IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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今回から第4章突入です。

余談ですが、ヱヴァQ観に行きました。ついでに旧劇も見直しました。どちらにもそれぞれの良さがあっていいなあと改めて実感した次第です。あとアスカかわいい。特に惣流のほう。


夏のひととき編
第35話 1日遅れのバースデーパーティー


「……どういうことだ、一夏」

 

 戸惑い半分、怒り半分を含んだ声で俺の名前を呼ぶのは、ポニーテールがトレードマークの剣道少女・篠ノ之箒だ。俺の隣に立っている彼女は、目の前にそびえる食堂に続く扉を親の敵でも見るかのように睨みつけていた。

 

「どういうことも何も、お前の誕生日パーティーをやるってことは2週間くらい前にちゃんと言っておいただろ。つっても、昨日は福音との戦いで疲れてるだろうからってことで1日遅れになりはしたけど」

 

「確かにその話は覚えている……が」

 

 何やら気に食わないことがあるらしい箒は、拳をわなわなと震わせながら食堂の扉と俺とを交互に眺めている。うーん、早く中に入ってもらわないと困るんだけどなあ。

 

「だったら何も問題はないだろ。ほら、みんな待ってるからさっさと行こうぜ」

 

「だから、その『みんな』が問題だと言っているのだ。なぜ私の誕生日をクラス全員で祝うことになったのか、わかりやすく手短に説明しろ」

 

「みんなのノリがいいから」

 

「わかりやすく手短だが納得がいかない理由だ……」

 

 がっくりと肩を落とす箒。パーティーといっても、俺や鈴といった馴染みのメンバーだけでひっそりと行うことを望んでいたようだ……まあ、知ってたけど。

 

「俺もこんな大人数でやるつもりはなかったんだ。けど知らない間に話が大きくなっててな」

 

「知らない間って、そんな無責任な……!」

 

「お前たち、いつまでそんなところに突っ立っているつもりだ」

 

 なかなか足を動かそうとしない箒を説得しようとしていたところ、ガラッと扉が開かれて食堂からラウラが出てきた。

 

「食堂を使える時間も限られているのだ。早く入れ」

 

「ま、待て、引っ張るな!」

 

 ぐいぐいと箒が中へ引きずり込まれるのに続いて、俺もようやく扉をくぐることができた。……たまには、ラウラのような強引さを持つことも大事だな。

 

『篠ノ之さん、お誕生日おめでとー!!』

 

 食堂に足を踏み入れた瞬間、たくさんのクラッカーの炸裂音とともに、クラスメイト(プラスα)たちの声が重なって聞こえてきた。

 

「ほら箒、主役はあそこの席に座ってね」

 

「い、いや、その……」

 

 いきなりの大音量に肩をびくっと震わせた箒は、案内役のシャルロットに促されても声をどもらせて恥ずかしそうにうつむいているだけ。予想通りだが、やはりだいぶ戸惑ってしまっているらしい。

 

「箒」

 

「い、一夏。やはり私にはこのような場は……」

 

 わずかな希望に縋るように俺を見る彼女に対して、とりあえず言えるだけのことを言っておく。

 

「多分、みんなお前と仲良くなりたいんだよ」

 

「……なに?」

 

「箒、普段教室で俺やシャルロットたち以外とあんまり話さないだろ? うちのクラスって連帯感みたいなもんが強いから、みんなお前とも話してみたいと思ってるんだ」

 

 あくまで俺の推測だけどな、と断りを入れることは忘れない。実際、全員が全員そう考えているわけではないだろう。たとえば向こうでのほほんさんと談笑している青髪の生徒会長なんかはまずクラスどころか学年が違うわけだし。あの人は絶対『何か面白そうだから』とかそういう理由で来たに違いない。

 ただ、みんながここに集まった動機の中で多数を占めているのが『箒と親しくなりたい』というものであることは確かだろう。

 

「ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、多分そのうち慣れると思う。だから、今日は俺たちのノリにつきあってくれないか?」

 

「……まあ、ここまで準備されて帰るのは申し訳ない……な」

 

 まだ困っているような様子は見せているものの、それでも箒は小さく頷いてくれた。傍らにいるシャルロットとラウラも、その反応を見て微笑を浮かべる。

 

「さ! じゃあ1時間くらいだけど、みんなで箒の誕生日を祝うとしますか!」

 

 

 

 

 

 

「で、一夏くんと鈴ちゃんはつきあってるんだよね?」

 

 どうしてこの話題になったんだ……

 

