とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第54話 決闘

 

ワアアアアアアアアア!!!!

 

 

「うっひょー、すげー人だな…」

 

「すまなかったな上やん君。まさかコロシアムでやるというだけでこんな事になっているとは…まぁNPCが何人か混ざってはいるんだろうが、知らなかったよ」

 

 

ここ75層の主街区コリニアは古代ローマ風の構造をした街になっており、街の中には豪華なコロシアムまで建設されていた。そのコロシアムで今まさに、数え切れないほどの観客の声援の中心にいる者が2人いた

 

 

「まぁ、それを見れるだけの価値があるってことでしょう?神聖剣」

 

「いや?案外目当ては君の方かも知れないのではないかな?幻想殺し」

 

「そりゃどーも…後できちんとギャラをもらいますのことよ?」

 

「その心配はないさ。君は試合後は我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらうよ」

 

「・・・そりゃなおさら本気でやらないとだな…」

 

「はははっ…さて、ではそろそろ始めようか」

 

 

そう言ってヒースクリフは自分の腕を下へと振ってメニュー画面を開き、デュエル申請を上条に送る。上条は自分の目の前に現れたデュエル申請のウインドウの「半減決着モード」を選択すると、デュエル開始までの60秒のカウントダウンが始まった。そして、そんな2人の勇姿をフィールドの入場口から見守る者がまた2人……

 

 

「ミコト様はこの戦い、どちらが勝利すると予想されますか?」

 

「そうね…あなたはどう思う?クラディールさん」

 

 

フィールドの入場口の壁に寄りかかりながら血盟騎士団副団長として戦いを見守る美琴と、その美琴の護衛を務める全体的に痩せ細った血盟騎士騎士団のプレイヤー「クラディール」の2人である

 

 

「そうですね…おそらく単純な筋力と敏捷ならば上やんさんに圧倒的な分がありますが…なにせ彼のユニークスキルはああいった代物ですし、それが団長の防御を掻い潜れるかどうかでしょうな」

 

「・・・そうね」

 

「?」

 

(・・・アイツの本当の力はあんな右手なんて外面じゃない…「アレ」を感じたのは過去に大覇星祭の時と、十字の丘の一方通行との戦いの二回。あの右手の奥に隠されてる見えない「何か」がアイツの真の能力…万が一にも団長がアイツのHPを半分削る前に右腕を切り落としたりしなきゃいいけど…)

 

 

[7…6…5…4…]

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 

カウントダウンが0に近づくにつれ上条とヒースクリフの顔が強張っていき互いを睨み合う。上条当麻は左手に盾を備え右手で拳を握る。一方のヒースクリフは十字盾に通していた剣を抜いた。そして、闘いの火蓋が切って落とされた

 

 

[3…2…1…Start!]

 

 

「ッ!!!」

 

ダダダダダッ!!

 

「フッ!!」

 

バゴンッ!!!

 

「ッ!!俺の盾より全然硬いな…」

 

「君の方こそ、私の盾を素手でここまで押し込んだのは君が初めてさ」

 

 

開始の合図と共に上条がヒースクリフの懐へと駆け出し距離を詰めた。そしてその必殺の右手の拳を叩き込むが、それは相手の最大の長所である盾に阻まれた

 

 

「もう一度…!」

 

ダッ!!

 

(・・・パンチ特攻の一辺倒か…それでは私の盾は崩せんぞ)

 

ダンッ!ガッ!バンッ!!

 

「ほっ!」

 

「なっ!?」

 

 

ヒースクリフがパンチの衝撃に備え構えた十字盾の前で上条が跳躍した。すると十字盾の角を足場にしてもう一度高く跳躍し、ヒースクリフの頭上を取った

 

 

「パンチだけが俺の体術じゃねぇんだぜ!?」

 

バキッ!

 

「づッ!?」

 

 

上条当麻の踵落としがヒースクリフの肩に直撃した。彼が身に纏う真紅の鎧がガチガチと悲鳴をあげ、HPが減少を見せた

 

 

「まだまだぁ!!」

 

ガンッ!ガンガンッ!ガンッ!

 

「ふむ、素晴らしい連打だ。だが…」

 

ザンッ!

 

「!?クッ…!」

 

「やはり、私の盾を崩すには至らないな」

 

 

着地後の上条の怒涛の右手の連打を全て盾で防ぐと、ヒースクリフがお返しとばかりに肩から斜めに剣で上条の体を切り裂いた

 

 

「では今度は私の剣術を披露するとしようか」

 

ブォンッ!ギンギンッ!キキキン!!

 

「おっと、よっ。ほっ」

 

 

上条は自分に襲いかかるヒースクリフの流れるように繰り出される連続斬撃を冷静に一太刀ずつ盾で捌いた

 

 

「ほぉ、君も中々良い盾を持っているじゃないか」

 

「お世辞ならいりません…よっ!!」

 

ズシャア!!

