チュンチュンチュチュン…
東から昇る眩しい朝日、小鳥のさえずりがより一層澄んで聞こえるような晴れ渡る青空。そんな絵に描いたような素晴らしい朝に目を覚ますのは1人の白い少年
「zzzzzzz……」
「一方通行さーん?朝ですよー?」
「…………zzz」モゾモゾ
「全く、いつまで経ってもお寝坊さんなんですから…でもまぁ、普段は見れないとっても可愛い寝顔ですね…」
「………………」
「・・・いい加減起きないとほっぺにキスしちゃいますy……」
バフォオオオオ!!
「だあああああああ!!!気色悪ィンだよテメエはァァァァ!?何だ何ですか何なンですかァァァァ!?お前は俺の奥さンにでもなったつもりなンですかァァァァァ!?」
垣根のモーニングコールに苛立ちを隠しきれなくなった一方通行は自分の身を包んでいた布団を思いっきり捲りあげそのまま激昂した
「そ、そんないきなり奥さんだなんて困ります一方通行さん…///やはり結婚というのは清純なお付き合いをしてから少しずつお互いの愛を確かめあっていきながら……」
「どこをどう解釈したらそうなるンですかァァァ!?朝からだりィンだよこのクソがァァァ!!!」
一方通行がSAOにログインしてから約1年が経過した。初めてはじまりの街で出会ったあの日から、一方通行は垣根帝督に手解き(ゲームの)を受け、もはやこのゲームで知らないことはほとんどなく、無難にプレイ出来る立派なSAOプレイヤーへと成長していた
「では、朝ごはんが出来ているので早めに食べてしまって下さい。今日は黒パンとサラダとコーンスープですよ」
(・・・ヤベェ…ヤベェのは頭では分かってンだが…面倒臭せェェェ)
しかし問題があったのはそれからで、一通りのゲームの仕組みや操作方法を教えてもらった一方通行は世話になったと言って別れようとしたのだが、垣根がしつこいぐらいに食い下がってきたのでしばらく行動を共にすることになったのだが、巡り巡って今となっては第22層の湖の近くにログハウスを垣根が建て、そこに2人で住んでいるという状況だ
(まァ正直、垣根のホストの権限のおかげで超電磁砲の監視には困ってねェし、願ったり叶ったりっちゃあそうなンだけどよォ…)
「いただきます」
「・・・いただきまァす」
(これじゃただのホモじゃねェか…)
モグモグモグモグ
(・・・いつものことながら美味ェし)
「さて一方通行さん、今日はどう致しましょうか」
「寝て過ごしゃいいだろ」
「またそれですか…たまには外に出て運動などされてはどうですか?SAOでは現実世界のスポーツはもちろん、この世界でしか出来ないようなスポーツもあるんですよ?」
「興味ねェなァ」
「では最前線の攻略にでも参加されてはどうですか?一方通行さんのような強者なら攻略組も喉から手を出して欲しがると思いますが」
「それはオマエも同じだろが」
「私はそもそもがホストコンピュータなので。あまりモンスターと進んで戦うことや攻略に加担することは推奨されていません」
「そのモンスターが私の管理するデータの一部に含まれていればそれはもう過度の干渉ですから。そもそも一方通行さんとこうして一緒にいることさえもグレーゾーンです」
「ですので一方通行さんが攻略に…」
「俺は別にこのゲームを楽しンでやる気はねェよ…攻略なンざ興味ねェしそもそも…」
「自分をここに送り込んだ学園都市の人間の思惑通りに行動するのが癪にさわるから…ですか?」
「・・・・・」
「確かにそれもそうかもしれませんが、私の推測が正しければ一方通行さん…あなたは…」
「あァ?」
「あなたは戦うことに躊躇を覚え…死ぬ事に、そしてそれと同じくして誰かを失い続ける中で自分だけが生き残ることに恐怖しているのではありませんk…?」
ドゴオオオオオオォォォォ!!
