IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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どーも最近ぐだってる感じがします。更新速度が落ちてるのも理由のひとつなのでしょうが……もう少し展開に起伏をつけたいものです。


第33話 偽りの復活

「ではもう一度、作戦内容の大まかな確認を行う」

 

 千冬姉の指示から5分後。それぞれの専用機の出撃準備を整えた俺たちは、屋外の砂浜にてラウラの話を聞いていた。作戦室から俺たちに命令を出すのは山田先生だが、前線において俺たちを指揮する役割、つまりリーダーを担っているのは彼女である。

 

「最初に銀の福音に対して私が遠距離砲撃を行う。それに反応した奴が私へ接近したところで、待機している5機が攻撃。そのまま目標を撃破する。福音の操縦者を確保しなければならないことは留意しておけ」

 

 顔は覆われていて見えなかったものの、銀の福音の中にはあれを本来操縦するはずのパイロットがいることは間違いない。彼女は今も突然の暴走を起こした福音に捕らわれ続けているわけで、福音を止める際に誤ってその人に取り返しのつかないダメージを与えないように気をつけなければならない。

 

「役割分担については、私が後方からの大型砲撃、セシリアが機動力を活かした移動射撃で攻める。加えて近距離で直接福音を叩くのが箒と鈴だ。そして、残りの2人には反撃を受けるリスクの高い近距離戦での防御に回ってもらう。シャルロットは箒、一夏は鈴の機体をそれぞれ守れ。以上だ」

 

 ラウラの言葉を受け、改めて自分に充てられた役割というものをしっかり脳に刻み込む。俺がやるべきは、鈴が攻撃に集中できるようにフォローをすること。今までのように刀を振り回して敵を斬るわけではないのだ。

 

「一夏。何度も聞いて悪いんだけど……本当に、大丈夫なの?」

 

 傍にいる鈴が、目に心配の色を浮かべながら尋ねてくる。彼女のこの日4度目の『大丈夫なの』は、つい先ほど目覚めたばかりの俺の体のことはもちろん、突然第二形態移行(セカンド・シフト)を迎えた白式を扱えるのかということも指している。

 ワンオフアビリティーである零落白夜は、文字通りの意味で俺の必殺技で、かつ生命線だった。それが使えなくなってしまったのは、正直言ってかなり困る。

 

「大丈夫だ。確かにデメリットも大きいけど、第二形態移行が悪いことだらけの結果を生んでるってわけでもないんだしさ」

 

 鈴を、そして自分自身を安心させるために、俺は笑顔を作って彼女の頭を軽く撫でる。くすぐったそうにしながら頬を染める鈴の反応はとてもかわいらしく、こんな緊迫した時だというのに心に癒しを与えてくれた。

 

「ば、ばか、いきなりセクハラ紛いのことしないでよ」

 

「頭を撫でるのはスキンシップの範囲内だろ」

 

「……まったく。でも、あんまり無理はするんじゃないわよ」

 

「……ああ。それは千冬姉にも釘を刺されてる」

 

 何度も頭を下げてお願いした結果、千冬姉は俺が出撃することを承諾してくれた。我儘を通したぶん、また撃墜されて大怪我を負うなどということは許されない。

 

「戦闘前に女とじゃれつく余裕があるなら、どうやら大丈夫らしいな」

 

 不意に背後からかけられた声に振り向くと、鈴の頭の上に置かれている俺の右手をじーっと見つめているラウラの姿が目に入った。

 緊張感に欠けた行動をしてしまったのかもしれないと判断した俺はすぐさま右手を引っ込める。が、腕を組んだままニヤリと笑っているところを鑑みるに、ラウラは俺を咎めるつもりではないようだ。

 

「別に皮肉を言ったわけではない。前回の失敗を意識し過ぎて硬くなっているのではないかと心配していたのだが、その様子だと問題はなさそうだと思っただけだ」

 

 とはいえ適度な緊張を保っておくことも重要だがな、と補足した後、彼女は俺と、俺の手首に巻いてある白いブレスレットを交互に見やる。

 

「他の者から散々言われていることだろうが、私からも一応伝えておくぞ」

 

「……無茶や無理をしすぎるな、か」

 

「その通りだ。機体の変化に慣れていないこと、つい先ほどまでダメージが原因で眠っていたこと。それを頭に入れておけ」

 

