「はい!チーズ!にゃー!」
カシャ!
「イェーイ!三人ともとびっきりの笑顔が撮れましたぜよ!」
「あらあら、どうもありがとう土御門君」
「サンキューな、土御門」
「いやいや、この程度お安い御用ですたい。じゃ、カメラお返ししますぜいお父さま」
「ああ、すまないね土御門君」
SAO事件終結から3ヶ月が過ぎ、時は3月の中頃。上条当麻やその同期生達は満開になった桜の木々の中で高校の卒業式を迎えていた。そして、はるばる学園都市の外から上条当麻の両親も彼の卒業を祝いに来ていた
「それじゃあ当麻、父さん達は一足先に体育館の保護者席に行ってるからな」
「ああ。また後でな」
「それじゃあまたね当麻さん。土御門君と青ピ君も当麻をこれからもよろしくね」
「はいはいにゃ〜」
「任せといて下さい〜」
そう言って手を振ってから上条夫妻は3人に背を向け、学校の体育館へと向かっていった
「いや〜、しっかしほんま上やんのお母さんって美人さんなんやな〜、人妻も守備範囲の僕としてはこれだけの逸材は他には……」
「青ピ、それは流石の俺でも引くぜよ」
「しっかし、上やんホンマによく卒業出来たもんやな〜…」
「いやいや、正直この数ヶ月は生きた心地がしませんでしたのことよ…」
「それでも小萌先生には感謝しなきゃダメぜよ〜?ただでさえSAO事件のせいで足りなくなった出席日数を帳消しにして貰うために学校の関係各所に頼み込んだ上に卒業判定試験の為に毎日学校終わった後は付きっ切りで上やんの面倒見てたんだからにゃー」
「くっ…!小萌先生と2人で愛のマンツーマン授業なんて…羨ましい!羨ましすぎるで上やん!!」
「まぁな、そういう意味じゃ本当に小萌先生にはこれから先ずっと頭が上がんねーよ」
「そんなことはないのですよ。上条ちゃん」
「え?あ、先生」
「卒業式おめでとうございます、3人とも。いつの間にかここに入学した時とは見違えるようような立派な生徒になって先生も鼻が高いのですよ」
「ホンマありがとうございます!小萌せんせ!」
「・・・なんか小萌先生が和服着てると七五三みたいぜよ」
「もーー!!土御門ちゃんまでそんなことを言うのですかー!!さっき吹寄ちゃんと姫神ちゃんにも全く同じことを言われたのですーー!!」
「ま、そんなことより、上条ちゃんはそんなにかしこまる事はないのです。この数ヶ月、ちゃんと勉強して自力で卒業判定試験に受かって大学入試に受かったのは間違いないのですから」
「いえ、本当にありがとうございます先生」
「本当に上条ちゃんが卒業出来て良かったのですよー。ただでさえ1年生の時から問題児だったのに2年も休んで一体どうなることかと冷や汗止まらなかったのですー」
「てかそもそも上やんその制服着てたの1年もないんとちゃう?」
「本当だよ。おかげで学ランなんてまだツルツルですのことよ?」
「それじゃ、先生も色々と準備があるので先に戻るのですー。三人もちゃんと式までに教室に戻るんですよ?」
「はい、それじゃまた後で」
「じゃ、俺たちも行くぜよ」
「ほな、上やんも行きますでー」
「おう、2人もありがとな」
「「???」」
「いや『???』じゃなくて。あの二年間、ずっと来てくれてたんだろ?俺のお見舞い。本当ありがとな」
「なーにを今さら。ねー青髪さん?」
「本当ですよ。ねー土御門くん?」
「?」
「上やんがおらんと」
「俺たちデルタフォースは始まらないんぜよー」
「・・・そうか」
桜の花びらが舞う校庭で、2人とともに歩みを進める上条当麻の表情は、恥ずかしさからか、嬉しさからなのか、とても幸せそうで柔らかな表情だった
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「青…ひっく…えぐ…青髪…ピアス」
「は、はい…」
どよどよどよどよ………
上条の高校の卒業式が始まり、そのまま滞りなくプログラム通り式が執り行われる…かに思われた。クラスの担任が生徒の名前を読み上げる卒業式では恒例の場面で、上条たちのクラスの担任である月詠小萌がもはや最初の生徒の名前を呼ぶ段階でボロボロと涙を流していた
「い、いくらなんでも小萌先生泣きすぎぜよ…」
「う、噂には聞いてたけど…もはやまだ1人目よ?これ全員呼び終わるのにどれだけ時間かかるのか分かったもんじゃないわ…」
「それもそうなんだけどよ…上条さんはそれ以上に気になることが…」
「・・・ああ、それは俺もだ上やん」
「ええ、多分私も考えてる事は貴様と同じよ。上条当麻」
「それでは心の中でご唱和下さい。みなさんご一緒に、せーの…」
(((青髪ピアスは名前なのかよ…)))
「ひっく、ぐしゅ…か、上条ちゃ…ひぐ…上条当麻…うわーーーん!!!」
