IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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今回オリキャラひとり投入してます。できるだけ原作にいるキャラだけで話を進めたかったのですが、役割上やむを得ず出すことになりました。


第36話 倉持技研と草野球

問3 古期造山帯に属する山脈では、主な地下資源として(ア)が産出される。一般的に古期造山帯は新期造山帯よりも標高が低いが、(イ)山脈は例外的に標高7000m級の山が連なっている。

 

(1)(ア)に当てはまる単語を入れよ。

(2)(イ)に当てはまる単語を以下の①~④から選べ。

 ①アパラチア ②天山 ③ドラケンスバーグ ④ウラル

 

「………」

 

 ……この期末試験、もらった!

 

 

 

 

 

 

「ええっと、確かこの辺に来てるはずだけど……」

 

 ISの実技授業や放課後の自主訓練などのために、この学園内には複数のアリーナが設置されている。各アリーナの隣には整備室なるものがあり、そこでは名前の通りISの整備が日常的に行われているらしい。らしい、というのは、恥ずかしながら俺は1学期も終わりかけの7月13日になって初めてこの部屋に足を踏み入れるからである。

 

「本当は白式の調整とかしなきゃいけなかったんだろうけどな……」

 

 以前も鈴やセシリアあたりに専用機のケアはしておいた方がいいとアドバイスされていたのだが、馬鹿の一つ覚えに雪片弐型を振っているうちに時間が経ち、結局今になるまでここに来ないままで済ませてしまっていた。

 機体も第二形態に移行したことだし、いい加減ちゃんと整備をしようと決心して、今はとある人と第2アリーナの整備室前で待ち合わせということになっているのだが……

 

「君が、織斑一夏くん?」

 

「え? あ、はい、そうですけど」

 

 後ろから声をかけられたので振り向くと、黒いスーツをビシッと着こなした女の人が俺に向かって立っていた。歳は、山田先生より少し上くらいだろうか。短めに切り揃えられた茶色の髪が、活発な雰囲気を感じさせる。

 

「よかった。そうだよね、この学園の男子生徒は君しかいないんだから間違えようがないよね」

 

「あ、ひょっとして倉持技研の……」

 

「遅れてごめんなさい。私、倉持技研の立花葵(たちばなあおい)と申します」

 

 予想通り、この人が俺の待っていた人物だったようだ。自己紹介をしながら頭を軽く下げるあちらに合わせて、俺も改めて挨拶をしておく。

 

「はじめまして、織斑一夏です。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ。ごめんね、こっちの都合で急な予定を組み上げちゃって。さっきまで期末試験をやってたんでしょう?」

 

「はい、なんとか赤点は免れたと思います」

 

 山田先生から『白式の第二形態移行に伴い、新たにデータ収集と機体の調整を行いたい』という倉持技研側の意見が伝えられたのが4日前。確かに向こうが示してきた日程はそこそこ急なものではあったが、俺としても試験が終わり次第すぐにでも白式の整備に取りかかりたいと考えていたのでむしろ大歓迎だったというのが素直な感想だ。

 

「さて、それじゃ早速機体を見せてもらおうかな」

 

「わかりました」

 

 整備室の中に入り、適当なスペースを確保して白式を展開する。

 

「これが進化した白式か……データの方も見せてくれる?」

 

「あ、はい」

 

 先ほどまでのフランクな態度は鳴りを潜め、立花さんは真剣な眼差しで、俺の体を包み込む白式と、細かなデータが表示されている空中投影ディスプレイを交互に見つめる。さすがに試験終了直後なので他の生徒もおらず、立花さんが足を動かす音だけが整備室に響き渡っていた。

 

「……こんなところか。うん、もう待機状態に戻して大丈夫よ」

 

「はい。……それで、何かわかりましたか?」

 

 言ってから、自分の質問が言葉足らずなことに気づいてあわてて付け足そうとする。が、その前に俺の意図を察してくれたのか、立花さんは首を横に振ってから口を開いた。

 

「零落白夜のことね。残念ながら、私が確認しても白式のデータの中にその名前を見つけることはできなかったわ。今のところはワンオフ・アビリティーが消滅した理由も検討がつかないっていうのが正直な答え」

 

「そうですか……」

 

 プロの研究者ならもしや、と期待していたのだが、やはり零落白夜は諦めた方がいいみたいだ。戦い方を今までのものから大幅に変更しなければならないのはきついけれど、この際仕方がない。

 

「織斑くんは、人間がどうやってISを動かしているかは知ってる?」

 