 ……第二形態移行を果たした白式は、はっきり言って以前とは別物な性能を持つ機体になっている。だから、俺は今から実質初めて乗るISで実戦に挑むことになるわけだ。『手に入れて間もないISで戦う』のは紅椿を操る箒も同じなのだが、俺とあいつとの間には大きな経験の差が存在している。今まで訓練機を用いて様々な動作の訓練を行ってきた箒と、白式専用の一撃必殺のための動きだけを鍛えてきた俺では、新しい戦い方に対する適応力が違いすぎるのが実情だ。ラウラの言う通り、俺はそのことを考えて無茶な戦い方は控えなければならないだろう。

 

「わかってる」

 

「ならいい。……それともうひとつ、お前に言っておきたいことがある」

 

「もうひとつ?」

 

「お前は、自分自身の意志で戦場に向かうことを選んだ。周りが止めようとする中、危険な道を選択したのだ。そのことを忘れるなよ」

 

「……ああ。それはもちろん」

 

 ……自分で決めた道なのだから、やれるだけのことは全力でやれ。与えられた役割は必ずこなせと、彼女はそう言っているのだろう。

 俺の役割はただひとつ、鈴と甲龍を敵の攻撃から守ること。

 

「必ず、守ってみせる」

 

 

 

 

 

 

 海中に息を潜め、銀の福音へ奇襲をかける準備を整える。

 作戦はすでに開始され、今頃上空ではラウラとセシリア、そしてシャルロットが福音に射撃で確実にダメージを与えているはずだ。

 そして、水の中に隠れている俺、鈴、箒の役目は――

 

「今っ!! 飛び出して退路塞ぐわよ!」

 

 1対3の状況で逃走という選択肢をとった福音の周りを取り囲み、離脱させないようにすることである。

 

「よし、逃げ道なくしたぞ!」

 

「あとは……」

 

「倒すだけね!」

 

 続いて箒が福音に接近戦を仕掛けるべく突っ込み、鈴は中距離からの衝撃砲による砲撃体勢に移る。

 今回の衝撃砲は火力に特化したタイプで、砲門が2つから4つに増え、さらに一撃一撃の重み、速度も増している。そのぶん『砲弾が見えない』という本来の持ち味は消え去り、炎に包まれた弾は赤く染まり、その存在を強く主張している。

 だが、弾丸が見えようが見えまいが、避けられない状況に相手を追い込んでしまえば攻撃は当たるのだ。

 

「いっけええ!!」

 

 箒が2本の刀で福音の動きを牽制している隙に、甲龍から威力十分の衝撃砲が発射される。攻撃するタイミングを知っていた箒はすぐさまそこから離れ、残された銀色のISに砲撃の雨が降り注いだ。

 これで終わってくれ、と心の底から願う。

 

「『銀の鐘』最大稼働――開始」

 

 しかし、非情にも福音はまだ止まらない。逃げることを中止したらしいそのISは、頭部から伸びる翼を目一杯広げ、全砲門からエネルギー弾を撃ち出してきた。主な標的は、比較的福音から近い位置にいる紅椿と甲龍だ。

 

「一夏!」

 

「任せろ!」

 

 箒のもとへ防御パッケージで強固なシールドを装備しているシャルロットが駆けつけるのを確認しつつ、俺は鈴に襲いかかる弾丸の雨の前に立ちはだかり、左手に持った大きな盾を構える。

 

「どう? 耐えられそう?」

 

「今は9割方の攻撃をカットできてるけど、いつまでもはもたないだろうな」

 

 盾越しに伝わってくる衝撃の強さを考慮して、鈴の問いに返事をする。やはり軍用ISの性能は半端じゃない、といったところか。

 第二形態移行によって白式に新たに与えられた装備のひとつが、現在進行形で使用しているこの純白の盾だ。シャルロットが普段使っている盾よりもひと回り以上大きいそれは、ISのほぼ全体を隠すのに十分なサイズを誇っている。

 もうひとつ追加された装備が、左肩の部分についている荷電粒子砲である。が、これは今は極力使わないようにしている。ISによる補助があるとはいえ、射撃にまったく慣れていない俺が味方の多いこの状況でそれをぶっ放すのは危険だと全員が判断したためだ。うっかり仲間に当てたりすれば大惨事だし、これは当然の意見だろう。

 

「盾が破られる前にこっちから突っ込むぞ」

 

「エネルギーの余裕は?」

 

「問題ない」

 

 手早く会話を済ませ行動を決定。背中のスラスターの出力を上げ、後ろに鈴を従えて中央突破を試みる。エネルギー弾の雨という向かい風に逆らって進むぶんエネルギーの消費は大きいが、おそらく今の白式にとってはそこまで負担にはならないはずだ。

 ――第二形態移行による変化のひとつに、機体に蓄えられるエネルギー総量の上昇というものがあった。エネルギーを食いまくる零落白夜の喪失とあわせて、どうやら俺の白式は短期決戦型から持久型に様変わりしたらしい。

 

「あと少し……」

 

 ラウラとセシリアの援護射撃が挟み撃ちの形をとっていることで、福音本体の動きはほぼ封じられている。だから、俺たちが前に進みさえすれば距離は確実に詰まる。

 残り距離300メートル、200メートル、100メートル……!