「は、はい」
「つ、ついに上やんで号泣して机に突っ伏したにゃ…」
「いつぞやの県議会議員の号泣会見を思い出すほどの泣きっぷりね」
(てか今呼ぶ時、地味に俺の名前「上条ちゃん」って言いかけたけどな…まぁいっか)
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「zzzzz」
「あなたーーー!!起きろーーー!!朝ごはんだよー!!ってミサカはミサカはベットで寝ているあなたにダーーーイブ!!!」
「zzz…ぐォお゛!?」
「えへへー///おはようあなたー、ってミサカはミサカはほっぺをすりすりー!」
「がぁぁぁ…朝っぱらからこのクソガキはぁぁぁ…」
「はーいはい、打ち止めもその辺にしといてやるじゃん。二年前と違ってそれなりに体重増えてんだから一方通行の骨が折れちゃうじゃんよ」
「やーん!せっかくあなたの温もりを肌で感じてたのにー!ってミサカはミサカは人肌恋しさを訴えてみたり!」
「・・・おィ、黄泉川」
「?どうしたじゃん?一方通行」
「・・・気が変わった、ガキを寄越せ」
「「!?!?!?」」
「そ、それはいわゆる抱きつきOKサインなのでしょうか…?と、ミサカはミサカは確認を取ってみたり…」
「・・・チッ…好きに解釈しろォ」
「!!!わーい!!突撃ー!!」
「ただしあンま暴れんじゃねーぞ」
「えへへー!すりすりー!」
「あーりゃりゃ〜。これは一体どういう風の吹きまわしじゃん?」
「・・・別に…ただコイツらも思うところがあるンじゃねェかと思って気ィ使っただけだ」
「・・・・・」
「・・・ま、お前もなんだかんだ2年以上寝たきりだったんだし、そういう気持ちにもなるってことじゃん?」
「・・・さァな」
「へー?そういう態度取るじゃん?素直じゃない少年は教師として見過ごせないじゃん?」
「うっせェな…だったらなンだ?」
「私も抱きついてやるじゃーん!!」
「は、ハァ!?グォォォ!!!」
「キャーー!!あなたと黄泉川のサンドイッチー!ってミサカはミサカは2人の肌心地を実感してみたりー!」
「こンの…!重ッ…!」
「こんな朝早くから何やってるのよ3人とも…朝ごはん出来てるんでしょう?」
「おー、おはよう桔梗。お前も混ざるじゃん?」
「私は遠慮しておくわ、眠いし」
「テメェは俺がいなかった2年間ずっとそンなンじゃなかっただろうなァァァァァ!?」
「まさか、ちゃんと働いてたわよ…自宅警備員として」
「ソレを世の中じゃニートっつうンだよクソがァァァァァ!!!」
「おっと、もうこんな時間じゃん。じゃー私は朝ご飯食べたらさっさと行ってくるじゃん、流石に自分の学年じゃないとはいえ、自分の高校の卒業式は顔を出さないとマズイじゃん」
「・・・黄泉川」
「どうしたじゃん?」
「・・・いや、なンでもねェ」
(・・・今さらになってこれ以上何が出来るっつーンだ…クソが…)
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「えー、おほん。みなさん、先ほどの卒業式ではお見苦しいところをお見せして申し訳ないのですー。いやー、先生卒業式の時はいつもああなってしまうのですよー、あはは」
小萌はそう言いながら後ろ頭を掻いて誤魔化すが、真っ赤に充血した眼と涙を拭き過ぎた為に真っ赤に腫れた目元は誤魔化せていなかった
「何はともあれ!先生がこうしてみんなの前に立って何かを教えるのはこれで最後なのですー。みなさんがこの学校で学んだことは何も勉強だけではないのですよー。これからは道は違えど、自分がこの学校で学んだことを糧に真っ直ぐに生きて欲しいのですー。でも、もし何かに挫けてしまいそうになってしまったら!この学校に遊びに来て先生のとこに来ても構わないのですよー?みなさんはいつまでだって先生の大切な生徒さんで、先生はいつだって、可愛い生徒さんの味方なのですから」
(学んだこと…か…俺は一体…って、マトモに学校に通えなかった俺がそんなこと考える方が野暮ってもんか…)
上条は頬杖をつきながら小萌の話を聞いていたが、ふと、そんな風に考えてしまっていた
(来年の今頃は…みんな何してんのかな…俺は何とか大学の二次試験に滑り込みで合格できたからいいが、大学に行かず働き出すヤツもいるって聞いたし…でも、それでもみんな元気にやっていくんだろうな…)
(でも本当なら今頃は…『アイツら』も…ちゃんと…)
「では!みなさんお元気で!いつの日か立派になった皆さんに会えることを先生楽しみに待ってるのですよ!それじゃあ、吹寄ちゃん、最後の号令をお願いするのですー」
「はい!全員、起立!」
ガタガタッガタッ!
