IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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大学の授業も本格的になってきたので、今後は週1~2更新になりそうです。

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読者の皆様、本当にありがとうございます。


第26話 恋人同士

「あの……鈴? 大丈夫か?」

 

「……うん」

 

「なんか目の焦点が定まってないように見えるんだが」

 

「……うん」

 

「俺の話、ちゃんと聞いてるか?」

 

「……うん」

 

「お前、胸小さいよな」

 

「……うん」

 

「……ダメだ、完全に上の空になってる。とりあえず寮に連れて帰るか――」

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

 

 凰鈴音が目を覚ますと、そこはIS学園学生寮の自室であった。自分の体がベッドの上にあることを確認した彼女は、はて、と首をかしげる。というのも、昨晩寝床に入った記憶が――いや、それどころか夕食をとったあたりから後の出来事が頭の中からすっぽりと抜け落ちているのだ。

 

「まさかこの歳でもうボケが始まったなんてことはないでしょうね……えっと」

 

 枕元の時計が午前5時半という早朝の時刻を示しているのをちらりと眺めつつ、鈴は昨日何があったかを思い出そうとする。

 昨日は一夏とデートで、水族館に行ってたくさんの生き物を見て楽しんだ。その後は両親が経営している店に足を運んで晩御飯を食べた。しばらく見ないうちに父親と一夏の関係がおかしな方向にこじれていたことを知り、少し戸惑ったのを覚えている。

 そして夕食後、一夏の提案で裏の空き地でキャッチボールをすることになって――

 

「キャッチボールを、して……」

 

『あのさ、鈴。……俺、お前のこと好きだ』

 

「………!!」

 

 告白された。大好きな、織斑一夏という男の子に。

 それを思い出した瞬間、鈴はベッドから跳ね起きて部屋を飛び出す。

 

「ん~? どうしたの鈴……」

 

 ルームメイトの寝ぼけた声が聞こえた気がしたが、反応する余裕がない。全力疾走で廊下を駆け抜け、今まで何度も訪れた部屋のドアの前までたどり着く。

 

「一夏! 中に入れなさい!」

 

 ドンドンとドアを叩いて呼びかけるも、なかなか返事が返ってこない。どうやらまだ眠っているようだ。

 

「ああ、じれったい……!」

 

 こっちはこんなに胸がドキドキしているのに、のんきに眠っているとはどういう了見だ、という自分でも理不尽だと思える怒りがふつふつと湧き上がる。ISを部分展開してドアを吹っ飛ばしてやろうかという危険な思考が一瞬頭をよぎったが、理性がその凶行に及ぶのをなんとか押しとどめていた。

 

「……鈴? どうしたんだ、こんな朝っぱらから」

 

「やっと起きた! ほら、早く鍵開けて!」

 

「なんだよ急に……てか、まだ5時半じゃねえか。周りの部屋の人に悪いから静かにしてくれ」

 

「うっ」

 

 ドア越しに聞こえる一夏の落ち着いた声に頭を冷やされ、鈴は今さらながら自分がはた迷惑な行動をとっていたことに気づく。早朝からドアを叩いて大声を出すなんてことをしていれば、一夏以外の人間の安眠を妨げてしまうのは間違いない。

 

「ご、ごめん……」

 

「俺に謝ることでもないけどな。まあいいや、とにかく入れよ」

 

 がちゃりと扉が開き、一夏が顔をのぞかせる。寝起きだからだろうか、あくびをしながら鈴に手招きをする彼は、いつもよりもふわふわした雰囲気でなんだか子供っぽく見えた。

 

「あ、あのさっ」

 

 部屋の中に入った鈴は、早速一夏に聞きたかったことを尋ねる。

 

「あ、あたし……昨日アンタに好きだって言われた気がするんだけど。その、これって現実に起きたことなの? あたしの夢とか妄想の類の代物だったりしない?」

 

 つまるところ、鈴は自分の記憶に自信が持てなかったのである。本当にそんな、彼女にとっての理想の出来事が起きたのかどうか。

だから一目散に一夏のもとへ駆け込み、真相を確かめにきたのだが。

 

