とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第4話 事件

 

「兄貴〜起きろー。もう朝飯出来てるぞ〜」

 

 

土御門舞夏の朝は早い。この学園都市に来ておいてなお、能力開発とは何の縁もない家政婦育成の専門学校である「繚乱家政女学校」へと通う彼女は実習と称し、この血の繋がりのない義兄である土御門元春の部屋に住まい、彼の生活の衣食住のほとんどの面倒を見ている

 

 

「はいは〜い、おはようぜよ〜。くぁ〜…全く、舞夏の作る香ばしい朝飯の匂いで起きる朝は最高ぜよ…」

 

「お膳立てはいいから早く食べてしまってくれ〜、遅刻しても知らんぞ〜」

 

「全く、ニュースキャスターは下手な美人さんなんて使わずにもっと可愛い妹系女子を使うべきぜよ、そうすれば学園都市の朝は平和そのものになるはずぜよ〜」

 

 

自宅の食卓に座り、トーストを齧りながら日課である朝のニュースを見ることで土御門元春の朝は始まる。しかし、「学園都市は平和になる」と語る彼の口調にはいわゆる学園都市の闇で生きる「暗部」の人間らしい皮肉がこもっている

 

 

「やれやれ、今日も今日とてニュースはSAO一色ぜよ。全く、これじゃ今日は上やんが学校で天狗になるに違い…ない…ぜぃ…」

 

 

愛する舞夏の朝食を食べる彼の手が急に止まる。その理由は何にあるのか、彼が真っ直ぐと見据えるテレビニュースが伝える信じられないような「事件」の内容を目にしてしまったが故、気だるい朝の開ききっていない瞳孔も、そのニュースに釘付けである

 

 

ドンドンドンドン!!

 

「うぉ!?なんだー?上条んとこのシスターかー?そんなに強くドアを叩くと近所迷惑だぞー?…それにこんな朝早くに何の用が…はーいはい、そんなに叩かなくても今開けるぞー」

 

ガチャ

 

「ま、まいか!大変なんだよ!大変なんだよ大変なんだよ大変なんだよ!!とうまが!!とうまが!!」

 

 

土御門家のアパートの扉を大音量で叩いていた彼女の顔には一目見れば誰でもわかるほどの焦りの色が見えていた、その焦りは彼女の住まう部屋の家主への心配から来るものだった

 

 

「ど、どうどう。一旦落ち着け、一体何がどうしたんだ?状況を説明してくれないと私としても分からないぞ?」

 

「と、とうまが!とうまがお風呂場で変な機会を頭につけたまま起きて来ないんだよ!」

 

「禁書目録!その話は本当か!?」

 

「うおぉ!?兄貴か!?びっくりしたな〜!」

 

「ほ、本当なんだよ!さっきも何度も起こそうとしたんだけど、私にはあーいう機械の知識がないから怖くて何も出来なくて…」

 

「チッ!…クソッ!」

 

「あ、兄貴!?どこへ!?」

 

「上やんの部屋だ!入るぞ!禁書目録!上やん!」

 

「い、いらっしゃいませなんだよ!」

 

「風呂場はっ!?上やんっ!!」

 

 

土御門元春は上条の家に上がると一直線に風呂場に向かい、頭にナーヴギアを装着したままの上条当麻の姿を目の当たりにする

 

 

「なんてことだ…」

 

「も、もとはる?と、とうまは大丈夫なんだよね?死んだりしてないんだよね?」

 

「あ、兄貴?どうなんだ?」

 

「『警備員』だ!舞夏!今すぐに警備員に連絡しろ!今すぐに!」

 

「警備員!?分かった!部屋に戻って連絡してくるぞ!」

 

「だ、大丈夫だよね!?とうまは…とうまはちゃんと生きてよね!?」

 

「・・・いや、これじゃ人間としては『死んでる』も同然だ…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふわぁぁぁぁぁ、おはようございますお姉さ…んまっ!?」

 

 

学生が住むには余りにも豪華な部屋で起床する白井黒子、彼女が呼びかける先にはナーヴギアを頭に装着したままの御坂美琴が寝そべっている

 

 

「ま、まさか一晩中ゲームをやっていたんですの!?ちょっとお姉様!起きてくださいまし!流石の私でも看過出来ませんわよ!?各なる上はこのままお姉様の可憐なるお身体をこの黒子が…黒子が…うひ、うぇひひひひひ」

 

 

白井が美琴をいくら揺すっても美琴はいつまで経っても返事をしない、1日の始まりを意味する「おはよう」という挨拶の言葉すらもその口から発せられることはない

 

 

「あ、あら?ま、まさか本当にゲームしてるまんまですの?お姉様!朝ですの!このままじゃ本当に遅刻してしまいますわよ!」

 

「……………」

 

 

やはり美琴は白井の必死の声にも反応しない

 

 

「え、ええ分かりましたわよ、お姉様が悪魔でも起きないとおっしゃるのなら!この『訳の分からないゲーム』は没収ですの!そうと決まればコレごと『空間移動』で…」

 

「『ソレ』に触るな白井ッ!!!」

 

 

怒号と共に彼女らの部屋に入り込んで来たのは、この「常盤台中学学生寮」を取り仕切る寮監である。普段は鬼のような形相でこの寮に住む生徒を取り締まるのがこの彼女。白井のナーヴギアへと伸びる手をを静止させた今、その形相にも多少の焦りが見て取れる

 

 

「ひえぇっ!?りょ、寮監様!?こ、ここ、これは違うんですのよ!?お姉様は決してこのゲームの遊びすぎのせいで夜更かししていたワケでは…」

 

「言われなくてもそんなことは分かっている!!」

 

「・・・ふぇ?」

 

 

素っ頓狂な声を上げる白井をよそに寮監は彼女らの部屋にズカズカと上がり込み美琴のベッドの横に行き、その手で美琴の脈拍と心拍、その肌に一定の体温が感じられるかを確認する

 

 

「一先ずは無事…か…」

 

「りょ、寮監様…?先ほどから何をなさって…というか、何をおっしゃっているんですの?」

 

「・・・白井、今の御坂の身に起きている事態の全容を語るには私の身はいささか忙しすぎる。これから私は御坂の身元の安全の確保の為に学校側の教員と連絡を取り合わねばならん」

 

「お、お姉様の身元の安全…?」

 

「今は何が何やら状況の理解がイマイチ追いつかんだろう、それは私も同じだ。だが先んじておおよその事柄の概要が知りたいのなら、私の部屋に行くといい。お前の能力を使えば鍵は必要ないだろう。机の上に今日の新聞の朝刊がある、一面を読めば今の御坂が何の事件に巻き込まれているかすぐに分かる」

 

「じ、事件!?事件って一体なんですの!?それも新聞に載るような…!」

 

「ああ、昨今ずっと世間を騒がせていたゲームがまさかこんな大惨事を招くとは誰も思いはしないさ…こんな『SAO事件』なんて悪夢はな…!」

 


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