「まさか第4位が自らあの方法を選ぶとは…人間誰しも変わりゆく物とでも言うべきか…もっとも、無駄死に終わったようだがな」
くつくつと笑いながらエイワスの体がみるみる内に再生していく。そのあまりにも絶望的な光景を一方通行と御坂美琴はただ呆然と見つめ続けることしか出来なかった
「む、無理よ…今のでも倒せないなんて…原子崩しもいないっていうのに…私たち2人でどうやって…」
そんな弱気な言葉を吐きながら、美琴の華奢な体は細かく身震いしていた
「・・・………が」
一方通行も一方通行で俯いたまま、焦点の合わない虚ろな視線のままボソリと何かを呟いた
「・・・・・?」
「ふむ、何かな?一方通行?」
「クソッタレがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
ドバアアアアアァァァァァ!!!!!
咆哮した一方通行の背中から一対の黒い翼が勢いよく噴出した。今まで自分でも出したことのないまでに巨大な翼だった。それ即ち、それほどまでの一方通行の殺意を意味していた
「ふむ、ソレをここで使うか…それもまた一興だが、ソレが私に通用しないと理解し、そこまでして自分を見失うか…いや、そもそも自分を確立させてすらいないだけか…」
「i h b 無 d g f r p 殺 w q !!!」
ノイズ混じりの言葉が放たれた直後に莫大な殺意の塊が振り下ろされる。感情任せにソレを振り回す彼以外の誰にもその言葉の真意は読み取れない
「全く、品のない…」
バゴオオオオオオオォォォォ!!!!
「がああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?」
エイワスのプラチナの翼が一方通行の黒翼を一撃で叩き伏せた。もはや力の次元が違った。一方通行の身体は軽々と吹き飛ばされ、HPが完全になくなるすんでのところで止まった
「一方通行!!!!!」
美琴が吹っ飛ばされた一方通行の元に駆けつけ、自分の残り少ない回復ポーションを一方通行の口に無理矢理突っ込んだ。みるみる内にHPバーが回復し、なんとか危険域を脱した
「ゲホッ…チッ…」
「君の翼の威力は確かに認められるべき代物だ。洗練されれば私の翼にも相対できることだろう…だが、今の君の翼は単に『重い木の棍棒』を振り回しているだけだ。対して私の物は『徹底的に鍛え上げた鋭い刃を持つ剣』といったところか…無論、SAOの剣などと比較されても困るのだがな」
「クッソが…ッ!!」
「・・・ははっ」
その時、抱えていた一方通行から手を離し、ふらふらと亡霊のように立ち上がった美琴から不意に笑い声が漏れた
「・・・あ?・・・オリジナル?」
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
「オリジ…ナル………?」
まるで呆れたように渇いた笑い声を美琴が放った。もはや嘲笑していた。その対象がエイワスなのか、一方通行なのか、はたまた自分自身なのか、答えは既に出ていた
「所詮こんなもんよ…私なんか…何も守れてないじゃない…何が学園都市序列第3位よ…私なんか…何の役にも…立たないじゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオ!!!!
「他愛も無いな」
パシンッ…!
「・・・は」
御坂美琴渾身の超電磁砲が放たれた。しかし、エイワスはそれをもはや翼を使うでもなく、単なるキャッチボールのように撃ち出されたコインを片手で受け止め、コインを指で弄り始めた
「君自身の評価は間違ってない。むしろ正解だ。自覚している通り、君はもはや幻想殺しの少年を含め、そこにいる一方通行にとっても足手まといにしかなっていない」
「うっ…グスッ…ひっ…グスッ…」
己の惨めさから御坂美琴は地べたにへたり込み、その瞳から留めなく涙が溢れ始めた。一滴、また一滴と滴る涙のしずくが美琴の手の甲に、地面にいくつもの染みを作る
「・・・おい、勝手に勘違いしてンじゃねェぞテメエら」
「・・・グスッ…?」
「勘違いとは何かな?一方通行」
「足手まといだァ?邪魔にしかなってねェだァ?いいか、一つ教えといてやる…俺ァ最初っから一緒に戦ってやってるつもりなンかねェよ。俺からすりゃ超電磁砲も原子崩しもあのヒーローも全員足手まといだ」
「・・・・・」
「アクセラ…レータ……」
「所詮テメエらなンざ3位とか、4位とか、果てはレベル0だろォが…バカにしてンのか?俺は最強だぞ」
「くっくっくっ、この状況でもなお自分を最強と疑わないか」
「ああ」
嘲笑するエイワスに向けて、一方通行は幻想殺しの少年よりも真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな言葉で言い放った
「確かに俺みてェな最強の周りじゃオマエらは足手まといだ」
「・・・・・」
「だがなァ、たとえ足手まといでも、今この場所で、何一つ、どれ一つ取っても、俺の力になってンだよ!!!」
「!!!!!」
「ああそォだ!!守りてェンだ!失いたくねェンだ!!そンなことを想像したくもねェンだ!!ただ壊す為のモンじゃねェンだ!!大切な物を守る為の『最強』になりてェンだ!!その為なら俺は…何度だってテメエに立ち向かってやるよォォォォォォォォ!!!」
その右手に反射の力を携えた拳を握りしめ、一方通行が地面を蹴った。その瞬間に一方通行の体が音速を超え、エイワスに襲いかかる
(また反射か…芸がないな…所詮その拳は私には届かないと何度試せば…)
バッキイイイィィィ!!!
「ッ!?!?!?」
「・・・あァ?」
ズザザザザザァァァァァ!!!
「当たっ…た……?」
「な、何がッ…!?」
エイワスに初めて明確な拳が当たったという感触があった。エイワスのHPが僅かながらも初めて減少を見せた。エイワスはその翼があるにも関わらず、初めてその足で地面に立たされた
「へ、減らした?一方通行が…?あの黒い翼でも減らなかったアイツのHPを…ただの能力使った拳で…?」
「い、一体何が…?」
もはや拳を当てた張本人である一方通行にも訳が分からなかった。あり得ない物を見るような視線で自分の右手をまじまじと見つめた
「コードネーム『ドラゴン』純粋な物理法則の世界に佇む天使。その名をエイワス…」
「・・・!?テっ!テメエ!!何でこンなとこに!?」
気がつけば新たな天使が舞い降りていた。いや、それを天使と呼ぶべきなのかは分からなかった。頭上にエイワスのような光輪はなく、翼は一対ではなく三対。その全てがどこまでも純白で、その瞳に『碧』を宿した少年…
「あなたが司る純粋な物理法則の世界に…私の『未元物質』は通用するのでしょうか?」
「・・・学園都市序列第2位…『未元物質』…垣根帝督か…」