IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ

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はじめまして。キラと申します。このたびはこのハーメルンという素晴らしいサイトを作ってくださった有志の方に感謝しながらISの二次創作を書かせていただきました。内容はあらすじに書いてある通り、本編再構成ものです。原作での扱いの良さというものがシャルの半分くらいしかないんじゃないかと思われる鈴ですが、それでも僕は彼女が一番好きです。ツンデレでツインテールで幼馴染って最高だろう……
というわけで、よろしければ読んでもらえるとうれしいです。


クラス対抗戦編
第0話 再会


 ――IS。正式名称インフィニット・ストラトス。それまでの科学の常識・限界を塵に返したパワードスーツ。当初は宇宙での活動を想定して作られていたが、後に兵器に転用。さらにそこから各国の協議を経て現在はスポーツのための道具として使われている。

 ISが一般社会に与えた影響は大きい。『ISは女性にしか起動できない』、ただそれだけのことで、世界のバランスは変わった。男女平等社会を謳っていた女性たちは、いつしか自らを男よりも上の立場に位置付けるようになった。その考えは瞬く間に世界全体へ広がり――女尊男卑という常識が誕生するまでに、さほど時間はかからなかった。

 当然、それをよしとしない男性は今でもたくさんいる。再び男性の立場を取り戻そうと行動している団体の人たちの口癖は『ああ、男がISを使えさえすればなあ』であるらしい。俺も正直女性が理由もなく偉そうにしている社会は気に食わないので、確かにISを使える男がいればなあ、となんとなく思っていた節はある。

 ――ただし、その考えに注釈を加えるとするなら。

 

「俺は別に、自分がISを使いたいって思ったわけじゃないんだけどなあ……」

 

「む? 何か言ったか、一夏」

 

 いつの間にか心の声が口に出ていたらしい。なんでもない、と隣にいたファースト幼馴染である篠ノ之箒に答え、ひとまずとりとめのない思考を中断させる。

うだうだ考えても、既に起きてしまった事実は変えようがない。織斑一夏が世界で唯一ISを動かせる男で、現在女だらけの学び舎で生活しているというのは、紛れもない現実なのだ。

 

「ねえねえ知ってる織斑くん? 今日2組に転校生がやってくるんだってー」

 

「なんでも中国の代表候補生らしいよー」

 

 入学してからひと月。初めは不安しかなかったが、幸いまわりの女子たちとも打ち解けることができていた。特に数年ぶりの再開を交わした箒と、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットとは一緒にいる時間も多い。今もこうして、クラスメイトがなにげなく転校生の情報を持ってきてくれている。

 

「へえ、中国か……」

 

 中国といえば、やっぱり思い出すのは『あいつ』のことだ。箒が転校したすぐ後に引っ越してきて、中学時代を一緒にバカやって過ごした、ツインテールのセカンド幼馴染。でも中2の冬に中国に帰ることになって、それでその時――――

 

「――――あ」

 

 しまった、と考える間もない。幼馴染のことを思い返す中で、俺はうかつにも思い出してはいけない光景を頭に浮かべてしまっていた。

 

「あら、今さらわたくしの存在を危ぶんでの転校かしら……って一夏さん? なんだか様子がおかしいようですけれど大丈夫ですの?」

 

 近くにいるセシリアが何か言っているが、その内容が頭に入ってこない。ああ、くそ。だから思い出したくなかったんだ。別に嫌な思い出ってわけじゃない。だけど、ひとたびあの時のことを考えた途端、頭の中がそれでいっぱいになって、まともな思考ができなくなってしまう。もう1年以上たっているのに、いまだにこの症状は治る気配を見せない。友人の五反田弾に言われた通り、俺は相当うぶな人間らしい。

 

「織斑くーん? 顔が赤いけどどうしたのー! ……へんじがない、ただのしかばねのようだ」

 

「うーむ、これは重症だね。なんで急にこうなったのかなあ」

 

「……まさか、中国の代表候補生に心当たりでもあるのか、一夏」

 

「そうなんですの? 一夏さん」

 

 みんなが俺に向かって話しかけてくる。その言葉の意味をわずかに作動している部分の脳で理解して、たっぷり15秒はかけて言葉を返す。

 

「……いや、そうじゃない。ただ中国に知り合いがいて、そいつのことを思い出してただけだ」

 

 そう答えたとき、教室のドアががらり、と動く音がした。外の窓の方を向いていた俺はクラスメイトの誰かが入ってきたのだろうと思って特に気にかけなかったのだが、廊下側に目を向けていた人たちはなんだか様子が変だ。

 

「あんな人1年生にいたっけ……?」

 

「見覚えないけど、でもあの制服は1年だよね」

 

「てことは、もしかして噂の転校生……!?」

 

 そうか、みんな自分たちの知らない生徒が入ってきたから驚いていたのか。おそらく2組に来ることになったという転校生なんだろう。……でも、だったらなんで1組の教室に入って来たんだ?

 

「……ねえ、なんだかあの子、こっち見てない?」

 

 俺の隣にいた女子がこぼした言葉を聞いて、じゃあ俺の近くの誰かの知り合いなんだな、と考える。

 ――後になって思い返せば、俺がこの期に及んでまだ転校生の姿を確認しようとしなかったのは、無意識に本能がその行為を避けようとしていたからなのかもしれない。

 

「……というか、あれは一夏さんを見ているように見えるのですけれど」

 

「え? 俺?」

 

 中国人の知り合い、それも高校生なんて、俺にはひとりしか――――

 

「…………」

 

 まさか、とは思う。だけど実際、教室の入り口あたりからじーっと視線が向けられているのは確かだ。件の転校生は、間違いなく俺に会いに来たのだ。……単に男でISを動かせる俺に興味があって来ただけということも考えられるが、それだけの理由なら転校初日のHRも始まっていない時間にくることはないと思う。だから、たぶん彼女は俺を知っているんだろう。だとしたら、思い当たる人物はただひとり。

 ……振り向くのが正直怖い。だってさっきあのことを思い出したばっかりなんだぞ。その直後に当の本人の顔を1年ぶりに見るなんて、いくらなんでもハードルが高すぎる……!

 だが、それと同時に『あいつの顔を見たい』という気持ちもあった。2つの思いがぶつかり合う中、わずかに勝ったその感情が、徐々に俺の顔を入口の方へ向けていく。

 

「……ああ」

 

 視界に入って来たのは、同年代の女子と比べると小柄の部類に入る女の子。茶髪のツインテールなのは変わっていない。だけどいつも見せていた勝気な瞳は、今は恥ずかしがるように力を失っている。

 ……そう。その転校生は、俺のセカンド幼馴染で、名前は―――

 

「……よ、よう。ひ、久しぶりだな、鈴」

 

「……え、ええ。ひ、久しぶりね、一夏」

 

 どっちも緊張のためか声が裏返っていたが、それでも今ここに、1年ぶりに再会した幼馴染の会話が成立したのだった。




というわけでいきなり原作1巻の鈴転入にあたる話から入りました。次回から一夏たちが中2のころのエピソードに入って、なんで一夏と鈴がこんなにぎこちないのかということを説明していきたいと思います。今回はプロローグ的な話なので文字数も少なめですが、次回からはもっと増やしますので、これからもよろしくお願いします。

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