「……はあ。なんだかすごく混乱してるみたいだけど……確かに俺は、昨日の夜にお前に告白したぞ。で、その後何を言っても壊れた機械みたいに『うん』しか返事をしなくなっちまったお前を連れて部屋まで送って、残りの処理はハミルトンさんにお願いしたんだ」

 

 少し照れが入った笑みを浮かべながら彼が発した言葉を聞いた途端、自らの顔が急激に熱くなるのを感じる。きっと昨晩は今の比じゃないくらいの衝撃を受けて、そのせいで脳がオーバーヒートを起こして機能を停止してしまっていたのだろう。

 

「ほ、本当に? 嘘じゃない?」

 

「本当だ」

 

「本当に、本当に、事実なのよね?」

 

「……あんまり言ってると怒るぞ。人が覚悟を決めて自分の気持ちを伝えたってのに、そう疑うなよ」

 

 怒ると言いながらも、一夏は優しげな表情で鈴に語りかける。それを見て、鈴はようやく不安を捨て去ることができた。

 

「……でも、どうしてあたしのことを?」

 

 クラス対抗戦が終わった後、一夏は言っていた。『自分の鈴に対する気持ちがよくわからない』と。だから、その答えが出るきっかけが今までにあったということになる。それがなんなのか気になって、彼女はそんなことを尋ねていた。

 

「どういう経緯で、か……」

 

 頭をかきながら、一夏は恥ずかしそうに少しうつむく。やや間を置いた後、彼はゆっくりと己の心情を吐露してくれた。

 

「自分の気持ちに気づいたきっかけは、ラウラとのキスだったんだ」

 

「ラウラとの、キス?」

 

「そう。あの時いきなりラウラにキスされて、正直に言うとうれしかった……待て、そんなに怖い顔するなよ」

 

無意識に握りしめられた鈴の右拳を見た一夏の額に冷や汗が流れる。

 

「……あたしを好きになった理由を話してるのよね? ラウラじゃなくて」

 

「そうだ、だから話を最後まで聞いてくれ。……確かにラウラとのキスはうれしかった。だけどさ、ファーストキスの時とは感じたことが違ったんだよ」

 

 ファーストキス、という単語に鈴の体がぴくっと反応する。一夏のファーストキスは去年の春、その相手は。

 

「……鈴にキスされた時はさ、『終わるのがなんだか名残惜しい』って思ったんだ。それだけじゃない、エロいとかなんとか、邪念がかなり湧いてきてた。そういうのが、ラウラの時にはなかったんだ。どっちもかわいい女の子からの不意打ちのキスだったのに、はっきりした違いがあった。それで考えたんだ、俺にとって鈴は特別な存在なのかもしれないって」

 

 一夏の言葉を聞くうちに、収まりかけていた胸の鼓動が再び激しくなる。

 

「自分の想いがはっきりわかったのは昨日のキャッチボールの時だ。……一緒にいてすごく楽しい女の子。口は悪いけど、なんだかんだで面倒見のいいところも気に入ってる。……そして、たまに見せる照れたり恥ずかしがってる姿がとてもかわいい。鈴のそういう『女の子らしさ』を、もっともっと知りたい、見てみたい。そう感じた。これはきっと、好きってことなんだと思う」

 

「……そ、そうなんだ。女の子らしさか……」

 

 ――どうしよう。めちゃくちゃうれしい。

 

 思わず目尻に涙が浮かんでしまう。今すぐ天に向かって叫びたいレベルで喜んでいる鈴だが、先ほど騒音を立ててしまったという反省を踏まえ、雄たけびをあげるのは自制している状態である。

 

「じゃ、じゃあ……これであたしたち、両想いってことになるのよね」

 

「そうだな」

 

「だったら……これからは彼氏彼女の関係になるのよね」

 

「……ああ」

 

 当たり前のことを確認するだけで、気恥ずかしさがこみあげてくる。向こうもそれは同じようで、顔を赤らめて視線を鈴からそらしていた。

 

「ねえ、一夏」

 