「ッ!?」
垣根の言葉が終わるのとほぼ同時に一方通行の拳が食べかけの朝食ごとテーブルを粉砕した
「テメエ垣根…誰に向かって口聞いてると思ってやがンだ…第一、俺なンかが死ンだところで悲しむ人間なンざ向こうの世界にゃ誰1人としていねェだろォが!!!」
「一方通行さん、それは別に恥ずかしい事ではありませんよ」
「あァ!?」
「この世界ではHPを一度失ってしまえばそれっきり。自分は痛みを感じずとも減っていくのは己の命ではなくただの数字。夢中で戦っていたら死んでいるなんていうのもあり得なくはない話でしょう」
「・・・・・」
「だからあなたは恐れているんです。いつか自分がそうやって死んでしまえば、御坂美琴さんを守れなくなる。そして、彼女は攻略組です。最前線は言うまでもなくこの世界で1番危険です。一緒に戦って守ろうとしても、守り切れなくて自分だけ生き残って彼女だけを失うのが何よりも怖い。違いますか?一方通行さん」
「・・・・・」
「・・・音波の遮断ですか…便利な物ですよね。その能力は自分の世界に閉じこもることが出来ますから。ですがその能力の使い方であなたが守れているのは、他でもないあなた自身だけです」
「・・・・・」
「あなたは誓ったんじゃないですか?自分をこの世界に送り込んだ人たちに、自分の帰りを待つ人に。その能力で、その力で、守るべき人を守ると。それなのにあなたは今では私のホストの権力としての監視にあやかっているだけで自分の役目を果たしている気になっている。そんなので…そんなのであなたはいいんですか!?一方通行さん!!」
「・・・・・」
ガタッ…
一方通行は何も言わずに席を立ち、垣根から視線を外し、リビングを離れ自室に戻ろうとした
「待ってください!一方通行さん!一方通行さん!!」
ガチャ…
(別に音の遮断なンざ最初からしてねェよ…最初から最後まで全部分かってて聞いてンだよ、クソが。…あァそうさ、テメエに言われなくたって全部自分で分かってンだよ、俺は…)
キィ…
(・・・あいつらのいる『光』の世界に全員で生きて戻ることを…諦め切れねェでいるなンてことはな…)
…バタンッ…
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「zzz……くぁ…もう夜か……」
自分の部屋に戻った後、一方通行は思うところを考え尽くした後に惰眠を貪っていた。おかげで昼食は取っていないどころか、垣根との朝の一件の後、部屋から一歩も出ずに部屋から月明かりを眺めていた。どこか寂しげに光る月明かりが一方通行の白い肌をより白く光らせる
「・・・あァ?」
「zzzzz」
自分の足元の違和感に気づいてそちらに目を向けると、自分と同じように、その白い肌を月明かりに照らされる少年がもう一人いた。その少年は椅子に座ったまま前のめりになって自分のベッドに上半身だけをうつ伏せて眠っていた
「・・・コイツ…まさかずっと俺が寝てから俺のとこにいたっつーのか?」
「zzzzz……」
「・・・チッ」
ゴツンッ!!
「zzz…痛ぁ!?」
「とっとと俺の寝床から降りろクソが」
「あ…も、申し訳ありません…つい眠くなってしまったようで…」
「ったくよォ…」
「・・・あの、一方通行さん?」
「あァン?」
「先ほどは数々の失言、申し訳ありませんでした…一方通行さんの事情であり、思いであり、考えでありながら私はそこに土足で上がり込みすぎてしまいました…申し訳ありません…」
「・・・別にンなモン最初から聞こえてねェよ」
「それでも…申し訳ありません…」
垣根は一方通行に俯きながら謝罪の意思を示していた
「・・・そォ言えばまだ今日は体を動かしてなかったなァ」
「・・・えっ?」
「気分転換に散歩すンぞ。別に夜に出歩くぐらいテメエだって慣れっこだろうが」
「は、はい!ぜひ!」
「分かったらとっとと行くぞ」
月明かりに照らされながらログハウスを出た二人は、秋の虫が鳴く幻想的な森の中へとゆっくり歩いて行った