とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第50話 エイワス

 

金色の長い髪、光り輝く長身と、その身体を包む白い装束。女性のような外見でありながら、その頭上にはまるで輪廻を象徴しているが如く回る輪があった。喜怒哀楽の全てが読み取れる表情であり、それでいて人の感情とは明らかに異なる物を根幹に秘めたフラットな顔つき。そう、それはまるで…

 

 

「・・・天、使…?」

 

 

ソレを見た麦野が無意識の内に呟いていた。そして、その視界が一瞬で闇に覆われた

 

 

ドサッ……

 

「!?麦野さん!!」

 

 

垣根が倒れた麦野を抱き抱えるが返事はない。目の前の天使によって完全に意識を奪われていた

 

 

「気絶させただけだ。今の彼女ではここにいる資格すらない」

 

「・・・あン時の……」

 

 

一方通行はある物を思い浮かべていた。9月30日の学園都市の中で光り輝き渦巻いていた翼。『天使』とでも言うべきもの。目の前に立っていたそれはまさにその時見たものと酷似していた

 

 

「『ヒューズ=カザキリ』ではない。あれはそもそも、私を形成する為に用いられた、単なる製造ラインに過ぎない」

 

「・・・『ドラゴン』か」

 

 

一方通行は直感でそう感じ口を開いた。目の前にいるヒトの形をした物に向けて呟くように

 

 

「ふむ、その呼び名も決して間違いではない。『天使』という記号にも対応はしている。だが、私という存在は既存の聖書に記述される天使とは少し概念が異なる。もはや『この世界』において私という存在の法則性も異なるようだ…よって私という存在をより一層的確に表現するのなら、このような単語を選ぶべきであろう」

 

「コードネーム『ドラゴン』改め、かつてクロウリーと呼ばれた変わり者の魔術師に、必要な知識を必要な分だけ授けた者………」

 

「『エイワス』と」

 

 

ソレはゆっくりと告げた

 

 

「・・・でェ?そのエイワスが俺らに何の用だ?俺に何の恨みがあって殺しを差し向けた?」

 

「そうだな…君に一定の価値があると認め、それによって少し興味が湧いたから…だよ」

 

「悪ィが、俺はテメエに興味なンざねェ」

 

「くっくっくっ、分かっているさ私とてここに来たのは君が本題ではない。君とはいずれ、そう遠くないいつかに出会う手筈になっていたからね…今回、元々が不鮮明な存在である私がこうして現出し、ここを訪れた真の目的は……」

 

 

「君と『彼』を引き剥がす為さ……」

 

 

バヂッ!!バヂヂッ!ヂヂッ!

 

「!?なっ!…xにq゛…がっ!f?」

 

 

エイワスが言い終わると垣根の体がブラウン管テレビの砂嵐のように音を立てて少しずつ崩れ、そして言葉にノイズが走り始めた

 

 

「なっ!!?テメエ!垣根に何しやがった!?」

 

「君は実に奇怪だ。『ここ』に来た当初は確固たる決意をその胸に秘めていたのに彼という存在、『逃げ道』があればそれに飛びついた。気づかなかったかね?最初は彼が君を求めていたのに、知らず知らずの内にいつからかは君が彼を求めていたのだよ」

 

「!!!!!」

 

「それでは私としても…そして『アレイスター』としても面白くはならない。だから今の未元物質は邪魔でしかないのだよ。だからこうして消すことにしたというだけさ。…最も彼は自分から私を知り、哀れにも探し出そうとした。それだけでも消すには十分すぎる理由になる」

 

「アク#&jセkラ\レータqhさん…」

 

 

エイワスは淡々と語る。そうしている内に垣根の白い体は徐々に千切れて電子の波へと消えていき、言葉も不鮮明なものになっていた

 

 

「そこで原子崩しこと彼女さ。君の本能を呼び起こす為の鍵。『この世界の殺し』とは何たるかを、君は知る。人による殺意を向けられるべきで今回は十分だったのさ、私は存在としての殺意を持てないからな。少しは思い出せたかな?本来なら誰よりも優しい心を持つ君が、かつて進んで悪を演じた君を……」

 

「テメエは死体決定だクソがッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 

ドバアアアアアアァァァァァ!!

