とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第65話 衝撃の杖

 

ダンッ!ダンッ!

 

 

その手に剣と盾を構えた上条当麻とアレイスターが互いに向かって宇宙空間の地面を蹴って駆け出す。するとアレイスターは自分の右手の人差し指をスイッと上条に差し向けた

 

 

「ッ!!」

 

 

上条はコロシアムの一件でアレイスターの魔術を目の当たりにしていた。だからこそ初撃でやられる心配はしていなかった。自分の目の前に身を守るように盾を突き出す

 

 

「Beast666」

 

 

アレイスターが律儀にも己の魔法名を呟く。するとその親指と人差し指を立て手で拳銃のジェスチャーを作る。その手元で数字の火花が散る。32、30、10。

 

 

ドガドガドガッ!!!!

 

「ッ!?」

 

 

立て続けに上条の盾に不可視の銃弾が炸裂し上条の身体が仰け反った。しかし、リズベットが鍛え上げ、上条が愛用していたその盾は幻の銃弾を見事に全て防ぎ切った

 

 

「なるほど…フリントロック銃では役不足か…では、これならどうかな?」

 

「・・・?」

 

 

上条が弾丸を防ぎ切ったのを見ると、アレイスターは既に己の構えを変え、銀色のねじくれた杖を左手に持ち替えて空いた右手で空間を緩く握って前へ突き出していた

 

 

(クソッ!さっきのヤツじゃねぇってことか!!今度は何だ!?あの構え的に剣術か!?多分アレは美琴と同じレイピア!だったらこっちも剣で!!)

 

 

構えたアレイスターの右手の上でまたも数字の火花が散る。13、5、32と。しかし、次はそれで終わらなかった

 

 

「『衝撃の杖』」

 

ドスッ!!!!!

 

「ヅッ!?!?」

 

 

アレイスターの短い宣告の直後、上条の構えた盾から少し外れ、彼の左肩に見えざる刃が突き刺さった。そして突き刺さった見えざる刃をそのまま押し込み、上条を突き飛ばした

 

 

「ぐはぁっ!?なっ…何がっ…どうなって…!」

 

 

上条の脳内は理解が追いついていなかった。アレイスターの手から伸びた『剣のような得物』は上条がイメージしていた細剣よりも遥かにその射程が長かった。そもそもがまず彼の魔術の仕組みが分からない。その時点で上条の不利は目に見えていた

 

 

「不思議かな?」

 

「ぎっ!ああっ…不思議でたまんねぇぜっ…ヒール!」

 

 

上条の言葉を合図に、彼がベルトポーチから取り出した回復結晶がパキンと割れ、半分ほどまで減っていた彼のHPが全回復させ、赤く染まりながら丸く開いていた左肩の傷口があっという間に塞がった

 

 

「『霊的蹴たぐり』という代物でね。言ってみれば魔術師達の究極のごっこ遊びさ。平たく言えば、術者がジェスチャーした武具とその威力を相手に伝える。という物さ」

 

「・・・なるほど…連想ゲームみたいなもんか」

 

「まぁ概ねそのようなものだ」

 

(・・・だけど、銃弾に関しちゃまだしもレイピアは射程が…)

 

「レイピアは射程があまりにも長すぎる…とでも考えているのかな?」

 

「・・・人の思考を盗み見るのはあんまり行儀が良いとは言えないな」

 

「いやなに、別に盗み見たつもりはないさ。『コレ』を経験した者の大半は最初に今の君と同じ思考を通る」

 

 

そう言うとアレイスターは左手に持つ「ねじくれた銀の杖」に視線を落とした

 

 

「・・・その杖か」

 

「『衝撃の杖』…元々は我が師である『アラン=ベネット』が愛用していた伝説の杖だ」

 

「で?そいつは一体どういう霊装なんだよ?」

 

「いや、霊装という観点は悪くはないが…コレはそもそも霊装ではない」

 

「なに?」

 

「我が師アランもそうだったが、この杖に明確な実体は存在しない。その正体は霊的蹴たぐりの応用。君たちがそこにまるでこの杖が『あるかのように』想像する上で成立する…言うならば偽装の杖さ」

 

「・・・ってことは要するに別に必要なのはその霊的蹴たぐりって術式だけで、杖は見せかけだけのオマケってことか」

 

「そういうことになるな。禁書目録がいないにせよ中々の観察眼と魔術知識じゃないか」

 

「・・・?待てよ、でも拳銃やレイピアはまだしも、杖なんて言われなきゃ想像出来ねぇよ」

 

「そこはシステム的な補助さ。私はシステムからこの杖の素体をジェネレートしただけだ。つまりこのゲームそのものが、衝撃の杖がそこに『在る』と認知すれば私の手に杖は現れる」

 

「・・・なるほど。そういや確かにコロシアムでお前最初に言ってたっけな…『衝撃の杖をジェネレート』ってな具合で」

 

「そういうことだ。『杖』という概念をシステムが認知するだけで後は私の術式である霊的蹴たぐりが補完し、その姿形を偽装し、第三者であり、同じSAOのシステムに介在する君達もその杖を認識する…というカラクリだ」

 

