3日前
「その話・・・全部本当なのか?」
「ああ。アクセラっちに信頼されて私は上やん以外に他言しないという条件でこの話を伝えるように頼まれタ」
ここは50層の上条当麻のホーム。上条は3日後のスタジアムで明かされる事実を既にアルゴから聞いていた。そのアルゴは一方通行から予めその情報を確かな信頼を戻に上条にと伝言を頼まれていたのだ
「・・・これ、その時アクセラっちに渡された回廊結晶。自分の話を信頼して協力するなら、これに設定されてる場所に今日中に来いっテ」
「・・・さんきゅ」
そう言われ、上条はアルゴから手渡された回廊結晶をじっと見つめた
「それと、こレ」
「?これは…メッセージ録音クリスタルか?」
「アクセラっちから上やんへの直接のメッセージが入ってるみたいダ。気が向いたら聞けってサ」
「・・・分かった。ありがとう」
「なぁ、上やん?」
「ん?どしたアルゴ」
「・・・行っちゃうんだロ?」
アルゴが少し涙目に俯きながら、今にも消えてしまいそうな声で上条に疑問を投げた
「・・・はははっ、バレてたか…情報屋の読心技術は伊達じゃないな…」
「罠なんじゃないかとは思わないのカ?」
「アルゴを介してる時点で嘘じゃないんだろ?アルゴは信頼出来る情報しか渡さないし、話さないからな」
「・・・たしかに、この事実が本当ならこのゲームの真実にグッと近づくと思ウ。でも、存在がバレたから上やん達の事を口封じの為に殺すかもしれない!そうなったらもうこのゲームをクリア出来る人なんて…!」
「心配すんなアルゴ、俺は死なねぇよ。絶対に元の世界に帰らなくちゃいけないんだ」
「上…やん……」
ポンッ…ポン…
上条を潤った目で心配そうに見つめるアルゴだったが、上条はそんな彼女に対し笑顔を見せ、その頭を軽く撫でた
「そんな心配そうな顔するな。これからの作戦とかはまだ行ってみないと分かんないけど、この戦いが終わったら必ずお前にも現実で会いに行くから」
「そんなこと分からないじゃないカ!相手はゲームマスターなんだゾ!?その気になれば勝負なんかしなくたって指先一本で上やん達を一瞬で殺せるんだゾ!?」
「そうかもな…でも、これを知っちまった以上、やらない訳にもいかないんだ。そうじゃないと、これまでに俺たちと一緒に戦ってくれた人、俺たちのゲームクリアを信じてこの世界で待ってくれてる人、現実で待ってくれてる人、全員の思いを無駄にしちまうじゃねえか!!」
「・・・どこまでも真っ直ぐだナ、上やんは…」
「あはははっ…だから心配しないでくれアルゴ。俺は大丈夫だから。いつもどうもありがとうな」
「ああ、無茶だけはしてくれるなヨ」
「おう…それじゃあな」
「ああ、またいつか必ず会おウ。上やん」
ガチャ…バタン…
そう言い残し、アルゴは上条の家を後にした
「・・・さて…」
上条はアルゴの後ろ姿を見届けると、自分の椅子に座った
「・・・一方通行のメッセージか…」
そして、先ほどアルゴから譲り受けた一方通行のメッセージが入っているというメッセージ録音クリスタルを眺めていた
「聞いてみるか…」
スッ…ピコンッ…
上条の指先がクリスタルに軽く触れた。すると、クリスタルの中心に明るい光りが灯り、内蔵されているメッセージが再生され始めた
『・・・なァ第4位、これ本当に録音出来てンのかァ?……あァ!?制限時間あンのかよ!?何でそれを先に言わねェンだ!!』
「ははは、本当に一方通行の声だ。なんだこれ、不器用なお父さんが娘に送るビデオレターみたいだ」
(・・・一方通行も意外と人間らしくて可愛いとこもあるんだな…知らなかったな…)
