IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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今回4000字強と短いですが、今日を逃すと9月10日くらいまで更新できないので投稿しておきます。


第15話 決戦へ向けて

「あ、おりむーおはよー」

 

「おはよう、のほほんさん」

 

「今朝はギリギリだねー」

 

「ああ、ちょっと野暮用があって」

 

 学年別トーナメントまで残り1週間。教室に来る前に職員室に寄って山田先生に確認してもらったところ、もう白式を動かしても大丈夫とのお言葉をもらうことができた。これでようやく鈴との連携の訓練を開始できるというわけだ。出遅れた分をきちんと取り戻さないとな。

 

「おはようございます、一夏さん」

 

「おはよう、一夏」

 

 自分の席に向かう途中、セシリアと箒に挨拶される。先ほどまで真面目な顔をして話し合っていたところを見るに、タッグマッチの作戦会議でも開いていたのだろうか。

 

「ああ、おはよう。どうだ、コンビの調子は?」

 

「まずまず形になってきたというところでしょうか。わたくしと箒さんは戦闘タイプが正反対ですから、うまく互いの弱点を補い合えていると思いますわ」

 

「お前はどうなんだ、一夏? 白式の起動許可はもらえたのか」

 

「今朝な。だから本格的な練習はこれからだ」

 

 箒たちも順調に連携を磨いているようだ。この2人、入学当初からは考えられないほど仲良くなったよな。

俺たちも負けないように頑張らねば、と改めて気を引き締めていると、少し離れた席に座っている金髪の少女と偶然目が合った。

 

「シャルロット、おはよう」

 

 彼女の方に歩いていき、朝の挨拶をかわす。

 

「おはよう一夏。今日も雨だね」

 

「梅雨だからな。そろそろこんなじめじめした空気ともおさらばだと思うけど」

 

「そうなんだ。やっぱり国が違うと気候もかなり変わるんだね。フランスにはこんな時期なかったよ」

 

 先日の一件以降も、俺とシャルロットの仲は特に変わっていない。こうして他愛のない会話をしたり、昼食を一緒にとったりすることもある。……まあ、トーナメントが近づいている以上、以前のように鍛錬を見てもらうというわけにはいかないだろうけど。

 

「……ふう」

 

 そろそろ始業のチャイムが鳴るので、席に着いて荷物を取り出す。……とにかく、今日から試合までの7日間が勝負だ。現状で圧倒的な実力を持つシャルロットとラウラに、なんとか勝ちを拾えるまでにはならないと――

 

 

 

 

 

 

 決戦の日まで残り5日となった。放課後を迎え、俺は鈴と一緒に使用可能なアリーナへと向かっている。

 ――一昨日、そして昨日と、放課後に鈴と連携プレーの練習を必死に行った結果。

 

「……ねえ、アンタ連携下手になってない?」

 

「……マジかよ」

 

 ……これっぽっちもうまくいく兆しが見えない。それどころか、鈴に言わせれば俺の動きは退化しているらしい。

 

「結構前に試しで2対2の模擬戦やったことあったでしょ。あの時よりひどいのは間違いないわね」

 

 鈴が言っているのは2週間ほど前の放課後に行った試合のことだろう。たまにはチーム戦でもやってみようかということで、俺、鈴、箒、セシリアで適当に組み合わせを変えながら模擬戦を数回した覚えがある。確かに、言われてみればあの時よりも俺と鈴の息があっていないような気がする。

 

「……とにかく、今は練習を重ねるしかないよな」

 

「それしかないのよね……」

 

 思い通りにいかない現状に2人してため息をつきながら、アリーナへ続くピットに入ると。

 

「お、やっと来た~。さ、早く練習風景を見せてね」

 

「……えっと、どちら様?」

 

 知らない人に声をかけられ、少々面食らう。しかも妙に馴れ馴れしい。制服のリボンの色が黄色なことから、2年生だということはわかるのだが。

 

「その反応はないでしょう。この前のクラス代表が集まった委員会の時は顔を出せなかったけど、入学式ではちゃんと挨拶したのに」

 

