IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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サブタイトルがどうしても思いつかなかった……
今回で総文字数15万字到達(前書き後書き含む)です。


第21話 daily life

「織斑くーん、頑張れ―!」

 

 今日は週に1度の通常授業の日で、4時限目の体育の競技はバスケ。クラス30人を5人ずつ6チームに分け、2コート使って順々に試合を行っている最中だ。

 

「織斑くん、パス!」

 

「よしきた!」

 

 相川さんのロングパスをゴール付近で受けた俺は、のほほんさんと櫛灘さんのブロックをかいくぐってシュート。ボールは無事ネットの内側を抜け、2点が追加される。

 

「うわ~、おりむー速いね~」

 

「くっ、7月のサマーデビルと呼ばれた私がこうもあっさりと……」

 

 ここでホイッスルが鳴って試合終了。負けても相変わらずのほほんとしているのほほんさんと、がっくりと膝をついて悔しがる櫛灘さん。ちなみに今日は6月27日である。

 

「織斑くんナイスシュート!」

 

「ああ、ありがとう。相川さんもナイスパスだったよ」

 

 気持ちよくハイタッチを交わす俺と相川さん。体育会系なのだろう、彼女はこういうノリが好きらしい。

 

「ちょっと織斑くんたちのチーム強すぎるよ~」

 

 コートの外からそんな文句が飛んでくるくらいにはうちのチームは強い。ハンドボール部ゆかりの強肩で相川さんがどんどんパスを飛ばし、女子と比べるとかなり身長での利がある俺がシュートを入れる。得点パターンのほとんどがこれで、残りの3人は手堅くディフェンスに回ってくれている。なぜかバスケ部のいない1年1組において、この布陣はなかなかうまく決まっているようだ。

 

「しかし、みんな思った以上に動けるんだな……」

 

 活躍できてはいるものの、女子たちの運動神経の高さには驚いた。男の俺にも普通に食らいついてくるし、さすがはIS学園に入学してきた猛者たちといったところか。

「特に専用機持ちはキレよすぎだろ……」

 

 具体的に挙げるとセシリアとシャルロット。ラウラはうちのチームなんだが……まあ、動きはいいけどちょっと問題がある。

 組み分けの結果同じチームに入っているセシリアとシャルロットは、代表候補生になるための訓練で培った持ち前の身体能力で攻守ともに大活躍。これに中学剣道日本一の箒までいるんだからあっちもあっちですごい戦力だ。次当たるんだがどうするべきか。

 

「いやー、やっぱりスポーツはいいね! 嫌なこと全部忘れられるし。数学とか理科とか古典とか」

 

 俺の隣に座って他チームの試合を眺めていた相川さんが話しかけてくる。彼女も俺と同じく赤点候補四天王のひとりだ。残りの2人は……えーと、誰だったっけ。確か2組に1人、3組に1人いたはず。

 

「だな。けど、真面目な話そろそろ現実と向き合わなきゃならない時期でもある。なにせ期末試験が刻々と」

 

「うわっ! 聞きたくない、その先は聞きたくない!」

 

「迫ってるからな。各科目しっかり復習しないと駄目だ」

 

「拒否してるのに話を続けてきた!? 織斑くん、意外とサディストなんだね……」

 

 勉強ができない者同士波長が合うのか、案外相川さんとの会話が弾む。受験の時はギアを切り替えて猛勉強したかいあって模試でもA判定をとれたのだが、本来俺は学業面での成績はよくないのだ。

 ……そういえば、この人はこの前スポーツ観戦が趣味とか言ってたような。野球観戦にも興味あったりするんだろうか。

 

「くっ、まさか専用機持ちでも幼馴染でもないところから抜け駆けするものが出るとは……」

 

「あとでたっぷり話をうかがわないとね……」

 

 なんだか外野から怖い声が聞こえてくるが、気にしないでおこう。多分被害をこうむるのは相川さんだけだし。

 

「っと、そうこうしているうちにもう出番か」

 

「次はセシリアたちのチームかあ。事実上の決勝戦だね」

 

 前のチームの試合が終わり、再び俺たちが試合をする番だ。コートに出て、向こうのメンツと顔合わせを行う。

 

「一夏さん、手加減はしませんわよ?」

 

「そりゃそうだ、されても困る」

 

 なんだかキャプテンっぽいオーラを放っているセシリアと軽く言葉を交わす。スポーツをするのに邪魔だからだろうか、いつものふわふわな金髪を後ろでくくっている姿はなかなか新鮮だ。

 

「一夏、私は先ほどと同じように動いていればいいのか?」

 

