IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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帰省中ですが、親の目を避けつつ投稿です。もし見つかったら大爆笑されること間違いなしです。


第12話 理由

「はあ~、なるほど。さすが代表候補生だけあって詳しいな、シャルロット」

 

「まあ、長年やってれば知識だけは身につくからね」

 

 シャルロットたちが転入してきた次の日。もはや恒例となった放課後のIS訓練だが、今日はいつもと面子が違っていた。俺から話を聞いたシャルロットが初参加、そしてレギュラーメンバーである鈴、箒、セシリアはお休みだ。昨日の件をまだ引きずっているセシリアは、授業に出席はしていたものの明らかに元気がなく、俺とも顔を合わせようとしなかった。なので、鈴と箒は今彼女のフォローに回っている。2人に任せ切ってしまうのは気が引けたため、最初は俺もセシリアのところに向かおうとしたのだが、

 

『アンタが来るとよけいにややこしくなりそうだから』

 

『セシリアもお前を避けているようだし、今日は私たちに任せておけ』

 

という言葉を受け、こうしてアリーナでISを動かしている。トーナメントまであまり日もないし、少しでも経験を積んでおくのは大切なことだ。

 

「早く相手の射撃をかいくぐれるようにならないとな……」

 

 現在はシャルロットから射撃用武器の特性についてのレクチャーを受けている。フランスの代表候補生である彼女の専用機は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』といって、様々な武装を状況に応じて使い分けるというテクニカルな機体らしい。そういう事情も相まって、シャルロットのISの装備に関する知識は相当なものだ。

 

「でも驚いたよ。一夏、近接戦はすごく強いんだね」

 

「そ、そうか? ……まあ、そっちはそこそこ上手くなってきた自覚はある」

 

 褒めてもらえるのは素直にうれしい。……実際、セシリアや鈴といった代表候補生たちからもある程度の評価は得ているし、シャルロットの言葉はまるっきりお世辞というわけでもないだろう。

 

「そういえば、さ」

 

 少し気分が浮かれていたので、軽い気持ちで鍛錬からそれた話題を振ってみる。話の内容も、いま思いついただけのものだ。

 

「シャルロットは、どうしてISに乗ろうって思ったんだ?」

 

「えっ?」

 

「いや、代表候補生に選ばれるくらい努力してるってことは、それ相応の理由があるんじゃないかって」

 

 俺の質問に、シャルロットの口がぽかんと開かれる。……そんなに変な話だっただろうか。

 

「うーんとね……デュノアの家はISの開発を行ってるから、僕の場合は適性が高かった時点でISのパイロットになることは決まってたんだ」

 

「あ……そうなのか。そういえば、クラスのみんながデュノア社がどうのこうのって言ってたな」

 

 困ったように笑うシャルロットを見て、申し訳ないことをしたなと感じる。彼女の場合、『乗りたい』じゃなくて『乗らなきゃならない』理由がある。望んでこの道を選んだとは限らないのだ。

 

「ごめん、変なこと聞いちまった」

 

「ううん、謝るようなことじゃないよ。……それに、ISに関わらざるを得なかったのは、一夏だって同じなんじゃないのかな?」

 

 ………あ。

 

「そういやそうだったな」

 

「いや、そういやそうだったって……」

 

「そんな呆れたような顔されても、忘れてたもんは忘れてたんだ」

 

 おかしな偶然でISを起動させてしまい、俺はそのまま自分の意思とは関係なくこの学園に入ることになった。あらゆる国の権力を受けないIS学園という空間にいることで、いろんな研究機関から己の身を守るという意味合いもあったのだが、それでも自分の進もうと思っていた道を曲げられたことに変わりはない。普通、いい気はしないだろう。事実、最初はその通りだった。

 ……だけど、今となっては。

 

「ISに乗りたい理由ができたから、そんなことどうでもよくなったのかもな」

 

「……そうなんだ」

 

