とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第43話 電撃姫とぼったくり鍛冶屋

 

「まったく…遅いわねミコトのやつ…」

 

「ごめんごめんお待たせ〜!」

 

「やーっと来たわね。あともう少し遅かったら帰ってやろうかと思ったわよ」

 

「いやー、思ったよりもギルド内五役会議が長引いちゃって…」

 

「血盟騎士団さんも大変ね〜」

 

「本当最近激務すぎて嫌になるわよ…はぁ〜肩凝った…」

 

 

そう言いながらパキパキと肩を回して骨を鳴らす純白に赤の刺繍が入った装備を身につけている彼女、御坂美琴と個人で鍛冶屋を営む彼女、リズベットの二人はアインクラッドの第57層の主街区マーテンのとあるカフェで待ち合わせていた

 

 

「ご注文は?」

 

「あ、いえ大丈夫です」

 

「失礼いたしました」

 

 

オーダーを求めたNPCの店員を美琴は片手で制した

 

 

「あ、ひっどーい。いくらNPCとはいえどそれじゃ営業妨害じゃない」

 

「そういうリズこそ、そのテーブルに出てるレモンティーこの店のメニューじゃないでしょ?」

 

「ぎくっ…」

 

「ははは、だからおあいこ様ってことよ」

 

「ま、それもそうね」

 

「・・・ねぇリズ、覚えてる?私たちが最初に出会った日のこと」

 

「え?どうしたのよ急にそんな改まって」

 

「いいから。今は少し昔話に浸りたい気分なの」

 

 

そう言って美琴は右手を振り下ろすと、自分のウインドウを呼び出しアイテムストレージから作り置きしていた紅茶をオブジェクト化させ、テーブルに置いた

 

 

「そういう気分ねぇ…不思議ね。なんだかあたしも今はミコトと思い出話をしたい気分だわ」

 

「そっか…そりゃまたタイムリーだったわね」

 

「・・・そりゃ忘れるわけないじゃない…あの日は店を構えて営業を始めた最初の日だった…」

 

「そんな不安と期待に胸躍らせた営業初日から血盟騎士団の…それも副団長様が来たんだもの。そりゃもうビックリたまげたわよ」

 

「いやいや、本当に綺麗な店構えだったから小洒落たカフェかと思って入ってみたら鍛冶屋だったってだけなのよ」

 

「そういう意味でも、あんな失礼な客アンタが初めてだったわよ」

 

「そ、その節はごめんっていつも言ってるじゃない…」

 

「ごめんで済むことか!あの時のあたしの最高傑作をあんな簡単にポッキリ折ってくれちゃって!」

 

「いやだから私の剣をぶつけただけで折れるなんて思わなくて…ごめんって言ってるじゃない…」

 

「・・・でも、おかげで新しい最高傑作が出来た」

 

「・・・そうね、私とリズににとっての愛刀…『ランベントライト』が」

 

 

そう言って美琴は自分の腰に据えた宝石のように輝く細剣に視線を落とした

 

 

「でも、第一印象がアレだったからてっきり武器の扱いは雑なんだと思って2本目を作る準備さえしかけてたのに、ソレは随分と長持ちよね〜」

 

「当たり前じゃない。そんな簡単にこんなレアな細剣折ったらそれこそリズどころかSAOプレイヤー全員と神様から恨まれるわよ」

 

「でもあの時の鍛冶は神がかってたわね〜…あんなに鍛冶クリティカルが出たのは後にも先にもあの時だけよ」

 

「素材もあんなに手に入ると思わなかったし…」

 

「本当よ。クエスト達成でしか手に入らない鉱石なのに」

 

「そのクエスト達成条件の為に要求されるフロアボスのレアドロップアイテムがもう私のアイテムストレージに入ってて一瞬でクリアとはね…」

 

「流石に面食らったわよ…あたしも興味本意で手に入ったら一度ぐらい鍛えてみたいって思っただけなのに…」

 

「ねぇそういえば知ってる?あのクエスト実は続きがあって…」

 

「え!?嘘!続きってなになに!?」

 

「実はそれがさぁ…」

 

 

こうしてリズベットと美琴はお互いの思い出話や世間話に花を咲かせ、いつの間にか時計の長針は1周半していた

 

 

「でねでね!そしたらそこで『アイツ』が……ッ!?」

 

「・・・あ〜も〜やっと出たわね。ミコトが言うその『アイツ』の名前が」

 

「あー…ごっめん…私としたことが今日集まった本題を忘れてこんな時間まで関係のない話をベラベラと…」

 

「本当よ。いつもなら話し始めてすぐに美琴の『アイツ話』になるんだから」

 