 

「よし!」

 

 十分接近したところで、白式の陰から甲龍が飛び出す。当然敵のエネルギー弾に曝されることになるが、その時間はあまりにも短く、ISのシールドエネルギーを削りきるにはまったく足りない。

 

「一夏、下がって!」

 

 鈴の指示を受け、その場から後退する。その瞬間、衝撃砲による赤い弾丸が唸りを上げて福音へと放たれ始めた。あれの巻き添えを食らえばひとたまりもないだろう。

 いよいよ標的を鈴ひとりに絞った福音の連射攻撃を、同じく衝撃砲の連射で一部相殺しながら……ついに、甲龍に装備された青竜刀『双天牙月』が銀の福音のマルチスラスターの片翼を断ち切った。

 

「もう一丁!」

 

 勢いに乗じてもう片方の翼も一気に奪おうとする鈴。だが福音の立ち直りも早い。スラスターを一部失ったことで崩した体勢を一瞬で整え、振り下ろされる双天牙月を白刃取りの要領で受け止めた。

 

「なっ……!」

 

 鈴の瞳が驚愕の色に染まり、時を同じくして福音の砲門が鈍く光り始める。そして、その時にはすでに俺は瞬時加速を発動させていた。

 

「うおおお!!」

 

 右手に握る雪片弐型を振り上げる。これが間に合えば福音のマルチスラスターを完全に破壊できる。間に合わなければ、鈴がやられる……!

 

「ぜああっ!!」

 

 届け、という俺の必死の叫びを神様が聞きとめてくれたのだろうか。

 今まさに福音の凶弾が至近距離の鈴に向かって発射されようかというタイミングで、白式の刀が福音を捉え、残った頭部のスラスターを破壊した。

 翼の喪失により完全にバランスを崩した福音の砲門からエネルギー弾が放たれるが、それらはすべて狙いを外して虚空へ消えていく。

 

「やった……!」

 

 ゆらり、と力なく落下していく銀の福音。武器を失ったと同時にエネルギーも尽きたのだろうか。

ともあれ、もはや福音に俺たちをどうにかできるだけの力は残っていない。戦いが終わったことにほっと息をつき、俺は福音の操縦者を助けるために海に落ちていく銀の機体に手を伸ばそうとし――

 

「………!!」

 

 ……違う。こいつは、まだ終わっていない。フルフェイス型のバイザーには何も映っていないはずなのに、まるで強烈な殺意を向けられたかのように背筋が凍りつく。

 

「な、何よこれ……」

 

 俺の抱いた悪い予感が正しいことを示すかのように、死に体になったはずの福音は体のあちこちから閃光を散らし、どこか産声に似たような機械音をそこら中に響かせる。

 

「………」

 

 無言のまま、福音の肩がぴくりと震える。

 

「――っ!」

 

 刹那、『やばい』という感覚が全身を駆け抜けた。もしあいつがまだ動けるなら、何かが原因で戦闘を続行することができるなら、その標的は……すぐ近くにいる、俺だ。

 

「そこから離れろ一夏! あれは『第二形態移行』だ!」

 

 切羽詰まったラウラの叫びが聞こえた気がするが、反応するだけの余裕はない。彼女の言葉が終わる前に、息を吹き返した福音が猛加速で俺の眼前にまで迫ってきていたからだ。

 

「くそ……」

 

 雪片弐型を構え、俺は今度こそ敵の動きを止めるために……

 

 何を、撃つんだ?

