とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第57話 黒幕

 

「ちょっと!なんで私には何も話してくれなかったのよ!?」

 

「い、いやお前は血盟騎士団の中でも上層部の人間だし、ヒースクリフにもめちゃめちゃ近い方の人間だからバレやすいかもしれないし、もしお前が知ってるってバレたら、一番最初に狙われるのはお前だから秘密にしておこうって一方通行が…」

 

「え?一方通行が…?」

 

「だから言ったろ、実は結構良いヤツなんだって」

 

「・・・チッ」

 

「なるほど…そんなことがあったとはね。世の中何が起こるか分からないものだ」

 

「その通りさクソジジイ。テメエがその正体を最後まで隠しきれなかったのと同じようにな」

 

 

やれやれと言った風に喋りながら首を振るヒースクリフに勝ち誇っているかのように麦野が言い放った

 

 

「全く以って驚きだよ。君たちは私の予想を越える力を見せた…まぁ、この想定外の展開というのも、ネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな」

 

「でェ?どォすンですかァ?この場で全員ぶっ殺してこの事実も全部隠蔽しとくかァ?」

 

「まさか。そんな理不尽な事はしないよ。だが、こうなっては致し方ない…私は最上層の『紅玉宮』にて君たちの訪れを待つことにするよ。ここまで育てて来た血盟騎士団、そして上やん君たちのような攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが仕方あるまい。なぁに、君たちの力ならきっと辿り着けるさ」

 

「おおっと、ここまで追い詰めてんのに逃すわけありませんのことよ?」

 

「私たちを殺して隠蔽しようとするならともかく、逃げるってんなら話は別だ。アンタは今ここで、私たちの手でなんとしてでも殺す」

 

「覚悟は出来てンだろうなァ!?さァ!スクラップの時間だぜェ!?」

 

 

そう3人が意気込むと、どこからともなく声が聞こえてきた

 

 

『そう。そこの3人の言う通り君を逃す訳にはいかない。茅場晶彦、君の役目はここで終わりだ』

 

「えっ…だ、誰よ?今の声…」

 

「なっ…なにっ!?貴様っ!?なぜ今ここに!?」

 

 

その声を聞いた瞬間、ヒースクリフの余裕の表情が目に見えて焦りに変わる

 

 

『全く…君には失望したよ。やはり君には少しばかり荷が重すぎたようだ…さて、ではそろそろ返してもらおうか…「私の世界」を』

 

 

そう声が聞こえた瞬間、ヒースクリフの前に上条たちにとって見慣れないウインドウが表示された

 

 

『システムコマンド。管理者権限変更。IDヒースクリフをレベル1に』

 

「なっ!?私からGM権限を…っ!?一体どうやって…!これでは約束と違うぞ!『アレイスター』!」

 

「「「!!!!!」」」

 

「ここでその名前が出るか…」

 

「もうここで顔を見せてくれるってンなら上等じゃねェか」

 

「ラスボスもすっ飛ばして裏ボスって訳かしら?本来予想してた展開とは違うけど、こうなったらとことんやってやろうじゃねぇか」

 

 

スタジアムに空より一筋の光が差し込む。そしてその透明な光の柱から1人の「人間」が舞い降りて来た

 

 

「さて…もはやこうなってしまった以上『計画』は意味をなさないな。ここまで苦労したところ実に勿体のない話だが、ここで最終段階に移るとしようか」

 

「出やがったな…学園都市統括理事長『アレイスター=クロウリー』」

 

「と、統括理事長!?な、なんだってそんな人がこんな所に!?ていうか、学園都市の噂じゃそんな人存在するかどうかもマユツバものだったじゃない!!」

 

「詳しい事情を説明してねぇところ悪ィがオリジナル。このSAOにオマエも含めた俺たち4人をログインさせるように促したのは学園都市の人間だ。その辺の理由は詳しく知らねェが、コイツは茅場の上司でもあるみてェだ。つまりこれは、最初っから今こうして俺らの目の前にいる、訳わかンねぇ病人服のヤツの仕業なンだよ」