 それはよかった、と微笑むシャルロット。俺にはその態度が、どこか無理をしているように感じられた。……やはり、彼女にはまだ『進んでISに乗る理由』がないのだろうか。

 しばしの間、俺もシャルロットも口を開かない時間が続く。

 ――俺には、その答えを用意してやることはできない。なぜなら、それは他の誰でもないシャルロット自身にしか見つけられないものだから。きっと何を言っても的外れなアドバイスになってしまうだろう。……それでも、何か言葉をかけたかった。

 なぜか。……大層な理由なんてない。ただ、今の笑顔を取り繕っているシャルロットの姿が、いつぞやのセカンド幼馴染のそれと重なって見えたから、放っておけないと思っただけ。辛い気持ちを全部ひとりで抱え込んでいるのを、黙ってみていることができなかっただけ。

 

「……きっと、いつか見つかる」

 

「えっ?」

 

 急に俺が話し出したので驚いたらしく、シャルロットが素っ頓狂な声を上げる。

 

「どんな小さなことでもいい。一度理由を見つけられれば、もうそんな顔しなくても済む。……知ってるか? 鈴がISに乗りたいと思った理由なんて、『たまたま判定してもらったら適性Aが出て、もしかしたら将来世界一狙えるんじゃないかという神のお告げが聞こえてきた気がしたから』だぜ。そんくらい無茶苦茶なものでもいいんだから、シャルロットにだって絶対できるはずだ」

 

 結局、俺の口から出てきたのは、よくわからない、アドバイスにも満たない言葉だった。『絶対』できる、なんて無責任にもほどがある。これでは自己満足の域を出ない応援に過ぎないだろう。

 

「……ありがとう、一夏」

 

 それでも、彼女は笑ってくれていた。そうであってほしいという希望が混じっていたからかもしれないが、作り笑いには見えない気がした。

 

 

 

 

 

 

 そうして、あっという間に週が明けた。先週のうちにセシリアもとりあえずは立ち直り、再び俺に指導してくれるようになっていた。

 

『今度は自分で味見をしますから、納得のいくものが作れた時には……また、わたくしの料理を召し上がってくださいな』

 

という条件付きで。もちろんすぐに了承した。そしてすぐに本当のことを言わなかったことを改めて謝罪し、俺たちの仲は元の鞘に納まったのである。

 

 そしてもうひとつの懸案事項、ラウラについてだが……先週の間は、特に何かしてくるということはなかった。俺とたまたま目が合うと睨みつけてくるが、それだけだ。転校してきた日みたいに暴力を振るってはこなかった。できればこのまま、何事も起こらないでほしいと思っていたのだが――

 月曜日の放課後。みんなそれぞれ少し用事があるそうなので、俺はひとりで先に第3アリーナへ来ていた。他にやることも思いつかないので、ひとまず白式を展開し、剣術の型を復習することにした。

 ――思い浮かべるのは、モンド・グロッソの舞台で戦う千冬姉の姿。鋭く、強く、正確に刀を振るい、敵を倒す。そのイメージを俺自身の動きに反映させる。

 

「ふっ、はっ」

 

 一振りごとに神経を研ぎ澄ましていく。まだまだ理想の動きには程遠いが、少しくらいは手ごたえが――

 

「……ふん、所詮は猿真似か」

 

 振り返ると、アリーナの入り口にひとりの少女が立っていた。銀髪と眼帯、そして俺を見下す鋭い眼光。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「何の用だ?」

 

「この1週間、貴様を観察してきた。そして判断した……やはり貴様は教官の弟にふさわしくない」

 

 俺の質問には答えず、ラウラは開口一番に織斑一夏という存在を否定しにかかってきた。

 

「貴様は弱い。そのくせやっていることはあの人の模倣だ。教官の経歴に泥を付けた貴様が、その教官の技を真似るなど……虫唾が走る」

 