「せっかくクラスのみんなでこういう場を持てたんだし、そろそろはっきりさせたほうがいいんじゃないかなーって、私は思うわけです」

 

「まるで自分がクラスの一員であるかのような言い方してますけど、楯無さんは2年生の先輩ですからね」

 

「ふふ、そんなことはどうでもいいじゃない」

 

 いろんな人と会話するにつれてだんだんと場の空気に馴染み始めた箒の姿を見届けてから、俺は食堂の中を適当に巡回し始めた。その際、鈴が楯無さん含む女子数名に囲まれていたのが目に留まり、声をかけたらこの始末だ。

 

「というか、これ箒の誕生日会なんだから箒と話してあげてくださいよ」

 

 おお、ナイスフォローだ鈴。正論な上にこの状況をなんとかできる理想的な返しだ。

 

「私としても、あの篠ノ之博士の妹さんとは是非ともお近づきになりたいんだけどねえ。今は人がたくさん群がってるし、もう少し経って篠ノ之さんの隣が空いたら行ってみるつもりよ。だからそれまでの間は仲のいい後輩ちゃんと戯れようかと思って」

 

「……仲のいい?」

 

「そこに疑問符をつけるのはひどいと思うの、鈴ちゃん。廊下で会ったらいつも会話が弾んでるじゃない」

 

「あたしには会長にからかわれて遊ばれた記憶しかないんですけど」

 

「そうだったかしら?」

 

 おどけた表情で鈴の非難を含んだ視線を受け流す楯無さん。やっぱり鈴もあの人に弄ばれてたのか……俺も日常的に被害を受けてるから、あいつの気持ちはよくわかる。

 

「それで、結局のところはどうなの? これから先、私以外にも尋ねてくる人はいるでしょうから、今吐いちゃったほうが楽だと思うけど」

 

「……その考え方って、俺たちがつきあってること前提で成り立つものですよね」

 

「そうね」

 

 仮にここで俺と鈴はただの幼馴染だと答えたとする。しかしその場合、今後俺たちが仲良くしているところを見た誰かが『そろそろつきあい始めたんじゃないの?』と定期的に聞いてくる可能性があるわけだ。つまり、楯無さんの質問に答えるメリットがない。

 逆につきあってると答えた場合は、そこで話題が終了するのでこれからその類の質問を受けることはなくなるだろう。楯無さんが口にした言葉はこちらのパターンにしか当てはまらない。

 要は、この人は俺たちの関係をほぼ決めつけているのだ。あとは本人の言質をとればいいだけ、といったところなんだと思う。

 

「………」

 

 ちらっと鈴に目配せをすると、しぶしぶながらこくりと首を縦に振ってきた。……一応GOサインも出たわけだし、正直に白状することにしよう。

 

「俺と鈴は10日くらい前からつきあってます、はい」

 

『おお~!』

 

 楯無さんが満足げに微笑み、周りを囲っていた女子は喜んでいるような驚いているようなよくわからない声を上げる。俺たち2人はというと、そんなみんなの反応が恥ずかしくてしばらく下を向いていることしかできなかった。

 

「おめでとう。幼馴染が学園で再会してそのまま恋に落ちるなんて、まるで漫画みたいね」

 

「は、はあ……ありがとうございます。……でも、どうして俺たちがつきあってるって予想できたんですか?」

 

 俺が尋ねると、楯無さんたちは一瞬ぽかんと口をあけ、そして意味ありげな笑みを浮かべた。

 

「いいの? その質問に答えちゃうと、あまりの刺激に一夏くんはともかく鈴ちゃんのほうは自動的に食堂から全速力で飛び出すことになるけど」

 

「本人の意思と関係なく飛び出すんですか」

 

「まさか。あたしに限って多少何か言われたところでそんな行動をとるわけないわ……たぶん」

 

 微妙に自信に欠ける鈴の態度に不安を覚えるも、結局俺は好奇心に負けて話の続きを促してしまった。

 

「いいのね? なら言っちゃうけど、ぶっちゃけてしまえばここ最近のあなたたちの様子を見ていれば丸わかりです」

 

「……どうしてですか?」

 

「だって、2人ともピンク色のオーラを出しすぎてるもの。距離近いし、お互いの顔を見てよく笑い合ってるし」

 

 ……マジか。というか、この人学年違うのになんでこんなに俺たちの様子に詳しいんだ。

 