 右手に持っていたバッグからノートパソコンを取り出す作業の片手間に、立花さんはふと思いついたようにそんなことを尋ねてきた。

 

「ええっと……確か、ISのコアと操縦者の意識をシンクロさせるんですよね。どういう仕組みでそれをやってるのかは覚えてないですけど」

 

「そうそう。そのコアと人間のシンクロが重要なのよ。シンクロ率が高ければ高いほど、操縦者の行動選択に対する機体のレスポンスが速くなる。加速や停止、第三世代型の兵器の発動……そして何より空中での細かな動き。これらをタイムラグなしで行えるのとそうでないのとでは大違いなのはわかるわよね?」

 

 それは以前から知っていることなので、特に疑問を抱くこともなく頷く。立花さんはカタカタとキーボードに何やら打ちこみながら、話を先に進める。

 

「で、ある人がどれだけISとシンクロしやすいかを表したデータが『IS適性』なんだけど……実はこの値、個人的にはあまり信用してないのよね」

 

「え? どうしてですか?」

 

「あくまであれは大雑把な指標に過ぎないからよ。確かに『全体的に見た場合におけるISへの適合能力』も大事だけど、それ以上に操縦者と個々のコアとの相性の方がシンクロ率に与える影響が大きいだろうっていうのが私の持論」

 

「相性……」

 

 つまり、IS適性というのは期末試験における平均点みたいなものということなんだろうか。たとえば、全教科80点の人と、他の教科は30点だけど数学だけ90点をとれる人がいたとする。もちろん平均点は前者の方が高いけど、この2人に数学の能力を必要とする仕事を与えた場合、力を発揮するのは後者だ。なぜなら、その人と数学の相性がいいから。

 

「とはいっても、いちいち特定の人間と特定のコアの相性を調べるなんてことは時間もコストもかかり過ぎるから、結局のところIS適性を参考にするしかないのが現状ね。……話を戻すけど、戦闘において重要なファクターであるシンクロ率は、操縦者と機体が経験を積み重ねることによって徐々に増加していくの。これは授業で習ったと思うけど」

 

「ああ……はい、多分そんなことを聞いたような気がします」

 

 この学園に入学したばかりの右も左もわからなかった時期の授業で、山田先生がそれらしきことを言っていたのをなんとなく覚えている。付け加えると、教科書の最初の方のページにも同じ内容が書かれていたはずだ。

 

「機体が操縦者に慣れていき、それに合わせて自己進化を遂げていく。もっともわかりやすい例が、織斑くんも経験した『二次移行(セカンド・シフト)』。これを経験することで、ISはワンオフ・アビリティーという特殊技能を獲得する可能性も出てくる。二次移行を満たす条件の全貌はいまだ不明のままだけど、少なくとも高いシンクロ率を有することが必要なのは間違いないわ」

 

「はあ……」

 

 立花さんの言っていることは理解できる。ただ、この話の着地点――彼女が俺に何を伝えたいのかがまだつかめない。

 

「この白式、最初に大まかな案を出したのは私だったの」

 

「えっ……そうなんですか!?」

 

 とすると、この人が俺の専用機の生みの親ってことになるのか。

 

「ワンオフ・アビリティーを第一形態から使えるような機体を作りたい……今思えば一発ネタみたいな動機でいろいろ考えを練り始めたのよね。操縦者とのシンクロ率を高めやすいISを作れば、もしかするとワンオフ・アビリティーを早い段階で発現させられるかもしれないとか、そういう感じのことをたくさん思案した。でも結局計画は頓挫して、廃棄処分にされかかったところで篠ノ之博士が完成させちゃったんだけど」

 

 あの人やっぱりすごいよねー、とため息をつく立花さん。しかし俺からすれば、新たなIS開発の立案なんてやってるこの人も十分すごいの範疇に入ると思う。

 

「博士がどういう技術で白式に零落白夜を与えたのかはわからない。でも、私の予想ではやはりシンクロという概念がキーになってる気がする。……ずいぶん回りくどいしゃべり方をしちゃったけど、今から私なりに君へのアドバイスを送ります」

 

 人差し指をぴん、と立てて、立花さんはパソコンの画面から目を離し、俺の顔をじっと見つめる。

 

「二次移行を果たしたことからもわかるように、織斑くんと白式のシンクロ率はかなり高いところまで来ているわ。なのにワンオフ・アビリティーは消えてしまった。それを取り戻せるかどうか、保証はできないけれど……大事なのは、もっとあの子に歩み寄ることだと思うの」