 

 一瞬の思考の停止。急接近する敵の存在に焦ったためか、俺の脳は『零落白夜で斬る』という選択を行おうとしてしまった。だが、その答えは当然不適。これまで俺の手にあった最強の切り札は、すでにどこかへ消えてしまっているのだから。

 ……そして、致命的な隙が生まれる。

 

「があっ……」

 

 加速の勢いそのままに、福音の蹴りが腹に直撃する。絶対防御越しに鈍い痛みが襲いかかり、俺は否応なしによろめいてしまった。

 

「敵機Aの対処を最優先。攻撃レベルを最大に」

 

 無機質な声がそう言ったかと思うと、福音の体のいたるところからエネルギーの翼が装甲を破って生えてきた。その数はゆうに30を超え、さらにそこから無数のエネルギー弾が白式を破壊せんと降り注ぐ。

 声を上げる暇もなく、俺は咄嗟に左手の盾を突き出し、なんとか攻撃を防ぎきろうと試みる。

 

「ぐっ、この……!!」

 

 だが、それはすぐに無駄なあがきだとわかった。最初に盾を使った時とは比べ物にならない量の弾丸が際限なく襲ってくる状況の中、俺の唯一の防御手段はあっという間に耐久値を減らしていき――

 

「一夏!!」

 

 誰かが俺の名前を呼んだその瞬間、盾を貫通したエネルギー弾の威力に吹き飛ばされた俺と白式は、激しい痛みとともに海へと沈みこんだ。意識が飛びそうになるところをなんとかこらえて動こうとするものの、残り25パーセントを切ったシールドエネルギーの表示を見て体がすくんでしまう。むしろまだ4分の1も残っていることを喜ぶべきなのかもしれないが、それでも今の攻撃で一気に6割削られたのは痛すぎる。

 ……どうする。どうすればいい? 敵は瞬時加速を使う上に全身からエネルギー弾を連射可能。仮にそれを乗り切り接近できたとしても、零落白夜がない以上一撃当てるだけでは勝負は決まらない。福音の体に何度か斬撃を当てる間に向こうからの攻撃をまともに食らえば、今度こそエネルギー切れで行動できなくなってしまう。

 

「くそっ!」

 

 答えが出ない。自分がどうするべきか、その答えが。

 それでもとりあえず海面から顔を出した俺は、戦況を確認するために空を見上げる。

 

「………!!」

 

 視界に映ったのは、恐ろしいまでの機動力と攻撃力を兼ね備えた銀の福音・第二形態が、戦場を支配し暴れまわる姿だった。鈴たちも連携をとって必死に立ち向かおうとしているが、セシリア、ラウラ、シャルロットの射撃は命中せず、なんとか接近戦に持ち込もうとしている鈴と箒は致命傷を受けないようにするので精一杯に見える。

 ……福音を止める手段は思いつかない。だが、はっきりわかることがひとつだけある。

 ――このままだと、全員やられる。

 

「悩む暇なんてない……」

 

 無茶をするな、と言われた。

 与えられた役割は全力でこなせ、とも言われた。

 俺の役割……鈴を、守ること。

 ……そうだ、守るんだ。守りたいんだ。守らなければならないんだ。

 それができないのなら。

 

 ――シンダホウガ、マシダ。

 

 パチン、と。頭の中で、何かが切り替わる音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

「うっ!」

 

 衝撃砲をエネルギー弾で相殺しながら接近してきた福音が甲龍の右腕を蹴り上げ、操縦者の鈴にも痺れるような痛みが伝わってくる。

 さらに悪いことに、今の衝撃で右手に握った双天牙月が飛ばされてしまった。

 

「しまった――!」

 

 衝撃砲は今しがた限界まで連射を終えたばかり。近接用武器も手元から失われてしまっている。そして、目の前には無表情でこちらを見つめる銀色のIS。

 

――詰みだ。

 

 頭の中で組み上げられた結論に彼女が絶望していた、その時のことだった。

 

「うおおオオッ――!!」

 

 今まで聞いたこともないような雄叫びを上げながら、白式――織斑一夏が、瞬時加速で突っ込んできた。右手には雪片弐型、そして左手には、ついさっき鈴の手を離れた双天牙月が握られている。

 福音に勝るとも劣らない速度を持ったまま斬りかかる一夏に、福音も少しだけ対処が遅れたようだ。振り下ろされた雪片弐型を片腕で受け止めざるを得なくなり、装甲の一部が破壊される。

 

「鈴! お前の刀、借りるぞ!」

 

「え? わ、わかった!」

 

 鬼気迫る表情の一夏に圧倒され、言われるがままに鈴は双天牙月の使用許諾(アンロック)を行う。通常、あるISの装備を他のISが使用することはできないが、その装備の所有者が使用許諾を出せばその縛りを消すことができるのだ。

 

「らあああっ!!」

 

 白式の左手にある双天牙月の刃が高速回転を始める。これで、今だけあの刀は一夏の得物になったはずだ。

 

「俺がなんとかこいつの動きを止める。みんなはそのタイミングで一斉攻撃をかける準備をしてくれ!」

 

「なっ……馬鹿! ひとりで福音の相手なんてできるわけが――」

 