 

 

一方通行の殺意が黒い翼となって現れる。黒翼がエイワスに向かって伸び、凶気の一撃で叩き伏せる。しかし次の瞬間に身体に衝撃が走ったのは一方通行の方だった

 

 

ゴッパァァァァァァン!!!!!!!

 

 

「ごっ……ぼ、ガァァァァァァァあああああああああああ!?!?!?」

 

 

爆風が起こった後、「異様な力」が一方通行の上半身を斜め一直線に貫いた。単純な金色とは違い、白の芯を含むそれは青ざめた輝きを放つプラチナの翼だった。エイワスの翼は一方通行の黒翼を一撃で根元から消し飛ばし、続く二撃目で一方通行ごと完全に分断した

 

 

「まだまだ未熟…完全とは程遠いな。やはり寄り道とはよくないものだ。アレイスターも回りくどい方法ばかりを取る。その結果がこれか…」

 

「く、クソが……ガハッ!」

 

一方通行のHPはもはや0に等しかった。だがそれはエイワスが狙ってそうしたのだろう。ここで死なれるのは本意ではない、だから彼をギリギリの所で生かしたのだった

 

 

「・・・さて、そろそろ私は行こう。次に会えるのはそう遠くないか…その時になれば私がこの世界に存在する理由、私が何たるかを全て知ることになる。それではまた会おう…君にはまだ可能性がある。その可能性が何かまでは語らないがね…」

 

「まっ!待ちやがれッ!!!!」

 

 

シュンッ…とエイワスは一瞬でその姿を消した。去り際のその表情はまるで何かを楽しむようでいて、彼らを見下すような余裕の表情だった

 

 

「クソがああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

一方通行が月の下で叫ぶ。誰に届くわけでもなく、ただ己の無力さを痛感し、ただ叫んだ

 

 

「大、丈夫。で#eすよ…」

 

「か、垣根ッ!!待ってろ!今ここでテメエの電子のベクトルを掌握して操作すればッ…!!」

 

「無理、です…gッ!?彼は私が先ほど言った通り…#uv…彼はこの世界の根源に関わる存在…私なんてたかがホストコンピュータの端くれ…kenq…もう抗う事は出来ないんです…」

 

「・・・なンでだ…なンで俺には何も守れねぇんだァァァァァァ!!!」

 

 

一方通行が地面に拳を打ちつける。能力が上乗せさせられたその拳の衝撃が周囲に広がる森の樹木を根こそぎ薙ぎ払った

 

 

「一方通行さん…私…楽しかったです…あなたと過ごした日々…あなたと過ごした1年が……暗部にいた頃とは…学園都市にいた頃とは違う…何もない平穏な日々…彼が言っていたのは正しくありま…せん…むしろあなたを変えてしまった…nは…私です……」

 

「違ェよ……ンなことあるか…違ェって言ってンだろォがあァァァ!!!」

 

「おわっkrでs…一方通行さん/&@/あなたは生き残って下さい…今度こそ…自分の意志の赴くままに、守りたい物を守って…生きて帰ってくだs…」

 

ヂヂッ……………

 

 

垣根帝督が静かに消滅した。その姿が跡形もなく、何も残らなかった。この世界で死を意味する光の欠片のエフェクトも、何もなく…

 

 

「・・・・・垣根……………」

 

 

 

 

 

 

 

「垣根ェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行の叫びが消えた。1年という月日を共にした彼に、自分の声は、手は、届かなかった。もはやもう一度話しかけることも、もう一度伸ばすことも、出来なかった。この世界で最も多くの時間を共にした彼の最期は、今まで経験したどんな別れよりも、残る物がなかった

 


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