とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第61話 上条当麻

 

「それ以後、幻想殺しの奥には竜王の顎が宿り、幻想殺しは時の流れと共に様々な物に移り変わったが、竜王の顎は決して表に出ることはなかった」

 

「・・・お前がコイツを持ってた時もか?」

 

「無論だ。そもそも幻想殺しの中から竜王の顎を取り出そうなどと考えること自体がナンセンスだ」

 

「・・・大体察しはついてきた」

 

「ほぉ?」

 

「必要なんだろ、その竜王の顎が出てくるには。他でもない俺の『魂』が」

 

「うむ、見事だ上条当麻。その解釈で間違いはない」

 

「・・・・・」

 

「そう、竜王の顎が発動する為の鍵は幻想殺しを取り除くことではない。神浄の討魔と竜王の顎が共に存在し得ることだ」

 

「でも竜王の顎そのものが異能の力だから幻想殺しはその力に蓋をし続けてきた」

 

「謙遜はやめたまえ」

 

「・・・は?」

 

「確かに幻想殺しも君の言う蓋の役割の一端だが、竜王の顎を押さえ込んでいたのは君の魂と意志そのものだ。違うかね?」

 

「・・・・・」

 

「君はやろうと思えばその力を自分から使うことも出来ただろう?」

 

「・・・知ってたのか」

 

「十字の丘で一方通行の黒い翼で右手を吹き飛ばされた時、既に『現実世界を再現した異世界』となっているこの世界では、君の魂に宿るスサノオが元々の己があるべき神界を想像する余り、幻想殺しの奥の竜王の顎よりも先に出てきてしまった」

 

「・・・・・」

 

「心当たりがあるようだな。そして君はその莫大な『神』を抑え込み、自分の体に押し戻す為に竜王の顎でそれを制した。そして幻想殺しが君の右手に戻った」

 

「だが、こともあろうに君はスサノオの力を竜王の顎で飲み込んでしまった。おかげで君の身体の中では『神浄の討魔』と『竜王の顎』の力が互いに干渉しあい、二つの力が入り混じった新たな『別の力』が出来上がってしまった」

 

「だから君はその力を持て余した。制御法が確立出来ていないからだ。アウレオルス=イザード、大覇星祭での御坂美琴、一方通行との戦いでやっとの事で自分の力に大雑把な理解が追いついたというのに、またその力が変わってしまった。だから迂闊に手を出せなかった」

 

「・・・・・」

 

「だが、それもここで終わりだ」

 

 

低い声と共にアレイスターは衝撃の杖を構える。そしてその眼光に確かな殺意が宿る。かの最強の魔術師の本領がここで発揮されようとしていた

 

 

「戦え、上条当麻。君の持つ全てを解放しろ。そんなちっぽけな右手では私は倒せん。未知の力を恐れるな。私との戦いの中でその制御法を確立させれば良い。誰が何と言おうと、正真正銘ここが終着点だ」

 

「・・・・・」

 

 

上条当麻はもう一度右手を握り締め、そして握り拳を解く。そして、その口からありったけの言葉を紡ぎ出す

 

 

「関係ねぇよ……」

 

「・・・何がかな?」

 

「右手とか魂とか生まれ変わりとか神様だとか!そんなもんは関係ねぇって言ってんだ!!!!!」

 

「・・・・・」

 

「俺は!『神浄の討魔』じゃねぇ!『上条当麻』だ!!!俺の『本質』なんて他人が勝手に決めてくれてんじゃねぇ!!俺は俺だ!お前らの価値観だけ勝手に押し付けてんじゃねぇ!本当の自分が何かなんて…そんなん自分が一番よく分かってんだよっ!!!」

 

「・・・・・」

 

「確かに記憶喪失でロクなことなんざほとんど覚えてねぇよ!でも…それでも分かることだっていくらでもあんだよ!!俺はただの『人間』だ!ちょっと周りより不幸なだけの『どこにでもいる平凡な1人の高校生』だ!!」

 

「俺の名前は正真正銘、俺の父さんと母さんが、俺の為に必死になって考えて俺につけてくれた大切な名前だ!俺は『上条刀夜』と『上条詩菜』の息子だ!!これだけは何があっても変わらねぇ!変えさせねぇ!!」

 

「俺の何かが間違っていると否定されようと、どんな論理でねじ伏せられたようと!俺は俺の道を突き進むって決めたんだ!!なんか文句あるかクソッタレ!!!」

 

「・・・言いたいことは言ったか?」

 

「・・・ああ」

 

「成る程。心得た。だが私とて容赦はしないぞ。君がそう結論づけた以上、全ての基準点となる幻想殺しはもはやこれから先の私の世界にとっては邪魔でしかない」

 

「んなもん、俺だって同じだ。俺たちの世界は譲れない。この世界はここで終わりにしてやる」

 

 

そう言って上条当麻は左手に盾を構え、その右手に「剣」を携えた

 

 

「・・・それはなんのつもりかな?」

 

「俺は『コレ』で戦う」

 

 

上条の剣の切っ先がアレイスターに向けられる。アレイスターは、ふっと嘲笑するように軽く息を吐くと納得したかのように上条に向けて言った

 

 

「自分自身の最大のアイデンティティーたる右手を自ら捨てるとは…君らしいといえば君らしいが…それでいいのかな?」

 

「さっきも言ったろ、自分の進む道は自分で決める。それに『コレ』は俺だけの意志じゃねぇ」

 

「では何だと言うのかな?」

 

「コレはこの世界で生きてる人…この世界で死んでいった人…そのみんなの『願い』だ。この『剣の世界』で生きたみんなの強さの象徴と願いの結晶だ。それを無下にしない為にも、俺はここで自分の『拳』じゃなく、この『剣』で戦わないといけないんだ」

 

「・・・ふむ、それもまた一興か…では見せてみろ、この偽りだらけの仮想の世界の力とやらをな」

 

「「・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

「「いくぞ」」

 

 

 

 

 

 

 

互いの運命に左右されながら世界を渡り歩いてきた2人がついに激突した。そこには一切の偶然はなかった。現実世界ではなく、この世界でこうしてぶつかり合うことはこの2人の運命だったのだ。果たして勝つのはどちらの「人間」か。「新たな世界を望む者」と「今ある世界を望む者」。地球を見下ろす星々の中で、運命の戦いの火蓋が切って落とされた

 

 


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