吹寄が呼びかけると、クラスの全員が起立し、これまでにないほど綺麗に背筋を伸ばし、これまでお世話になった教師に目を向けた
「先生!今まで本当にありがとうございました!さようなら!」
「「「ありがとうございました!さようなら!」」」
ザワザワザワザワ…ガヤガヤ…
「小萌せーんせ!僕のアルバムに、小萌せんせの熱いハートの篭った一言をご執筆願いますー!」
「もちろんなのですー!青ピちゃんも、自分のパン屋さんを開いたらその時はぜひ先生に連絡を下さい、お店のパン丸ごと買い占めに行くのですよー」
「もぉー!せーんせ!それじゃ商売あがったりやないですかー!」
「姫神さん、この街を離れても、私のこと忘れないでね?いつでも連絡してね。たまには一緒に遊びに行ったりしましょ?」
「うん、ふ、吹寄ちゃんも…これから大学でも頑張ってね…///」
「おお〜?私とのお別れで泣いてくれるのかしら?あはは!」
「わ、笑うことない!///」
「あはは、ごめんごめん。何だかつい可愛く見えちゃってさ、こういうところも世話焼きって言われる所以かしらね」
「でも、そんな制理だからこそ、きっと面倒見のいい、立派なお医者さんになると思う。その夢、応援してる、頑張って」
「うん、ありがと!じゃ、最後にツーショット撮りましょ姫神さん。はい、チーズ!」
「上やん、クラスの卒業記念打ち上げ、もちろん来るだろ?」
「ん?ああ、悪い土御門、先に行っててくれ。俺は後で合流すっから」
「・・・今日も、行くのか?」
「ああ『今日も』って訳じゃないんだけど…『今日は』絶対に行かなきゃダメなんだ」
「・・・あんまり背負いすぎるなよ。『彼ら』も俺たちも…上やんにそんな重荷を背負わせたい訳じゃないんだ」
「大丈夫だ、分かってる…ずっと前から分かってる。これは俺の…ただの一人よがりだ」
「上やん…」
「じゃあ、また後でな…」
「上やん!」
「・・・なんだ?」
「・・・今はまだ都合でこっちに来られてないが…ステイルも神裂もインデックスも…お前のことを心配してる。忘れないでくれ、たしかにどうしても引きずってしまうことは分かる。でも、それ以上に『あの世界』から生還した上やんには、これまでずっと心配してくれた人達にこれ以上、心配をかけないことも…『彼ら』の為にもこれから先を生きていくことが、大切なんだ」
「・・・土御門、サンキューな」
「ああ」
「でも…」
(もう綺麗事なんて言い飽きたし…聞き飽きちまったよ)
「・・・?でもなんだ?」
「いや…なんでもない。それじゃ…」
そう心の中で悲痛に叫びながら上条当麻はその踵を返し、卒業生の皆が語り合う教室を後にした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
上条当麻は学校で卒業式を終え、学校を後にし、学園都市内のとある病院を訪れていた
「こんにちは」
「はい、こんにち…あっ、あなたでしたか」
「毎日すいません、面会をお願いしてもいいですか?」
「はい、もちろんです。でもいいんですか?今日は確か学園都市中の学校が卒業式のはずですが…」
病院の受付けを担当しているナースは不安そうに上条に尋ねた
「ええ、いいんです。卒業式はちゃんと出ましたし、今日だけを特別にすることなく、今日も来なきゃいけないって思ってたんです」
「そう…ですか…」
「それに、アイツらの中にもいるかもしれないじゃないですか。もしちゃんと起きていたら、俺と同じように今日卒業式を迎えていたかもしれないヤツらが」
「・・・・・」
「すいません、それじゃ」
暗い声色でそう呟くと、上条は病棟の奥へと歩き出し、段々と小さくなっていく足音とともに彼の後ろ姿は見えなくなっていった
「重症だね、彼」
「あ、先生…」
先ほど上条を相手していた受付のナースに声をかけたのは、この病院の名医にして「冥土帰し」の異名を冠するカエルによく似た顔の医者だった
「先生は彼をよくご存知なのですか?」
「・・・2年前の彼はよくもまぁ厄介事に首を突っ込んでは怪我をして帰って来てね、何度僕が治療したかなんてもう数えるのも億劫になるほどだったよ。夏の時なんて、それはもう目も当てられないくらいの大怪我をしてきたもんだ」
「あはは、そんなにヤンチャな子だったんですね。今の彼とずっと眠っていた彼しか知らない私からしたら…想像も出来ないです」
