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ここは……どこだ? 私は仗助に殴られ、そして……気を失ったのか。ここは見たところ日本家屋の様だが、隅々まで掃除されているのは好感が持てるな。
敷かれていた布団から起き上がり、縁側へと出る。そう遠くない場所に里が見えるが、どうやらこの家はつい最近建てられたばかりらしいな。里から離れているのもそのせいだろう。
まあ、一つ気がかりなのは……布団の横に湯のみ、それもまだ温かい物が置かれているのに、誰も見当たらないことだ。この家はそう広くはないらしいが、誰かがいる気配もない。まず、魔理沙や仗助はどこに行った?
「誰か、いるのかね?」
私はあえてそう口にする。すると、誰かの足音が家の奥から聞こえてきた。やはり何かがいる……しかし妙だ。遠くからは子供の声が聞こえてくる上に、畳や柱のこの質感は本物だ。幻覚や夢、スタンド攻撃ではない……ならば窃盗か?
捕まえてやる義理などないが、恩を売っておくに越したことはない。だが最優先すべきは私の身の安全! 危険を冒すなど愚かなことだ。東方仗助や広瀬康一ならば、
「戻れ! キラークイーン!」
『GRUUU……』
バイツァ・ダストを解除すると同時に、私のそばに現れ立つ者。この家の中にいるのが誰なのかは知らんが、キラークイーンは狙った獲物は必ず仕留める。そう、まるで狩りをする雄壮な虎の様にな。
息の音は……聞こえない。
私はその挑発に乗り、家の奥へと入って行く。キラークイーンは発現させたままな。そして
「おどろけー!」
「……」
「あれ? え、えーと、うらめしやー!」
「……?」
「うぅー、驚いてよぉー……お腹すいたよぉー」
……私に、どうしろというのだ……
腹がすいたと言うから、一応あり合わせの物で飯を作ってやったはいいが……食材の少なさからして一人暮らしらしいな。しかし仗助達はこいつを残してどこへ行ったというのだ? ますます分からんぞ。爆破は保留にしておくか。
しかしこの少女、一心不乱に食べているぞ。この食べ方からするに、ダイエットの為に一食抜いた……という訳じゃあないようだな。
「ごちそうさまでした。美味しかったー!」
「それは良かった。ところで、君はここの家主かね?」
「ううん。通りかかったらあなたが寝てたから、上がらせてもらっただけだよ」
「君はここの家主と知り合いなのかね」
「うーん、知り合い? なのかな?」
何てことだ……話の雲行きが怪しくなってきたぞ。家の中で傘を開いている辺りまともではないと思ってはいたが、やはりこのガキに関わるのは
「君は何者なのか、教えてくれるかな?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。聞いて驚け、私は
「小傘くん、ここの家主が誰か教えてくれないか」
この少女のノリに合わせるのが面倒だから流したが、目に見えて落ち込んでいるな。なぜそんなに驚かすことにこだわるのか私には理解できんが、理由でもあるのか? 興味は無いがね。
「ここは里の半妖の家だよ」
「半妖?」
「え? 寺子屋の教師をやってるから有名なはずなんだけどな……あなたもしかして外来人?」
「ああ、そうだが」
私が
「外来人にも驚かれない妖怪なんて……やっぱり向いてないんだ……うぅ、妖怪失格だよ……」
この少女、妖怪だったか。それなら髪の色が非常識なことにも頷けるな、妖怪という存在自体が非常識なのだから。しかし、なんだか、ここ最近運が私を見放している様な気がするよ。こんな場所に迷い込むし、仗助にも殴られた……この状況も非常に面倒だ。
「君は、
「え?」
「梟は小型の鳥類で、主に森林に生息するが……その実、獰猛な捕食者でもある。彼らは日中はあまり活動せず、それどころか自分よりも小さな鳥に追い立てられることすらある。だが、夜になればその関係は一変する。梟は夜の支配者だ。その目は暗闇を見通し羽音を立てず近寄りその鋭い爪で獲物を仕留める。明確には知らんが、ある調査では一年間に梟が食べる割合の10%近くは同じ鳥類だったらしい。闇を味方につけるのだ。全ての生物は闇を恐れる。それは遠い昔から遺伝子に刻み込まれた習性であり、本能であり、知恵だ。全ての生物は闇を恐れる」
私の話を聞いた少女は何やら考え込んでいる様だ。大方、次にどうやって襲おうか考えているのだろうが、これ以上私を
立ち上がった少女はなぜか
「おどろけー」
そう言いながら私の両肩を掴んでくるが……何がしたいのかまるで分からんぞ。この状況で驚くヤツがいったいどれだけいるというのだ。
「おどろいた?」
「いや」
「うー、暗くしてもおどろいてくれない……ひもじいよぉ」
「おいおい、さっき食べたばかりだろう」
「私は人をおどろかしてその心を食べる妖怪なの、だからおどろいてくれないとお腹いっぱいにならないのよ」
自分から助言しておいて失礼だが、中々に面倒な性質だな。そもそもこいつの驚かす技術に問題がある気がするが、こいつは気がついているのか? 面倒だ、適当に話を逸らしておくか。
「一つ聞きたいんだが、なぜ君は通りかかっただけなのに私のそばでお茶を飲んでいたんだね」
「それは、うーん……」
少女に向き直り質問を投げかけると、また考え込み始めたらしい。なぜ私の顔を見ながら考えているのか分からんが、気にすることでもないだろう。そう思った矢先、少女は私の顔に顔を寄せてきた。
「……頭突きを食らわされる
「あ、ちょっと満たされた。ふふふ、顔を近づけられるのが怖いの?もっと顔近づけちゃうぞー!」
「ええい、考え直せ!」
このガキ……! 私が驚いたことに味を占めたか! まずい、このままでは……この状況を仗助や慧音に見られでもすれば尚更面倒なことになる、どうにかして切り抜けなければ!