「一夏くんは鈴ちゃんに優しい視線を送りすぎ。保護欲をかき立てられるのはよくわかるけどね。あと、鈴ちゃんのほうも目がとろけすぎ。一夏くんに対する想いがあふれ出てるわよ。……そういう2人を見ていたら、その辺の小学生でも『この人たちはラブラブなんだなあ』と簡単に想像できます」

 

「………あ、うあ」

 

 隣を見ると、壊れた機械のようにうめき声をあげている鈴の顔が真っ赤になっていることが確認できた。

 

「り、鈴? 大丈夫か――」

 

「うわあああ……!!」

 

 いろんなものに耐えられなくなってしまったらしい俺の彼女は、ドダダダと食堂を駆け抜け、ものすごい勢いで扉を開けて外に出て行ってしまった。

 

「ね? 私の言った通りになったでしょう」

 

「……そうですね。正直俺もこの場から立ち去りたいくらいです」

 

 とにかく恥ずかしい。今の楯無さんの話が本当だとすれば、俺たち2人は一目見ただけでつきあっていることがわかる『バカップル』に近い存在に足を踏み入れかけていることになる。以前、バカップルの素質があると弾に言われた時にはそんなわけないだろと軽く流せていたのに、まさか第三者視点でそんなことになっているとは……

 鈴が飛び出してなかったら俺も同じことをしていたところだ。『一方が熱くなるともう一方の心はある程度冷める』という理論と同様、あいつが感情を爆発させてくれたおかげでこっちが落ち着けただけにすぎない。

 

「うふふ、そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だと思うわよ? ……それと、はいこれ」

 

「はい?」

 

 何気ない感じで先輩が差し出したものを、つい反射的に手で受け取ってしまう。

 

「……映画のチケットですよね、これ」

 

「知り合いにもらったんだけど、最近忙しくてなかなか行く機会がないのよねえ。ちょうど2枚あるから、今日質問に答えてくれたお礼として一夏くんと鈴ちゃんにあげるわ」

 

「いいんですか?」

 

「このまま私が持ってても宝の持ち腐れですもの。映画のジャンルも恋愛じゃなくて王道のコメディものだし、つきあい始めたばかりのカップルには適当だというのが私の見解よ」

 

 確かに、できたてほやほやのカップルがいきなり恋愛映画なんかを見に行くとあまりに純愛な描写にあてられて変な空気になってしまう、という話をどこかで聞いたことがあるような気がする。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 人をからかうことも多くてマイペースな先輩だけれど、こういう気前のいいところがあるから生徒会長として学園の生徒をまとめることができるのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

「……一夏」

 

 あっという間にパーティーも終わり、そろそろ頭も冷えたであろう鈴の部屋にでも顔を出そうかと考えていたところ、不意に背後からよく知っている声が耳に入ってきた。

 

「どうした箒? 他のみんなと一緒に帰らなかったのか」

 

「誘われはしたが、一夏と少し話したいことがあると言って断った」

 

 現在、食堂に残っているのは俺と箒の2人だけ。ぼーっと考え事をしていたらいつの間にか10分ほど経過してしまっていたようだ。もうじきここは閉まってしまうので、ぼちぼち外に出なければならない。

 

「そっか。それで、話ってなんだ」

 

「ああ。今日は、その……ありがとう。大勢の人に祝ってもらえて、うれしかった」

 

「それはなによりだ」

 

 話が勝手に大きくなったとはいえ、パーティーが開かれる発端を作ったのは俺だ。だから、箒に楽しんでもらえなければきちんと謝らなければいけないと思っていたのだが、その心配はなさそうだ。さっきプレゼントとして渡したくまのぬいぐるみも喜んでくれていたみたいだし、作戦としては大成功だったと言える。

 

「これからは、お前たち以外とも仲良くできるよう努力していこうと思う」

 

「応援してるぞ」

 

 クラスのみんなの思いはちゃんと通じたみたいだ。箒も少し口下手なだけで周りを嫌っているわけではないし、すぐにいろんな人と親しくなることができるだろう。

 

「うむ。……ところで、先ほどから何か物思いに耽っていたようだが?」

 

「いや。ちょっと悩ましい事柄にどう対処していくか考えてただけだ」

 

「悩ましい事柄? ひょっとして期末試験のことか」

 

「まあ、それもひとつだな」

 

 今日が7月8日で、期末試験開始が7月12日。しかも5教科を2日間で行うというなかなかのハードスケジュールだ。筆記試験が終わった後は数日間通常の授業が続いて、18日にISの実技試験が実施され、翌日の19日から夏休みに突入する予定となっている。

