IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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もう毎日更新が途絶えた……3日坊主ですらないという体たらく。
ちなみにこの作品は転載ではありません。毎日5時間くらいかけてキーボードに打ち込んでいます。なのでこれからも更新が遅れたりすることがあると思います。

しかしISというジャンルにもたくさんの作者様が投稿していらっしゃいますね。僕も埋もれないように頑張っていきたいです。


第2話 むかしのおはなし②

 ある日、鈴が学校を休んだ。担任の先生曰く風邪をひいたとのこと。昨日は咳が多かったからもしかしたらと思っていたが、予想通り冬の寒波にやられてしまったらしい。

 

「女房が欠席で落ち込んでるのか? 一夏」

 

「風邪ひいて休んだくらいで何を落ち込むんだ。それと女房じゃない」

 

 相変わらず同じネタでからかってくる弾を軽くあしらいつつ、家に帰ったら電話でもしてみるかー、とおぼろげながらに考える。

 

「ちぇ、反応が薄くなってきたなー」

 

 俺のそっけない態度がお気に召さなかったらしい。俺から視線を外して窓の向こうを眺める弾の様子は、なんだか妙に拗ねてる感じに見えた。……そういえば最近、鈴を優先しすぎてこいつにかまってあげてなかった気がする。

 

「弾、久しぶりに2人でゲーセンにでも行かないか」

 

「っ! お、おう! いいな、久しぶりに行こうぜ!」

 

 さっきまでの態度から一転、二つ返事で快諾した弾。ひょっとして結構さびしがり屋なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、また明日な」

 

「ああ」

 

 軽く弾と挨拶をかわした後、ひとりで帰路につく。夕陽もほぼ沈みかけで、少し辺りが薄暗くなってきた。ここの通りは人の数も少ないし、ちょっと薄気味悪い。

 

「たまにはゲーセンで遊びまくるのも楽しいもんだな」

 

 今度は鈴も連れて3人で行ってみるか、などと考えていると、前方から見知った人影が近づいてくるのに気づく。

 

「あら、一夏くんじゃない」

 

「おばさん……こんばんは」

 

 笑顔で声をかけてきた鈴のお母さんに対して、俺もとりあえず笑顔を作って返事をする。だが、内心は複雑だ。鈴から事情を聞いて3ヵ月が経って、そろそろ1月も終わりを迎えようかという時期。はたして凰夫妻の今の状態はどこまで悪くなっているのか。もし離婚するならば、それはいつのことになるのか。 

 聞きたいことは山ほどあった。感情に身を任せて動いていれば、俺は今頃おばさんに詰め寄って思いの限りをぶつけていただろう。

 だがそれはできない。凰家の事情を俺が知っているのはおかしいし、そもそも知るべきことでもない。それを教えた鈴が確実に怒られることになる。さらに言えば、結婚生活というものを知らない俺が何を言ったところで、おばさんにはただの戯言にしか聞こえないだろう――そう考える理性が、ぎりぎりのところで感情が流れ出すのをとどめている。

 

「おばさん。鈴の具合はどうですか? まだ熱とかあるんですか?」

 

「お昼まで寝たら熱もすっかりひいて、今はもうぴんぴんしてるわよ。明日にはいつも通り登校できると思うから」

 

「そうですか、それはよかった」

 

 当たり障りのない会話をするために選んだ話題だったが、これはこれで気になっていたことだったのでひとまず安心する。鈴は普段なかなか病気にかからないぶん、一度体調を崩すと結構長引く傾向があるのだ。でも今回は問題ないらしい。

 

「いつも悪いわねえ、うちの馬鹿娘が世話になって。最近、特に一緒にいてくれてるでしょう」

 

「いえ、礼を言われるようなことじゃないですよ。俺も鈴と一緒にいると楽しいし」

 

「それでもよ。一夏くんは器用だし気も利くし、あの娘の友達にはもったいないくらいよ」

 

 そこでいったん言葉を切った後、おばさんは少しだけ声を小さくしてこう言った。

 

 

「――ほんと、うちの旦那とは大違い」

 