 反論しようとした鈴の唇の動きが、思わず途中で止まってしまう。なぜなら……

 

「なんで、相手できてるのよ……」

 

 

 

 

 

 

「おおおおっ!」

 

 刃の部分が大きい双天牙月で襲いかかるエネルギー弾の一部を弾き飛ばし、一部は回避する。それでも多少は弾丸を機体に受けてしまうが、この程度は気にしていられない。

 

「ちっ……」

 

 間髪入れずに雪片弐型を振り下ろすものの、すんでのところで回避される。最初の戦闘で使ったフェイクももはや通用しそうにない。

 

「まだ……こっからだ!」

 

 相手の動きが心なしかスローに見える。エネルギー弾の弾道を予測し、避けるだけの時間をとることができる。脳がスパークしているかのような感覚が続いている間、俺の反射速度、思考能力は極限にまで研ぎ澄まされていた。

 これと同じような状態を、俺は以前に1度だけ経験している。先月末の学年別トーナメント1回戦での、ラウラのAICを打ち消したあの瞬間。今度はそれが、ある程度の時間持続しているのだ。

 

「つっ……!」

 

 なぜこんなことが起きているのか、その理由はわからない。ただ、先ほどから継続的に襲ってくる鋭い頭痛は、今の俺が何かしらの限界を超えてしまっているのだろうということを予測させた。

 とにかく、今はそんなことはどうでもいい。俺がやるべきなのは、福音に一発入れて動きを止め、とどめの一撃につなげる役目を果たすことだ。

 

「くっ……」

 

 だが、なかなかその機会を作ることができない。最初こそ奇襲の勢いを保ってほぼ互角に渡り合えていたものの、現在は少しずつ押されている状況だ。これでは相手に隙を生み出すのはかなり難しい。

 エネルギーは瞬時加速を使ったこともあって残り10パーセントほど。こちらも余裕があるとはとても言えない。

 

「はああっ!!」

 

 そんな折、別方向から福音に2本の刀が襲いかかる。惜しくも当たらなかったが、それでも福音の攻撃を受けかけていた俺のダメージを減らす結果にはなった。

 

「箒!」

 

「私も加勢する! 2人でなんとか隙を作るぞ!」

 

「おう!」

 

 箒が加わったことで手数が倍になり、徐々に体勢を持ち直していく。エネルギーは、残り7パーセント。

 

「焦るな……!」

 

 心を乱せば、それに引きずられて思考も遅くなる。そうなれば、もう勝ち目はない。

 ……残りエネルギー、3パーセント。

 

「箒!」

 

「よし!」

 

 エネルギー残量、2パーセント。福音が見せた小さな隙を広げるために、俺と箒は息を合わせて4本の刀を同時に振り下ろす。

 

 エネルギー、残り1パーセント。

 

「今だ!」

 

 4つの斬撃のうち、双天牙月の刃が福音の胴体にヒット。その結果、俺たちの勝利への道筋がついに完成した。

 

「撃て!!」

 

 ラウラの一声と同時に放たれるは、『シュヴァルツェア・レーゲン』、『ブルー・ティアーズ』、『ラファール・リヴァイヴ』、『甲龍』の4機による1点集中砲撃。ひとつひとつが強大な威力を持つ攻撃が、防御も回避も取れない福音を容赦なく飲み込んだ。

 

「………」

 

 今度こそ、銀の福音は完全に停止した。装甲が具現維持限界に達しかけているようで、操縦者を包みこむ装甲がすでに消えかかっている。

 

「ふう……」

 

 よかった……みんなを、守ることができた。

操縦者を箒が無事抱きかかえたのを確認して、俺は大きく安堵の息をつく。シールドエネルギーはぎりぎり1パーセント残っているが、いつゼロになるかわかったもんじゃないので誰かに乗せて帰ってもらうことにしよう。

 

 ――何はともあれ、こうして銀の福音の暴走事件は幕を閉じたのだった。

 




なんとか福音を撃破することができました。またまた一夏がおかしな能力を発揮していますがこれについては今後の展開のどこかで説明される時が来ます。
白式のスペックについてもそのうち劇中で詳しく話すつもりです。ポリゴンZがポリゴン2になった感じといえばわかりやすいかもしれません。
次回でようやく原作3巻の内容が終了です。ちなみに章タイトルの「運命の相手」って鈴だけのことを指しているわけではなかったりします。

しばらく出番のなかった束とかその他もろもろのイベントを次回で処理しきれるのかちょっと不安ですが、今後もよろしくお願いします。

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