「そうだな。とりあえず近くに来た球を奪ってくれ」

 

「了解した」

 

 ラウラに指示を出したところで試合開始のホイッスルが鳴る。じゃんけんの結果、最初にボールを所持しているのは俺たちのチームだ。

 よし、まずは先手必勝ということでゴールまで一気に攻め上がるか――

 

「甘いっ!」

 

「んなっ!?」

 

 ドリブル中のボールをあっさりセシリアに奪われる。くそ、油断してたわけじゃないけど想像以上に動きが速い。

 

「シャルロットさん!」

 

「任せて!」

 

 いつの間にかノーマークのままこっちのゴール近くまで走っているシャルロット。まずい、ここでパスを決められるとほぼ確実に先取点を取られる……!

 

「させるか!」

 

 だが、セシリアの綺麗なパスをラウラがカット。さすがの反射神経、ドイツ軍人は伊達じゃない。

 

「ボーデヴィッヒさん、トラベリング」

 

「しまった!」

 

 ……ただ、ルールが把握しきれてないんだよなあ。トラベリングなどの基本的なルールは教えて、本人も頭には入れていると思うんだけど、やっぱりそういうのって体に染みこませないとつい反則を犯したりしちゃうんだよな。

 結局ボールは敵にまわり、そのままシャルロットのシュートで2点献上。次こそはと気合いを入れて攻めようとするも。

 

「ここから先は通さんぞ」

 

「右に同じく、ですわ」

 

 俺に対しては箒とセシリアが2人がかりでぴったりマークし、相川さんのパスルートもシャルロットに潰され、残りの2人も運動部所属のためかなり活発に動いている。……きついな、これ。

 

「ボーデヴィッヒさん、ダブルドリブル……」

 

「むっ、またしても……」

 

 ラウラはラウラで、もう何度目かになるミスをやらかしていた。ボール自体はよく拾ってくれるんだけど、その後のプレーのせいで帳消しになってしまっている感じだ。

 

「まずいな……」

 

 このままだと一方的にやられる。だけど、何もできずに負けるのは癪に障る。男としてのなけなしのプライドというやつだ。せめて一矢報いるくらいはしないと……

 

「このっ……ハンドボール部の自称期待の新星である私をなめるなぁ!」

 

 そんな折、相川さんがマークをかいくぐって決死のロングパスを飛ばしてきた。この高さ、パスルートにいるシャルロットには捕れなくても男の俺ならギリギリ届く!

 

「よしっ!」

 

 思い切りジャンプをしてボールを掴むことに成功、着地と同時にゴールに向かってドリブルを開始する……前に、まずは目の前の障害をなんとかしないとな。

 

「こいよ2人とも。正面から突っ切ってやる」

 

「では」

 

「遠慮なく!」

 

 俺のすぐ近くにいた箒とセシリアが、ボールを奪うために突っ込んでくる。即席とは思えないコンビネーションの良さだが、ひょっとして学年別トーナメントでタッグを組んだ経験を活かしていたりするのか。

 

「こっちも行くぞ」

 

 と、いい感じにそれっぽい大見得を切っておいて。

 俺はくるりと回れ右をして、2人に背を向けた格好になる。

 

「なっ……」

 

 後ろから箒の驚いた声が聞こえてくるが、かまわずボールをバックパス。その先にいるのは、猛チャージをかけているラウラだ。

 

「ラウラ! そこから思い切りシュートだ!」

 

「ふんっ!」

 

 ラウラが渾身の力を込めて放ったスリーポイント狙いのシュートは、しかしゴールには入らず、バックボードに当たって跳ね返る。

 

「そんな距離から入るはずがありませんわ!」

 

 俺のラウラへのパスに一瞬面食らっていたセシリアだが、すぐに平静を取り戻してボールを拾いに行く。……だが、シュートが入らないところまではこっちも計算済みだ。

 

「やっと私の出番がめぐってきたー!」

 

 うちのチームの伏兵・谷本さんがすでにボールの落下地点をおさえている。なんのことはない、そういう作戦をあらかじめ決めていただけだ。ラウラと谷本さんを基本いつも同じ横のラインで走らせておいて、俺がラウラにパスを出した場合は谷本さんにこぼれ球の確保を頼む。向こうのディフェンスは俺のマークに数を割いてるぶん手薄だから、彼女がボールを捕れる可能性はそれなりにあると踏んでいたのだ。

 

「えいっ!」

 

 そのまま谷本さんがシュートし、ようやく2点を返すことに成功した。大雑把に立てていた作戦だが、運よく得点につながってくれたのはラッキーだったな。

 