 ――事情を知らなければ、俺はその言葉を冗談と受け取り、軽く聞き流していただろう。普通に解釈すれば、今のおばさんの発言はなにげない軽口に他ならないのだから。

 だが、俺にはそうは思えなかった。うがった見方だと言われればそれまでだが、そこには冗談以外の意味も含まれているのではないか、と感じざるを得なくて。一度そう考えてしまえば、ぎりぎりのところで保たれていた心のバランスが壊れるのはすぐのことで。

 

「……離婚、するんですか」

 

 気がつけば、そんなことを口走ってしまっていた。

 

「…………っ」

 

 言ってすぐに後悔したが、もう遅い。おばさんの表情が驚愕と困惑に染まり、やがて厳しい顔つきになる。……当然だ。俺が知るはずのない話だったうえに、他人に聞かれて気分のいい類のものでもないのだから。

 

「……鈴音から聞いたの? 」

 

 先ほどまでのものとは違う、明らかにとげのある硬い声。……ここまで来た以上、ごまかすのは不可能だ。

 

「……はい。でも、話すように言ったのは俺です。あいつは……鈴は、隠そうとしてました。辛そうな顔、みんなに見せないようにしてました」

 

 すんでのところで平衡を保っていた理性と感情の天秤が崩れていく。もうだめだ、どうやっても口が動くのを止められない。

 

「……離婚、するんですか」

 

 声が震えていることを自覚しながら、今一度核心を突いた問いを投げかける。 ――できれば……いや、なにがなんでも首を横に振ってほしい、そんな問いを。

 おばさんは俺の言葉に顔をしかめてしばらく黙っていたが、結局ため息ひとつとともに答えを口にした。

 

「……ええ。今年の3月、離婚するつもり。だから3年生になったらあの子は中国に帰ることになるわ」

 

「……っ!!」

 

 最悪の答えは、もうすでに決定事項となっていたようだ。頭が一瞬真っ白になり、体中から力が奪われる。

 ――いやだ。そんなのは、いやだ。認めたくない。

 

「離婚しないでください! お願いします!」

 

 遠慮も何もあったもんじゃない、あまりにもストレートな物言い。一縷の希望にすがるように、俺は頭を下げて懇願していた。なんでもいい、これで何かが変わってくれるなら、それがどんなにいいことか――

 

「……ごめんなさいね。一夏くんと鈴音には悪いけど……旦那とよく話し合って決めたことだから」

 

 穏やかな言葉遣いによる、断固とした拒絶。これ以上はかかわるなと、おばさんの目がそう言っているように感じた。――わかっていたことだ。子供の俺が何を言ったって、現実が変化することはない。そんなこと、最初から知っていた。

 

「……なら」

 

 それでも諦めきれない。何か、何か鈴のためにできることはないのか。離婚が避けられない事実なら、せめてその前にあいつが家族と一緒に笑いあえるような、そんな――――

 

 

「なら――みんなで遊園地に行きませんか」

 

「……え?」

 

 ぐちゃぐちゃの思考の中から俺が作り上げた答えに、おばさんはしばし固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 あれはいつのことだったか。少なくとも中学に上がる前に、鈴はこんなことを言っていた。

 

『ずーっと前にお父さんとお母さんと一緒に遊園地にいったことがあるんだけど、あれは楽しかったなあ』

 

 そんなあまりにも些細な記憶を引きずり出して、俺は家族で遊園地に行くことを提案したのだった。

 ――そして今、俺たちがいるのは隣町の大きなテーマパーク。

 

「すみません。うちの弟が無理を言ったようで」

 

「いえいえ、そんなことはないですよ」

 

 千冬姉とおばさんが話しているのを聞きながら、俺は鈴とどこをどのように回るか計画中だ。

 

「とりあえず人が多いところは避けて、数をこなす方針で行くか」

 

「そうね。せっかくみんなで来てるんだし、待ってるばかりじゃもったいないわ」

 

 現在俺と一緒にいるのは、鈴とおじさんとおばさん、それに千冬姉だ。本当は凰家だけで家族水入らずな感じにしたかったのだが、夫婦仲が険悪な以上、そうするといつ喧嘩が起きて遊園地から帰ってしまうかもわからない。そう考えた結果、2つの家族が合同で遊ぶという作戦を思いついたので、千冬姉を無理やり引っ張ってきたという次第だ。