 

「あの子って、白式のことですか」

 

「そう。君と白式は間違いなく相性がいい。そしてこれからもっと伸びる可能性があると私は信じてる。だから、これまで以上に自分の機体を理解することに努めてほしいの。それこそ唯一無二の相棒のように、ね。私も学生時代、そうしたらシンクロ率が向上したし」

 

 さらりと話に出されたが、どうやら立花さんはこの学園のOGのようだ。ISに関わる仕事をしているのだから当然のことなのかもしれないが、今の発言内容からすると専用機持ちでもあったらしい。

 

「ISは生きている。それを肝に銘じて、心を開いてあげてね」

 

「心を開く……いまいち感覚がつかめないですけど、とりあえずやってみます」

 

「よろしい。長話につき合わせちゃってごめんね。研究職なんてものに就いてるとどうしてもぐだぐだしゃべるのが癖になって……」

 

「いえ、俺も勉強になったんで全然大丈夫ですよ」

 

 フォローでもなんでもなく、事実俺はそのように感じていた。まだまだISに関してはひよっこの身としては、役に立ちそうなことはどんどん吸収していきたいと思っているからだ。

 

「ふふ、ありがとう。じゃあ前置きはここまでにして、白式の装備について考えていこうか。何か希望する武器のタイプとかあるかな?」

 

「ええと……あの、片手で扱える銃みたいなのが欲しいとは思ってるんですけど。できれば連射がきくようなやつ」

 

「了解。その条件に見合うものの中でウチが出せるのは……っと、これなんかどうかな」

 

 はい、とノートパソコンのディスプレイを俺に見せてくる立花さん。そういえば、空中投影型のディスプレイとか使わないんだろうか。

 

「あ、ひょっとして私が古い型のノーパソ使ってるのを気にしてる? だったらただの個人的趣味に過ぎないから放っておいて大丈夫よ。画面を空中に表示できる方が便利なのはわかってるんだけど、私としては昔ながらの画面付きのパソコンの重量感みたいなのが好きなのよね。なんだか技術の塊に触れてるような感じがするから」

 

「へえ、そうなんですか」

 

 共感できるかどうかは別として、彼女にも彼女なりのこだわりがあるということなのだろう。

 気を取り直して、ディスプレイに映っている装備のデータに目を通す。連射可能な弾の数は30、大きさ的にもちゃんと片手で持てる程度。それで、名前は――

 

「………」

 

 その時、整備室のドアがバシュッと開く音が聞こえてきた。反射的に出入り口の方に顔を向けると、ひとりの女子生徒が少し驚いたような顔をして俺たち2人を見ている姿が目に入った。まさか先客がいるとは思っていなかった、ってところだろうか。

 さらに補足すると、俺はあの女子が誰だか知っているし、1度だけ言葉を交わしたこともある。髪の色は姉のそれと全く同じの水色で、しかし纏っている雰囲気は天上天下唯我独尊な生徒会長とは正反対の部類に入る、彼女の名は。

 

「更識――」

 

「簪ちゃんじゃない! 久しぶりねえ、元気にしてた?」

 

 『できれば妹とコミュニケーションをとってほしい』という楯無さんのお願い通りに声をかけようとしたところ、立花さんに先を越される形となってしまった。しかもめちゃくちゃ親しげに近寄ってるし。

 

「立花さん……どうして、ここに……?」

 

「織斑一夏くんの専用機の整備を担当することになったの。……本当にごめんね、ウチのバカ上司が簪ちゃんの専用機の開発を中止するなんてことやらかして。あの頑固オヤジ、本気で何考えてるんだか……」

 

「いえ……私は、別に気にしてませんから」

 

 更識さんは日本の代表候補生で、彼女の専用機を作っていたのが倉持技研だった。しかし『世界で唯一ISを動かせる男』である俺の専用機が白式に決まったことで、更識さんの専用機に充てられていた人員がすべて白式担当にまわされてしまったらしい。そして現在、更識さんは未完成の機体を独力で使えるレベルにまで仕上げようと頑張っている――以上が彼女の姉から教えてもらった情報だ。……正直、彼女に対して申し訳ないという気持ちは確かに存在する。

 

「おっと、電話だ。ちょっと失礼」

 

 更識さんとの会話をいったん止めて、通話に応じる立花さん。

 

「ええ、ええ……えっ、それ本当ですか!?」

 

