とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

48 / 75
第46話 垣根帝督

 

「・・・クソ不味いな。作り方をさて置けば黄泉川の炊飯器料理の方が100倍マシだ」

 

「ま、まぁまぁここはまだ第1層の始まりの街ですし、そもそものご飯のお代が安いですから味は期待は出来ないですよ」

 

「オマエもオマエで中々気持ち悪ィがなァ」

 

 

一方通行はとりあえず垣根と名乗る少年と共にはじまりの街のレストランを訪れていた。一方通行にとっては実に1ヶ月ぶりの食事となる訳だが、目の前にいる見ているだけで胸糞の悪くなる青年のせいなのか元々の料理が悪いのか、ともかく1ヶ月ぶりの食事はとても満足のいくものではなかった

 

 

「え?ど、どこかお気に召さない所がございましたか?」

 

「・・・オマエ本当に『あの』垣根帝督かよ?」

 

「『あの』というのが何を指すのかにもよりますが、少なくとも私は以前の垣根帝督ではありません」

 

バァンッ!!

 

「だァからそれがどォいう意味かって聞いてンだよォ!」

 

 

一方通行が机を叩いて垣根と名乗る少年に向けて怒鳴る

 

 

「す、すいません!今すぐ分かりやすく説明致します!」

 

「・・・チッ、マジで調子狂うぜ…」

 

「まぁ私が本当は何者かを分かりやすく語る為には、最初にここまでの経緯を話した方が早いのですが、それからお話ししてもよろしいでしょうか?」

 

「もォいちいちツッコまねェからさっさと話しやがれ」

 

「では…」

 

 

そう言うと垣根と名乗る白い少年はその緑の瞳を閉じ一呼吸おく。一方通行は頬杖を突いて話を聞く態勢を取る。そして白い少年は落ち着いた声と表情で話し始めた

 

 

「私は1ヶ月前の学園都市で起こった暗部同士の抗争時、あなたに殺されました」

 

「・・・あァ」

 

「ですがあの後、私は学園都市の人間によって『演算能力を持つ脳』だけを回収され、冷蔵庫のような器具を取り付けられその意思だけが生き永らうことが出来ました」

 

「・・・・・」

 

「そして学園都市の人間は脳だけになった私をどうにかして利用出来ないかと考えたところ、既に稼働していたこのSAOのクエストの自動生成やゲームバランスを自動で制御する『カーディナルシステム』のデータの一括管理、制御、演算を私の脳に接続してその仕事の一切を私の脳でやりくりしようとしたんです」

 

「ほォ…?」

 

「気づけば私はSAOに関する電子情報の波の中にいました。全ての情報を処理していく中で私はひとまず脳だけになってしまった自分の身体を自分の未元物質で形作ろうと思いました」

 

「・・・・・」

 

「しかし、私の能力は少し特殊なんです」

 

「特殊?」

 

「はい。私の未元物質で生み出した肉体には様々な意思が宿るのです。ですので言うなれば、1ヶ月前にあなたが倒した『垣根帝督』もその当時の垣根帝督に近かったというだけで、本物の垣根帝督ではありません」

 

「・・・・・」

 

「そして今回、脳だけが残り、そこからまた蘇った肉体に宿った垣根帝督としての意思が今の私です」

 

「要するに、今のテメエも前のテメエも『垣根帝督』であってそうじゃなく、未元物質が肉体を作っていく中で宿る意思こそがその時の『垣根帝督』になる訳だ」

 

「概ねそのような理解で結構です。実は隠れているだけで本当は色々とあるものなんですよ。自分の意思というものは」

 

「見栄っ張りな自分や短気な自分、臆病な自分……そして『優しい自分』」

 

「・・・・・」

 

「誰かを殺したいという心よりも、誰かを守りたいという心が勝った」

 

「何かを壊したいと思う心よりも、何かを作りたいと思う心が勝った」

 

「戦いを進めたいと思う心よりも、戦いを止めたいと思う心が勝った」

 

「そういった意思が積み重なって肉体に宿ったのが今の私です。詰まるところ、これも私という『垣根帝督』の1つの側面であり、優しさが表面に出てきた個体とも言えます」

 

「なるほどなァ…」

 

「そして新たな肉体も作り出せましたので、カーディナルを通してSAO全体のプログラムを本格的に取り仕切るホストコンピュータのような役割を担うようになったのです」

 

「元からホスト崩れみてェなナリしてたが、まさか別の意味で本当のホストになっちまうとはなァ」

 

「あははは、耳が痛い限りです…そして私はSAOのプログラムを管理している中である日…一方通行さん、あなたを見つけたんです」

 

「・・・・・」

 

「この肉体に今の私の意思が宿ってから、私はあなたにずっと恩を返したいと思っていました」

 

「恩だァ?」

 

「はい、過去の私を消し飛ばし、今の私を生み出す最初の起因を作ったのは間違いなく一方通行さんです。だから私は、私を生まれ変わらせてくれた一方通行さんにずっと恩返しをしたいと思っていたんです」

 

「ったく、鶴の恩返しかよ…やったことは鶴を助けるンじゃなく跡形もなくぶっ殺しただけの本当に真逆の事だけどなァ…」

 

「そして私はこのSAOで一方通行さんを見つけ、いても立ってもいられなくなり、はじまりの街に飛んできた。という話です」

 

「はァ?おいおい、それじゃあホストコンピュータとしての仕事が出来ねェだろォが。それに、それこそオマエがゲームバランスを無視してンだろ」

 

「いえ、大丈夫ですよ。基本的には情報処理は私の頭の脳の中で行われているので。管理するべきデータの内容を脳にインプットしてしまえば結果的にどこにいても仕事が出来ますし、私という存在をカーディナルに認識させ、最適化すればゲームバランスの害として弾き出されることはありませんから」

 

「なるほどな」

 

「まぁ、先ほどのように能力を使用する場合は演算処理能力だけは能力使用に大半を費やしてしまうので、コンピュータ同士を繋げる為の演算は一時的に中断することになりますが、束の間の休憩みたいなものですから、大した問題にはなりません」

 

「・・・それで?オマエはこれから具体的に俺にどんな恩返しがしてェンだよ?」

 

「ええ、そもそも私が良かれと思って一方通行さんに何かを施したとしても、一方通行さんが嫌がってしまえばそれまでですので…一方通行さんが今してほしいことがあれば何なりと申して下さい!」

 

「・・・してほしいことねェ…」

 

 

垣根の提案に少し考え込む一方通行。しかしその提案を聞いた時から既に、もう自分の中で何を願うかという答えは出ていた

 

 

「なら、1つ頼みてェ事がある」

 

「はい!何でしょう!?」

 

 

一方通行は頬杖を突くのをやめ、その腕をテーブルの上に戻すと、垣根の緑の目を真っ直ぐに見て言った

 

 

「俺にこのゲームのやり方を教えろ」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。