「谷本さんナイスシュート! ラウラと相川さんもよかったぞ!」

 

「くっ……卑怯だぞ一夏! 正面から突っ切ってやると言ったじゃないか!」

 

「箒、お前に素晴らしい言葉を教えてやろう。『敵の発言を鵜呑みにするな』」

 

「多少手段が汚くても、勝てばいいのよ、勝てば!」

 

「その通り!」

 

 俺、谷本さん、相川さんの自身を正当化する言葉の数々に、がっくりとうなだれる箒。納得してくれたようでなによりだ。

 ……なお、試合はその後ぼこぼこにされて大差で敗れましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「えーと、この単語はこの訳でいいのか……?」

 

 その日の夜、俺は期末試験を無事突破するためにこれまでの授業の復習を行っていた。なかなかはかどらないが、少しでも点の増加につながっていると信じたい。

 

「……ちょっと休憩するか」

 

 シャーペンを机に置き、気分転換に部屋を出る。何も考えず適当にぶらぶらするのは意外と好きだったりするのだ。ちなみに鈴にはジジくさいと言われた。あいつは俺の趣向に関してなんでもそう言えば許されると思ってる節がある気がする。

 

「あ、おりむーだ。お~い」

 

 後ろから間延びした声が聞こえてきたので振り返ると、案の定のほほんさんがこっちに向かって走ってきていた。しかしのほほんさんの走行速度は通常の人間の歩行速度とほぼ同じなので、立ち止まっている側からするとなかなかにじれったい。

 

「ん? あそこにいるのは……」

 

 のほほんさんは誰かと一緒に歩いていたらしく、向こうには青い髪の女子がひとり立っている。あっちは俺に近づく気はないらしく、その場にとどまったままだ。

 

「あれ~? かんちゃーん。どうしてこっちに来ないの~」

 

 ようやく俺の目の前までたどり着いたのほほんさんが笑顔で呼びかけると、渋々といった様子で歩いてきた。うーん、あの顔誰かに似てるような……

 

「のほほんさん、あの人は?」

 

「えー、おりむー知らないの~? 日本の代表候補生、更識簪おじょうさまだよー」

 

「更識……そうか、楯無さんの妹か」

 

「せいかいなのだっ」

 

 中国やイギリスなどと同様に、日本の代表候補生がこの学園にいることは知っていて、名前もクラスメイトたちに教えてもらっていたのだが、顔を見るのは初めてだ。

 

「………」

 

 無言で俺の顔を見る更識さん。……心なしか眼鏡の向こうの瞳が俺を睨んでいるように思えるのは気のせいだろうか。髪や瞳の色、顔のパーツなどは姉と似ているが、その身に纏う雰囲気は結構違うようだというのが第一印象だった。

 

「あ、はじめまして。織斑一夏です」

 

「……知ってる。この学園であなたの顔と名前を知らない人はいない……」

 

「……そ、そうなんだ。はは、それは光栄だな」

 

「別に褒めたわけじゃない……」

 

「あ……そうですか」

 

 なんだか会話を展開しづらい。のほほんさん、この微妙な空気をなんとかしてくれ。

 

「そういえば~、かんちゃんおりむーに聞きたいことがあるって言ってたよねー」

 

「っ……! 本音……!」

 

 余計なことを言うな、といった感じでのほほんさんを睨む更識さん。だけど非難の目を向けられた当の本人はまったく気にした様子もなくにへらと笑っている。うん、俺の見立てだと彼女は将来大物になるかもしれない。

 

「俺に聞きたいことがあるのか?」

 

「………」

 

「答えられる範囲なら真面目に話すけど」

 

「聞いちゃえ聞いちゃえ~」

 

 俺とのほほんさんの2人がかりの説得に、黙り込んでいた更識さんもついに折れたらしい。観念したように重い口を開いて話し始めた。

 

「……あなた、2日前の試合で、織斑先生の戦い方を真似ていた」

 

「あ、やっぱりわかるもんなんだ」

 

 こくり、と首を縦に振る更識さん。彼女だけじゃなく、試合を見ていた人の大半は俺の模倣に気づいていたらしくて、その影響で昨日今日と何度か先輩方から模擬戦を申し込まれるということもあった。『憧れのブリュンヒルデに近い動きを間近で見て戦ってみたい』とか、そんな理由だったと思う。試験勉強との兼ね合いもあって2戦くらいしかできなかったが、勝ち負け関係なくいろいろ収穫のある試合になった。

 

「そうだな。4月の末あたりからずっと練習してた。おかげで最近はそこそこ上達してきたと思う」

 