 顔を怒りに歪め、俺に対する圧倒的なまでの嫌悪をむき出しにするラウラ。……少し異常だと思った。いったい、何がそこまで彼女を駆り立てているのか。

 

「……それで? 俺を千冬姉の弟だと認めないお前は、どうするつもりなんだ」

 

「決まっている」

 

 そう言って、ラウラはISを展開する。黒を基調にしたデザインの機体――あれが、あいつの専用機なのか。

 雪片弐型を構える。……この先何が起こるかは、考えるまでもないからだ。

 

「叩き潰すだけだ」

 

 白と黒。何の因果か対照的な色を持つ2つの機体が、真っ向からぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

「あ、シャルロット」

 

 用事を終えて一夏の待つアリーナへと向かっていたシャルロットに、背後からよく知っている声がかけられる。

 

「凰さん。そっちも今からアリーナに行くところ?」

 

「そ。一緒に行きましょ」

 

 シャルロットのいるところまで駆けてきた鈴は、そのまま彼女と肩を並べて歩き始める。一夏が一緒にいる時はあったが、この2人だけが同じ空間にいるというのは初めてのことだ。

 

「シャルロット。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「何かな?」

 

 こちらを向いている鈴の表情が心なしか硬い。どんなことを尋ねるつもりなのだろうか。

 

「……一夏のこと、どう思ってる?」

 

「え、一夏? ……えっと、いい人だと思うけど」

 

「そっか。……別に意識してるわけじゃないみたいね」

 

「?」

 

 どうも向こうの意図が分からないが、とりあえず鈴はシャルロットの答えに納得したらしい。どことなく喜んでいるようにも見える。

 

「……そういえば、僕も少し聞きたいことがあったんだ。この前一夏から聞いたんだけど、これって本当のことなの?」

 

 一夏の言っていた『鈴がISに乗りたいと思った理由』の真偽を鈴本人に尋ねてみる。すると鈴はこくんと頷いて、

 

「まあそうね。こう、なんかびびっと来たのよ。『イケるっ!』って」

 

「本当にそれだけなんだ……」

 

 初めてISに乗った時の感覚だけを理由に、凰鈴音という少女は代表候補生にまで上り詰めた。誰かに強制されたというわけでもなく、自分の意思でその道を選んだのだ。……それとは対照的に、シャルロット・デュノアは――。

 

「……なんだか、すごいね」

 

「そう? あたしみたいな人、他にも結構いると思うんだけど。結局、理由なんてものは自分が納得できればどんな些細なものでもいいわけだし。……シャルロット、アンタは最初にISに乗った時、何か感じなかった?」

 

「初めてISに乗った時……?」

 

 ――母親が亡くなって、突然デュノアという大企業に引き取られた。そこで自分がデュノア社の社長の愛人の娘だという事実が明かされた。本妻に嫌われ、冷遇され、辛い日々を過ごしていた。

 ある日ISの適性検査を受けさせられ、結果がよかったためにテストパイロットとして扱われることとなり、そして。

 ……あの時、自分はどんな気持ちだったのか。『どうしてこんなことになってしまったのか』という思いのほかに、何か感じたものはなかったのだろうか。

 

 ――そんな彼女の思考を遮ったのは、今彼女たちが向かっている第3アリーナから聞こえてきた轟音だった。今、あそこには一夏がいるはずだが……

 

「今の音……」

 

「気になるわね。急ぐわよ」

 

 言うが早いか走り出す鈴。シャルロットもそれに従い、2人はアリーナへの道を急ぐのだった。

 




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シャルロットの持つ弱さ、ラウラの持つ異常さ、今回はこの2つを描写してみました。といってもラウラの方はほとんど説明していませんが。

セシリアの描写については後の番外編で一気に描く予定です。一応真面目な回なので、間にギャグ入れると締まらないかなーと考えました。

次回は一夏VSラウラ、そしてタッグトーナメントの相方決定までいきます。

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