とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第64話 アイテム

 

「なるほどな……」

 

「・・・?」

 

 

麦野が誰の耳にも届かないほどの小さな声でぼそりと何かを呟いた。エイワスにはその性質ゆえ麦野の声が聞こえてはいたが、その呟きの真意までを読み解くことは出来なかった

 

 

(この世界じゃ自分から進んで人格を変える奴もいる…か……)

 

 

そう考えながら麦野はこれまでの自分へと思いを馳せる。そして不敵にその口角が少しだけ上がり、フッと軽く息を吐いて目を閉じた

 

 

(私自身がどうなのかは…私が一番自覚出来てんだろうが……)

 

(まぁ….最後の最後にこんな感情を抱いて死ねるのも……)

 

 

 

 

 

(悪くないわね)

 

 

 

 

 

 

麦野がそっと閉じた瞼を開き、その眼光を今までにないくらいに燃え上がらせ、目の前のエイワスを一点に睨み付ける。そしてエイワスの懐へと意を決して飛び込んで行った

 

 

「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!」

 

「ッ!?待ちやがれテメエェェェ!!止まれェェェェェェェェェェ!!!」

 

「第1位!超電磁砲を守り抜け!しっかり庇い込んで傷一つ付けさすんじゃねぇぞおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

「ちょっ!ちょっと一方通行!原子崩しは今から何するつもりなのよ!?ねぇってば!!」

 

「ッ!!伏せてろォォォォ!!」

 

「きゃああああああっ!?」

 

 

一方通行が御坂美琴を仰向けに倒し彼女の目の前に跪いて右手を目の前に突き出し、その周辺に彼の能力であり、ありとあらゆる力をはね返す『反射の膜』を作り出す。そして麦野はエイワスの目の前に躍り出ると片足で踏み切り、彼の身体の目の前へと跳躍した

 

 

「よぉクソ天使。こっちの世界は楽しんでるかよ?」

 

「・・・嗜む程度にはな」

 

「そいつぁ良かった…だけどこれからもっと楽しませてやるからその目でよ〜く見とくことをオススメしといてやるわ」

 

 

学園都市の誰かが言った。学園都市序列第4位に位置する「原子崩し」という能力があると。そして誰かがふと疑問に思った。「なぜあれほどの能力が超電磁砲を上回らずに第4位に位置しているのか?」と。その答えは能力の「利便性」だ。原子崩しはその能力の性質上、絶大な破壊力を誇る反面、細かな応用及び制御においては超電磁砲に劣り、第4位に格付けされている

 

 

「一年前もそうだったが…テメエは私を下に見過ぎで第1位ばっかエコ贔屓しすぎなんだよ」

 

「なに、ただ事実に沿った事を述べているだけさ」

 

 

麦野沈利は分かっていた。いつか学園都市の研究者に「原子崩しの能力を持つ君は、そのありあまる破壊力を生存本能がセーブを掛けている為、出力が普段から抑えられている」と言われた事があったからだ

 

 

「はん、今はそれでいいがあんま私を舐めてっと……」

 

「・・・・・」

 

 

では…もしその「セーブ」がなかったら?

 

 

「後悔すんぜ?」

 

キュイイイイイイイイイィィィ!!!

 

「・・・ほぉ」

 

 

麦野の身体が内側から緑色の光を発し、明滅する。まるで自分の内側から「原子崩し」の能力を大爆発させようとしているかのように

 

 

「生存本能っつっても所詮は脳内の思考回路だ。だが、この世界じゃ私らの五感は全てナーヴギアに支配されてる上に、能力もただの数字で決められた『スキル』だ」

 

「・・・なるほど」

 

「つまりこの世界じゃセーブを外すのなんざ簡単な話だ。能力使用の演算にただ思いっきり馬鹿げた出力叩き込むだけなんだからなぁぁぁぁ!!!!」

 

 

麦野が発する緑色の閃光は明滅を止め、眩く光り輝く。そして麦野は空中で両手を目一杯に広げ、エイワスの目の前で浮かび上がった

 

 

(・・・ああ、私も分かってんだよ。私もずっと…自分の居場所が欲しかったなんてことぐらい…)

 

(・・・まさかこんなクソッタレな世界でアンタ達といた時の楽しさが分かるとはね…出来ればこの気持ちは現実に戻ってちゃんと伝えたかったんだけどな…)

 

(滝壺、フレンダ、絹旗…悪かったな…なんの断りもなくこっちの世界に勝手に行っちまって…大して気にしてねぇのか?怒ってんのか?呆れてんのか?私的には少しぐらいは気にかけて欲しいとこなんだがな…)

 

(今アンタ達はちゃんとそっちの世界で生きてんのか?もしそうなら、私はただでさえババアに間違われるからこれ以上歳食う前にあっちに逝っとくぞ…多分地獄行きだけどな…だけど!アンタ達は現実で精一杯生きなさい!願うなら誰よりも幸せに!そんな人生を目指して!誰よりも力強く生きなさい!!)

 

 

 

 

(・・・今まで、ありがとね)

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

爆裂した。麦野沈利の身体が内側から幾千もの緑の閃光が飛び出した。彼女を中心として辺り一面が原子崩しの衝撃に襲われた。このコロシアムも、大地も、この75層そのものも、システム的不死の恩恵を受けていなければ一瞬で全てを更地に変えられていたであろう

 

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

「クソがあああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 

麦野のHPバーが一瞬で亡くなり、その身体が爆裂したその最後の瞬間を見届けると、一方通行と美琴にも制御不能となった無数の緑の閃光が襲いかかる。美琴の体の前に盾となって立ち塞がった一方通行がその反射の膜で全ての閃光を跳ね返す。これ以上犠牲を払ってなるものか、今ここで失うのは麦野沈利だけでいい。そう心に刻み一方通行は最後まで御坂美琴を守り抜いた

 

 

ォォォォォォ………………

 

 

原子崩しの大爆発により舞いあげられた土煙が少しずつ晴れていった。一方通行は立ち上がり、御坂美琴もゆっくりと辺りを見渡す。だが、そこに麦野沈利はもういない。エイワスもいない。焦燥感に満ちたコロシアムの中で御坂美琴は呟いた

 

 

「・・・勝った…の?」

 

「・・・ああ、…アイツが…原子崩しが…自分の命と引き換えにしてな」

 

 

一方通行と美琴はただ俯いていた。その瞳の先にいない彼女を心の中に写していた。システム的な死が現実的な死に直結するこの世界で誰よりも、何よりも残忍で、残酷だと人々から揶揄された彼女を、最後の姿は誰よりも勇敢だった彼女の姿を、その胸に刻みこんだ

 

 

「・・・終わった、のね……」

 

「・・・あァ」

 

『さて、何が終わったのかね?』

 

「「!?!?!?!?」」

 

 

どこからともなく絶望が聞こえた。悪夢が声を発した。そして、収束した。光の粒子が再び一点に集まり、その姿を成した。この世界の本質となり得る天使。どこまでも現実的でない『彼』が、どこまでもその現実を突きつけるかのように

 

 


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