「 ・・・ぅ…ぅん…」
「・・・生きてたか…ははは、不幸中の幸いってヤツかな…」
「・・・うん、生きてた」
「とりあえず回復だな…これ飲んどけよ。一応だけど」
「あ、ありがと…」
ゴクッゴクゴクッ
上条が自分の回復アイテムをリズベットにも渡すと2人でそれを飲み、穴に落ちた衝撃で減ったHPを回復した
「・・・あの、ありがと。助けてくれて」
「ップハァ…礼を言うのはまだ早いと思いますよー?さて、落ちたはいいがめちゃめちゃ深いな…どうやって抜け出したもんか…」
「え?簡単よ。テレポートすればいいじゃない」
「あ、なるほど」
そう言ってリズベットは自分のベルトポーチから転移結晶を取り出した
「転移!リンダース!」
・・・シーン
「あ、あれ…?」
「よりにもよって結晶無効化エリアか…不幸だ…」
「だ、大丈夫よ!転移出来ないってことはどこかに自力で脱出する為の方法があるはずよ!」
「落ちた人が100%死ぬって想定した罠だったら?」
「な、なるほど。それなら確かに脱出は無理だわ…って!アンタね!こう言う時はもう少し元気づけなさいよ!」
「上やんさんは普段そうした不幸の中心で生きている訳ですから、もはやそういう理不尽も慣れっこなんですのことよ?ま、確かに方法が無いわけじゃない」
「えっ!?ほ、本当!?なーんだ!そういうことは早く言いなさいよ!」
「壁を走って登るんだ」
「・・・バカ?」
「バカかどうか試してみましょうかぁ?ふんっ!」
シュルルルルル…ザクッ!
上条が自分の左手に装備した盾を上の崖に向かって投げると、穴の底から地上までの中間辺りに盾が突き刺さった
「わあ〜〜、よくあんな高いとこまで投げられるわね…」
「投げるだけなら誰だって出来ますよ…問題はとりあえずあの盾までたどり着けるかどうか…あの盾を中継点にして盾を足場にしてもう一回ジャンプして…まぁ行けるか。盾までたどり着けば上やんさんの勝ち…だっ!!」
バビュン!タタタタッ!!
上条は不安定な雪の足場で思いっきり踏み切ると、陸上選手バリの大ジャンプで壁に向かって飛ぶと、垂直な壁を走って登っていった
「が、頑張って!後少しよ!」
「おっしゃあ!いただき!」
ツルッ!
「・・・え?」
ヒュウウウウゥゥゥ…
「嘘だろおおおぉぉぉ!?あーもう!不幸だああああa…」
ドボーーーーーン!!
「うわっ!?ちょっ!?だ、大丈夫!?うわぁ…綺麗な人間スタンプだこと…」
穴の底には雪がクッションとなっているため大事には至らなかったが、そこにはくっきりと上条の身体で雪が押し退けられた跡が残っていた。ツンツン頭も健在である
「いっててて、ありゃダメだぁ…壁が氷でツルツルすぎてあの盾までもたどり着けねぇや…ってことはあの盾も事実上お陀仏か…不幸だ…」
「まぁしょうがないわね、ここで誰かの救助が来るのを待ちましょ?どうせこのゲームじゃ餓死はしないんだし」
「そうだな…今はそれしかないか…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結局2人は現状を打破する方法が思いつかず誰かの救助を待っている内に日は完全に沈み、やがて夜が訪れた。2人は暗闇と寒さから身を守る為にに焚き火を起こし、そのすぐそばに寝袋を出しその寝袋に潜り込んで睡眠を取ろうとしていた
「なんか…普通だったらありえないよ…こんなところで、今日初めて会った人と2人きりで並んで寝るなんて…しかも走って壁登るとか言い出しちゃうし…本当、バカなヤツだね」
「うるせぇなぁ…アレはちゃんと条件を満たせば成功できるっていう見通しがあってやったことであってだな…」
「それでも…バカすぎ…ふふっ」
「はいはいそうですか…」
「・・・ねぇ、上やん」
「?なんだよリズ、急に改まって」
「・・・あたしたち、このまま死んじゃうのかな…?」
リズベットの声のトーンが下がり、重苦しい言葉をその口から吐き出す
「・・・どうしてそう思うんだよ」
「だってこんなとこ…そうそう人なんか来ないし、来たとしても気づかないよ…あたし達はこの穴から外は見えても、穴に落ちた時はこの穴の底なんて見えなかった。そのくらい暗い底にいるんだよあたし達…他の人が見つけられるハズないよ…」
「・・・・・」
「そしたらあたしたち…こんな穴の中で黙ってこの世界が終わるのを待ってるしかないんだよ?もし誰も100層にたどり着けなかったら、私たちはずっと一生このまま…もしそうなったらあたしだって上やんだって…自殺とか考える日が来るよ…」
「・・・・・」
「・・・ごめんね…ごめんね上やん…あたしを助けたばっかりにこんな事になって…」
自責の念に堪えられなくなったリズベットの瞳から大粒の涙が溢れる。次から次へとポロポロ流れる彼女の涙を寝袋から出てきた上条の手が拭き取った
「?かみ、やん…?」
「死にゃあしねぇよ。リズも俺も」
「でも…だって…」