「言うなればこれは霊装ではなく単なる補助術式でしかない。その効果は『魔術の威力を標的が思う10倍に増幅する』というものだ」

 

「じゅっ!10倍!?」

 

「つまり、先ほどの物を例に挙げるなら、君が私のジェスチャーによって想像したレイピアの刃渡りは君の想像の10倍の長さを実現した…ということになる」

 

「・・・反則だろ…」

 

(だけど…そういうことだってんなら銃弾もレイピアもあの杖も魔術だ…だったら後は一度でもこの右手で…)

 

「右手で触れれば打ち消せる。とでも言いたげだな顔だな?良いのか?君はその剣で戦い抜いてみせると啖呵を切ってくれたじゃないか」

 

「ッ!?」

 

「まぁ当然といえば当然だがね。なにせ君は今日という日まで自分に襲いかかる脅威のほぼ全てをその右手一つで叩き伏せてきたのだから」

 

 

上条当麻の唯一の武器であり最強の切り札、幻想殺し。それを放棄し剣で戦うという断固たる決意のままに挑んだとはいえ、やはりどうしてもこれまでの自分本来の強みがそこに「在る」だけでその力がチラついてしまっていた

 

 

「・・・へっ、いつ誰がそんな顔したよ?」

 

 

だが、上条当麻は選ばない。自分がどんなに不利な逆境に置かれようと、それを乗り越え続けて来た。それは必ずしも自分の右手に幻想殺しがあるからではない、いつだって上条当麻はそうだった。そこにどうしても曲げられない「信念」があるからこそ、自分にとって圧倒的に不利な状況を覆し、その幻想を殺し続けて来た

 

 

「あくまでもそう来るか…ならば良いだろう…だが次の攻撃を君のその貧弱な盾が受け切れるかな?」

 

「生憎だが、この盾の耐久値は伊達じゃないぞ?」

 

「それも結構…だが、君が想像する『次の10倍』によっては話も変わってくるだろうな」

 

「・・・は?」

 

「さて、続けようか」

 

 

そう言うとアレイスターはその右手の人差し指と親指を立て、拳銃を模倣し手の上で火花が散った

 

 

(ッ!!来るっ!!)

 

ダッ!!

 

 

そう直感し、上条は衝撃に備え自分の前に盾を構え、アレイスター目がけて走り出した…しかし…

 

 

「衝撃の杖」

 

ドゴオオオオオォォォッッッ!!!

 

バキィィィィンッッッ!!!

 

「どわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」

 

 

もはやそれは大砲だった。その細い指先には不釣り合いな程の威力の銃弾が上条の盾に向かって爆裂した。弾の威力を相殺し切れなかった上条の身体はゆうに10メートルは吹っ飛び、盾の耐久値はゼロになり、欠片も残らず光のチリになって消えた

 

 

「さて、問題だ。なぜ今の攻撃は君のご自慢の盾でも防ぎ切れなかったか分かるかな?」

 

「げほっ…知るかよ…」

 

 

余りもの衝撃に飛ばされた身体を上条は咳き込みながら無理矢理に起こした。盾で防いでおいてなおダメージが伝わり、HPもいくらか減少し緑ゾーンを跨いでいた

 

 

「なに、簡単な話さ。拳銃の威力が10倍だと考たならば、衝撃の杖はそこを基準に更なる10倍の増幅を実現する。すなわち、今のフリントロック銃の威力は元の100倍だな」

 

「て、天井知らずってことかよ…クッソ…こんなとこで…へばってんじゃねぇぞぉぉぉぉ!!上条当麻ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

上条は自分を鼓舞する雄叫びと共に膝についた手を離し、しっかりとその右手で片手剣を握り直した

 

 

「・・・『クレイモア』」

 

 

アレイスターが右手で何かを握りこむような仕草をした途端、その手から火打ち石を擦った火花のような数字が散る。1、27、5と。気づけば彼の手の中には両刃の剣が握られており、それはまるで絵本に出て来るような偉大な王が持つ鋼の剣だった

 

 

「くれい、もあ…?」

 

「衝撃の杖」

 

 

そう呟いた時には強烈な風刃が巻き起こり、ゾンッ!という音ともに上条当麻の持つ剣が右腕と共に宙を舞った

 

 

「がっ……!?」

 

「100倍の10倍…つまりは1000倍…少々大人げなさすぎたかね?」

 

 

カラン!…カラン…カラ…キン…

 

 

剣を握る右腕と共に、不規則な金属音を立て、エメラルドの剣が地に落ちた

 

 

「あ、あ゛っ!?あ゛あ゛!?お゛あ゛か゛き゛っ!!」

 

「ソードアート・オンラインか…君もそんな物に拘らず最初から自分の手でこうすれば良かった物を…やり方ならいくらでもあっただろうに…まぁ、今私の手に握られているものが『コレ』では人のことは言えんか…」

 

 

ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ!!!!!

 

 

「がああああああ!?!?ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

上条当麻の絶叫と共に、彼の吹き飛んだ右腕の肩口から見えざる「何か」が飛び出した

 

 

「少し前座が過ぎたか…さぁ…出るがいい…『神浄の討魔』『竜王の顎』」

 

 


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