あれからドラゴンの巣を抜けた2人は無事に生還し、リズベット武具店に戻り彼女の工房で手に入れた金属で盾のオーダーメイドを頼んでいた
「えっと、円形の盾でいいのよね?」
「ああ、飛びっきりのを頼むぜ?」
「任せなさい!」
釜に入れられ高温で熱せられた金属は赤く発光しており、形が変わりやすくなっている。ここからが彼女、リズベットの本当の仕事である
「ふぅ〜〜〜〜………ッ!!」
キィン!キィン!キィンッ!
熱せられた金属に向けて何度もリズベットの鍛治用ハンマーが振り下ろされる。金属はみるみる内に潰れていき、段々と形が変わっていく
(あの時のあたしの気持ちはきっと…錯覚なんかじゃない!満足の行く物が出来上がったら…気持ちを告白しよう!)
そして彼女の最後の鉄槌が金属を叩く。すると金属はみるみる内にその形を変えて行き、円の形をしたエメラルドのような鮮やかに緑色で光る盾が完成した
「おおおおおお〜!!!」
「ふぃ〜、一丁上がり。どう?装備して確かめてみたら?」
「いや、そんな一々確認なんてしなくても大丈夫さ。この盾は一目見ただけで分かる。リズの魂が篭ってる。本当にいい盾だ。大切に使わせてもらうよ」
「そっか…うん!ありがと!」
そう言って上条は出来て間もない盾を装備してその背に背負った
「じゃあこの盾の代金を払うよ。いくらだ?まぁ結果的にオーダーメイドなっちまったから高値は避けられないだろうけど…リズの言い値で払うよ」
「あっ…えっと…お金は…いらない」
「えっ?」
「その代わり…あたしを…上やんの専属スミスにしてほしいの!」
「せ、専属…?それってどういう…?」
何かを言いたげに両手を重ねて頬を赤く染めモジモジしていたリズベットだったが、決意が固まったのか、モジモジするのをやめ、上条に向けて言い放った
「ふぃ!フィールドから戻ったら!毎日ここに来て装備のメンテをさせて!毎日!これからずっと!///」
「・・・!?り、リズ…!そ、それはつまり…」
「上やん…あたし…あたしね…!」
リズベットが上条に向けて手を伸ばし、彼の右手を掴もうとする。すると、後少しでその手が触れるというところで上条の口が開いた
「それはつまり、俺に『居候』になれということですか?」
「・・・は?」
「いや〜!それはバカにしすぎだぜリズー。流石に上やんさんだって宿を転々とする流れ者なんてせずに、帰るべきホームの1つぐらい構えてますよ〜」
「は?」
「いや〜、何を言い出すかと思えば…『手を握って欲しい』って言ったときから寂しがり屋だとは分かってはいたけど、まさか一人暮らしの寂しさを紛らわす為と安定した金ヅルを捕まえる為に居候を頼まれるとは…それだったら流石に上条さんだって盾の代金をきっちり払いますよ〜」
「は、はぁぁぁぁぁぁ!!?ちっ!違うわよ!そういう意味で言ったんじゃないわよ!!///」
「え、違うの?」
「っていうか察しなさいよ!本当の本当に鈍いんだからアンタはーー!!」
「に、鈍いって…だから一体何の話なんだよリズベット!?」
「そ、それはつまり…///わ、わ…私とけっこ…けっこ…///」
「こけこっこー?鶏でも飼いたいのか?」
「違うわ!!あーもう分かったわよ!はっきり言うわよ!上条!今すぐそこに直れ!」
「は、はひ!?」
「/////」
「あ、あの…リズベットさん?」
「いい?一回しか言わないからよく聞きなさい?」
「わ、分かったでございますのことよ」
「あのね上条…あたしと…!結こn…!!」
<だめえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!
バゴオォォオオォォォォン!!!!!
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
リズベットが何かを言いかけた途端、御坂美琴が絶叫しながら工房のドアを破壊して飛び込んできた。あまりの出来事にその現場には事実を掴めない者しかおらず、長い沈黙がその場を支配した
「「「・・・・・」」」
「え、え〜っと…これはですね…や、やっほ〜リズ久しぶり〜…元気にしてた〜…?」
「え?み…ミコト?ひ、久しぶり〜?え、どゆこと?」
「あ、あの?美琴さん?こ、こんなところで何をしてるんでせうか?」
「あ、アンタこそこんなところで何してんのよ!な、何か急に(リズベットが)プロポーズしてるし///!!」
「は、はああああああ!?してねーよ!(俺が)いつプロポーズなんかしてたんだよ!?」
「してたわよ!///」
「してねーよ!!」
(あ、あれ?ひょっとしてあたし置いていかれてる…?)
