とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第59話 世界

 

「・・・ここは?」

 

 

アレイスターが出現させた回廊をくぐった上条当麻は今、ただただ広大な空間にきていた。床や階段もなく、無限に広がる星空。そこは「宇宙」であった。中と外でどのように次元が歪んでいるのかは分からない。だが、その足元一面には巨大な青い星がどこまでも広がっていた

 

 

「本来ならばこの世界の誰もたどり着けない場所さ。アインクラッド第100層のさらにその上、前人未踏の私たちだけの為の空間さ」

 

「・・・宇宙に足場があるってのもなんか変な感じだな」

 

「じきに慣れるさ」

 

「・・・とりあえず聞きてえ事が山のようにある」

 

上条がアレイスターと真剣な表情で向き合い、芯のある声で言った

 

「ふむ、君には知る権利があって然るべきだろう。好きなことを聞くといい」

 

 

アレイスターはどこか余裕が見れるような表情で上条と向き合って語る

 

 

「なんでこんなことをした?」

 

「全ての魔術を根こそぎ滅ぼす為さ」

 

「なんでそんなに魔術を恨むんだよ?アンタが科学の人間だからか?」

 

「いいや、私は本来は魔術側の人間さ。この件は単なる私の個人的な恨みを含めた仕返しのようなものさ。その恨みについては君が理解できるものではない。今この場では聞かないでおくことを推奨するよ。『科学サイド』なんてものはその為の計画の過程で生まれた副産物にすぎない」

 

 

アレイスターは微かに笑いながら、まるで上条の疑問そのものを見限ったように語った

 

 

「なら…この世界は一体何の為に作ったんだ?」

 

「ふむ……それを語る為には少し話の時間が遡るが平気かな?」

 

「構わねえ、全部話せ」

 

「『0930事件』。現実では今から2年ほど前の話になるかな?学園都市にローマ正教暗部『神の右席』の1人である『前方のヴェント』が侵入し、君と交戦した」

 

「・・・ああ」

 

「だが、この事件の着眼点を置くべき場所はそこではない。『量産能力者』が全世界に散らばり『AIM拡散力場』が世界中に分布した。そして学園都市の第七学区を該当座標に置くことで部分的に『虚数学区・五行機関』を展開し、それを制御するにまで至った」

 

「・・・虚数学区・五行機関ってのは知らないな、一体何のことだ?」

 

「『風斬氷華』さ」

 

「?????」

 

 

何のことかさっぱり分からない上条の頭の中にはいくつもの?マークが泳ぎ回る。それに助け舟を出すかのようにアレイスターが話の続きを語る

 

 

「風斬氷華はAIM拡散力場そのもの…ひいてはAIM拡散力場の集合体であるということは君も知っているな?」

 

「ああ」

 

「虚数学区・五行機関とは風斬氷華を示していると言えば分かるかな?」

 

「……AIM拡散力場の集合体の風斬をお前らがそう呼んでるってことか」

 

「まぁ概ねそれでいい。『人工天使・ヒューズ=カザキリ』…AIM拡散力場に方向性を持たせ、AIM拡散力場の集合体である虚数学区・五行機関を展開しそこに魔術理論を組み込むことで現出した天使…例えるなら『科学の天使』と言ったところだな」

 

「で、それが一体何になるんだって言うんだよ?」

 

「ヒューズ=カザキリが出来るということは…それすなわち、AIM拡散力場という人工の界を基盤とした『現実世界を再現した異世界』が出来上がっていたということだ」

 

「異世界?」

 

「そう。そこに魔術理論を組み込むことでヒューズ=カザキリという人口天使が顕在化できる。その現出時にあの時の学園都市は『異世界が混ざり込んだ既存のものとは異なる空間』となり、天界と現実世界にあった法則が歪んだ為に魔術の循環不全が引き起こり、君は前方のヴェントを退けることが出来た…理解できたかな?」

 

「・・・まぁあん時ばっかりは風斬に助けられたからな。実感はあるし理解もしてる」

 

「ふむ、いいだろう。そしてこのアインクラッドはその『現実世界を再現した異世界』そのものであり、それを拡張した世界であるということさ」

 