 

「……それじゃ、そろそろ動くとしますか」

 

「うん。……ありがと、一夏」

 

 俺にしか聞こえないように礼を言って、鈴は自分の両親のもとへ向かう。……ここに来る計画を立てたことに対する礼なら、今日一日存分に楽しんだ後にすべきだと思うけどな。

 まあいいや。とにかく遊ぼう。そして、鈴に大切な思い出を作ってもらうんだ。

 

 

 

 

 

 

『なら――みんなで遊園地に行きませんか』

 

 娘の友人のいきなりの提案に、鈴音の母は一瞬戸惑った。だが、離婚前の最後の思いで作りにはちょうどいいと考え、さほど時間をかけずに承諾した。帰宅したのち、もはや完全に仲の冷え切った夫にそのことを伝えると、意外なことに2つ返事で了承したのだった。

 

 

「千冬姉、コーヒーカップ回しすぎ」

 

「……思い切り回すのが流儀だと言ったのはお前だろう、一夏」

 

「それでも限度ってものがあるだろ。ほら、鈴の様子をごらんなさい」

 

「……きゅー。星が、星が見えるスター……」

 

「……以後、気をつける」

 

 しゅんとうなだれる千冬の姿に新鮮味を覚える。実際の年齢以上に成熟した雰囲気を持っている彼女だが、意外と子供っぽい一面も持っているらしい。

 続いて自身の娘の方へと視線を移す。今は目を回しているが、先ほどまでは元気にあちこち走り回っていて、中学生とは思えないほどはしゃいでいたのである。

 

「……楽しそうね、鈴音」

 

 隣に立っている夫に向けて、自然と言葉が漏れる。最近は必要最低限のことしか話さなくなっていた彼女にとって、これは十分驚くべきことだった。

 

「ああ、そうだな」

 

 そして、夫がごく自然に返事を返したことも驚きだった。確かに今日だけは娘のためにできるだけ仲良くしようとお互い心がけていたはずだが、それでももっとぎこちないものになると思っていたのに。

 一体なぜだろう、と彼女が思案していると、いつの間にか復活していた鈴音がこちらに駆け寄ってきている。

 

「お父さん、お母さん。次はあれ一緒に乗らない?」

 

 疑問形で聞いてきたにもかかわらず、すでに両親の腕をつかんだ鈴は、答えも聞かずにそのままアトラクションの方へと走り出す。

 

「ちょ、ちょっと鈴音……」

 

「ほら、早くー!」

 

 そう言いながらこちらに振り向いた鈴音が見せた笑顔は、心底楽しそうなもので。

 

「――――あ」

 

 それを見たとき、唐突に昔の光景を思い出した。……いつだったか、初めて家族3人で遊園地に行ったことがあった。その時も、鈴音はまったく同じ表情で、本当に幸せそうに彼女と夫を引っ張りまわしていた。その頃は夫婦仲もまったく悪くなかったので、何に遠慮するということもなく3人で笑いあって――

 

「……ああ」

 

 納得した。なぜ先ほど夫と普通に会話できたのかという疑問が氷解した。きっと頭が思い出す前に、心があの頃へと戻ろうとしていたのだろう。

 隣で同じく鈴音に引っ張られている夫の方を見ると、彼も何かに気づいたような顔をしている。おそらく同じことを考えているのだろう。

 ――夫婦の仲が壊れてしまっていても、それぞれの娘への愛は変わらない。彼女は鈴音のことを大事に思っている。夫と別れた後も、愛娘を大切に育てていくつもりだ。

――だが、それでも。

 離婚するということは、娘が今見せている最高の笑顔を、壊すことになる。それは、はたして許されることなのか。初めて鈴を遊園地に連れて行った時の自分なら、そんなことは絶対に許容しないのではないか。娘を愛していると言っておきながら、何年も過ごすうちに、その想いが薄れてしまっていたのではないのか。

