「みなさん急いで下さい!エイワスが私の未元物質に対応し始めたらもう間に合いません!」
「上等!」
ファサアッ!バチバチバチッ!
垣根帝督が6枚の翼を広げ、御坂美琴の身体の周りから紫電の閃光がほとばしった
「さて、仕切り直しといこうか」
エイワスも二枚のプラチナの翼をあおぎ、再び空中へと浮かび上がった
「行くぞオラァ!!!」
一方通行の右手が振り下ろされる。その瞬間大気の向きが操作され、土煙を巻き上げながら風と大気の塊がエイワスを襲った
「君たちは1つ忘れているようだな」
ゴウッッッッッ!!!
エイワスの青ざめたプラチナの翼がはためくと一方通行の放った大気の塊は霧散し、一方通行を強烈な爆風が襲った
「チィッ!!」
「確かに私に攻撃は通るようになったようだが、まだ私の力そのものは健在だぞ?」
「別に忘れてるつもりなどありませんよ」
余裕の表情で語るエイワスの背後には既に垣根が回り込んでいた
「・・・いつの間に後ろに」
「私のスピードを侮らないでいただきたいものですね?」
ドゴンッ!!!!!
垣根の三枚の翼が強烈な衝撃を伴ってエイワスの後頭部を殴りつけた
「ふむ……」
エイワスのHPバーが微かに減少する。しかし特に慌てる様子もなく、すぐさま体勢を立て直した
「ゆとりを持ちすぎるというのも考えものだな…いかんせんHPという視覚的な物でも注意が疎かになる…」
「そうね、だから今アンタは自分の真上で何が起こってるのかも気づけないのよ」
今度は背面ではなく正面から声が聞こえた
「? 御坂美琴か…」
「その『いたの?』みたいな反応やめてくれないかしら?まぁ、その名刺代わりに今から嫌というほど私の存在感を知らしめてあげるわよ!」
そういうと美琴は片手を上げ自分の頭上の空を指差し、その指先を追うようにエイワスも空を見上げた。すると自分の頬をパリパリと乾いた空気に撫でられたのを感じた
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ…………………
「・・・『高電離気体』か」
「素を作ったのは俺なンだがなァ」
コロシアムの上空ではこの75層全体をも覆い尽くしてしまうのではないかと思われる程の巨大な高電離気体が形成されており、バチバチと唸り声を上げていた
「なるほど。先ほどの君の大気の砲弾は攻撃及び、土煙を巻き上げて垣根帝督の移動に気付かせないのも含めたブラフ…本当の目的は大気を手中に収め、この高電離気体を発生させることだったか…」
「そして火力の底上げとして私の電力の最大出力を上乗せする。私は『超電磁砲』なんて呼ばれてるけど本来の能力はただの『電撃使い』。レベルが上がれば高電離気体に直接介入するのも無理じゃない。もっとも、前の時は時間が足りなくて私の可愛い妹達の助けを借りたけどね」
「全体として電気的ににほぼ中性状態にある粒子に直接介入するとは随分と危ない橋を渡るじゃないか。下手をすれば君の身体が能力の暴走と逆流で砕け散るぞ」
「それを可能にするのが私の『未元物質』ですよ」
「ふふふっ、まさに三竦みというわけか…これでは流石の私も分が悪い…だが気をつけたまえよ?ここまでの規模と威力の物なら君たち三人とも巻き添えを喰らう程度では済まんぞ?」
「後先のこと考えて無茶してたら一生『アイツ』と同じ舞台には立てないってのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!
