とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第58話 最終決戦へ

 

光臨。長い黄金の髪に白い肌。青光りするプラチナの翼。聖守護天使。その者の名を『エイワス』

 

 

「なるほど…アレイスターよ、状況から察するに君はどうやらまた1つ失敗したようだな」

 

 

エイワスはどこかアクシデントを楽しむような口振りでそんなことを呟く

 

 

「今さら失敗など気に病む人生を歩んではいないさ。計画はここで終わる。ここに完成させる。君が悩まされていた長い長い退屈も今日ここで終わる」

 

「なるほどなるほど。此度の私の姿形はほぼ完璧に近いようだな。この世界もバカには出来ん」

 

「す、すげぇ……」

 

「・・・綺麗……」

 

 

上条当麻と御坂美琴は思わずそんなことを口に出してしまっていた。思わず見惚れてしまうほどのまばゆい光を放つその存在。まさに天使。そんなものがいるはずがないと分かっていても、その存在を頭の中でそう理解していた

 

 

「おい超電磁砲、見惚れてる暇なんかねぇぞ。アイツはヤベェ。一瞬でも気抜いてみろ、その瞬間に死ぬぞ。私がコイツに初めて会った時は一瞥しただけで気絶させられた」

 

「はっ!?そ、そうね!今は何にしても気を抜くべき時じゃないわね…」

 

「おや、今回は妹達の生みの親もいるようだな…もっとも、その対極にいる人間もいるようだが」

 

「・・・チッ、相変わらずムカつくぜ…そのデタラメな強さと余裕ぶった態度がよォ…」

 

「さて、ここよりどうするかね?アレイスター」

 

「計画の終結はもう目前まで迫ってきている。加減してやる必要はない。存分にやりたまえ」

 

「ほぉ?『彼ら』の本質はどうするつもりだ?」

 

「片方は私が受け持つ。元々そうなる運命だったからな。もう片方は君が相対するといい…こうなった以上、もう成り振り構う必要はないさ」

 

「彼らを使ってこの世界を本当の意味で定着させるのが君の本来の計画ではなかったのかね?」

 

「この世界を肯定するピースを嵌めてやる必要もないさ。元々君があの時を含め、この世界にこうして姿を現せている時点で魔術を滅ぼす条件は十分に満たせている。もし彼らがこの最終決戦で本来の顔を出すなら、それは嬉しい誤算としてその時に対処するとしよう」

 

「はははははっ!確かに成長はしているようだがまだまだ青いな。しかも純度も甘い。どこぞで寄り道でもしたのかねアレイスターッ!?」

 

「喋りすぎだ」

 

「了解」

 

バサァッ!!

 

 

まるで旧知の中であるかのようにアレイスターとエイワスは会話する。そして会話を打ち切るとエイワスはその翼を一度大きく広げ、はためかせた

 

 

「ッ!!来るぞッ!!」

 

「ええっ!」

 

「全員死ぬンじゃねぇぞ!」

 

「チッ!」

 

「くくくっ、そう血気盛んになるな。まだ戦局が整っていないのだよ」

 

「・・・なに?」

 

 

身構える4人をアレイスターがくつくつと笑う。すると、アレイスターの口からある言葉が紡ぎ出された

 

 

「コリドー、オープン」

 

ズズズズ…

 

 

アレイスターがそう呟くと、彼の横に回廊結晶の光のゲートが開いた

 

 

「回廊を開いた!?回廊結晶もなしにどうやって!?」

 

「だからいちいちビビんな超電磁砲。もはやこの世界でアイツらに出来ねぇこたぁねぇんだよ。まぁ、あの回廊がどこに繋がってるかなんてのは知ったこっちゃねぇがな」

 

「私の後に付いてきたまえ、上条当麻。君とは語るべき全てを語り尽くしてから手を交えるのが、この運命という線路を引いた私たちの礼儀ではないかな?」

 

「「!!!!!」」

 

「・・・望むところだ」

 

 

上条当麻がその足で地を踏みしめアレイスターの元へと向かう

 

 

「だっ!ダメよ!あんなの罠に決まってるわ!」

 

 

そんな上条の右手を美琴が強引に引っ張り、その場に留まるように示唆した

 

 

 

「止めないでくれ美琴。アイツは多分、俺が倒さなくちゃいけないんだ。お前はここで一方通行と麦野と協力してアイツを倒してくれ」

 