「だからこそ、彼は変わってしまったと言い切れるね…」
「ええ…何だか今の彼は…目に光がない…そんな感じがします…」
「今の彼は恐らく…心が死んでしまっているんだろうね。精神科の手解きを受ければ多少は変わるのかもしれないが、所詮気休めでしかないね。なにしろ彼が負った心の傷は深すぎる」
「先生…なんとか…してあげられないんでしょうか?」
「こればっかりは僕も専門外だね。これは2年前からずっと痛感してきたことだが…こんなにも患者の為になれないとは…無力だよ」
「あの日『彼が目を覚ました』と…2年間彼の病室にずっと通い続けていたあの女の子がそう叫んだのを聞いた時どれほど嬉しかったことか…これでやっと2年前にこの病院に運ばれて来た全てのSAO患者が救われると…そう思った」
「ゲームクリアから一転して…こんな悲劇になるなんて…こんな…こんなの…あんまりです…」
「僕もまさかこんなことになるなんて思いもしなかったよ…まさか彼ともう1人の『白い彼』以外誰も…」
「目を覚まさないとはね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よっ、御坂」
「・・・・・」
ピッ…ピッ…ピッ…
「今日は卒業式だったよ…本当ならお前も去年の春には卒業式と入学式やってたんだよな…」
「・・・・・」
ピッ…ピッ…ピッ…
上条当麻が病室のベットで眠る御坂美琴に声をかけるが、彼女が彼に口を聞くことはない。上条の言葉に返事をするのは、無機質に美琴の心音を鳴らす機会音だけだった
「お前も…案外向こうでリズやシリカやアルゴ…エギルにクライン達と元気にやってたりすんのか?一応俺たちと同じSAO患者の何人かが学園都市内外問わずこの病院に搬送されて入院してんだけどさ…関係者以外面会謝絶だってよ…笑っちまうよな」
「・・・・・」
「一緒に命を賭して生き抜いた俺たちを…学園都市内の人間と外の人間ってだけで関係者にはなり得ないってズバッとさ…」
「・・・・・」
「まぁ正直俺もお前の関係者って言えるか微妙だけどな…でもお前の母さんが俺だけはって許可出してくれて…事件を取り締まってる政府の人も、俺らがSAOで一緒にいたって面も考慮してくれてこうして見舞いに通えてんだから…贅沢は言えないよな」
「・・・・・」
「でも…ここに来てるってだけで、お前だけじゃなくて、現実のどこかにいるみんなのお見舞いになってると思うんだ…」
「・・・・・」
「なぁ…御坂もそう思うよな…俺がここに来る意味はちゃんとあるんだって…そう…思うよな…」
「・・・・・」
「それとも…俺はやっぱ関係者でもないのかな…それもそうか…俺だけはみんなと違って…こうして目覚めて…普通の毎日送ってんだもんな…そりゃ無関係だって言われても…仕方…ねぇよな…」
「・・・・・」
「なぁ…何か…何か言ってくれよ美琴…そんなに怒ってんのか…?最期のお別れの時に麻痺毒打ったこと…」
「・・・・・」
「喋ってくれるだけじゃなくていい…少し笑ってくれるだけでも…泣いてくれるだけでも…いいからさ…怒ってんならいくらでも謝るからさ…」
「・・・・・」
2年前の天真爛漫で元気の溢れる彼女の笑顔も、彼女の体から迸る電撃も、もうこの世界にはない
「電撃だっていくらでも飛ばしてくれていい…いくらだって右手で消し飛ばしてやるから…どんな勝負だって受けて立つから…」
「・・・・・」
綺麗に手入れされていた茶色の短髪もいくらか枝分かれが目立ち、綺麗に澄んでいたその瞳も二度と開くことはない
「もう一度…あともう一度だけでいいから…あの時みたいに…」
「・・・・・」
彼女の目蓋は動かない。彼女の指は動かない。彼女の脚は動かない。彼女の心は動かない。あるのは、ただ呼吸。生きるための最低限の行為。そこに意志はなく、あるのはただの…『御坂美琴』という姿をした抜け殻だけ
「俺の名前を…呼んでくれよ…」
「・・・・・・」
未だなお眠り続ける少女がその生涯で最も恋い焦がれた少年のそんな願いは、少女に届くことはなく、風に運ばれ遠く彼方へと消えていった
SAO事件関係者報告
ログイン者総数 10000名
死亡者総数 3853名
生還者総数 2名
安否不明者総数 6145名
以上