「そ、そんなことないわよ!///」

 

「いーや、あるわね」

 

「うぐっ…」

 

 

返す言葉がなくなった美琴はひとまず落ち着こうとテーブルに置かれた紅茶を口に運んだが、そんな彼女にリズベットが図ったような顔で追い討ちをかけた

 

 

「ねぇミコト、あんた上条のこと好きなんでしょ?」

 

「ぶはっ!!!」

 

「汚」

 

「ゲホッ…!ゲホッ!だ、誰があんなやつのこと…!ていうか!なんでリズの方こそアイツの名前を…!」

 

「まぁまぁそんな細かいこと気にしなくたっていいじゃない」

 

「細かくないわよ!」

 

「で、どうなの?」

 

「だから…アイツのことなんてなんとも思っt…」

 

「・・・本当に?」

 

「ッ!?」

 

 

戸惑いながら喋る美琴の言葉を遮ってリズベットは真剣な眼差しと声で美琴にそう聞いた

 

 

「なら、あたしが上やんのこと貰っても…なにも文句言わないわよね?」

 

「・・・・・ッ」

 

 

続けて真剣な表情で美琴に問いただしたリズベット。そんな彼女の言葉に答える事が出来ず、しばらく考え込んだ美琴は重苦しく口を開いた

 

 

「・・・だから言ってるでしょ…私はアイツのことなんか何とも思ってないし、リズがアイツを貰うって言っても別に私には関係のないことだし、それはリズの好きにすればいいわよ」

 

「・・・呆れた…」

 

「・・・え?」

 

ガタッ!ガシッ!

 

「表出なさいミコト。友人として、女としてここであたしと白黒はっきりつけなさい」

 

「え?ちょ、ちょっと!?」

 

 

リズベットは急に椅子から立つと、美琴の腕を乱雑に掴み、店の外へと連れ出した

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ちょ、ちょっとリズ!一体どこ目指してるのよ!?」

 

 

店から外へと出たリズベットと美琴は街はずれにある拓けた野原に来ていた

 

 

「うん、まぁここなら多少暴れても問題ないわね」

 

「へ?」

 

「美琴、あたしとデュエルしなさい」

 

「はぁ!?いきなりなんで!?」

 

「いいから早く。騙されたと思ってデュエル申請出してみなさい。早くしないと二度とウチの店の敷居跨がせないわよ」

 

「・・・まぁいいけど…」

 

 

リズベットに言われるがまま美琴は右手を振ってウインドウを開いて操作すると、リズベットにデュエル申請を送った。しかし、リズベットは送られたデュエル申請を対戦者のどちらかのHPが0になった時点で勝敗が決する「完全決着モード」で承認し、デュエル開始までの60秒のカウントダウンが始まった

 

 

「なっ!?か、完全決着モードって…!アンタ分かってんのリズ!?これ決着ついたらどっちかが死ぬのよ!?」

 

「言っとくけど『リザイン』なんてしたら縁切るから」

 

 

そう言いながらリズは愛用のメイスを装備スロットからオブジェクト化して右手に装備し、左手にバックラーを装備し、デュエル開始のために美琴から距離を取った

 

 

「い、嫌よ!初撃決着モードならまだしもなんで完全決着モードで…!」

 

「別にアンタが手加減するならそれでいいけど…あたしだって仮にもマスターメイサーよ、いつまでもそんな引け腰でいる気なら…」

 

「――死ぬわよ」

 

「!!!!!」

 

 

そう美琴に向けて言い放ったリズベットの視線は、彼女の親友である美琴でさえも見たことがないような冷たく、恐怖を感じざるを得ない視線で、アインクラッドで数々の死線を潜ってきた美琴でさえも思わず唾を飲み込んだ

 

 

[5…4…3…2…1…Start!]

 

 

「はああああああああ!!!」

 

 

デュエルスタートの合図が切った瞬間、リズベットが気合いの叫びと共にメイスを構え、美琴に向かって突進した

 

 

「ッ!!やるしか…!!」

 

「はあっ!!」

 

「くっ!!」

 

シャキィン!ガキィン!!

 

「やあっ!」

 

ガアンッ!!

 

「きゃっ!?」

 

 

突進してきたリズベットのメイスを反射的に鞘から抜いたレイピアで受け止めたが、そこから更にリズベットはメイスを押し込み、美琴は思わず後ろに仰け反った

 

 

「いい加減正直になりなさいよ美琴ッ!!」

 

「ちょっ!?あぶなっ!?」

 

ガキィン!!

 

「アンタも上条のことが好きなんでしょ!?だからあの日アンタはあたしたちが話してた時にドアをぶち壊してまで工房に入ってきた!!」

 

「ッ!?」

 

ガァンッ!!