 最初は無表情で電話の相手と話していた彼女だったが、だんだんとその顔つきが喜びを表したものへと変わっていく。

 

「はい、ありがとうございます。ちょうど本人が目の前にいるので、直接伝えておきます」

 

 お礼の言葉を最後に、立花さんは携帯を耳から離し、再び更識さんへと向き直る。

 

「簪ちゃん、あなたの専用機の開発を再開するって連絡が来たわ!」

 

「えっ……」

 

 いきなりの展開に、少し離れたところで会話を聞いていた俺は驚きを隠せない。朗報なのは間違いないが、なんだって急に……

 

「織斑くんの専用機に割いてる人員の6割をそっちにまわすそうよ。まったく、今までしつこく頼み込んだ甲斐があったわ~」

 

「………」

 

 立花さんは以前から更識さんのことを気にかけていたらしく、開発再開の報を受けてうきうきしているのが俺の目からも見ても明らかだ。

 ……だが当事者である更識さんは、対照的に無表情で、うれしがっている様子も見せていない。

 

「……私の専用機は、私ひとりで組み上げると決めたので」

 

「……え?」

 

 更識さんの発した言葉に、喜んでいた立花さんの表情がぴしりと固まる。そりゃそうだ、わざわざここで彼女が協力を断るなんてこと、予想できるはずがない。

 

「ちょっと、簪ちゃん……」

 

 引き止めようとする立花さんの呼びかけを振り切って、更識さんは暗い表情のまま整備室を出て行った。俺たちがいなければ、おそらくここで専用機を完成させるための作業を行うつもりだったのだろう。期末試験が終わってすぐに取りかかろうとしていたのだから、彼女のやる気は相当なものだと予測はつく。

 

「どうして……」

 

「……どうしても、自分だけの力で機体を完成させたい理由があるのかもしれません」

 

 呆然と立ち尽くしている立花さんの隣に歩み寄り、彼女のつぶやきに言葉を返す。

 

「織斑くん……」

 

「でも、どうして急に更識さんの専用機に人員を割けるようになったんですか?」

 

「……白式が第二形態に移行した際に、後付武装(イコライザ)を受け付けるようになったのが理由でしょうね。それまでは空いてない拡張領域(パスロット)をどうにかこじ開けようだとか、文句のつけようがないレベルで完成された装甲を改良しようだとか、とにかく『篠ノ之束が完成させた機体』に手を加えて『倉持技研の機体』にしようとお偉いさんが必死だったのよ。それに成功すれば、織斑一夏の専用機を開発した企業だということを気兼ねなくアピールすることができるから」

 

 残念ながら改良の余地は残されてなかったんだけどね、と肩をすくめる立花さん。……というか、そういう裏側の事情をぺらぺらしゃべっていいものなんだろうか。

 

「織斑くんが勝手に言いふらさないことを信じて説明してるのよ。……まあ、どうせ一部のマスコミにはもう知れ渡ってることでしょうけど」

 

 うわ、ぶっちゃけた。あと今何気に俺の心が読まれたぞ。

 

「白式に武装を追加する、つまり手を加えることが容易に可能になった今、放置していた簪ちゃんの機体を完成させるだけの余裕ができたってところかしら」

 

「なるほど……」

 

 なんとなく事情はわかった。白式の変化が、間接的に更識さんにも影響を与えていたんだな。

 だが、彼女本人が倉持技研の誘いを拒むとなると、結局状況は変わらないわけだ。

 ……とりあえず、楯無さんに聞いてみよう。彼女がひとりで専用機を組み上げることにこだわる理由に、何か心当たりはないか、と。

 

 

 

 

 

 

「うーん、今日は絶好の野球日和ね!」

 

「日本の夏は本当に暑いですわね……わたくし最後まできちんと動けるかしら」

 

 今日は7月19日。全校生徒が待ちに待った夏休み初日で、さらに海の日である。

 前々からこの日に鈴とセシリアが草野球の試合に出るという話を聞いていた俺は、箒やラウラ、シャルロットとともに、鈴の家の近所のグラウンドにまで応援のため足を運んでいた。

 

「おう、誰かと思ったら織斑さんとこの坊主じゃねえか!」

 

「えらい美人な子ばっかりはべらせてるなあ。羨ましい……」

 

「で、誰が本命なんだ?」

 

「ははは……俺のことはお気になさらず、試合前の練習頑張ってください」

 