ぐ、なんだこいつのこの力は……! お、押されている、妖怪とは言え、たかが少女にこの吉良吉影が押されている! キラークイーンは……いや、こんなくだらんことで使えるか!
「あなたの顔、やっぱり……」
突然何を言い出す!? ん、こいつの手、中々手入れをされた綺麗な手をしているな。いや、こんなことを考えている場合では……!
「うお!?」
「きゃ!?」
……まあ、終わり良ければ全て良しといったところか。体勢を崩したおかげで、こいつは畳に顔面から突っ込み私はわざわざ押し返す必要が無くなったのだからな。さっさとこいつを私の上からどかすとしよう。
「うー、痛いよー」
「畳に顔から突っ込んだ程度だ、すぐに治る」
「目の中にゴミが入ったかも……」
「……仕方あるまい、見せてみたまえ」
目をこする少女の前に移動し、
「うべっ」
「当て身」
「う……」
これで、やっと静かになったな。いきなり顔を近づけてきた時は少々面食らったが、学生でもあるまいし、他人の顔が近づくのは拒否感が先行するのを実感したよ。これが手首だったなら喜んで頬ずりするところだが。ん? 顔を近づけられて面食らう……フフ、面白い。
寝かしつけたはいいが、やはり部屋のど真ん中で寝られるのは邪魔か。雑魚寝というのは品性に欠ける愚かな行為だ。布団に寝かせて、掛け布団もキチッとかけてやろう。よし、これで落ち着いた。
この少女、小傘といったか? 発言や行動からして魔理沙よりも子供の様だが、あまり幼くは見えんな。10代半ばといったところか? 少なくとも外見的には魔理沙と同い年に見えるが……まあいい。妖怪に人間の常識が通用するかどうかも怪しいところだからな。
常識が通じないといえば、こいつの傘、顔があった様に見えたが、見間違い……な訳、ないよな。
手にとって見て気づいたが、この傘の顔、白目を剥いているぞ。あの少女が気絶したからこの傘も連動した、という訳か。それにしても紫色の傘とは、それに生地も上質だ。気に入ったぞ。開いて良く見てみるとしよう。
ふむ、
「ん……」
不意に声がした方を見てみれば、先程の少女がくすぐったがる様な表情を浮かべながら寝ていた。何の夢を見ているのかは知らんが、羨ましいな、幸せそうで。私はさして気にも留めず再び指で柄をなぞる。
「ふひ……」
……偶然か? それとも、この傘とこいつの感覚が繋がっているとでもいうのか?試してみる価値はあるな。今度はさっきよりも上の根元に近い部分に触れ、優しく
「な、なに!? ちょ、あなたはどこを触ってるんですかー!」
騒がしいヤツだ。魔理沙よりも騒がしいかもしれんな。
少女は私の手から傘を奪い取ると、取られることを警戒してか背を向け傘を閉じる。何やら傘の目が変わっていた様な気もするが、気にすることでもないだろう。
「……エッチ」
「すまないが、何を言っているのか分からないな」
なぜそうなる。まるで話が見えんぞ。
「その傘は君と感覚が繋がっている様だが、どこと繋がっているのかね」
「……足だよ」
なるほど、つまりこういうことか。私は見ず知らずの小さな少女の足を撫で回す変態だった。
「それは悪いことをした。だが君の足と感覚が繋がっているとは知らなかったんだ、頭を下げよう。許してくれ、この通りだ」
「えー……1ミリも下がってないよ」
「何を言っているんだね、こんなにも下げているじゃあないか」
キラークイーンの頭をな。
「?? あ、そうだ! あなた、やっぱり似てる」
「似てる?」
「そう。私ね、夢の中でいつも同じ人に会うの。その人は全然笑わないし面白いことも言わないんだけど……隣にいると、とっても落ち着く人なのよ。なんだか、見えない何かに守られてるみたいに。その人と言動も表情もよく似てるなーって」
夢の中、ね。
「ギャー!」
つくづく、今日は災難な一日だ。なぜこうも静かに過ごさせてくれないのか……障子を開け外を見れば、遠くで何かに頭を食われた仗助が地面に倒れているのが見えた。巨大なツチノコの様な物に食われているが、まあ気にすることでもない。
「仗助君!」
「うわー! 仗助が
野槌? 大方野生動物か何かだろう。それに仗助があの程度で重傷を負うとも思えん。知らない振りを貫き通すのが吉だ。
「なになに? すごい悲鳴が聞こえたけど……」
「気にすることじゃあない。それよりも小傘くん、驚かすのに丁度いい人物がこれからここに来る。準備しておきたまえ」
「本当!? よし、おどろかしちゃうぞー」
仗助が驚いてくれるとは思えんが、魔理沙ならば多少は期待ができるだろう。ん? こいつ、部屋の隅に隠れて何をしている?