「でももだってもクソもあるか。絶対に希望はある。それにこのゲームもいつか必ず終わらせる。何があってもだ。リズみたいな女の子とはまたいつか現実でも会ってみたいしな」
「・・・ふふっ、バカだね本当。そんな奴…アンタの他にいないわよ」
「・・・そっか」
そう言って上条はリズに向かって優しく微笑んだ
「・・・ねぇ…手握って」
「え?」
その言葉に反応し、リズの方を向く上条。自分の視線を下にやると、リズの片手が寝袋から差し出されていた
「・・・まったく、寂しがり屋で手間のかかるお姫様だな」
・・・ギュッ
「・・・あったかい」
「え?」
「あたしも上やんも、仮想世界のデータなのに…」
「リズ…」
「・・・篠崎里香」
「え?」
「あたしの…本当の名前…現実でも会ってくれるんでしょ?だったらもう一度…現実で出会って…またこうしてあたしの手を握ってね?」
「・・・あぁ約束する。俺の本当の名前は上条当麻だ」
「・・・ふふっ、いい名前だね。それじゃあおやすみ…上条」
「あぁ、おやすみ。篠崎」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んんんん〜っはぁ〜朝かぁ〜…」
ザクッザクッザクッ…
寝ぼけた身体を覚ます為に伸びをするリズベット。ふと横に目をやると一心不乱に縦穴の底に積もった雪を掘り起こしている上条がいた
「?こんな朝っぱらから穴掘りなんて一体どういう風の吹き回し?」
「ん?あぁほら、見てみろよ」
そう言って上条は降り積もった雪の中から掘り出した蒼く透明な水晶のようなものをリズベットに見せる。差し出された水晶をリズが指でタッチすると、彼女の目の前にポップアップウィンドウが表示された
[クリスタライト・インゴット]
「!!これって…!」
「ああ、多分俺たちが探してたお目当の金属なんだろうな…上がダメなら下になんかないかと思って掘ってみたら見つけたんだよ。ほら、こんなに」
そう言うと上条は自分のアイテムストレージをリズに見せる
「うわっ!?5個も!?こんなんだったらドロップなんて狙うのもバカらしくなってくるわね…でも一体なんで?」
「あー、多分だがここはこの縦穴はドラゴンの巣なんだよ。ドラゴンは水晶を餌にして、この金属を腹の中で精製して外に出す。ちょっと考えれば分かる簡単な話だ…多分ドロップアイテムでもないんだろ…まぁ一概には言えないけど…」
「・・・それってつまり」
「ああ、要するにコイツはあのドラゴンのウ○コだ」
「・・・アンタそれ持ってんのよ?」
「ああ、それに気づいたのは3個目採った時ぐらいだ。つまり、もう触れていた。手遅れだ。不幸だ」
「・・・お粗末さま」
「言うな。悲しくなる。てか言っとくけどこのウ○コ加工するのお前だからな?」
「だったらその加工したウ○コの盾で身を守るのアンタだからね?」
「た、たしかに…てか今さらだけどウ○コウ○コ言うなよ!俺もだけどさぁ!」
「・・・でもちょっと待って。ここドラゴンの巣だって言ったわよね?確かドラゴンは夜行性…ってことはもうそろそろ…」
<ギャオオオオオオオオ!!!
白竜が自分の巣を荒らす侵入者に対する威嚇の意味を含む咆哮と共に自分の巣へと帰還してきた
「き、来たぁぁぁぁぁ!!」
「!!いいや違う!来てくれたのさ!」
「は、はぁ!?」
「アレがそもそもの脱出の方法なんだよ!しっかり掴まっとけよ!」
「えっ!?わっ!?ちょっと!?」
上条は戸惑うリズベットの事などお構いなしに彼女の腰のあたりに手をかけて彼女を担ぎ上げた
「ギャオオオオオオオオ!!」
「どりゃああああああ!!」
周囲の壁を垂直に駆け登り、ドラゴンの背中に回ると、上条は壁を蹴ってドラゴンの背中に飛び乗った
「クソッ!頼むから外に出るまで持ち堪えてくれよ!?」
キンッ!ザクッッ!!!!!
第1層のあの日から、一度としてその背負った鞘から抜いたことのない剣を抜き放ち、白竜の背中に思い切り突き刺す。すると白竜は呻き声と共にもう一度巣の外へと飛び出していく。上条はそのスピードに振り落とされまいと突き刺した剣をしっかりと握った
「リズ!しっかり俺に掴まって離れるなよ!?」
「う、うん!!」
ビュオオオオオオオ!!
「!!やったぞ!外だ!」
バキィィィィン!!!
「「うわあああああああ!?」」
2人は白竜と共に巣の中から外へと飛び出す。遥か上空へと到達した瞬間に上条の武器の耐久値が0になり砕け散った。そして2人は白竜の背中から振り落とされ、まだ朝焼けの眩しい寒空へと投げ出された
「ねーーー!!上条ーーー!!あたしねー!!」
「あーー!?何ーー!?」
「アンタのこと!好きーーー!!」
「なんだってーー!?風で声が飛ばされて聞こえねーんだよー!!」
ギュッ!
すると不意に風で煽られる上条の身体をリズベットが空中で抱き締めた
「お、おおおお///!?」
「えへへへ///何でもなーい!!///」