 罪悪感が彼女を襲う。認識が甘かった。離婚は親としてやってはいけない最低なことだと理解したうえで選択したはずの決定が、今になって揺れ始める。

 どちらからともなく、夫と視線が合う。お互いの目が、おそらくこう語っていた。

 ――このままでいいのか、と。

 

 

 

 

 

 

 夕刻になり、閉園のアナウンスが園内に響き渡る。

 ――楽しかった。きっと鈴もそう思ってくれているだろう。おじさんもおばさんも千冬姉も、俺たちに文句ひとつ言わずについてきてくれた。計画の発案者としては、満足のいく結果になったと感じる。

 

「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

 

 願わくば、これが鈴にとって大切な記憶になるように――

 

「……鈴音、一夏くん。少し話したいことがあるんだが、いいかな」

 

 そんな折、おじさんが俺と鈴を呼び止める。いったいどうしたのかと思ったが、おじさんの真剣な顔つきを見て、おそらく離婚がらみの話だとわかった。千冬姉をどうしようかと考えたが、空気を察したのかいつの間にかいなくなっていた。我が姉ながら尊敬すべき対応の速さだ。

 とにかく、これで心置きなく話を聞くことができる。

 

「……今日一日、鈴音はとても幸せそうだった」

 

 おじさんが語り始める。隣にはおばさんが立っているし、おそらく2人で話し合ったことが何かあるのだろう。

 

「俺たちは娘を大事にしたいと思っている。……だが離婚するということは、鈴音から今日味わったような幸せを奪うことになる。――それはできないと、俺たちは思った」

 

「っ! じゃあ……」

 

 離婚はなしということに――

 

 

「……それでも、俺たち夫婦は離れなくちゃならない。今のままじゃ、うまくいかないことが多すぎる」

 

「そんな――――!?」

 

 俺と鈴の声が重なる。……結局、何も変えられないのか――!!

 悔しさに唇をかみしめると、口の中に鉄の味が広がってきた。鈴も顔を下に向けて、暗い顔つきになる。

 ――でも、そんな俺たちを見たおじさんは、なぜか穏やかな笑みを浮かべた。

 

「……だが籍を外すわけじゃない。あくまで別居だ」

 

 ……え? それはつまり、どういうことなんだ。

 

「一度離れて、それなりに時間を置いて互いに気持ちの整理がついたら、元の状態に戻るということだ」

 

 ――言葉の意味を理解するまでの間、鈴と一緒に仲良く呆ける。

 

「え、えっと、ということは……」

 

「時間さえおけば、また3人一緒に暮らせるってこと……?」

 

「……ああ。そういうことだ」

 

 おじさんの言葉に、おばさんもうなずいた。

 その瞬間、俺はうれしさと安堵で体中の力が抜けて。

 鈴は、とめどなくあふれる涙を隠そうともせず、大音量でうわんうわん泣いていた。何事かと近くを歩いていた人たちが振り向くが、今は気にしないでおこう。とりあえずは、千冬姉に『もう大丈夫だ』とメールでも送っておくか。

 

 

 

 

 

 

 そして月日は流れて、春休み。

 

「わざわざ見送りに来てくれてありがと」

 

「別に。暇だったしな」

 

 ――結論として、鈴は中国に戻ることになった。理由は単純なもの。別居にあたり、おばさんは中国の実家へ戻ることになっていた。そしておじさんとおばさんを比べた場合、おばさんの方が心配だと判断した鈴は、彼女を支えるために一緒についていくことに決めたのだ。俺としては寂しい限りだが、本人が決めたことなら反対する気にはならない。

 そういうわけで今、中国へと出発しようという鈴とおばさんを、おじさんとともに空港で見送りに来ている。ちなみにおじさんは店を続ける気のようで、早くバイトを雇わなくちゃならんとかぼやいていた。俺も受験勉強が本格化する夏くらいまでは手伝いをしようと考えている。

 

「ま、体に気をつけるんだぞ」

 

「そっちもね。たまには連絡よこしなさいよ」

 

「ああ、わかってる」

 

 しばらく会えなくなるとはいえ、毎日学校で顔を合わせていた仲だ。今さら特に話さなくちゃいけないこともない。

 そうやって他愛もない話をしているうちに、そろそろ搭乗を締め切るというアナウンスが流れる。

 

