吉良吉影はくじけない   作:暗殺 中毒

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いつもより文字数少ないですがご勘弁を。


秘めた思い

「おお、こいつはうめぇ。まさか川尻さんがこんなに料理が上手いなんて思わなかったぜ」

「私もだ。この味といいあの手際の良さといい……紅魔館のメイドにも迫る出来栄(できば)えだ。浩作君にこんな特技があったなんて」

「それはどうも」

 

なぜこの私がこいつらの昼飯を作ってやらなければならんのだ……! 魔理沙や慧音、小傘はまだいい。この吉良吉影、手首にしか興味はないが、女性への礼節は(わきま)えているつもりだ。しかし東方仗助! 貴様は別だ! なぜ敵にご馳走してやらねばならんのだ!

 

「あん? どうしたんだよ魔理沙、そんな複雑そうな顔して」

「確かに川尻の作る料理はけっこう、いやかなり美味しいぜ。見てるだけで食欲が出てくる。でも……男で料理が上手いっておかしいぜ!」

「ははは、同じ女としてその気持ちも分からなくはないが……」

「俺はトニオさんって前例がいるからなんとも言えねーけどよォー」

「魔理沙くん。料理は静かに食べような」

 

面倒なヤツだ。今時、料理が上手い男なんて珍しくもないだろう。小傘を見習いたまえ。さっき食べたばかりだというのに無言で食べ続けているぞ。魔理沙も魔理沙でかなり食べているということが実に面倒な性格を表している。

 

「ところで小傘はなんで川尻の隣に座ってるんだ?」

「お? なんだよ魔理沙、嫉妬か〜?」

「うるさい仗助。単に気なっただけだ」

「だそうだが、小傘くん」

「なんで浩作さんの隣なのか? う〜ん、落ち着くからかな」

「あの夢が理由かね」

「夢? 何の話だ?」

 

魔理沙のヤツ……やけに興味深々じゃあないか。理由でもあるのか?

 

「私いつも夢の中で同じ人に会うのよ。無愛想なんだけど、なぜだかその人のそばにいると落ち着くの。浩作さんはその人によく似てるから、浩作さんの隣も落ち着くのかな?」

「私が見る夢とよく似ているな」

「本当かよ上白沢の先生。どんな夢か聞かせてくださいよ」

 

小傘の夢とよく似た夢、か。どんな夢かは知らんが、その夢を理由にして会ったばかりの赤の他人と親しくするのは賢くないと思うがね。ここに住む連中の感覚ではこれが当たり前なのかもしれんがな。

 

「私は夢の中でいつも通り子供達に授業をしているんだが、浩作君によく似た男性が一緒にいるんだ。そっけない態度なんだが……授業を受ける子供達も私も、笑っている楽しい夢だった。その男性は、そう、金髪だったな」

「金髪の男の夢なら、私もよく見るぜ。一緒に魔法の研究をしてる夢なんだが……多分新しい魔法の開発か? 色々な化学式とかよく分からない言語の本を読みながら魔法の研究をしてる夢だ。なんとなく川尻と似てるんだよな、雰囲気とか、表情とか。あの夢はなんなんだろうなー」

 

不思議、というよりも、奇妙と言った方が適切か。しかしこの場にいる5人の内の三人が似た夢を見るとは、かなり妙だ。おかしなことに巻き込まれなければいいが……

 

「へぇー、3人ともおんなじ様な夢見るなんて、奇妙なこともあるもんスねぇ」

「もしかしたら、この夢には何か意味があるのかもしれないな。夢は古代から天使や悪魔、それに類する超自然的存在からのお告げとされていたんだ。古代ギリシャではゼウスやアポロンだな。中世ヨーロッパのイタリア人、トマス・アクィナスという神学者であり哲学者だった人物は夢には4つの原因があるとしている。1つ目は精神的原因、2つ目は肉体的原因、3つ目は外界の影響、4つ目は神の啓示と分類している。ここでは4つ目に焦点を当てていこう。古代ギリシャからネイティブアメリカンの間でまで、神かそれに近しい存在の啓示であるというその認識は共通している。それに加え……どうした魔理沙?」

 

慧音の手首から目を離し魔理沙を見れば、帽子を深く被りちゃぶ台に突っ伏している。話を聞いていなかったから理由は知らんが、現状に不満があることは確からしいな。

 

「慧音は話が長いぜ、それに難しい単語ばっか使うからこっちは置いてきぼりだ。そんなんだから授業が退屈って言われるんじゃないのか?」

「うっ……授業のことは放っておいてくれ。確かに長かったかもしれないが……」

「かもしれないじゃなくて長いぜ」

「おいおい、いくらなんでもそりゃハッキリ言いすぎなんじゃあねーか魔理沙?」

 

