことなんてどうでもいいのかな」

 

 ひょっとするとそうなのかもしれない。連絡をよこすにも値しないくらいに思われているのだとしたら、こちらから知らせを送るのもためらわれる。

 ――結局、一夏から便りは来ず、彼女も何もしなかった。1ヶ月ほど前、『ISを使える男』として織斑一夏のことが世界的にニュースに取り上げられるまで、鈴は彼について何も知りえなかったのだ。

 そして今日、彼女は1年ぶりに想い人と再会を果たした。最初に抱いた印象は『かっこよくなった』だった。背は成長期だけあってかなり伸びていたし、体つきも男っぽくなっている。そんな一夏の姿に一種のときめきを覚えながらも、彼女の態度はぎこちなかった。『一夏はもう自分のことをなんとも思っていないかもしれない』という不安が頭から消えなかったからである。

 

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは、突如現れた一夏の幼馴染だという転校生・凰鈴音を警戒していた。ただでさえ篠ノ之箒という一夏とお近づきになる上での強力なライバルがいるというのに、また幼馴染などという下地を持つ人間が来るなんて彼女にとってはたまったものではない。

 ――だが、今セシリアが抱いている感情は、警戒というよりは困惑だった。

 その原因は、凰鈴音はセカンド幼馴染であるという一夏の説明が終わった後の、件の2人の会話の様子にある。

 

「そ、それにしても、まさか一夏がISに乗れるなんてね。びっくりしたわ、うん、びっくりした」

 

「お、おう。なんか知らないけど乗れたんだよな、うん」

 

「しかも……あー、クラス代表にまでなってるんだっけ?」

 

「……ああ。なんか気がついたらそうなってたんだよな、ははは」

 

「そ、そうなんだ……うん、なんだか一夏らしいわね」

 

「ははは……」

 

 ――まず、どうしてこの2人はここまでカチンコチンに固まって話しているのだろう。久しぶりに会ったからとはいえ、お互いとても幼馴染に対する態度には見えない。

 

「………」

 

「………」

 

「そ、それにしても、まさか一夏がISに乗れるなんてね。びっくりしたわ、うん、びっくりした」

 

「お、おう。なんか知らないけど乗れたんだよな、うん」

 

 ――そして、なぜしばらくすると会話の内容が最初に戻るのか。

 わけがわからない、というのがセシリアの本音だった。凰鈴音に関しては知らないが、一夏が普段はこんな感じの人間でないことはよくわかっている。そうなると、この2人の間には何かがあるということになるのだが……

 

「……とりあえずは、様子を見てみましょうか」

 

「ん? 何か言ったセシリア?」

 

「いえ、なにも」

 

 クラスメイトにそう答えながら、セシリアは中国の代表候補生への対応をひとまず決定したのだった。




というわけで気持ちがすれ違い気味な第3話でした。一夏が変に気を遣ったというか身構えたというか、とにかく手紙を送らなかったことで2人のぎこちない空気ができあがってしまったという感じです。

それと今まで鈴に2人称を「あんた」と書いていましたが、正しくは「アンタ」でした。なので全部訂正しておきました。

次回はできれば明日更新したいです。

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