 

 

リズベットは美琴にそう問答しつつ、メイスを振り下ろす。その攻撃には一抹の迷いもなく、本気で美琴にぶつかっていた

 

 

「どうせ自分には告白する勇気も持てなかった!だから上条のことは私に譲ろうとか!この気持ちはなかったことにしようとか思ってんでしょ!?」

 

「〜〜〜ッ!!」

 

ギィンッ!!!

 

「そんな心遣いはお門違いにも程があるわよ!告白の邪魔をした!?上等よそんなもん!同じ人を好きになったならそんくらいが普通よ!それなのにアンタは自分の気持ちに嘘ついて全部譲ろうとして!そんな生半可な気持ちなら最初っから告白の邪魔なんてしてくれてんじゃ…!!」

 

「うるっさいわねぇ!!!」

 

ガッ!キィィィン!!

 

「私だって…私だって邪魔なんてしたくなかったわよ!でもあの時の二人の会話がドア越しに聞こえてきて!アイツがまた私から離れて遠くに行っちゃうかもしれないって思ったら…体が勝手に動いてたのよ!」

 

ズバンッ!!

 

「づっ…!?」

 

 

鬼のような気迫で迫るリズベットの言葉に耐えられなくなった美琴は、振り下ろされる彼女のメイスをレイピアで押し返し激怒の言葉と共に彼女の身体を切り裂き、HPを削った

 

 

「もう嫌なのよ!アイツがこれ以上私から離れていくのは!第1層で別れた時からずっと…一緒にいたいと思ってんのよ!でもアイツは私の気持ちなんて知りもしないでいつも一人で無茶して!」

 

ガギィンッ!!

 

「私はいつも守られてばっかりで…私だって一緒にいてアイツを守ってあげたいのに!どうしても素直になれなくて!今この気持ちを素直に伝えられない自分が大っっ嫌いよ!!!」

 

ガアンッ!!

 

「だったら伝えなさいよ!百歩譲って本人に伝えられないのはまだ分かるわよ!告白するってのはそれほど勇気が必要なのは分かるわよ!でもね…同じ女のあたしにさえその気持ち隠してんじゃないわよ!そんなんだからいつまでたっても素直になれないし本人に伝えられないままなのよこのバカッ!!!」

 

キィンッ!!ガキィンッ!!

 

 

二人の打撃、そして斬撃に力が入り、押し問答もそれに比例してどんどんと激化していく。いつしか二人はデュエルであることすら忘れ、互いの気持ちを吐き出しあっていた

 

 

「だから私はリズが羨ましかったのよ!私がずっと言えなかったことを…自分の気持ちを正直に言えるリズが!あの後人知れず一人で涙だって流したわよ!いつまで経ってもアイツの隣に立つ覚悟も決められない自分の弱さに心底腹が立ったわよ!!」

 

バキィィィッ!!

 

「羨ましい!?笑わせんじゃないわよ!あたしだってね…ミコトが心底羨ましいわよ!同じ攻略組で命を預け合える二人をあの時どれだけ羨ましいと思ったか!それがどうよ…あたしが気利かせて店から出て行ってあげたくせにすることは自分の身を引いて他人の応援ってわけ!?だったらまず譲りなさいよ…上条と命を預け合って戦えるその強さと場所を譲りなさいよ!!」

 

ドゴオオオオオォォォッッッ!!!

 

「がっ!?」

 

ゴロゴロゴロ…ドサッ…

 

 

リズベット渾身の一撃が美琴のレイピアを掻い潜り、彼女の腹部に直撃した。その衝撃に美琴の体が吹っ飛び地面を二転、三転とした

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「負けて…たまるもんですか…」

 

ググッ…グググ…

 

 

地面に這いつくばっていた美琴はレイピアを杖代わりにして無理矢理立ち上がり、リズベットに向けてその切っ先を構えると、その刀身が光り輝いた

 

 

「フラッシング…」

 

ダンッ!!!

 

「ペネトレイターー!!!」

 

ズバババババババババババッッ!!!

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

 

目にも留まらぬ光速のソードスキルとともに美琴がリズベットに向かって突進していく。細剣の最上位スキルであるこのソードスキルをバックラー一つで防ぎ切れる訳もなくリズベットの身体は切り裂かれ赤く染まっていき、HPバーの色さえも赤く染まった

 

 

「そうよ…そうじゃないと…こうして言い争う意味もないわ…行くわよミコト!」

 

「えぇ!とことんぶつかって来なさい!さっきはああ言ったけど…撤回させてもらうわ!絶対誰にもアイツは譲らない!」

 

「やあああああああああああ!!!」

 

「はあああああああああああ!!!」

 

 

キンッ!キィンッ!!ギン!ギィンッ!ガンッ!ギンッ!…………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…も、無理…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…私も…無理…」

 

 

細剣とメイスのぶつかる金属音が聞こえなくなった時には既に日が沈みかけ、夕暮れが訪れていた。二人は野原に仰向けになって倒れ、そのHPはほとんど残っていなかった

 

 

「も、もういいわよね…リザイン…」

 

 

[WINNER Mikoto!]