 友達の助けを借りつつ試験勉強に励んではいるものの、やはりちゃんとした成績を収められるかどうかはギリギリのところだと思う。特に最後に受けることになる英語は、どうにか俺の知っている英単語が出てくれと祈るしかない。

 以上がひとつめの懸案事項であり、もうひとつは。

 

「もうひとつは、白式の装備についてだ」

 

「そのことか……」

 

 俺の専用機である白式の『進化』の代償として、ワンオフ・アビリティー――零落白夜が失われてしまった。……ただ、その代わりに大量の拡張領域が出現したのだ。今まで零落白夜に割かれていたぶんが、一気に解放されたかのように。

 もっとも、第二形態に移行したISは装備をそのままにワンオフ・アビリティーを習得するらしいので、仮に零落白夜が残っていても以前のように容量は食わなかったのかもしれない。……つまり、第一形態の時点でワンオフ・アビリティーを搭載していたからこその異常な容量だったという可能性が十分にあるということだ。

 

「多分、倉持技研の人と相談しながらやっていくことになると思う」

 

「そうか。大変だろうが、頑張ってくれ。何かできることがあれば、私も手伝う」

 

「サンキュー。箒のほうも、なんか困ったこととかあればいつでも相談に乗るからな」

 

「……ああ。今は、まだ大丈夫だ」

 

 ……? 今、少しだけ妙に反応が遅れたような。

 

「そろそろ部屋に戻るぞ、一夏。もう時間だ」

 

 壁にかかっている時計に目をやると、すでに閉鎖時間を1分ほど過ぎてしまっていた。もうじき用務員が食堂の扉に鍵をかけに来ることだろう。

 

「そうだな。明日も朝から授業だし、早めに寝て合宿の疲れをとっとくか」

 

「それがいい」

 

 他愛のない会話を続けながら、俺と箒は1年生の部屋が並ぶ区画へと続く通路を歩いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、ティナ」

 

「なに?」

 

「あたしと一夏がつきあってるって、知ってた?」

 

「え? そりゃまあ、教えられなくてもわかるくらいの空気をまき散らしてたから……」

 

「やっぱりそうなんだ……あぅ」

 

 楯無の言葉に羞恥心が極限まで刺激された結果、鈴は箒の誕生日会を抜け出して自室にまで戻ってきてしまっていた。パーティーが始まったばかりの時に祝いの言葉とプレゼントは渡していたので、最低限果たすべき役割はすでに終えている。ゆえに彼女は食堂に戻るという選択を放棄し、現在ベッドにもぐりこんで鼻から上だけを外に出していた。心が落ち着くまではこの状態のままでいるつもりである。

 

「もしかして、隠してるつもりだったの?」

 

「……うん」

 

「あれで? あんなに甘い感じの雰囲気出しておいて?」

 

「……うん」

 

「そうだったんだ……それで、誰かにそのことを指摘されて落ち込んでるの?」

 

「……うん」

 

「……前から思ってたんだけど、織斑くん関連のことで恥ずかしがってる時の鈴って小動物みたいでかわいいわね」

 

「うう……」

 

 ティナの言葉に言い返すこともできず、鈴は悶々とした気持ちを手元にあった枕をぎゅっと抱きしめることで発散させようと試みる。

 

「でもまあ、ある意味いいことじゃない」

 

「え?」

 

「隠そうとしても隠しきれないほど仲がいいってことでしょ、裏を返せば。それって、カップルとしては理想的なんじゃないの?」

 

「………」

 

 ……それも、そうかもしれない。

 枕に込めていた力がふわっと抜ける。その後、鈴はしばらくの間虚空を眺めつつ思索にふけり。

 

「……そうよね。いいこと、よね」

 

 頬がほんのり火照るのを感じながら、再び枕をぎゅーっと抱きしめるのであった。

 

「……まあ、あんまりいちゃいちゃやりすぎると私の精神衛生上よろしくないから、ほどほどにね?」

 




原作を見直した限りでは夏休み開始近辺のスケジュールは詳しく描かれてなかったはずなので、自分で勝手に想像しました。もしどこかに記述があった場合は申し訳ありません。

第4章の1話目は箒の誕生日会と交際関係のカミングアウトでした。加えて白式の状態についても少しだけ補足を入れています。当面は空いた容量を何で埋めるかを一夏は考えていくことになるでしょう。もちろん倉持技研とも協力しますし、それと関連してあのキャラとも……

夏休み編は前半は日常回が大半を占めると思われます。後半? 秘密です。

では、次回もよろしくお願いします。

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