 到着するなり、知り合いのお兄さんやおじさんたちから声をかけられまくる。……まあ、贔屓なしに可愛いの部類に入る女の子を何人も連れて来たら反応が大きいのも当然か。しかも複数人白人が混じってるしな。

 

「あ、あはは……美人だなんて、少し照れるね」

 

「そうだな……」

 

「そうか? というよりそもそも私は美人なのか?」

 

 観戦組の女子たちは三者三様の反応。試合に出る2人は、すでにユニフォームを着て練習を始めようとしている。

 

「おはよう一夏くん」

 

「あ、どうも。おはようございます」

 

 鈴のお父さんに声をかけられたので、こちらも軽く頭を下げる。

 今日の試合は『地区内の草野球好きが集まったチーム』対『隣地区の草野球好きが集まったチーム』で、鈴たちが入る前者のチームのキャプテンがこの人だ。確か、ポジションはピッチャーだったはず。

 

「今日はどんなオーダーになってるんですか?」

 

 鈴とセシリアの打順とポジションが気になったので尋ねると、おじさんは妙ににこやかな笑顔で1枚の紙を手渡してきた。

 

「メンバー表ですか。ありがとうございます」

 

 1番から9番まで、選手の名前とポジションが書かれた紙を眺めて、俺は本日のスターティングメンバ―を確認した。

 

『1番 センター 三浦義一』

 

 1番はパン屋の店主の三浦さんか。足速いし、妥当なところだな。

 

『2番 セカンド 凰鈴音』

 

 うわ、鈴は2番かよ。期待されてるみたいだけど大丈夫なのか?

 

『3番 キャッチャー 大村栄治』

 

 3番はチームに数少ない20代の大村さん。若いし力もあるから打ってくれそうだ。

 

『4番 ショート 織斑一夏』

 

 4番は俺か。チームの主砲とは責任重大だな。ちゃんと塁に出たランナーをホームに帰さないと――

 

「いやいやいやいや」

 

 ちょっと待て。なんで応援要員がスタメンに名を連ねているんだ。これはきっと何かの間違いだ、ちゃんと指摘してあげないと。

 

「はは、おじさん4番のとこ間違ってますよ。織斑一夏とか書いてますけど」

 

「間違っていないがどうかしたのか?」

 

「………へ?」

 

 この時間抜けな声を出した俺の感性は決して間違ってないと思う。

 

「一夏くん。君は肩が強かったな?」

 

「いや、別に強くは」

 

「強かったな?」

 

「……言われてみれば、強かったかもしれません」

 

「そうかそうか。ついでにバッティングにもパンチ力があったね?」

 

「いやあ、さすがにそれは……」

 

「長距離打者だったね?」

 

「……ひょっとしたら、ホームランアーチストだったかもしれません」

 

「よし! じゃあ4番ショートに適任だな」

 

 ごり押された。おじさんの発する異様な圧迫感のせいでごり押された。

 

「今日はもともとメンバーの集まりが悪かったうえに、1時間前に吉原が足を痛めてしまってね……君が入らなければ9人揃わないんだ」

 

 だからって、なぜ俺に4番ショートなんて難しい役割をさせようとするのか。9番レフトのセシリアと同じように下位打線に置いてくれればまだましなのに……

 

「ユニフォームは用意してるから、頼んだぞ」

 

「……わかりました」

 

 ……やるしかないか。もしチームの足を引っ張りまくるようなことになったら、その時は俺を選んだおじさんが悪い。そういう開き直りの精神をもって、なんとか頑張ってみるとしよう。

 なんだかんだで、草野球自体は好きだしな、俺。

 




というわけで倉持技研の研究者として立花葵というオリキャラが登場しました。名前の由来は特にありません。実況パワフルプロ野球とか関係ありません。
ISコアとのシンクロあたりの話、および倉持技研の事情などはすべて僕の勝手な想像です。この作品内ではこの設定で進めることにします。一応、一夏のIS適性がBなのに二次移行がめちゃくちゃ早かった理由のようなものになればと考えています。
簪関連のことを放置して草野球へと話が進んでいますが、ちゃんと7月13日から7月19日の間に起きたイベントは存在します。描写を後回しにするだけなのでご了承ください。

鈴の打順とポジションに関してはそれぞれ真面目に考えて決めたのですが、改めて見直すと打順も2、ポジションもセカンド。すべてはセカンド幼馴染のセカンドに収束してしまうのか……?

次回は野球の試合です。はたして一夏は戦犯を回避することができるのか。

感想・ご意見等あればお気軽にお伝えください。
では、次回もよろしくお願いします。

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