「で、でもっ!!」

 

「大丈夫さ。何もハナっから死ぬつもりで行くわけじゃない。最後はちゃんと帰ってくるさ、約束する」

 

「嫌っ!アンタだけじゃ絶対に行かせない!私は絶対にこの手離さないんだからっ!!」

 

「・・・一方通行、麦野。美琴をよろしく頼む」

 

「・・・いいンかよ」

 

「ああ」

 

「悪いわね。本来なら二人一組に分かれてやるのが定石なんだろうが、どうにも向こうが出してる提案でやるのが私らにとっても一番都合がいいらしい」

 

「大丈夫だ麦野。気にしてない」

 

 

そう言うと上条は2人に向けていた視線を美琴に戻すと気まずそうにその目線を落とし暗い声で告げた

 

 

「・・・ごめん、美琴」

 

「・・・え?」

 

ザクッ…

 

「悪く思うなよ超電磁砲。こうでもしないとテメエはソイツの腕を離さないだろうからな」

 

「ッ!?麻痺…毒…そっか…アンタの右手は安全圏を打ち消すから…」

 

バタッ……

 

 

美琴の肩に一本の短刀が刺さる。麦野の短刀には麻痺属性が予め付与されており、美琴の身体がたちまち痺れて動かなくなった。上条の右手を掴む力も入らなくなり、地面に吸い込まれるようにヘタレこむ。そして彼女の身体を上条が軽く抱き起こした

 

 

「悪い一方通行。これ、解毒結晶だ。後で美琴に使ってやってくれ」

 

 

そう言って上条は一方通行に小さな緑色の結晶を手渡した

 

 

「・・・コイツも言ってたが、死ぬンじゃねェぞ」

 

「お前の方こそ、ちゃんと美琴を守ってくれよ?」

 

「チッ、さっさと行けヒーロー」

 

「ありがとな」

 

 

最後に上条は一方通行と美琴に向けて微笑んで、支えていた美琴の身体を一方通行に預けると、すっと立ち上がった

 

 

(行っちゃう…アイツが…第1層の時みたいに…また1人で無茶して…自分の事なんて省みないで…)

 

「待たせたな、アレイスター」

 

「ふむ、別れの挨拶は済んだのかな?」

 

「これは別れじゃねぇ。だからそんなもんは必要ねぇよ」

 

「それはそれは…野暮なことを聞いてしまったようだな。では、行こうか」

 

「ああ」

 

 

アレイスターが先に回廊をくぐる。そしてそれに次いで上条が回廊をくぐる直前で振り向いた

 

 

「美琴…」

 

「と、当麻…」

 

「ッ!?お、お前…」

 

「えへへ…名前、呼んじゃった…」

 

 

美琴が初めて上条の名を呼び、驚いた上条の肩がビクッと跳ねた。それとは反対に上条の名前を呼んだ美琴は悪戯っぽく笑った

 

 

「・・・美琴、あの時…お前を…置いて行って悪かった…」

 

「・・・うん」

 

「この世界に来た時、最初にお前に会えなきゃきっと、俺はここまで強くなれなかったと思う」

 

「・・・うん」

 

「俺はお前に感謝しなきゃいけないことでいっぱいのはずなんだ…それなのに俺がお前にしてやれた事なんて…お前を置いて行って…突き放して…本当にすべきことはこんなことじゃないって分かってる…でもまた今こうして、同じことをやろうとしてる」

 

「・・・うん」

 

「すまん……美琴の意志には反するかもしんないけど…!」

 

「今謝ってんじゃないわよっ!!」

 

「!!!!!」

 

 

静かに上条の話に頷いていた美琴が急に声を荒げた

 

 

「絶対に許さないんだから!!」

 

「ッ……」

 

 

美琴の「許さない」という言葉が胸に刺さり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる上条。そんな彼に向けて、美琴はこう続けた

 

 

「許さないんだから!向こうでご飯の一回でも奢ってくれなきゃ絶対に許してあげないんだから!!」

 

「!!!!!」

 

「約束…したからね?」

 

 

そう言って美琴は最後に上条に優しく微笑んだ

 

 

「・・・ああ!向こう側でな!」

 

 

そう言って上条は仲間たちに背を向けてサムズアップを見せると、そのままアレイスターの開いた回廊の奥へと消えていった

 

 


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