美琴の怒号と共に莫大な電力を帯びた高電離気体が降り注いだ。現実世界で起こる雷を全て一度に集めても足りないのではないのかと思うほどの雷の究極を追い求めた末の一撃。その『神の雷』にも酷似した制御不能の力はエイワスを中心として、高電離気体を発生させた張本人である三人にも牙を剥いた
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ………………
「ゲホッ!ェホッ!あ、ありがと垣根さん…」
ファサ……
「いえ、礼には及びませんよ」
御坂美琴と垣根帝督は巻き添えを喰らうことなくその身の安全を辛うじて確保していた。高電離気体が降り注いだ直後、垣根の翼が垣根自身と美琴の身体を包み込み事なきを得た
「はははっ…あぁしんどいわね…これ本格的に電池切れね…もう0.1Vも出せる気しないわ…」
「ぺっ!…ァァァ死ぬかと思った…」
「アンタは反射があるんだし、元々はアンタの能力で作ったものなんだから平気じゃないとおかしいでしょうが」
「ちげェよバカ、酸素一気に奪われっとコッチも辛いンだっつの」
「元々この世界では生きていくのに酸素は必要ありませんが?」
「・・・あァ、アレだよ…要は気持ちの問題なンだよ。気分だ気分」
「まぁ…こんだけの電撃を真上からぶちかませば流石の相手も…」
「そうですね…これならばきっと…」
「それは所謂『フラグ』というものではないかな?諸君」
バオオオォォォッッッ!!!
「「「!!!!!」」」
翼をはためかせて生じた烈風が辺り一面の砂埃を一掃し、奥からエイワスが姿を現した
「ふむ、流石の私でも今のは少々焦りを覚えたな…HPも半分を切った頃合いか…途中で未元物質に対応しなければ確実にやられていたな」
「!?こ、ここまで早い段階で対応されるとは…ッ!!」
「・・・ははっ…アンタのHPバーが緑またいだだけで…私はもう…まん…ぞく…かし…r……」
バタッ……
「ッ!御坂さん!御坂さん!!」
美琴がうつ伏せにバッタリと倒れ、垣根が美琴の体を揺さぶって意識の回復を試みるが、美琴の瞼は少しも開かず、うんともすんとも言っていなかった
「安心しろ垣根。超電磁砲は能力の使い過ぎで気絶しただけだ。所詮は俺らも脳の五感でこのゲームやってンだ、演算のし過ぎで脳に負荷がかかりゃそりゃァ無理もたたる」
「安心か…果たしてそれが出来るのかな?この状況で」
「くっ……」
「奇しくも『あの22層の時』と同じ光景だな?役者は原子崩しと超電磁砲の違いがあれど、姫君は眠りにつき、残るは君たち2人…まぁもっとも…これから先もあの時と同じ光景が広がるのだろうな?」
「・・・・・」
ザッ…ザッ…ザッ……
「・・・?」
一方通行が突然向き合っていたエイワスから視線を切り背を向けて歩き出した。その足取りの先には、垣根の介抱で仰向けになり静かに眠る御坂美琴がいた
「安心して眠ってろ、オリジナル」
一方通行はしゃがみ込み、赤子を寝かしつけるように御坂美琴の額に優しく手を当てて話しかけた。その口角は少し上がり、強張っていた表情は綻び、どこか暖かで柔らかな顔立ちだった
「お前にとってのヒーローは、 アイツだけでいい…こっから先の俺は見なくていい……」
一方通行の翼から小さな黒い翼が渦を巻く。一方通行の不安定な感情が表れているような…広がることのない翼が織りなす、小さな、小さな渦だった
「次に目ェ開けた時は…何もかも終わってっからよ」
バキバキバキバキバキバキ!!!!!
氷に亀裂を入れるような音と共に、一方通行の翼の色が変わっていく。殺意に満ちた暗黒の色から、汚れのない純白の翼。根元から先端まで、ものの一瞬で外見の色彩から内面の本質まで、その全てが切り替わっていく
「!!!!!」
(私と同じ純白の翼…?でも性質が全く違う…一方通行さん…信じていましたよ…!あなたならいつか必ずと…!)
それは同じ純白の翼を持つ垣根とも違う代物だった。一方通行の頭部のすぐ上にはエイワスの物にも近い、純白の小さな輪が生じていた。それが彼の変化。この仮想世界に特異な力を吐き出す源となっていた、精神の変異
「・・・『過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦しみながらも正しい道を歩もうとする者』…か……」
一方通行は紛れもない素質の持ち主だった。そう、まさにこの瞬間。どんな理不尽な展開も覆しうる無限の可能性を持つ「ヒーロー」になったのだ
「さァ…エンドロールの時間だクソ天使」