一方通行が録音している当時の向こう側ではきっと誰かと揉めているのだろう。そんな風に考えながら、自分が今まで見ることの出来なかった一方通行の一面を見れただけでも、この録音を聞いた価値があったなと思う上条であった
『チッ…まァいい。ンで…あのクソネズミから大体は聞くとは思うが…「誰がクソネズミだとアクセラっち!」テメエはそのムカつく呼び方いい加減やめろっツってンだろォが!次そう呼ンだらぶっ殺すぞテメエェェェ!!!』
「ははははは!なんだこれ、もはやただの仲良しな家族のホームビデオとほとんど変わんないじゃないか」
上条は一方通行のメッセージ録音結晶に記録された彼らのやりとりに声を出して笑わずにはいられなかった。自分には見えない、クリスタルの向こう側の楽しそうな雰囲気を想像するのはそう難しいことではなかった
『調子狂うぜ…ったく…それで制限時間もあるみてェだから本題に移るンだがよォ、こンなこと言うのは俺のタチじゃねェンだが、クソn…チッ…アルゴがこの作戦にはテメエもいた方が良いって言うから誘う事にした「最初に言ってたのはアクセラっちだゾ」うるせェ引っ込んでろ』
「・・・・・」
『それでよォ、俺とテメエの間にはまだ解決してねェ色々があンだろ。まぁ俺も俺なりにだが、アレから自分の負債と向き合い続けてンだ。それについては今さら許されるとは思ってねェ、だから俺はこの十字架を一生背負い続けて生きて行く責任があンだ』
『だから、手を組む組まねェの前に、とりあえずだがテメエにも謝罪しておくことにした。悪かったな』
「・・・一方通行」
『・・・お前にも現実に帰らなきゃならねェ理由が何かしらあンだろ?少なくともテメエは俺よりも居場所があるはずだ。だが、その居場所の数なンざ関係ねェ。俺も約束しちまったことがあンだ。だからどうしてもアイツを生きてこの世界から返して、俺も帰ってクソガキの面倒を見てやらなきゃならねェンだ』
「・・・・・」
『その辺はテメエも自覚あンだろ。あの十字の丘ン時の最後の一発、明らかに手加減したよなァ?どうせ俺が死ンだ時の事でも考えて手加減したンだろ?バレてンだよクソッタレ』
「・・・・・」
『・・・その辺の借りを返す為にも協力しやがれ。作戦も予め考えてある。今のところ落ち度はねェ。後はテメエの戦う意志だ。…まァ精々期待して待っといてやンよ…「ヒーロー」…』
『ぎゃはははははは!!第1位顔真っ赤!こいつぁ傑作だ!ぎゃははははははははは!!!!』
『アクセラっち結局、結局、素直じゃなさすぎ!あははははははは!!!』
『・・・テメエらだけは今ここで愉快な死体に変えてやンよォォォ!!!』
『ドゴォォォ!!ズドォォォ!!ワーワーギャーギャー!!…………』
ピコンッ…フォン…コトッ…
録音時間の限界が来たのか、メッセージ録音クリスタルの中心に灯る光が消え、机の上に落ちた
「俺…なんかずっと一方通行のこと勘違いしてたんだな…根っからの悪いヤツって訳じゃないんだな…」
上条は少しだけそんな風に自分の中で感傷に浸り、今まで自分の見て来た心の内の一方通行とメッセージ録音クリスタルを見比べ一瞥し、クリスタルをアイテムストレージへとしまい、椅子から立ち上がった
「・・・行くか」
上条は先ほど譲り受けた回廊結晶を手に取って自身の前に突き出し、結晶に記録された行き先と現地を繋げた
「コリドー、オープン!」
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第22層 ログハウス
「あら、案外早かったわね」
「・・・PoHか」
