とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第45話 白人

 

時は遡ること約1年ほど。デスゲームと化したSAOが始まってから2ヶ月が経過した頃。場所は全てのプレイヤーの出発の地である始まりの街。いつの日かゲームが終わるその日まで待ち続けると決めた人間の集まる街となっていた。そんな街のベンチの上で仰向けに寝転がりながら1人ごちるプレイヤーがいた

 

 

「・・・チッ」

 

 

そう、この白い少年。一方通行。そのユーザー名を「Accelerator」と名乗るこの少年。なぜ彼が学園都市の暗部の思惑があると知っていても、色んな人物の協力もあってここに来れたという自覚があっても、ここから動きたくても動けない理由があった

 

 

「・・・暇だァ…」

 

 

そう、彼はこのゲームのそもそもの目的、遊び方を知らなかった。というか彼の実験施設をたらい回しにされていたというこれまでの生い立ち故、ゲームという類の物にあまり触れて来なかったため、右も左も分からず、SAOにログインしてからこの1ヶ月、モンスターと戦うどころかもはやこの始まりの街から出られずにいた

 

 

「ったくよォ…人を旅行に出すってンなら現地のパンフレットぐらい先に読ませろっつゥンだよなァ…あのクソども…これじゃ最初にどこ行ってなにすりゃいいかも分かンねえじゃねェか」

 

「頭の中じゃいい加減何か行動を起こさねェとダメだと分かっちゃいるンだが…どうにもなァ…」

 

 

もはやニートが「仕事をする気はあってもする仕事がないからニートやってます」という言い訳と大差ない言葉を口にする始末。SAOにログインする前までは同じ家で過ごしていたニートの女性についてもはやとやかく言える彼ではないだろう

 

 

「唯一分かっちゃいるのは…」

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

「こんにちは」「どうも」「こんにちは」「あら、ありがとうございます」

 

 

「・・・遮断」

 

・・・・・・・・

 

 

そう彼が意識すると、始まりの街の喧騒は彼の耳には届かなくなる。音の遮断。音波のベクトルを操る演算を脳で行うことで全ての音が彼にだけ聞こえなくなり、無音の空間が完成する

 

 

(能力は使えンだよなァ…MNWの演算補助なしでよォ…ゲームなのに演算が必要ってのは面倒な話だが…まァイイや、昼寝すっかなァ…)

 

 

自身の能力であるベクトル操作で周囲の音波を全て遮断し、無音の空間を作り出した一方通行は、仰向けになっていたベンチで昼寝を始める。無音の空間とは確かに睡眠にとってはこれ以上ない好環境だが、視線は反射出来ない。もはや側から見た彼は家のないニートである。だがそんなことは気にもせず、次第に時間は過ぎ、日は暮れていく。彼はこうしてこの1ヶ月を棒に振って過ごしてきた

 

 

「zzzzzzz」

 

「zzzzzzz」

 

「zzzzzzz」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・くァァァ」

 

 

始まりの街に夕日が差し込む。その柔らかで暖かい陽射しで一方通行は少し長い昼寝から目覚め、大きく欠伸をした

 

 

(・・・あァ、そォいや音を遮断してたンだったな…クソガキを助けた以来音の遮断になンざ能力を使ってなかったからなァ…忘れちまってたぜ…)

 

「・・・解除っと」

 

「ようやくお目覚めですか?一方通行さん」

 

「・・・あァ?」

 

 

気づけば誰かが横に座っていた。しかし、まだ寝起きなせいだからか、その誰かの顔がイマイチ認識出来なかった。1ヶ月前から着替えていない衣服の袖で顔を擦ってから目を凝らして自分の隣に座っている者の顔を見る

 

 

「・・・誰だァ?お前」

 

「『未元物質』を操る学園都市第2位の超能力者、垣根帝督です」

 

「・・・死ねやァァァァァ!!!」

 

ドガアアアアアァァァァァン!!!

 

 

垣根と名乗る少年が自分の隣にいると分かった瞬間、一方通行はすぐさまベンチを離れ、そのベンチをベクトル操作により音速で蹴飛ばした。その後、右足で地面を踏みつけると地面が爆発し、垣根と名乗る少年へと破片が飛んでいく

 

 

「ちょっ!ちょっと待って下さい一方通行さん!私はあなたの敵ではありませんし危害を加えるつもりはありません!よく見て!よく見て下さい!」

 

「あァ!?よく見えてンよォ!!オマエのその背中から生えてる白い翼がなによりの証拠だろォが!!」

 

「わ、私は垣根帝督であっても以前までの垣根帝督ではありませんから!ほ、ほら顔とか色とかよく見て下さい!」

 

「・・・あァ?」

 

「ほ、ほら!翼もちゃんとしまいますから!」

 

ファサ…

 

「ど、どうですか?とりあえず以前までの私ではないと分かりましたか?」

 

「・・・アホみてェに白いな…」

 

「あなたに言われると何か少し複雑ですね」

 

「あァ!?」

 

「す、すいません!違うんです!ごめんなさい!悪気があって言ったわけではないんです!」

 

 

一方通行が垣根と名乗る少年をよく見てみると、自分が1ヶ月前に倒した垣根帝督とは似ても似つかなかった。もはや自分より白かった。顔も肌も服も何もかも全て白い。唯一の例外は緑色の輝きを宿す優しい瞳だ。まるで以前の垣根帝督から悪意を取り除いたような、そんな真っ白で純粋な少年だった

 

 

「・・・チッ、なンか調子狂うな…」

 

「まあ、ひとまず落ち着いたところでやはりお互い分からないことだらけだと思いますし、お話がてらお食事などどうですか?」

 

「あァン?この世界でも飯が食えンのか?」

 

「えっ!?ご、ご存知無かったんですか!?」

 

「あァ。何でか知らねェが腹はずっと減ってたまに腹の虫が鳴いててよォ、流石に仮想世界で餓死なンざしねェとは分かってたから特に飯は気にしなかったンだが…本当に飯なンか食えンのか?」

 

「・・・ま、まぁそこも追々お話致しましょう。とりあえず参りましょうか。ご案内します」

 

 


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