「……あなたは、それでいいの?」

 

「え?」

 

「模倣にも限界がある……決して本人を超えることはできない。どれだけ頑張っても、姉の陰にい続けることになってしまう。……それで、満足なの?」

 

 更識さんの問いに、俺は少し面食らう。少しでも力をつけることに夢中で、そんなことは今まで考えもしなかったからだ。

 

「………」

 

 彼女の目は真剣だ。とにかく、俺も今用意できるだけのきちんとした答えを返そう。

 

「俺は……それでもかまわないと思ってる。俺の目標はちふ……織斑先生を超えることじゃなくて、別のところにあるから」

 

「別のところ……?」

 

「他人に言うのは恥ずかしいんだが……まあ、大切なものを守れるだけの力が欲しいとか、そんなところだ」

 

「……そう」

 

 俺の答えに特に表情を変えることもなく、更識さんはそのまま歩いて俺の横を通り過ぎていく。

 

「かんちゃーん、待って~」

 

 のほほんさんも更識さんの後を追って走り出す。……やっぱり足遅い。

 

「……俺、嫌われてるのかな」

 

 なんとなく2人の背中が見えなくなるまで突っ立っていた俺は、誰に問いかけるわけでもないつぶやきを口から洩らしていた。

 

 

 

 

 

 

「一夏、いるか」

 

 部屋に戻って勉強を再開しようと思ったところで、ノックとともにお客さんがやって来た。

 

「ラウラか。入っていいぞ」

 

 俺の返事を聞いてがちゃりとドアを開けて入ってきたラウラは、なぜだか神妙な面持ちをしていた。

 

「どうした? なんかあったのか」

 

「私の部下のひとりが、お前と2人きりで話がしたいと言ってきた」

 

「俺と?」

 

「そうだ」

 

 はて、いったいどういう事情からそんな話になったのか。ラウラの部下といえばドイツ軍の人ということになるだろうし……

 

「ま、とりあえず話してみるけど……俺、ドイツ語も英語もできないぞ?」

 

「心配するな、向こうは日本語を話せる。とりあえず私のISを経由してお前とその者の間に開放回線をつなぐ。その後個人間秘匿通信に切り替えろ。それで私に会話は聞こえなくなる」

 

 言語の問題はなさそうなので、俺はラウラの指示に従ってその部下の人との通信を始めることにした。

 

『はじめまして、織斑一夏。ドイツ軍所属部隊【シュヴァルツェ・ハーゼ】副隊長、クラリッサ・ハルフォーフと申します。クラリッサとお呼びください』

 

『こちらこそはじめまして。織斑一夏です。ええっと、隊長のラウラさんとは、その、最近は仲良くさせてもらっています』

 

 回線越しに聞こえてくる声は大人の女性のものだ。こちらも失礼のないように丁寧な言葉遣いを心がける。

 

『ええ、隊長から話はうかがっています。あなたと戦ったことから、今日のバスケットボールのことまで、それはもうたっぷりと』

 

『え……本当ですか、それ』

 

 ラウラってあんまりそういうことを語らないタイプだと思ってたんだが、意外とおしゃべりだったりするのか。

 

『私も驚いているのです。以前は隊の者ともコミュニケーションを取ろうとしてこなかったあの方が、一昨日感謝の気持ちを表すにはどうしたらよいかなどと突然尋ねてきたのですから』

 

 一昨日というと、あのタッグマッチの日か。確かに、あの試合を境にラウラの態度ががらりと変わったのは事実だ。

 

『……って、ちょっと待ってください。感謝の気持ちって、まさかラウラにキスするように教えたのは』

 

『私です。ああ、でも勘違いしないでくださいね。私は頬にキスすることを想定して話したのであって、まさか唇同士で行うとは夢にも思っていませんでしたので』

 

『そうなんですか……はあ、なるほど』

 

『ところで、隊長のキスの味はいかがでしたか?』

 

『なっ!?』

 

 予想外の問いかけに心臓が飛び上がる。キスの味って、そんなもん言葉にできるほど俺は経験積んでないし……

 

『冗談です。というわけでそろそろ本題に入らせていただきます』

 

『きつい冗談はやめてください……』

 

 笑いを含んだ声で話すクラリッサさん。もしかしてこの人、真面目なように見えて案外いたずら好きなんじゃないだろうか。

 

『ここからは真面目な話です。……といっても、私とあなたの間で交わされる話題といえば大体の予想はつくでしょうが』

 

『……ラウラのこと、ですよね』

 