「!?」

 

「これで答えになったかな?」

 

「ちょっ!ちょっと待て!お前はさっきコロシアムで魔術を使ったろ!だったらその循環不全とかいうのが起こるんじゃないのか!?」

 

「伝え方が悪かったかな…ここは決してヒューズ=カザキリを展開した世界ではない。展開すれば私も魔術を使えなくなるからな…つまり、ここはヒューズ=カザキリを現実にいつでも顕在化できる世界ではあるが、ただ異世界である段階に留まっているだけさ」

 

「?????」

 

「バカに話を通すのは骨が折れるな…つまりこの世界はAIM拡散力場を基盤とした『現実世界を再現した異世界』ではあるが、そこに魔術理論を組み込んでヒューズ=カザキリが現出した『異世界が混ざり込んだ既存のものとは異なる空間』ではないということだ」

 

「分かりやすく例えるなら、世界を包んだAIM拡散力場という『現実世界を再現した異世界』でも魔術は存在できるが、その法則を崩し魔術の循環不全を起こせるのが『異世界が混ざり込んだ既存のものとは異なる空間』という訳だ」

 

「つまり、風斬が魔術を根絶する為の鍵ってことか!?」

 

「まぁ概ねその理解で齟齬はないが、あくまでヒューズ=カザキリが現出し法則が歪んだのは学園都市のみ。それを今度は全世界の法則を歪められるよう『現実世界を再現した異世界』を引き伸ばしたのがこの『ソードアート・オンラインの世界』…ということだ。すでにヒューズ=カザキリが現出した世界を再現してしまえば私が魔術を使えなくなり『彼』の現出にもいくつか手違いが生じてしまうからな」

 

「なっ…なんでそんなことが出来んだよ!?ここは仮想世界だぞ!?」

 

「仮想世界だからこそさ。ありとあらゆる万象を数字とデータのみで再現できるこの世界だからこそ、それを成すことが出来る。現実世界でどんなに小規模でも、元となる事象がおこれば後はこの世界でデータとして編集し引き落とすだけ。簡単な話さ」

 

「でもそれはこの世界だけでの話だろ!?こっちではそんなことがあっても現実世界には何も影響が…!」

 

「それを可能にするのが先ほど述べた『彼』なのさ」

 

「・・・あの『エイワス』ってやつか?…今コロシアムで美琴達の相手してるあの金色の天使…」

 

「その通り。君は超電磁砲とは違って一方通行達から予め話を聞いていたかな?」

 

「・・・まぁザックリとそういう奴がいるってだけなら聞いた」

 

「では彼の説明に移ろう。コードネーム『ドラゴン』。その名をエイワス。彼はヒューズ=カザキリをその『核』とすることで初めて姿を現すことが出来る」

 

「風斬を『核』に……?」

 

「AIM拡散力場を『高い濃度の食塩水』と例えるなら、エイワスはその食塩水の『結晶体』だ。だがその結晶体を現出させるにはその為の『核』が要る。その核がヒューズ=カザキリ…ということさ」

 

「なるほどな……元々この世界はAIM拡散力場で満たされた異世界になってる…後はそこに現実世界でデータとして採取した天使の風斬を核として置けばアイツが現出するってことか」

 

「その通り。だが彼という存在は既存の天使とは少し法則が異なる」

 

「またそれかよ………」

 

「まぁそう言うな。私の計画を語るにはこの話は避けて通れない。それに、ゆくゆくは君の話もせねばならんからな」

 

「・・・・・」

 

「私は元々、科学的という言葉をポジティブに使っていた。霊的、物理的を問わず、美しく順序立てて因果を説明できるものを科学的だとな」

 

「・・・・・」

 

「そうした理論の頂点にいるのがエイワスだ。彼の名はどこにも出てこない。どんなカテゴリの宗教にも収まらない。天使ならばどこかしらに出てくるであろう聖書、神話にも登場せず、存在しない」

 

「そう、この『世界は物理法則の上』に幾重にも魔術サイドの位相を折り重ねることによって成立している」

 