 記憶力のない男の子は嫌われるわよ? と本当かどうかわからないことを言う青髪の上級生。そう言われても、入学式の時は周りが全員女という状況に耐え抜くことに全神経を集中していたせいで話も何も聞いてなかったわけで。

 

「一夏、生徒会長の顔くらいは覚えときなさいよ。転校してきたあたしでも知ってるのに」

 

「生徒会長……ああ! そういえば入学式で何かしゃべってた気がするぞ」

 

「そうそう、思い出してくれた? ついでに言うと、フルネームは更識楯無よ。よろしくね、織斑一夏くんに凰鈴音さん」

 

「は、はあ……よろしくお願いします。それで、練習風景を見せてくれっていうのは」

 

 どうして生徒会長が俺と鈴の練習を眺めたがっているのか、その意図がつかめない。トーナメントは学年別だから、2年生の更識さんには1年生のことなんて関係ないだろうし。

 

「言葉の通りだけど? 粋の良さそうな1年生コンビがいるって聞いたから、ちょっと様子を見たくなったの。あ、何かアドバイスできることがあれば言ってあげるから」

 

 アドバイス、か。壁にぶち当たってる俺たちにとってはかなり魅力的な言葉だ。生徒会長はめちゃくちゃ強いという話を聞いたことがあるし、そんな人に練習を見てもらえるのは有益だと思う。

 

「……わかりました。鈴も別にかまわないよな?」

 

「そうね。練習の邪魔されるわけでもないし」

 

「うんうん。話のわかる人はおねーさん好きよ」

 

 そう言うと、更識さんはくすりと笑い、右手に持っていた扇子をばっと開く。そこには『謝謝』という文字がでかでかと書かれていた。……珍しい扇子だな。

 

 

 

 

 

 

「ああっ! だからなんでそこで前に出るのよ!」

 

「す、すまん!」

 

「謝るのはいいからもう1回やるわよ! さっきの位置に戻って」

 

 ……駄目だ。やっぱりうまくいかない。しかも原因は確実に俺にある。鈴の指示は的確なのに、俺がその通りに動けていないのだ。頭では理解しているはずなのに、実際にやろうとするとなぜかミスを連発してしまっている。

 

「……いったん休憩にしましょ」

 

 俺の息が荒くなっているのに気づいたのか、鈴はそう言って地上に降りる。かなりイライラしているのが見て取れるため、ますます申し訳ない気持ちが込み上げてきた。

 

「2人ともお疲れ様。だいたいどんな状態なのかは見せてもらったわ」

 

 ずっと俺たちの動きを観察していた更識さんが声をかけてくる。アリーナ内にいるので、もちろん彼女もISを展開している。水色を基調としたその機体は『ミステリアス・レイディ』という名の専用機らしい。

 

「……それで、更識さん。何かアドバイスとかあります?」

 

 どうしたらいいのか、小さなことでもいいからためになることを教えてもらえるとありがたいのだが……

 

「あるわよ。それもとびっきりのが」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 それは今すぐにも聞きたい、という気持ちに引きずられ、思わず声が大きくなってしまう。鈴もやはり気になるようで、更識さんの発言を聞き取る体勢に入っている。

 更識さんはそんな俺たちの態度を見て満足そうに微笑むと、どこからか取り出した扇子を開きながら口を開いた。

 

「あなたたちではボーデヴィッヒさんたちには勝てません」

 

 開かれた扇子には『無理』という残酷な2文字。……すみませんが、それはアドバイスとは言わないのでは。

 

「それはアドバイスじゃないだろと思ったそこのあなた、人の話は最後まで聞きなさい」

 

 うお、心を読まれた。隣を見ると、鈴もびくりと肩を震わせている。どうやら俺と同じことを考えていたようだ。

 ……と、そんなことより今は更識さんの話を聞かなければ。ああ言ったからには、きちんとしたアドバイスを用意してくれているに違いない。

 

「そもそも、あなたたちはひとつ致命的なミスを犯しています」

 

「ミス?」

 