「ってか何よアンタ!エギルさんのとこで盾買うんじゃなかったの!?なんでリズの店にいんのよ!?」
「いやそれはエギルの店に行った時にあんまりいい盾がなくてエギルに紹介されてだな…」
「言ってくれりゃ私もリズの店紹介したし一緒に行ってあげてたわよ!」
「お前がリズと知り合いだったなんて知らねーよ!てか!だったら盾無くした時に一緒に教えろっての!!」
「あ、あれ?ひょっとして2人とも知り合いなの…?」
今まで話題の蚊帳の外にいたリズベットがおそるおそる2人に尋ねた
「ん?あ、ああ。攻略組なんだ俺たち」
「!!!!!」
(同じ攻略組の…仲間…命を預け合う仲間…それにさっきのミコトの…あの反応…)
「・・・そっか…そういうことね…」
全てを察したリズベットはその瞳に涙を浮かべていたが、それに自分で気づくと素早く拭き取って俯いていた顔を上げた
「・・・おい、リズ?」
「もぉー!それならそうと早く言いなさいよー!2人ともー!ちょっと聞いてよミコトー!コイツってばいきなりあたしの作った1番の盾を拳でぶっ壊したんだから!もう失礼以外の何者でもなかったのよー!?」
そういうリズベットの声はやはり少し震えていて、話している内に堪えていた涙も次から次へと流れ出してきた
「!!!ちょ、ちょっ…リズ…アンタ…分かって…」
「ご、ごめん2人とも!仕入れの約束がある人が来てたの忘れてた!ちょっと出てくるから留守番よろしく!」
「え!?お、おいリズ!!」
上条の止める声を無視しながらも、決して2人にその表情は見せずに先ほど美琴が破壊した工房の出口から外に向かって飛び出した
「おいおいリズのやつ…一体どうしたって言うんだよ…」
「・・・アンタ」
「ん?どうした?」
「私は後でちゃんとリズと話すから、今はアンタがリズの所に行ってあげて」
「?え、いやだって今リズは仕入れに行くって…」
「それは嘘よ」
「え!?」
「今きっとリズはどこかで1人で泣いてる…その原因はきっと大半が私にある。でもほんの一端はアンタにもあるの。だから、今はアンタがリズのそばにいてあげて…お願い」
「え?それってどういう…」
「いいから早く行けッ!!」
「は、はいいいいぃぃぃ!?」
たたたたたたたた!!
美琴に一喝されると上条はリズの後を追うように破壊されたドアから工房の外に出た。その後、美琴は工房の階段に腰掛け涙を流し始めた
ヒック…グスッ…エグッ…
「ごめんね…ごめんねリズ…私は…私は泣いていい権利なんてない…こんなの…100%私が悪いって分かってる…アイツにも少しは原因があるって言ったけど…そんなことないって分かってる…」
美琴はうずくまりながら1人で語り始める。その声は誰に届くでもなく、誰に聞かれるでもなく、ただひたすらに寂しく、虚しく、彼女の親友の全てが詰まっている工房の中に響いていた
「リズはすごいよ…私がずっと言えなかったこと…あんな簡単に言えて…もうあの時点で私の負けなんてことは分かってる…あんな所で自分の想いだけ優先して止めに入ることが最低だなんて…分かってる…でも…でも…」
「・・・転移。ノルフレト」
(せめて私の諦めが付くまでは…同じ想いの舞台に立たせて…)
シュン!………
自分の中の罪悪感と自らの内に秘める淡い感情に想いを馳せながら、御坂美琴は工房からその姿を消した
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「・・・リズ、探したぞ」
「・・・ダメだよ、今来ちゃ」
夕暮れに染まる街の中、上条当麻とリズベットの2人は、小川に架かる橋の手すりを隔てて再会していた
「もうちょっとで…いつもの元気なリズベットに戻れたのに…」
「リズ……」
「どうしてここが分かったの?」
「必死に走り回ったんだ、街中。そしたらやっとのことで見つけた」
「もう…本当にバカなんだからアンタ…どこまでいっても…」
「そりゃどーも…」
「・・・ごめん。あたしは大丈夫だから。慣れない冒険で心がビックリしただけだと思う…だからあたしが言ったこと…全部忘れて」
