とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第7話 能力

 

「どぉりゃああああ!!!」

 

 

上条当麻が雄叫びをあげると、ソードスキルの力を得た剣が狼のモンスターを切り裂き、そのHPを全て削り切り、モンスターがたちまちオブジェクト破砕音と共にポリゴン状になり四散した

 

 

「あぁ〜〜〜また暇だ〜〜〜……」

 

 

SAOが始まってから約1ヶ月が経った。βテスト時のペースならば既に4層までを突破していてもおかしくはない。しかし、1層を突破するどころかボス部屋を発見することも出来ていない。βテスターを含めるプレイヤーの全員が「現実的な死」と向き合うあまり、どうしても慎重になってしまい思うような攻略が出来ずにいた

 

 

「俺のレベルも大分上がったはずなんだけど…やっぱ『コレ』だけは慣れねーなぁ…」

 

 

上条当麻こと彼は今まさに自身のレベル上げや金稼ぎの為にモンスター狩りに出ていた。ここまで旅を共にしてきた御坂美琴も、今だけは彼の傍にはいない、なぜなら…

 

 

「どうして俺の周りには!!こんなにもモンスターがポップしねえんだよぉぉぉ!!!不幸だーーーー!」

 

 

彼の周りでは異様なほど初期出現のモンスターを倒した後に、モンスターが再出現する「ポップ」という現象が中々起こらない。このゲーム内でのモンスターのポップは常に一定の時間間隔で行われるはずなのだが、彼の周りではその法則が何故か働かなくなるのだ。故に彼のレベル上げはある意味では困難を極め、今までこそ付き合っていた美琴も、ついに痺れを切らし、今日は一旦とことん暴れて狩りをしたいということで別行動を取っている

 

 

「はぁぁぁぁ…いつの間に俺の不幸は数値で設定されてるものまで打ち消せるようになったんだよ…はぁ…やっぱ『コイツ』のせいなのか…?」

 

 

そう呟きながら自身の背負う鞘に片手剣をしまい、草原に大の字で仰向けになり大きく溜め息を吐いた彼は、右手を振り下ろしメインメニューを開き、自身のスキルを確認する

 

 

「・・・『幻想殺し』」

 

 

そう、彼のスキル項目の中には、いつからかなのか、それとも最初からなのか、現実世界で彼が持つ能力と同じスキルが存在していた

 

 

「・・・でもこれ、やっぱりおかしいよな。最初っからカンストしてるし。そもそもこの世界に異能の力なんてもんあんのか?」

 

 

スキルとは、一定の経験値やスキルの反復使用で段々とその数値を貯め、レベルを上げるものなのだが、彼のスキル「幻想殺し」はゲームの数値ではもう既に成長の限界に達していた。

 

 

「おかげで普通に剣で戦うよりも素手で戦った方がよっぽど強えぜ。でも何だかなぁ〜…怪しすぎて使う気になれねーんだよなぁ〜…」

 

「・・・御坂にも言っといた方がいいのかな?これ。でもなぁ〜、それでいざ教えて『じゃあアンタは素手で戦え!』なんて言われるのもなぁ〜…大体それじゃあこのゲームの意味ねぇだろ〜。ここは『ソードアート・オンライン』言っちまえば剣で生きる世界なんだぜ〜…?」

 

 

どうも彼としてはこの剣の世界で生きる以上、自分の拳で戦うのは避けたいようだ。それもそのはずであろう。そもそも剣と拳ではそもそもの「リーチ」が違う。拳で戦うならば、その分モンスターに近づかなければならない、当然危険も増える。HPが0になれば現実でも死んでしまうこの世界ではあまりにもリスクが高い

 

 

「ま!今は考えてても仕方ねぇな。とりあえずレベル上げとかねーとな。御坂にドヤされるし、何よりボスと戦えねぇ…さて!やるか!」

 

 

そう言って仰向けで空を眺めるのをやめ、飛び起きる上条。しかし、彼の周りには…

 

 

「・・・いやまだモンスター湧いてねぇのかよ!?流石にそりゃないだろ!?不幸だーーーー!!」

 

 

「幻想殺し」の少年、上条当麻。いずれその能力でこの世界の在り方を根本的に変えてしまう少年。しかし、彼の気苦労は、現実世界でも仮想世界でも絶えることはない

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっぱり『コレ』・・・紛れもなく本物だ・・・」

 

 

この彼女、御坂美琴は今SAOの世界でモンスターと戦闘を行なっていた。しかし、それはただの戦闘とは必ずしも呼べない。なぜなら…

 

 

「『超電磁砲』・・・なんで現実世界の私の能力が私のスキルとして扱えるわけ?」

 

 

彼女もまた、上条と同じくして自身のスキル項目に現実世界と同じ自分が持つ『能力』を隠していた

 

 

「使ったところで本当に発動するなんて確証はない、だから今日だけはコレを試す為に『アイツ』とも理由をつけて別行動にした…でも…だけど本当に使えるなんて…」

 

 

半信半疑で使った彼女のスキルは余すことなくその能力を発揮し、「常盤台の電撃姫」という彼女の二つ名に恥じぬ電撃を見せ、周囲のモンスターを全滅させた。

 

 

「・・・確かにこれがあれば私はもっともっと強くなれる。それこそ、βテスターやこの層のボス…いや、もっと先の層のモンスターなんて目じゃないくらいに……」

 

 

御坂美琴は仮にも学園都市に7人しかいないレベル5の第3位である。その彼女の能力がフルに使えるのなら、並大抵の敵では彼女を征することはできないだろう

 

 

「・・・でも、だからこそこの『能力』はこの世界じゃ使えないわね…」

 

 

そう、彼女、御坂美琴は知っている。強大すぎる力は、自ら周りの人間を遠ざけてしまうということを。そしてその周りからは妬みや嫉みと言った、黒い感情がこもった視線を向けられることがあるということも。彼女は孤独に悩まされていたこともあった。今でこそ白井のような心を許せる後輩がいるが、それまでは周りとのレベルによる『差』という孤独を味わっていた。そしてそれはこのゲームも例外ではない。ネットゲーマーには嫉妬深い者が多い。きっと周りからは嫌われるに決まっている。そう思ったからこそ、彼女はこの能力を永遠に隠しておくことを心に誓った

 


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