 

「な、なんですって……!!」

 

「だが、あいつさえ倒せば私らは晴れてSAOから解放されるどころか、学園都市のクソッタレの能力開発みてぇな醜い部分ともオサラバって話だ。どうだ?悪くねーだろ超電磁砲!お前もこの戦いに片棒担ぎやがれ!!」

 

「・・・当たり前よっ!!現実世界でも私の可愛い妹達が世話になったわねぇ!?このゲームも含めて何もかも全部倍にして返してやるわよ!!!」

 

バチバチバチバチバチッッ!!!

 

 

アレイスターの正体に加えて学園都市の思惑を知るやいなや、激昂した美琴の周りに紫電が走った

 

 

「ふふふふ、第4位の原子崩しと第3位の超電磁砲か…計画の中ではもう既に君達は用済みだ…だが…第1位にはまだ用事が残っている。そして…」

 

「・・・・・」

 

「どォしたヒーロー?」

 

 

上条はアレイスターの声を聞き、彼が自分たちの前に姿を現したその後からずっとその眼孔で目の前の人間を見続けていた。まるで品定めするかのように、まるで自分の根幹に眠っている何かを感じ取ったように

 

 

「やはりどうしても分かってしまうか、やはり必要なかったか」

 

「・・・・・」

 

「今さら言葉など。私と君の仲だったな。上条当麻」

 

「アレイスター=クロウリー…」

 

「さて、お喋りもここまでにしようかね。こうなってしまえばいささか上の層が目障りだな…手始めに消し飛ばすとしようか。システムコマンド認証。消去作業(デリートコード)…承認。加えて、オブジェクトID『衝撃の杖』をジェネレート」

 

 

そう言うと、アレイスターは何も持っていない右手を広げる。するとその広げた右手を中心にし、ずずずっ!と空間が渦を巻き、そこに現実には存在するはずのない、杖の先が咲きかけの花のように別れ、そこに青緑に光る球体の宿る捩くれた銀色の杖が現れる。アレイスターはその自分の為にこうして現れた「伝説の杖」をその手で掴んだ

 

 

「『衝撃の杖』」

 

ビキビキビキビキッッ!!!バゴオオオオオオォォォッッッ!!!

 

「なっ!?嘘だろ!?」

 

「!!全員衝撃に備えろ!」

 

 

アレイスターが小さく呟き、手に持った杖をコンコン…と二度つくと、上条達の頭上に合ったアインクラッドの75層より上の層が全てヒビ割れて崩れ落ちようとしていた。その場にいる者はその光景をにわかには信じられないが、ゲームの開発者であるヒースクリフだけは冷静に対処しようと皆に指示を出した

 

 

「美琴様!私めの側に!」

 

「いらないわよ!このアインクラッドは元々が鋼鉄の居城!だったら私の能力で…!」

 

「あぁいやなに、そんなに心配しなくてもいいさ。元々これを君達の頭の上に降らせるつもりは毛頭ない」

 

コンッ…コン…

 

ドバアアアアアァァァァァァァ!!!

 

 

そう言ってアレイスターはもう一度、自分の足下に衝撃の杖をつく。すると頭上で崩壊していた25層全ての階層が文字通り粉々に散り、砕かれたアインクラッドの鉄と大地と砂埃が舞う

 

 

「お、おいおい流石に規格外すぎんだろ…私らはこんなんを相手にしようとしてんのかよ…」

 

「ふむ…少し細かく砕きすぎてしまったようだ…砂鉄混じりの砂埃が酷いな…それにまだ幾らか大きいオブジェクトも残っている…一方通行、そして超電磁砲。掃除を依頼しても問題ないかな?」

 

「・・・チッ、おいオリジナル。少し手伝え」

 

「・・・なんですって?」

 

「俺が大気の風の流れを操作してやる。オマエはひたすら磁力を操作して宙に舞ってる砂鉄を振動させてまだデケェオブジェクトと瓦礫も全部ミキサーしろ。その後で俺が全部まとめて操作した風で薙ぎ払う」

 

「・・・言っとくけど、この状況を生み出したことには感謝はしておくわ。でも、私はまだアンタを許すつもりはないし、分かり合えてるとも思わない。これを終わらせた後でちゃんと話をつけましょう」

 

「・・・お互い様だろォが…さっさと始めンぞクソガキ」

 

「誰がガキだコラァァァァァァ!!」

 

ズザザザザザ!!!!ヂリヂリ!!!