 俺と鈴の声が重なる。ミス……いったい何を間違えているというのだろうか。

 更識さんはなぜかいたずらっぽい笑みを浮かべながら、その内容を俺たちに告げた。

 

「それは――」

 

 

 

 

 

 

「ナイスアシストでしたわ、箒さん」

 

「ああ。セシリアも、さすがは代表候補生という戦いぶりだったぞ」

 

 学年別トーナメント1日目。1回戦の試合を勝利で飾った箒とセシリアは、ピットに戻って互いをねぎらっていた。連携は好調でミスもなく、試合内容はほぼ完璧と言える。

 

「次はいよいよ一夏さんと鈴さんの試合ですわね」

 

「……そうだな」

 

 ピットに設置してあるモニターが、アリーナに入ってきた選手たちの姿を映す。一方は一夏と鈴。対するは――

 

「いきなり専用機持ち4人が戦うことになるとは……まあ、一夏は喜んでいるのだろうな」

 

「『余計なこと考えずに1回戦でぶつかれるなんてラッキーだ』とか言っているのが簡単に想像できますわ」

 

「まったくだ」

 

 意外とセシリアによる一夏の真似がうまいことに内心驚きながら、箒は再びモニターに視線を戻す。

 1回戦最後のカード。一夏たちの対戦相手は、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒのペアだった。

 

 

 

 

 

 

「……それにしても、余計なこと考えずに1回戦でぶつかれるなんてラッキーだよな」

 

「まあね。特にあたしたちの場合は、シャルロットたちに戦い方を事前に見せずに済むって利点があるし」

 

 箒とセシリアの試合が終わり、次は俺たちの出番だ。こちら側のピットに戻ってきたペアと軽く言葉を交わした後、鈴と試合前の最後の確認をする。

 

「わかってるわね? 作戦名は『ガンガンいこうぜ』よ」

 

「大丈夫だ、ちゃんと頭に入ってる。……楯無さんのおかげで、どうにか戦えそうなレベルにまで持ってこれたな」

 

「そうね。あの人を食ったような態度はどうかと思うけど、実際助かったのは事実だし」

 

 ちなみに、俺が楯無さんのことを下の名前で呼んでいる理由は、彼女本人がそうしてほしいと言ってきたためである。上級生を名前呼びするのには少し抵抗があったが、アドバイスをもらった恩もあるので承諾したのだった。

 

「……よし。じゃ、そろそろ行くか」

 

「ええ」

 

 鈴とともにアリーナへ出て、ISを展開する。……今日も頼むぞ、白式。

 観客席を見ると、政府関係者をはじめとするお偉いさんたちが大集合していた。……まあ、そちらはさして気にする必要はない。今注目すべきなのは、反対側のピットから出てきた俺たちの対戦相手のほうだ。

 

「優勝候補のお出ましね」

 

 プライベート・チャネルから聞こえてきた、鈴の茶化すような調子の言葉に小さく笑うことで返事をする。

 ……結局、シャルロットの意図することはわからないままだ。本人が教えてくれないのだから、俺としても知りようがない。

 だけど、今はそんなことは重要じゃない。俺にも、鈴にも、シャルロットにも、ラウラにも、それぞれの戦うための理由がある。……それで十分だ。あとは互いに全力を出して決着をつけるだけでいい。

 

「……勝つわよ」

 

「ああ、当然だ」

 

 規定の位置へとゆっくり移動する。あとは、試合開始を待つだけだ。

 




生徒会長2回目の登場。一夏と接触するのは今回が初めてです。彼女が何考えてるのかは次回あたりで説明します。
箒とセシリアのバトルはカットしました。もともと僕は戦闘描写が苦手なので2戦連続で試合を書こうとすると恐ろしい時間がかかってしまうこと、および書いても箒・セシリアペアが相手を圧倒するだけの展開になるというのがカットの理由です。

次回はいよいよ試合突入。諸事情で数日間執筆できないうえに苦手な戦闘シーン……まあ、できるだけ早めに投稿できるよう頑張ります。2巻の山場ですからね。
果たして「ガンガンいこうぜ」の意味とは……? ドラクエネタは9話からの伏線です。

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