 でも、その恥ずかしいという気持ちさえも今の鈴には心地よくて。

 

「……キス、してくれない?」

 

 だから、今までなら絶対に言えないようなら大胆なセリフも、戸惑うことなく口にすることができた。

 

「き、キス……か」

 

「うん。一夏のほうからされたこと、ないから……してほしい」

 

「……恋人同士、だもんな。わかった」

 

 一夏がこくりとうなずくのを見て、鈴はゆっくりと目を閉じる。唇をつい、と突き出し、キスを受け入れる体勢に――

 

 ガチャリ

 

「一夏、何やら騒がしいがどうかしたのか」

 

「駄目だよラウラ、入る時はちゃんとノックしない……と……」

 

 突然部屋に入ってきたラウラとシャルロットが、今まさに唇を重ね合わせようとしていた鈴と一夏を視界に入れて……場の空気が凍りついた。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 しばらくの間、気まずいなんてもんじゃない沈黙が続き――

 

「し、失礼しました!」

 

 引きつった笑みを浮かべたシャルロットは、ラウラの腕を掴んでそのまま部屋から出て行った。

 

「どうしたのだシャルロット。私は一夏に話が」

 

「空気を読もうラウラ! これからあの2人は幸せなキスをして、抱きしめあって、それから――」

 

「お願いだから廊下でそんな話をするのはやめてくれ!!」

 

 扉越しから聞こえてきたシャルロットの話の内容に危険なものを感じ取った鈴たちは、すぐさま彼女の確保に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「……まあ、その。俺たち、付き合うことになりました」

 

「でも節度は守るから。シャルロットが想像してるようなことは決していたしません」

 

「べ、別に、僕も本気で2人が朝からえっちなことするって考えてたわけじゃないんだよ? ただ、いきなりあんな場面に出くわしたから驚いちゃって……」

 

「寝起きのキスは口臭が鼻につくから気をつけた方がいい……と、この前クラリッサが言っていたな」

 

 2人を部屋に連れ戻した後、俺と鈴は簡単に事情を説明した。変な誤解を与えたまま帰すわけにはいかないからだ。……それにしても、クラリッサさんは相変わらずラウラにいろんなことを教えているみたいだな。今回は正しい知識だけど。

 

「とにかく、一夏も鈴もおめでとう。僕は2人のこと、お似合いのカップルだと思うよ」

 

「私はよくわからないが、当人たちが望んだのならきっといいことなのだろうな」

 

「……ありがとう、2人とも」

 

 そう言ってもらえると本当にうれしい。ちらりと鈴の様子をうかがうと、照れくさそうに笑っているのが目に入った。起きてすぐここに来たからか、いつもと違って彼女の髪は結われていない。ストレートに伸ばしたら意外と髪長いんだな、これは新たな発見だ。

 

「……えっと、2人が付き合ってることは他の人には秘密にしたほうがいいのかな」

 

「そうだな……俺は別にかまわないんだけど」

 

「……あたしは、もう少し心の準備が必要。だから、隠してもらえるのなら助かるわ」

 

「わかった。というわけでラウラも、このことは他言無用だよ」

 

「誰にも言わなければいいのだろう? 任せておけ、拷問されようとも口を割ることはない」

 

 とりあえず、俺たちの関係はしばらく口外禁止ということになった。鈴の決心がつくのがいつになるのかはわからないが、それまではばれないように気をつけよう。

 ただ……

 

「でもね、一夏。余計なおせっかいかもしれないけど、セシリアと箒には早めに伝えるべきだと僕は思うよ」

 

「……ああ、わかってる」

 

 あの2人が、俺のことを好きだと思ってくれているのなら。

 きちんと話をつけるのが、筋ってもんだと俺は思う。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、噂好きの多いこの学園で秘密を守るミッションが始まったわけだが。

 

「織斑くん、昨日凰さんと門限ギリギリまで出かけてたみたいだけど」

 

「デートだったんだよね? どう、何か進展あったの?」

 