 

「!?!?」

 

「失礼ですが、足下がお留守でございますのことよ?」

 

 

上条が繰り出したのは足払い。何とも古典的な格闘術だが、この世界ではそもそも純粋な体術を使うのは一部例外のモンスターを含め無論、上条当麻のみである。つまり、ほとんどのプレイヤーは足場に気を配ることはない。上条の策略で見事にヒースクリフの体は宙を泳ぎ、それは確かな隙へと変わる

 

 

「ぐおっ!?」

 

「どおりゃああああっ!!!」

 

ドゴッ!!ゴッシャアアアア!!!

 

「ぐはっ!?」

 

 

体勢を崩し宙を泳ぐヒースクリフの顔面を上条の右手が確実に捉え、全力で地面へと叩き伏せる。上条の全力の右拳を受けたヒースクリフのHPはガリガリと削れていき、あとほんの少しで半分かというところで止まる

 

 

「ヤバイ!!マトモに入ったわ!」

 

「あ、あと軽く一撃でももらえば団長の負けです!!」

 

バッ!

 

「ここだあっ!!!」

 

「ツッ…!!」

 

ドゴッ!!

 

(ッ!?盾で直接!?)

 

「ごふぁっ!?」

 

ズシャア!

 

 

倒れたヒースクリフに上条が飛びかかるが、ヒースクリフが上条の身体ごと盾の縁で押し退けた。その圧力と鈍い衝撃に押し負け、上条は軽く後ずさりした

 

 

「ぜあっ!!」

 

「あぶねっ!?」

 

ギンギンッギンッギギンッ!

 

 

ヒースクリフが立ち上ったのとほぼ同時に、上条を再びその剣が連続攻撃を見舞い、それを上条が盾で防いだ

 

 

ギンッ!ギンギンギンギンッ!

 

(くそっ!守ってばっかりじゃ勝てねぇ!どっかで隙を突いて反撃を…!)

 

「甘いっ!!」

 

カキィンッ!!

 

(なっ!?切り上げ!?ヤッベ!!)

 

 

ヒースクリフは上条の身を守る盾の下に剣を滑り込ませると、そのまま盾を左手ごと剣で弾きあげた。上条は左手がバンザイ状態になり、防御の術が失われていた

 

 

「もらったっ!!!」

 

「ッ!オラアァァ!!」

 

ズバァン!!!ドゴォ!!!

 

 

ヒースクリフの斬撃と上条の右フックがクロスカウンターでほぼ同時に決まる。そして直後、果たしてどちらのHPが先に半分に達したのか、その結果を知らせる表示が現れるのを互いに待つ

 

 

「ど、どっち…?クラディールさん最後どっちが早かったか分かる…?」

 

「い、いえ…最後の交錯は見えましたがどちらが早かったかまでは…」

 

(・・・でも、なに?このまるでスッキリとしない感覚…ひょっとして今の瞬間って…)

 

 

 

「・・・はぁ」

 

「・・・悪いな上やん君」

 

 

[WINNER Heathcliff!]

 

 

「私の方がほんの少しだけ早かったようだ」

 

「・・・そのようで」

 

ワアアアアアアアアア!!!!!

 

 

デュエルのWINNER表示がヒースクリフの勝利を告げる。その瞬間、会場を観客の割れんばかりの歓声が包んだ

 

 

「やりましたねミコト様。終わってみれば団長の完勝です」

 

「・・・・・」

 

「・・・ミコト様?」

 

「あ、いや…なんでもないわ…」

 

(本当にアイツの方が遅かったのかしら…ていうかむしろあの瞬間は早い遅いじゃない…もしかして団長のHPバーは…「減っていない」?)

 

 

「はぁ〜…負けちまったか…」

 

 

上条は深くため息を吐きながら膝に手をついて立ち上がり、尻についた土埃を払って盾を背負い直した。そしてヒースクリフは剣を十字盾と腕の間に納め、上条の方へ歩み寄った

 

 

「いや〜上やん君、久々の団員以外とのデュエルだったが本当に良い勝負だったよ。あ、すまない訂正しよう。もう君はこの瞬間から血盟騎士団のメンバーだったな。だが最高の勝負だった事に変わりはない、ありがとう」

 

「へっ、ほんと良い性格してるぜ…ああ、俺としても良い勝負だったよ」

 

「改めて、血盟騎士団へようこそ。全ての団員に代わってここで歓迎するとしよう。上やん君」

 

 

そう言ってヒースクリフは上条の前に右手を差し出し、握手を求める

 

 

「・・・ああ」

 

ギュッ!

 

 

上条は差し出された右手を取り、固く握手を交わした

 

 

「・・・だけど、ヒースクリフさん。その歓迎は残念だけど受け取ることは出来ないな」

 

「・・・なに?」

 

「勢力は手元に集中させておいて自分は高みの見物決めこもうって…そいつは流石におこがましすぎると思いやしないか?ヒースクリフさん…いや…」

 

 

 

「『茅場 晶彦』」

 

 

 

次の瞬間、真紅の鎧を緑の閃光と強烈な爆風が襲った

 

 


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