「そろそろ行かないと。……じゃあ、2人とも元気でね」

 

 おばさんはそう言い残して、搭乗口へ向かって歩き出すが、鈴は動かず立ったままだ。

 

「……ごめん。ちょっと一夏に言い忘れたことがあるから、先に行ってて」

 

 遅れないようにするのよ、と注意して、おばさんは先に向かって行った。

 

「あとお父さん。ちょっとどこかに行っててくれない? 一夏と2人きりで話したいの」

 

「まあ、かまわないが……」

 

 頭に疑問符を浮かべながらも、おじさんはこの場から離れる。これで残ったのは俺と鈴だけになった。

 

「それで鈴、いったい何の話なんだ?」

 

「一夏。10秒間目を瞑りなさい」

 

 ……なんかそれ、前も聞いた気がするんだが。あの時は確か俺の大嫌いなジュースを押し付けてきたんだった。

 

「またいたずらでもするつもりか?」

 

「いいから早くしなさい! 時間がないんだから……」

 

 妙に焦っている鈴。……まあ搭乗までに時間がないのは事実だし、ここは素直に従っておこう。

 

「わかった。ほら、目瞑ったぞ」

 

 このまま10秒。何をしてくるのかわからないので、とりあえず身構えておく。

 

 1秒。2秒。3秒。4秒。5秒。何も起こらない。

 6秒。7秒。8秒。……もう10秒経っちまうぞ?

 9秒。ひょっとしてこのまま何もしないつもりなんじゃないだろうな――

 ――そう思った、直後のことだった。

 

 

 

 

「――――好き」

 

 瞬間、唇に何かが触れた。それは今まで味わったことのないような、柔らかくて温かい、何か得体のしれない感覚のモノ。

 反射的に目が開く。この唇に触れているものは、一体なんなのか――

 

「……んっ」

 

 視界はほぼすべて、鈴の顔に覆われていた。精一杯背伸びして、俺の顔の位置に自らの顔を持ってきた鈴は、そのまま唇を俺の唇に重ねていた。

 

 ――――思考が、全部消し飛んだ。頭の中が真っ白どころかめちゃくちゃにかき回されて、何も考えることができずに、ただ目の前の鈴の顔を見つめることしかできない。

 目を瞑っている鈴の、睫毛の一本一本が確認できる。きれいな肌は、りんごみたいに真っ赤になっている。

 ――ああ。なんか、すごくエロくて、バカみたいに可愛い。

 

「…………」

 

 一瞬にも永遠にも感じられた時間は、鈴が俺から顔を離したことで終わりを告げた。……なんだか名残惜しい。ずっと見ていても飽きないような光景だったのに。

 

「…………」

 

 お互い、何も話さない。というより話せない。鈴の方はどうだか知らないが、俺はいまだに頭がとろんとしていて言葉が出てこない。

 

「……もう一度言っておくわ。アンタのことだから聞き逃してそうだし」

 

 たっぷり時間を置いた後、鈴がようやく口を開いた。

 

「……好きよ」

 

 そうしてそのまま、搭乗口へと走り去って行った。

 

「…………」

 

 その姿が見えなくなり、さらに2分ほど経って、ようやく俺の脳が正常に働き始め――

 

「…………え?」

 

 同時に、今起きた事の重要性に気がついた。

 

「……告白されて、キスされて、もういっぺん告白されて」

 

 な、ななななななななななな――――

 

「なああああああああああああ!!??」

 

 

 

 ――余談だが、おじさんは気になって俺たち2人をこっそり観察していたらしく、俺が正気に戻った後も1時間は石化していた。




というわけでかなり駆け足になりましたが過去編はこれで終了です。というか、12000文字くらいで過去編書きましたけど、やっぱりこれじゃあ描写不足ですよね。でもなかなか本編に入らないのもそれはそれで問題だし……まあ、とりあえず次回から原作1巻の内容に突入です。一夏と鈴が中心ですが、箒やセシリアの出番もちゃんとあります。予定では。

あと今回疑問符・感嘆符の後の空白を全角にしてみました。もし何か意見等あればお知らせください。

では、また次回。

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