 1時限目の後の休み時間。クラスのみんなからの質問攻めというなかなかの難関にいきなりぶち当たってしまった。

 やっぱり夜に鈴と一緒に寮に戻ったのはまずかったか。本当は行きと同じく帰る時間も2人でずらそうと考えていたのだが、俺が告白した後鈴の思考回路が停止してしまったため、手を引いて連れ帰る以外の行動がとれなかったのだ。そのため、俺たちがデートしていたというのはすでに周知の事実となっているらしい。

 

「進展なんてないって。だいたいデートって言うけどさ、俺と鈴は小学校の頃から結構いろんなところに遊びに行ってたんだ。昨日のもそれの延長線で、友達と出かけた以上の何かは存在してないし」

 

「そうなんですの?」

 

「どうにも話し方が怪しいな」

 

 セシリアと箒は俺の説明に懐疑的だ。できるだけ平静を装って嘘をついているのだが、やっぱり付き合いが深い人間にはばれるものなのか。2人ともジト目で俺に鋭い視線を向け続けている。……俺、あんまり演技得意な方じゃないしなあ。

 

「む? 鈴ではないか」

 

 俺を中心とした集まりに対して我関せずを貫いていたラウラの声に振り向くと、教室のドア付近に確かに鈴が立っているのが見えた。なんだかきょろきょろしていて挙動不審だが、何かあったのだろうか。

 

「鈴、どうかしたのか」

 

 10分しかない休み時間に1組に来るのは珍しいなと思いつつ声をかけると、鈴はなぜか両手をもじもじさせながら俺の方に近寄ってきて。

 

「別に用事があるわけじゃないんだけど……急に、どうしても一夏の顔が見たくなって。……迷惑だった?」

 

 頬を赤らめ、上目遣いでそんなことをのたまった。

 

「………」

 

 なんて可愛らしいことを言ってくるんだ、こいつは。一瞬頭が真っ白になったぞ。

 

「ほーう……?」

 

「進展なんてなかった、ねえ……」

 

 まずい、谷本さんたちの好奇の視線が一層強くなってきた。このままここにいると危険だ、だから……

 

「あ! そういえば鈴とシャルロットにちょっと話したいことがあるんだった。というわけで2人とも廊下に出てくれないか」

 

「え、え?」

 

「ぼ、僕も?」

 

 唐突な俺の言葉に面食らっている鈴の手を引いて教室を飛び出す。すまないシャルロット、カモフラージュのために一緒に出てきてくれ!

 

「ちょっと一夏、どこ行くの?」

 

「人目につかない場所」

 

「休み時間が終わるまでには教室に戻らせてほしいな」

 

 俺の意思をくみ取り、きちんとついてきてくれたシャルロットは本当にいい子だと思う。お礼として今度何かおごることにしよう。

 

「ここなら人も来ないよな……」

 

 2階の空き教室に入ったところで、鈴に対するお説教を始めることにした。

 

「鈴。俺たちが付き合ってることは隠す方向で話は決まってたよな。なのにあんなこと教室で言ったらどう考えてもまずいだろ」

 

「そ、それはそうだけど……でもしょうがないじゃない。授業受けてたら無性に一夏に会いたくなって、我慢できなくなっちゃったんだから……」

 

「な……」

 

 しゅん、とうなだれる鈴。なんだこれ、こいつこんなにしおらしかったっけ。こいつこんなに愛らしかったっけ?

 

「鈴は本当に一夏のことが好きなんだね」

 

 しょうがないなあ、と笑うシャルロットはなんだかお姉さんみたいだ。……休み時間も残り少ないし、とりあえず教室に戻るか。鈴にいろいろ言いたいことはあったが……あんなうれしいこと真顔で言われたら、文句を口にする気も失せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

「セシリア、いるか」

 

 ノックをしながら部屋の中に向かって呼びかける。少し時間を置いて、目的の人物が扉を開けてくれた。

 

「一夏さん、どうかいたしましたの?」

 

「……大事な話があるんだ。少し時間もらえるか?」

 

「ええ。かまいませんわ」

 

「ありがとう」

 

 許可をもらえたので、そのままセシリアを連れて屋外へ出る。他人に聞かれたくない類の話をするため、人気のない場所を選んだのだ。

 