そう言うとリズベットは、小川に流れる水に写った自分の今のごちゃまぜな感情が表れてしまっていた表情の顔を隠すように、そして流れる涙を必死に抑え込むように、手で顔を隠した
「・・・忘れねぇよ。約束したろ、絶対に現実で会いに行くって」
「・・・え?」
「俺、絶対にこのゲーム終わらせて、お前に会いに行くって約束したろ。だからその為に協力してくれよ。確かにそりゃ毎日は行けないと思う。でも、これからたまにはリズの店に顔を出すからさ、ちゃんと生きているぞって意味も含めて。だから、俺が1日でも早くゲームをクリアする為に、俺の装備の面倒、見てくれよ」
そう言って上条はリズベットに優しく微笑んだ
(もう、本当にコイツは…分かって言ってんのか分かってないのか……ごめんねミコト。これはあたしの…あたしにしか言えない、最後のワガママだから)
「・・・っもう!仕方ないわね!じゃあ遠慮なくいらっしゃい!いきなり居候してとかワガママ言い出したあたしも悪かったわ!」
「・・・ああ、ありがとう」
「うん。それで、なんだけどね上やん…じゃあ、私の最後のワガママに付き合ってくれる?」
「ん?」
「アンタの…あの剣の代わりをあたしに作らせて」
「ええっ!?いやそれは悪いぜ!それにあんな剣ほとんど飾りで役になんて立たなかったし!」
「でも、今回あたしと上やん自身を最後にあの状況から助けたのは、あの剣だった」
「そ、そりゃそうだが…」
「だからね、あたしに作らせて欲しいの。あの剣の代わりを。また同じように背中の飾りになっても構わない。またいつかどこかであたしの作った剣が上やんの背中を守ってくれて、上やんのそばに置いてくれてるなら、それでいいの。言ってみればお守りみたいなもんよ!お守り!」
「そうか…じゃあお願いするよ」
「任せなさい!じゃ!行くわよ!」
そう言ってリズベットは立ち上がり、上条はそれを見ると安心したようにリズベットの店に向けて歩き出した。その背中を追って歩き出そうとしたリズベットの元に一通のメッセージが届いた
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[Message ]
今日はごめんねリズ。後日、日を改めてまた詳しく話しましょう?
リズは私にとって大切な友達だから、このままもやもやにして終わらせたくないの
Mikoto
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「・・・ふふ、全く素直じゃないわね…」
「?どうしたリズ?何かあったか?」
「ううん!何でもない!」
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[Message]
分かったわ。なら後日、改めて話し合いましょ!私にとってもミコトは大切な友達なんだから!
だから今はこれだけ言っておくわ。女として!正々堂々と勝負よ!
Lisbeth
P.S.
でも、とりあえずドアの修理代はちゃんともらうわよ?
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キィンッ!キィン!キィン!
工房へと戻った上条とリズベット。リズベットは早速工房へ戻るなりクリスタライト・インゴットを窯に入れ、加工できる温度まで熱した後、その金属に向けてハンマーを何度も振り下ろしていた。そして…
「・・・出来たわ」
「おおおおおおお〜〜」
リズベットが打ち続けた金属は片手剣に変わり、その剣は先ほど上条に作った盾と同じく、エメラルドグリーンに輝く刀身をしていた
「言っとくけど、アンタがこの前まで持ってたやつとはもはや比にすらならないわよ?」
「ははは、分かってるさ。ありがとう、大切にするよ」
そう言うと上条は剣を新しい鞘に収め、自分の背中と盾の間に差した
「まいど!これからも!リズベット武具店をよろしく!」
「ああ、世話になったな!」
「これからもお世話になるんでしょうがっ!」
「ああ、それじゃ行ってきます。リズ」
「ええ!行ってらっしゃい!上やん!」
暖かい夕暮れの陽射しがドアから出て行く彼を照らす。そんな彼を見るリズベットの頬はまるで夕焼けのように暖かく、赤く染まっていた