 そうです、というクラリッサさんの肯定の言葉を聞きながら、俺の部屋の様子をきょろきょろ眺めているラウラを横目で見る。こんな光景、数日前までは絶対にあり得なかったものだ。

 

『隊長は織斑一夏という男のおかげで変われたと言っていました』

 

『え、俺? 千冬姉じゃなくて?』

 

 千冬姉はラウラのことを心配していたようだから、あの試合の後に何か言ってあげて、そのおかげでラウラの態度が軟化したんだと思ってたんだが……

 

『確かにあの方の与えた影響も大きかったとは思われますが、隊長の話を聞く限りは、一番の原因はあなたにあるようです。力がすべてだという価値観を捨て、私をはじめとする部下の者に頼るようになったこと。これは我々にとって非常に喜ばしいことであり、それゆえに私はあなたに感謝しています』

 

『そ……それは、どうも』

 

 なんだかめちゃくちゃ持ち上げられているような気がするが、とりあえず感謝の言葉は素直に受け取っておこう。ラウラにそこまでの影響を与えたとは到底思えないのだが、本人が言っていたというのなら事実なのだろうし。

 

『隊長はあなたに好意を抱いています。残念ながら恋愛感情ではないようですが』

 

『残念なんですか? それって』

 

『恋心だったのなら少女漫画の知識が活かせ……いえ、なんでもありません』

 

 なんか今、クラリッサさんの素の面が一瞬現れていたような。……まあ、深くは突っ込まないでおこう。

 

『とにかく、これからも隊長と懇意にしていただければありがたいと、そういう話です。お願いできるでしょうか』

 

『……はい、それはもちろん』

 

 俺が原因でラウラが変わったというのなら、その変化が彼女にとっていいものとなっていくように、これからも努力していきたい。……それに、そういう堅苦しいことを抜きにしても、あいつが結構面白いやつだってことは昨日今日でわかってるしな。

 

『その言葉を聞けて安心しました。……最後にひとつ、よろしいでしょうか』

 

『なんですか』

 

『隊長は違いましたが、もしあなたが隊長に恋をしているようでしたら、我々黒ウサギ隊が積極的にバックアップいたしますが』

 

 要は、俺がラウラに惚れているのならクラリッサさんたちが全力で応援してくれるということらしい。その気持ち自体はありがたいが、今のところ俺にその気はまったくない。

 

『その必要はありません。ラウラのことは友達だと思っているので』

 

『それは残念……では、また機会があれば』

 

 そんなに俺とラウラの間に恋愛関係を成立させたかったのか、やけに落ち込んだ様子でクラリッサさんは通信を切った。

 

「ラウラ、終わったぞ」

 

「そうか」

 

 本棚に置いてあった漫画をぺらぺらめくっていたラウラは、俺の言葉にうなずいただけで、再び視線を下に落とす。何を話したのかを聞くつもりはないらしい。

 

「………」

 

 あぐらをかいて熱心にバトル漫画を読み進めている様子を、なんとなくぼーっと眺める。

 

「どっちかっていえば、彼女というより妹みたいな感じだな……」

 

「ん? 何か言ったか、一夏」

 

「いや、何でもない。その漫画、よかったら貸してやるけど」

 

「そうか、それはありがたい。以前クラリッサがこういった本を読んでいたのを思い出してな。少し興味を惹かれたのだ」

 

「へえ~。ま、それは俺のおすすめの作品だから結構楽しめると思うぞ」

 

 他愛のない会話を交わしながら、俺はクラリッサさんが冗談で聞いてきた質問の内容をふと思い出していた。

 

 ――ラウラのキスの味、か。(あいつ)のときはどんなことを思ったんだっけ。

 




序盤相川さん、中盤簪、終盤ラウラ&クラリッサメインの3部構成でお送りいたしました。

バスケのシーンについては、ちゃんと専用機持ち以外のクラスメイトとも仲良くやってるよということを示すために挿入。相川さんは可愛いと思います。もちろん僕は鈴が一番好きですが。

簪との初会話は原作よりも大幅に前倒ししました。姉への劣等感と自己嫌悪に苛まれている簪と、劣化千冬になってもいいからと模倣を続ける一夏の関係はどうなっていくのでしょうか。

そして終盤、きれいなクラリッサさん登場。たまに素が出かかっていますが、ほぼ終始敬語でまともな年長者だという印象を一夏は抱いたことでしょう。そして長女千冬、長男一夏、次女ラウラの3姉弟フラグが……? 

今回まさかのメインヒロイン不在で話を進めましたが、次は紛うことなき鈴回です。そろそろ2人の関係を前に進めていきたい今日この頃です。

では、次回もよろしくお願いします。

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