「わざわざ外に出るなんて、よほど大事な内緒話なのかしら」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。ふと空を見上げると、ほぼ丸の形をした月が夜を明るく照らしていた。

 

「……俺、鈴と付き合うことにしたんだ」

 

 そして、伝えたかったことを口にする。鈴にも事前に相談して、セシリアには本当のことを話すと決めたのである。

 

「……そうですの」

 

「……驚かないんだな」

 

 少し意外だった。俺の言葉を聞いた後も、セシリアは微笑を崩さず落ち着いた態度のままだ。

 

「今日の一夏さんと鈴さんの様子を見て、薄々そんな気はしていましたから」

 

「……やっぱりわかるもんなのか」

 

「鈴さんは一夏さんに熱っぽい視線を送っていましたし、一夏さんの方もそんな鈴さんを愛おしそうに見つめていたのですもの。それなりにあなたたちと親しくしている人ならすぐにわかりますわ」

 

「俺たち、そんなにいつもと違ってたか?」

 

「ええ、それはもう」

 

「うへえ」

 

 そこまでわかりやすい好き好きオーラを放ってたということに愕然とする。昼食の時も放課後の訓練の時も、極めて冷静に行動したつもりだったのに……

 

「……そういえば、わたくしも一夏さんにお話ししたいことがありましたの」

 

 そう言って、セシリアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「一夏さん。月がきれいですわね」

 

「……? 確かにきれいだけど、それがどうかしたか?」

 

 セシリアの言いたいことが掴めずに少し戸惑っていると、彼女は困ったように笑い、小さくため息をついた。

 

「日本の方なら、今の言葉の意味くらいは教養として知っていてほしかったのですけれど」

 

「………?」

 

 教養? 『月がきれいですわね』って、日本人なら隠された意味がわかって当然なのか? ……よく考えよう。えー、月がきれいですね。月がきれい……あ。

 

「わ、悪い! 今わかった。俺って本当にデリカシーに欠けてるよな……」

 

「いえ、かまいませんわ。やはりこういうことは、ちゃんとストレートな言葉にして伝えるべきですもの。……一夏さんの答えはわかっていますけれど、わたくしなりの『けじめ』として、言わせてください」

 

「……わかった」

 

 顔つきと、緩んだ頭を引き締める。セシリアの次の言葉を、しっかりと受け止めるために。

 

「……わたくしは、一夏さんのことが好きです。男性の強さを見せてくれたあなたを、ずっとお慕いしていました」

 

「……そうか」

 

「……驚きませんのね」

 

「結構前から、なんとなくそうじゃないかなって思ってたから」

 

「そうでしたの……恥ずかしいですわね、隠しているつもりでしたのに」

 

「お互い、隠し事には向いてないな」

 

 まったくですわ、と笑うセシリア。その目尻に、何か光るものが見えた気がした。

 

「あなたは鈴さんを選びました。ですから、わたくしから言いたいことはひとつだけです」

 

「……それは?」

 

 俺が尋ねると、セシリアは腰に手を当てる彼女特有のポーズをとり、軽くウインクをする。

 

「一夏さんは、もっともっと強くなれる。このセシリア・オルコットが保証いたしますわ。ですから……あなたのこれからの姿を、友達として近くで見守らせていただけるなら、わたくしとってもうれしいです」

 

「……もちろんだ。これからもいろいろ教えてくれると助かる」

 

 ……こんなことを言ったら、鈴には怒られてしまうのかもしれないけど。

 月明かりに照らされたセシリアの笑顔は、すごくきれいだと、素直にそう思った。

 




シャルロットはフォロー上手ないい子だと思います。ラウラは天然入ってて可愛いです。

今回は一夏の心情とデレてる鈴、そしてセシリアの告白でした。文学はよくわからないですけど、そんな僕でも夏目漱石のセンスはなんかすごいと感じています。

次回は箒さんとか会長とかそのあたりの話になる予定です。臨海学校出発は次々回くらいになるかな……

では、今後もよろしくお願いします。

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