ショックを受けているであろう慧音に追い打ちをしかける魔理沙を見て、仗助が助け船を出す。正直者は口が悪いと言うが、その言葉通りなら魔理沙は間違いなく正直者になるな。こいつの場合、単に思ったことをズケズケと言っているだけだが。

 

「魔理沙はだいたい自分勝手だからねー、それくらいの悪態はいつも通りっていうか」

「まあそんな感じはスっけどよー。あん? おい魔理沙、その手ちょっと見せてみろ。傷だらけじゃあねーか」

「ん? この傷がどうかし……!? な、ない!? 傷がないぜ!?」

「本当だ、あれだけあった傷が、一瞬で!」

 

クレイジーダイヤモンドか……破壊された物を治す能力。たった一瞬触れただけで魔理沙の手の傷を全て治す程の驚異的な速さ。仗助のお人好しな性格にピッタリな能力だ。

 

「次は上白沢の先生ッスね。手、出してくださいよ。筆ダコとかなら今みたいにすぐ治しちまいますから」

「凄い……これが君のクレイジーダイヤモンドの能力か」

「永遠亭の薬よりスゴイぜ! この能力を使えばいくらでも(かせ)げるんじゃないのか?」

「いや、この能力は金稼ぎには使わねーことにしてんだ。俺のこのクレイジーダイヤモンドはよ、誰かを守り、助けるために使うっていう、じいちゃんとの約束だからよ」

 

祖父との約束。それが東方仗助、貴様を突き動かし私を邪魔する元凶か。くだらんな。だが、死にかけ、ボロボロになってまでその約束を果たそうとするその金剛石(ダイヤモンド)の様な精神力。それだけは認めざるを得まい。

 

「スタンドが使えるなんて羨ましいぜ、スタンドを使えば負けなしじゃないか」

「そうでもねぇよ。スタンドは自動で守ってくれねえから、死角からの不意打ちにはどうしようもねえ。相手がスタンド使いだったらなおさらだ。第一、俺のクレイジーダイヤモンドは自分自身は治せないからな」

「でもスタンド使い以外には圧倒的に有利なのは事実だろ? 私もスタンドが欲しいぜ」

 

魔法を使える上でスタンドが欲しいとは、なんとも贅沢なヤツだ。スタンドが使える様になったからといって、クレイジーダイヤモンドやキラークイーンと同じタイプのスタンドが発現する訳でもないというのに。

 

「スタンドが使えたって日常生活じゃ困るだけだぜ。いくらグレートでも、見えないやつには不気味とか超能力とか言われるだけだかんな。俺も昔は苦労したしよォ〜」

「意外だな、君は何事ものらりくらりとそつなくこなすイメージだったんだが」

「んなことないッスよ。俺のダチに弓と矢の力で最近スタンド使いになったのがいるんスけどね、そいつも人に言えない秘密が出来たって落ち込んでましたよ」

 

弓と矢……親父がエジプトから持って帰って来たというアレか。そして私のこのキラークイーンを発現させたのも。ここ最近杜王町で妙な噂が多いと思ってはいたが、まさか他にもあったとはな。これで異様なスタンド使いの多さにも納得がいく。

 

「弓と矢? それを使えばスタンド使いになれるのか?」

「ああ。ただし、素質がなければ死ぬらしい。俺は承太郎さんと億泰から聞いただけだから見たことはねえが、実際に康一は死にかけてたからな。何より……スタンド使いになれば、戦うことから逃げられなくなる。どんなに戦いが嫌いでも。スタンド使いとスタンド使いは引かれ合うからな」

 

スタンド使いになれば、その瞬間から戦う運命を押し付けられる。全く、忌々しいがな。

 

「承太郎さんが言うには、その弓と矢は俺のいた町にあった2本の他にもいくつかあるらしい。もしかしたら、この幻想郷にもあるのかもな」

「確かに、可能性としては大いに考えられるな。仗助君の言う弓と矢がどれだけ古い年代の物なのかは分からないが、この幻想郷は幻想となった存在が流れ着く場所。その内の1本でも幻想となっているなら、あったとしてもおかしくない」

 

この幻想郷に、弓と矢か……もし本当にあるとするならば、すぐにでも爆破してしまわなければ。これ以上スタンド使いが増えてしまっては非常に困る。誰一人として、この吉良吉影のキラークイーンに気づく者がいてはならない。

 

「よく分からないけど、そのスタンド? を引き出す弓と矢って誰が作ったんだろうね?」

「どうなんだろうな。ただ一つ確かなのは、もしここに弓と矢があったなら、すぐにでもへし折らなきゃならねえってことだけだ」

「え、壊しちゃうのか? スタンド使いになれるかもしれない道具なのにもったいないぜ」

「スタンド使いの犯罪は、誰にも分からないし裁けねえ。例え殺人だったとしても、誰もスタンド使いの仕業だとは思わない。犯罪者が笑い、被害者や遺族は泣くしかねえんだ。だからあんな物は、あっちゃいけねえ」