上条が回廊を渡りきってたどり着いた場所は、22層に建てられたとある木造のログハウスの中だった。目の前には麦野沈利が椅子に腰掛け、テーブルに置かれた紅茶と茶菓子を嗜んでいた
「ちょっと待ってな、今アイツを呼んで来てやるわ」
そう言って麦野は椅子から立ち上がった
「・・・ここ、お前らのホームなのか?」
「違えよバカ。第1位と一緒のホームに住むとか生理的に受け付けねぇよ。ここは元々第1位と第2位の家だったのよ。まぁ色々とあって、今はラフィンコフィンの隠れアジトだ。今は第1位も作戦まではここに置いておく事にしてる。まあ元々の家主だしな」
「・・・一見すればただの平和な家じゃねぇか」
「バカかお前?『隠れアジト』だって言ってんだろうが。いかにもって場所に建てたらそりゃ隠れアジトとは言わねぇんだよ。むしろこういう『まさかこんな平和でのどかな場所に血に飢えた殺人集団がいるはずない』って思えるような場所の方がそういう心理も働いて身を隠しやすいんだよ」
「なるほど…一理ある」
「はん…テメエにはやっぱ私らみたいな『闇の仕事』は向いてねぇみてぇだな…まぁ第1位のヤツは、だからこそテメエが必要だ。的なこと言ってたみてぇだが」
「・・・お前のことも勘違いしてた」
「はぁ?」
「殺人ギルドのリーダーだって言うから『そういうヤツ』なんだとばかり思ってた。でも、アンタにもアンタの願いと信念があったんだろ?だったら今となってはちゃんと分かり合える気がする」
「・・・勝手に勘違いしてんじゃないわよ。別に私は殺人ギルドのリーダーだし、アンタの言う『そういうヤツ』で間違いない。だけどアンタは私達という人間の溝まで知ろうとして正しく理解した…そんだけよ」
「・・・ああ」
バンバンバンバン!
「おい!起きろ第1位!テメエが大ファンのヒーローが来たぞオイ!」
<誰がファンだっつったァ!!?
「これで出てくるわ。少し待っときなさい」
「はは、分かった」
ガチャ…バタン…
「チッ、最悪の目覚めだクソッタレが…」
「よっ、一方通行」
「・・・おォ」
「ったく、これから曲がりなりにも仕事仲間なんだからもう少し社交的になりなさいっての」
「いや、仕事仲間じゃねぇよ」
「あン?」
「正真正銘の仲間さ」
「・・・チッ、マジでお人好しすぎてこっちが心配になってくるわね」
「だから言ってンだろ、コイツはそういうヤツなンだよ。まァもっとも、ソイツを心配してやってる時点でテメエもお人好しだと思うがなァ」
「あぁん?焼き殺すぞテメエ」
「あァ?うっせェな、足太ェんだよオバさン」
「・・・仲良いなお前ら」
「「どこをどう見たらそうなん(ン)のよ(だよ)」」
(息ぴったりだし・・・)
「ま、とりあえずもう仲間になったんだ。俺の名前を教えておくよ。俺の本当の名前は『上条当麻』だ」
「はっ、『麦野沈利』よ」
「・・・『一方通行』だ。それしか覚えてねェ」
「思い出したら教えてくれればいいさ、よろしくな一方通行」
スッ……
「・・・・・」
上条は仲間の印にと握手を求める。一方通行はその右手を一瞥すると、頭をガシガシと掻いてその手を取った
「・・・よろしくなァ」
「もう『反射』はないんだな」
「オマエの右手が消してるだけだろ」
「いや、分かるんだよ」
「・・・そォか」
「・・・さ、時間もそんなにあるわけじゃないしさっさと始めるわよ。まずは茅場の話と…まぁひいては学園都市の思惑と…アレイスターの話だな」
微笑みながら一方通行の手を取る上条当麻。この世界に来てから初めて誰かの手を取った一方通行は、この仮想世界というデータの奥にある、その手の暖かさを、温もりを感じ取っていた