 

 

美琴がその能力を解放すると、砂埃の中に無数に散らばっている砂鉄を操り、瞬く間に砂鉄の大嵐が吹き荒んだ。そして全てのオブジェクトが粒子レベルにまで細かくすり潰された

 

 

「上出来だァ、後は任せな」

 

シャアアアアアアァァァン………

 

 

一方通行が能力を行使しようとすると、まだ何もしていないにも関わらず全ての砂埃と粒子のように細かく砕かれたオブジェクトが破砕音と共に光となって消えた

 

 

「・・・あァ?」

 

「・・・くくくっ…一方通行、残念だが君の仕事はもうないよ。超電磁砲が1人で全てのオブジェクトの耐久値を0にしてしまったようだ」

 

「・・・なるほどね…いくら76層から100層全てとは言っても所詮はシステム的なオブジェクト。耐久値減らしまくればその内0になって消えるって訳か」

 

「そっか、何も一方通行が別に風で飛ばさなくても勝手に消えんのか」

 

「・・・フンッ」

 

「おィ、オリジナル。テメエそのドヤ顔ヤメろ。腹立つ」

 

「さて、一度空でも見上げてみてはどうかな?元々は君達が100層までたどり着いた時に見上げるハズだった本物の青空だぞ?」

 

「はぁ?『本物』だぁ?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。私らにとっちゃこの世界自体が『偽物』なんだよ。テメエを今からとっととぶっ倒してこの世界から出て行かせてもらうぞ」

 

「・・・・・」

 

ザッザッザッ……

 

「ヒースクリフ?」

 

ザッザッ…ザッ!

 

 

まるで亡霊であるかのようにゆらゆらと揺れながら上条達の前をの横切りながらアレイスターの目の前に躍り出るヒースクリフ。そしてアレイスターの目の前に出ると、俯いた顔を上げ、その表情に怒りを浮かべ、目の前のアレイスターを睨みつけて低い声で告げる

 

 

「許さん…許さんぞアレイスター…」

 

「茅場晶彦か……君には失望したよ。まさかこんな中途半端なところでこんな失態を晒してくれるとはね。おかげで計画の歯車は大きく狂ってしまった。だが君への感謝は忘れていないさ、ここまで私にとって都合の良い『位相』を作ってくれたことにはね」

 

「・・・みんな、ここは一旦逃げたまえ」

 

「あァ?何でだよ?ここまでヤツを追い詰めたンだぞ?」

 

「いいや、それは逆さ…今やアレイスターは私の所持していたGM権限さえも手に入れた。先ほども見ていたように今のヤツに出来ないことはない。この世界をまるごと消し飛ばすことも出来る。だからせめてここは私に時間を稼がせてくれたまえ、君達というまだ若い命たちを巻き込んでしまったせめてもの罪滅ぼしだ…」

 

「おいおいクソジジイ、テメエそれじゃ説得になってねぇんだよ。この世界まるごと消し飛ばせんだったらこの後どこに逃げても結果は同じだろうが。だったらなおさら逃げずにここで戦う方が良いだろうが。申し訳ねぇと思ってんだったらテメエも協力しやがれ。まぁそれも、自分の命が惜しくなけりゃの話だけどな」

 

「・・・なら言い方を変えよう、私は今ここで、アレイスターと一騎打ちで戦いたいのだよ」

 

「はぁ!?な、何言ってんだよ茅場!俺や他のみんなと戦った方が絶対勝てる確率が上がる!だから…!」

 