「つまりエイワスとは、その一番下層…『純粋な物理法則の世界に佇む天使』なのだよ。だからこそ、私は重宝した。エイワスの制御法を確立し、その莫大な力でもってエイワス以外の全てのフィルターを破壊してしまえば、後には魔術のない世界しか残らないからな……」

 

「『位相』ってのはなんだ?」

 

「人の意識の中で構築される世界は、決して科学の法則だけが支配するまっさらな世界だけではない。十字教を含む様々な宗教、それぞれに準ずる神話に登場する世界そのものを『位相』という」

 

「・・・それはさっきの理論で言うなら、そのエイワスが支配してる一番下層の物理法則の世界の上に…例えば『天国』とか『地獄』とか『神様たちの世界』みたいな神話の世界があるってことか?」

 

「概ねその解釈で間違いない。そして、この世界こそがエイワスの為に作られた『純粋な物理法則の世界』なのだよ」

 

「・・・なるほどな。つまりこの世界を肯定しちまえば後に残るのは魔術のない世界ってことか」

 

「そう。そしてこの世界を作るのにはどうしても『必要な物』があった」

 

「必要な物?」

 

「私と同じほどに科学をポジティブに捉える者、そしてその『世界』を純粋な意識のままに求め、その新たな位相を構築できる手段を持つ者……」

 

「・・・おい、待てよ…それってつまりは……」

 

「そう…『茅場 晶彦』さ」

 

「!!!!!」

 

「現実世界の枠組みや法則を超越した世界を作り出すことだけを欲して生きてきた…それがまぎれもない茅場晶彦という『人間』だ」

 

「・・・現実世界の枠組みや法則を超越するなら、それはお前らのやりたい事に沿ってねぇじゃねぇか」

 

「なら君はこの世界が、魔術や超能力が飛び交うあの世界よりも法則を超越していると感じるかね?」

 

「そ、それは……」

 

「我々学園都市の協力を経て、茅場晶彦はこの世界を創り出した…そしてこのSAOという世界の枠組みに満足した。そして私は交渉しただけさ。協力したからこちらにも協力しろ…とね。簡単な話だろう?」

 

「・・・なるほどな、茅場はお前らにとっていい手駒だった…って訳か。この学園都市に来るまでは超能力も魔術も知らない。そしてその技術でこの世界を創り上げられるって分かってたから…!!」

 

「だからこそ…さ。この世界には純粋な魔術も、超能力も存在しない。あるのは数字で決められた『スキル』や『アイテム』といった『システム』のみ。そしてそれは君の『右手』も例外ではない」

 

「・・・つまり、俺たちのユニークスキルはこの世界に来た最初っからアンタ達の想定内の機能を持ってたってことか」

 

「そう。現実世界の君ではあり得ない『空間移動』を可能にする転移結晶が使えることも、安全圏内では君だけがその法則をうち破ることも、システム的不死は崩せないことも、相手のスキルを無効に出来ることも、全て私達が決めたことだ」

 

「・・・それも全て、この状況を作り出す為の布石ってことか……」

 

「それも含めての計画さ。まぁ本来はこの状況は100層にたどり着いた時に話す予定だった。だが、君たちはわずか75層にしてこの世界を誰が創り出したのかを見抜いてしまった。そこが誤算だった」

 

「誤算だった…?」

 

「本来ならアインクラッド第100層で真のボスとなった茅場晶彦を相手どることで、君と第1位である一方通行はその力の『本質』を見せ、この世界を本当の意味で肯定する為の最後のピースとなるはずだった」

 

「俺と一方通行…が……?」

 

「だがこうなってしまった以上は仕方がない。100層での目的は諦め、この段階での魔術の殲滅を決した。此の期に及んでなお、一方通行と君がその本質を見せるなら、それを利用しない手はないがね…」

 

「・・・・・」

 

 

上条はその言葉を聞くと、黙ったまま自分の右手を見る、まるでこの話をいつか聞くことになると分かっていたかのように、ただただ自分の右手の「幻想殺し」を見つめていた

 

 

「君も自分の力の本質には薄々勘付いているのだろう?『幻想殺し』など単なる付属物でしかないと…『上条当麻』…いや………」

 

 

 

 

「『神浄の討魔』」

 

 


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