「君、何をしているのかね」
「しーっ! 見つかっちゃう!」
まさかとは思うが……そんな安易な方法で驚かそうとでもいうのか? まるで成長していない……発想力が園児並みだ。
「来たまえ。いいか、驚かすというのは、こうやるのだ。まずこの屋根裏に続く天井板を外す。次に君が天井に登り中から天井板を閉めるんだ」
「え、それは、その……」
「まさか暗いのが怖いとは言わんよな?」
「えっと……はい」
「私の言ったことを思い出せ。闇を支配するのだ。狩られる側としてではなく、狩る側として物事を見ろ。恐れるな。味方につけろ」
少女は暫くまだ見ぬ暗闇を想像し怯えを見せていたが、その内私を
「傘を貸してくれ」
「うん」
「よし、天井板は外した。私の背中に登れるか?」
「それくらいなら」
少女が私の背中に乗り、私は少女を天井に登らせるために立ち上がる。私の視点からはよく分からんが、少女は天井に登るのを少しためらった後に登ったらしい。驚かすことへの情熱では間違いなくナンバー1だな。
「いいか? 君は私から合図があるまでその板を閉め決して音を立てるな。合図を送った後なら音を立てても構わない」
「合図は?」
「合図は……果物の名前だ。来るぞ」
傘を渡し、少女が天井板を閉める。お
「しかしなぜ野槌がこんな人里にまで下りて来……ひっ! なんだ、浩作君か……驚かさないでくれ」
「なんだ川尻、起きてたのか?」
「ああ、ついさっきね」
仗助ならば怪我は大したことはないと考えていたが、思いのほか血まみれだったな。
「仗助くん。その怪我、大丈夫かね。“渋柿”でも食べた様な顔をしているが」
「大丈夫ッスよこれくらい。薬塗っとけば治りますって」
私の合図に反応し、小傘が天井板をわずかに開ける。その音に仗助達が振り返り見たのは、薄暗い天井の隙間から覗く赤い目。
「ぬわあぁぁ!?」
「何だ小傘か、そんなところで何してるんだ?」
「そこは汚いから早く下りて来た方がいい」
……なぜ仗助が腰を抜かし、この二人は涼しい顔をしているのだ。普通ならば逆の立場だろう。いや、ここで普通というのは通じないんだったか。
「あれー? 私は魔理沙をおどろかすつもりだったんだけど……」
「ふふん、この魔理沙様を驚かすなんて百年早いぜ」
「び、びっくりしたぁー……まさかこんな女の子に驚かされるなんてよォー……」
「あ、久しぶりにお腹いっぱいになった! ありがとう浩作さん! 待ってろ私の昼ごはん! お邪魔しました!」
仗助が驚いたことがそんなに嬉しかったのか、小傘は私への礼もそこそこに外へと飛び出して行った。
「ありがとうって、もしかして川尻さんの入れ知恵ッスか? 勘弁してくださいよォ〜、俺幽霊とかダメなんスよ……」
「君にはクレイジーダイヤモンドがあるじゃあないか」
「それとこれは別っていうか、トラウマみたいなもんスよ」
幽霊、ね。どうせ親父に追い詰められたとかだろう。仗助なら充分にありえる話だ。
「仗助って幽霊が苦手なのか? 案外臆病なんだな」
「ああ、一度殺されそうになったことがあってよ……幽霊は怖いぜ」
「殺され……? それは恐怖でということかい?」
「いや、包丁で」
「なんか、仗助の言ってる幽霊と私達の知ってる幽霊は根本的に違う様な気がするぜ」
数分後、全く驚かれず落ち込んだ小傘が戻って来た。
質問したいんですけど、オリジナルの悪役ってありですかね?
一応日本の伝承をモチーフにしたやつですが……詳しくは私の活動報告に書いときます。