 

(くし)を取り出し髪をとかす仗助の顔には、静かな怒りが浮かんでいた。この場にいる誰もが思わず口を閉ざし、その強固な決意を肌で感じる。

 

「そういえば、弓と矢とはまた別物だと思うんだが……どうやら紅魔館が謎の道具を手に入れたらしい。この間まで天狗が新聞にしたりしていたんだが、ここ数日は音沙汰がないな」

「どうせ見栄張った嘘だったんじゃないのか? レミリアなら充分にあり得ることだぜ。私が行った時もそんなの見なかったしな」

「そうかもしれないな。新聞の特別な力を与えるっていう情報も嘘なのか本当なのか……」

 

弓と矢の次は謎の道具か。その何かが弓と矢でないことを祈ろう。これ以上トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。ここでは、ただでさえ厄介ごとに巻き込まれやすいというのに。

 

「へぇー、特別な力か。今度レミリアのとこに行ったら聞いてみるか」

「その特別な力っつーのがスタンドじゃなきゃいいんスけどねぇ〜。もし弓と矢だったら、俺がグレートにブチ壊してやりますよ」

「それじゃ川尻、そろそろ行こうぜ。夕飯の支度もあるし、風呂も沸かさなきゃならないからな」

「なら、まず食器を片付けなくっちゃあな」

 

私が食器を集めようとした時、それを慧音の手が止めた。……綺麗な手首だ。許されるなら、今ここで切り取ってしまいたい。残念ながら、それは叶わぬ願いではあるが。爪が音を立てて伸び、私は殺人衝動をどうにかこらえる。抑えろ、今は抑えるのだ……

 

「いや、私が片付けるから浩作君は何もしなくて大丈夫だ。料理も作ってもらっているからな」

「あ、じゃあ俺手伝いまスよ。長屋の件の借りがあるッスからね」

「ありがとう仗助君。小傘はどうする?」

「私もそろそろ人を驚かすのに戻ろうかな。じゃあね浩作さん、料理美味しかったよ」

 

日が暮れ始めた頃、私達はそれぞれの日々へと戻って行く。小傘は里のはずれに去って行き、仗助は慧音と共に皿洗い。私と魔理沙は里へ来た時と同じ様に(ほうき)に乗り、(あかね)色に染まり始めた空を飛ぶ。

 

かなり長い時間、あの場所に拘束されていた。会社の飲み会ですら長居はしたくないというのに……しかし話題が弓と矢に向いて、私に話を振る者がいなかったのは幸運だったな。

 

「なあ川尻……川尻って、本当に何の能力もないただの人間なんだよな」

「……その通りだが、急に何の話かね」

「いや、仗助が川尻の住んでた町に2本も弓と矢があったって言うから、もしかしたらスタンドを隠してるのかもって思っただけだぜ」

「そんな訳がないじゃあないか。こうして空を飛んでいるのさえ驚きなんだからな」

「うん、やっぱそうだよな」

 

この位置からでは魔理沙の顔は見えんが、声の調子からして嘘をついている様には感じられんな。それにしてもこのガキ……やけに勘がいいぞ。どうやら慎重に立ち回らなければならんらしいな。最悪、このガキを始末する手もあるが。

 

「努力しても努力しても、越えられない天才がいたら、川尻はどうする?」

「ふむ、越えられない天才、ね……何で競うかにもよると思うが、競い合って自分が傷つくくらいなら、私はその勝負を降りるだろう」

「やっぱ、そうだよな……」

 

つまり、天才と凡人の埋められない差に思い悩んだ末の人生相談、という訳か。くだらんな。争いとはキリがなく(むな)しい行為だ。その天才を負かし次の天才に敗れたらどうする? 一つの戦いに勝利したところで、それでどうなる? 戦いとは実に愚かな行為だ。

 

「でも川尻がスタンド使いじゃなくてホッとしたぜ。仗助とかには、こんな弱音理解してもらえないだろうからな。それに、恥ずかしいし……」

「君は仗助くんが好みなのか」

「? なんでそうなるんだ?」

 

違ったか。まあいい、どちらにせよ私には関係のないことなのだからな。私と魔理沙を乗せた箒は、茜色の空をゆっくりと飛んで行く。




もっと話の作り方を上手くしなければ……
オリジナルの悪役ですが、現在は投票数1で“あり”という結果です。12月の30日23時までが期限となるので、それまでに活動報告の方で回答をお願いします。

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