「いいや違うさ、上やん君…いや、上条当麻君」

 

「茅場……」

 

「これは私の引き起こした不始末だ。私は…例えここで死のうとも、この世界に最後まで責任を取らねばならないのだよ」

 

「・・・団長…」

 

「御坂美琴君、同じギルドとして世話になったな。君の腕は、意志は…紛う事なき本物だ、大切にしたまえ」

 

「・・・はい!」

 

「そして…クラディール君、スパイとして見事な活躍だった。君無しにはこの状況は生み出されなかったのだろう。誇りに思いたまえ、これまで出会ったプレイヤーとして最も尊敬に値するよ」

 

「・・・ご武運を」

 

「おっと、君はこの場には不相応だな。早めの退場を希望するよ」

 

「なっ!?」

 

 

そう言うとアレイスターは片手の人差し指と親指を立て、拳銃を模倣した手を形作る。すると、その手元で数字の火花が散り、アレイスターが言葉を紡ぐ

 

 

「『Beast666』…衝撃の杖」

 

「ッ!?魔法名ッ!?クラディールs…!!」

 

ドガドガドガッ!!!!

 

「ごぼふっ……!?」

 

ガシャアアアアァァァァァ……

 

 

上条が盾になろうと駆け出すよりも速く、クラディールの体に何十発もの幻視の銃撃が炸裂した。クラディールの身体が宙を舞い、HPバーが一瞬で全損し、耳障りなオブジェクト破砕音と共にその身体が砕け散った

 

 

「くっ!クラディールさん!!」

 

「クラディール!!!」

 

「一先ずはこれで心置きなくやれるだろう。さてどうするかね茅場晶彦」

 

「テンメエェェェェェ!!アレイスタァァァーーーーー!!」

 

 

怒りの感情に身を任せた麦野の掌の上にブォン!と原子崩しの光球が宿り、目の前のアレイスターに向けて光線を放とうとした瞬間

 

 

「やめたまえ麦野君ッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

ヒースクリフの声にハッとなってその手を止める麦野。掌に発動させていた原子崩しを解除し、自分を止めたヒースクリフを見つめた

 

 

「これは、私の戦いだ」

 

「・・・チッ、どうなっても私は知らねぇからな…」

 

「すまないね、こればかりは譲れないんだ」

 

 

そう自分の胸に決意をおくと、ヒースクリフは一歩前に出て盾に差していた剣を抜き放った。そして、全プレイヤー中最強と呼ばれたその剣の切っ先を目の前の宿敵に向けて言い放つ

 

 

「これ以上私が作り上げた理想の鋼鉄の城を…アインクラッドを貴様の好きにはさせんぞアレイスター!!!」

 

「・・・勇んだところ申し訳ないが、GM権限を失った今の君は一介のプレイヤーと何も変わらぬ。ナーヴギアをつけている以上、私の権限で君も本当に死ぬぞ?それでも、その実力が私の足下にも及ばないと分かっていてなおその剣を向けるかね?」

 

「当然だあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

咆哮と共にヒースクリフは駆け出す。そしてソードスキルで赤く光り輝くその剣をアレイスターに振り下ろした…だが……

 

 

「・・・出ろ、エイワス。思考を縛る鎖を逆手に取ってガイドとなし、我が目的を完遂せよ」

 

 

 

ズドオオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

 

「ッ!?!?!?」

 

ガシャアアアアァァァァ………

 

「かっ!?茅場ぁぁぁ!?!?」

 

「そっ!そんな…ッ!?」

 

 

一瞬の激しい閃光が煌めいた直後のことだった。正体不明の衝撃がヒースクリフを襲い、一瞬で全てのHPが消失し、その身体が無数の光の欠片となって散った。彼を蹴散らした極太の光はまるで、青ざめたプラチナとでも呼ぶべき冷たい光を放っていた

 

 

「おい…出やがったぞ第1位」

 

「あァ、言われなくても分かってンよォ…あン時以来だなァ…『ドラゴン』…いや…『エイワス』」

 

 


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