 

 

リズベットが自ら敗北を認めるリザインを宣言すると、二人の間にデュエルの勝者を告げる表示が現れた

 

 

「ぜぇ…リザインしたら…縁切るんじゃなかったの…?」

 

「何を分かりきったことを今さら…このデュエルの意味分かってんでしょうが…それに言い出しっぺはあたしだからいいのよ…はぁ…あぁもう…こんなに汗かいたのいつぶりって感じよ…」

 

「あはは…それもそうね…ありがと…リズ…」

 

「お礼を言う前に、何かあたしに言うことがあるんじゃないかしら?」

 

「・・・そうね」

 

 

そう言いながら仰向けのままリズベットは美琴へと視線を向け、その視線と言葉の意味を理解した美琴は一呼吸置いて言った

 

 

「私は…アイツが好きよ…デュエルの時も言ったけど…誰にも譲りたくない…これから先も…アイツと同じ場所で一緒に戦って…守っていきたい」

 

「・・・そっか…それが聞ければ…もうあたしは十分よ…このデュエルも無意味じゃなかったと思えるわ…」

 

「ははは、本当にありがとね…リズ。今思ってみれば、私こんな風に友達の誰かと思いっきり言葉で喧嘩してぶつかり合ったの初めてかも…」

 

「え、そうなの?アンタの性格上そんなのしょっちゅうだと思ってたけど…」

 

「ううん、私ねリアルじゃちょっと色々あって周りから浮いてるっていうか…みんな私のこと特別視しすぎなのよ。確かに気の許せる友達はいるんだけど、こんな風に思いっきり喧嘩して言い合うわけじゃないし、ましてや殴り合うなんて以ての外だわ…」

 

「ははは、なにそれ…でもそうね…あたしもなんだかんだここまで激しく言い合って殴り合ったのは初めてかしら…」

 

「だからね…そういう意味でも、リズは私にとって本物の親友よ」

 

「そりゃどーも…よいしょっと!ほら!ミコトもいつまでも寝そべってないでいい加減立ちなさい!」

 

「ええ、ありがと…よっと…」

 

 

リズベットはまるで年寄りのようにそう言いながら膝に手を置いて立ち上がると、美琴に手を貸し立ち上がらせた

 

 

「さて…まぁ、本当に殺し合って決着つけるわけにもいかないし…どうしたもんか…」

 

「そうね…確かに私はリズのお陰もあって正直になれたけど…それでリズの気持ちが変わるわけじゃないし…」

 

「・・・じゃあ、こういうのはどう?いつか現実で再会して、その時に今度はちゃんとルールを決めた何かで勝負して決着つけましょう!」

 

「現実で…か…うん、いいわよ。私もリズとは現実であってみたいし、それにこの世界だけで決着つけるってのも癪だしね」

 

「じゃあ、現実で会えるようにあたしの名前教えとくわね。あたしの名前は篠崎里香。歳は16…現実なら今ごろ高校生になってたとこね」

 

「篠崎里香…うん、いい名前ね。私の名前は御坂美琴。歳は15。まだ中3だから私はリズの後輩ね」

 

「え、ええっ!?御坂美琴って…アバターネームと名前変わんないじゃない!?てか年下!?てっきりタメかと思ってたのに!?」

 

「ははは!まぁいいのよ細かいことは。気を使う必要なんてないし、なにしろ私だって年上のリズに対しても敬語使うどころかさっきのデュエルじゃ暴言もいいとこだったじゃない」

 

「それもそうね…まぁ…このゲームが終わったらきちんと現実で再会して顔合わせしましょ?その為にも…これからも上条のこと、頼んだわよ。あたしが作ったそのレイピアで…これからもアイツを守ってあげて」

 

「ええ!リズの方こそ、これからも私の装備のメンテナンスよろしく!」

 

「もちろん!任しときなさい!」

 

 

ギュッ!

 

 

こうして真名を明かしあった二人は互いの健闘を祈り、これからより強固なものとなっていく友情を誓って握手を交わした。この仮想世界でも自らの恋心に向き合い、懸命に生きた二人の少女の物語はまだ始まったばかりである

 

 


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