「えっと…『リズベット武具店』…ここでいいんだよな?」
上条当麻は今、昨日のエギルからの紹介を受け47層の主街区リンダースをしばらく歩きいくつもの家が立ち並ぶ中、少しの緑に囲まれたどこか味わいのある佇まいの武具屋に辿り着いていた
「な、なんか予めプレイヤーがやってる店って分かってて入るってのは緊張するな…元々よく行く店のほとんがNPCだからな…まぁここでウジウジしてもしょうがねぇし行くか!」
そう言って上条はドアノブに手をかけ入り口のドアを引いた
カランコロンカラン!
「・・・あれ?誰もいねーのか?すいませーん、昨日エギルの紹介で伺った上やんですけどー?」
<はいはーい!ただいまー!
「お、なんだ工房にいたのか。仕事熱心だな、感心感心」
キィ!バタン!
「リズベット武具店へようこそ!」
そう店の奥の扉から元気な声と共に出て来たのは、およそ工房の服とは思えない服装に、ピンク色の髪と頬のそばかすが特徴的でエギルの言う通り、歳は上条と変わらないくらいの1人の女の子だった
「あ、えっと…昨日エギルの紹介があって来た上やんって者なんすけど…」
「あ、分かりました!ほんの少々お待ち下さい!えーっと…」
そう言うとリズベットは自分のメニューを開いてウインドウを操作しメモ欄を確認し始めた
(何だエギルのやつ、じゃじゃ馬だから気をつけろなんて言ってたけど、案外接客もちゃんと出来る良い女の子じゃないか)
「あっ!お待たせしました!上やんさんですね!はい!確かに昨日エギルからお話は伺っております!今日は何をご希望ですか?」
「えーっと、とりあえず盾が欲しいんだけど」
「!?た、盾ですか…?」
「?は、はい盾が…」
上条が盾を求めていると聞くと、リズベットは何やら頬をひくつかせ怪訝そうな顔をする
(盾ねぇ…武器の方がよく売れるし値段も良いから最近盾はあんまり鍛えてないのよねぇ…)
「えっと…盾の形はどう言ったものをご所望でしょうか?」
(ってか改めてよく見たら何この人の装備!?ほぼ初期の段階の片手剣じゃない!!しかも全身真っ黒!なんかヤバイ人掴まされたわね…エギルのやつ覚えときなさい…まぁアイツも違う意味で黒いけど…肌とか)
「円形のやつがあればいいんだけど…あ、でもバックラーは性に合わねぇんだ。金には困ってないから円形の盾の中で一番性能良いヤツを頼むよ」
(し、しかも円形…あたしが最後に作ったヤツNPCの性能超えてたかしら…)
「わ、分かりました。少々お待ちを…」
そう言ってリズベットは店の奥の工房へと続く扉に入っていった
「・・・にしても色んな武器が置いてあるんだなぁ…片手剣に両手剣、ダガー、片手斧、両手斧、メイス、槍もか…はぁ〜、こういう武器見てると久々に使いたくなってくるぜ…まぁどうせ右手の方が強いから使っても仕方ねぇんだけど…」
店に展示されている様々な武器に見惚れる上条。そんな武器の数々を見ているだけで、片手剣を装備しソードスキルを使いこなしていた頃の自分を思い出してしまい、あの頃に戻りたくなってしまう
「お待たせしましたー!」
「お?」
そんな事を考えていると、リズベットが工房から一枚の白い円形の盾を抱えて戻って来た
「これなんかどうです?値段を気にしなければウチで作った物の中では最高の耐久値の盾ですが」
リズベットが上条に盾を手渡し、その手渡された盾の重さや性能を上条が確認する
「うーん、こんなもんか…ちょっとイマイチだな…前のよりも軽いし若干耐久値も防御力も低いし…」
(ですよね〜。まぁそれで当然だし仕方ないんだけど…まぁ盾を鍛えてる店は他にもあるし、今回は諦めて帰ってもらって…)
「いやー、エギルが良い店だって言うから結構期待してたんだけどな〜…無駄足だったか…」
「・・・は?」
かっちーん☆
「はああああああ!?何ですって!?よーし良いわよそこまで言うんだったら試してみなさいよ!アンタの拳で殴るでも剣で叩き斬るでも何でもいいわよ!その盾に思いっきり一発かましてみなさいよ!」
「え?いややめといた方がいいと思うぞ?」
「ふーーーん?怖いのね?あたしの作った盾を散々見くびっておいた後でその性能を思い知るのが!」
「いやお前が良いなら良いけど…本当にどうなっても知らねえからな?」
「そっちこそ!やった後で後悔するんじゃないわよ!?そんな初期の剣じゃビクともしないんだからね!?それでまんまとアンタの剣がポッキリ折れてもあたしは知らないんだk…」
ベゴンッッ!!!!!
「」
上条の右拳が盾に向けて振り下ろされると、盾の耐久値が上条の右手に劣っていた為、音を立てて凹んだ
「な?だから言っただろ?どうなっても知らねえからなっt…」
「ちょっと!?どーーしてくれんのよこれウチの商品なのよ!?こんなに凹むなんて聞いてないわよ!?」
「えええええええ!?殴っていいって言ったのはそっちだろ!?」
「凹ませて良いとは言ってないわよ!!」
「んな横暴な!?」
「どっちがよ!!」
(なるほどな…エギルが言ってたじゃじゃ馬ってのはこういう所のこと言ってたのか)
ガシャアアアアァァァン!!
2人がそんな風に口論していると、その横で上条が凹ませた盾の耐久値が0になり崩れ去った
「ぁぁぁぁぁ…壊れちゃった…」
「な、なんつーかごめんな。ここまで簡単に凹むとは思わなくて…」
「それはつまりあたしの鍛えた盾が思ってたよりも弱っちかったってわけ!?」
「あー、まぁそうとも言う…」
リズベットが上条の服の襟に掴みかかり強い口調で言い放つ。それに対して上条は目を逸らして気まずそうに言い返す
「あぁそう!?言っとくけど!材料さえあればアンタの殴打なんか問題にならないくらいの盾、いっくらでも鍛えられるんだからね!!」
「へぇ〜、俺のコイツがね…ソイツぁ是非見てみたいもんだ…」
自分の右手を少し見てから、まるで煽るようにリズベットの言葉が「信じられない」と語っているような態度で喋る。その上条の言葉と態度に羞恥と怒りを覚えたリズベットの顔は、見る見るうちに赤くなり我慢しきれずに言った
「そこまで言うんだったらこっから先全部付き合ってもらうわよ!?」
「全部?」
「そう!金属取るところからね!」
「あー…それはなんだ、アレか?鉱石採掘系のクエストか?」
「ふん!そんな生半可なヤツじゃ済まさないわよ!55層にある西の山に水晶を餌にするドラゴンがいるらしいの!ソイツがレアな金属を体内に溜め込んでるってもっぱら噂になってんだから!」
「ってなると…討伐系クエストか…それもボスモンスター級の…しかも55層でドラゴンか…なら俺1人で行くよ。付いて来て足手まといになられても困るしな」
「ふん!あんまり甘く見ないでくれる?あたしこれでも『マスターメイサー』なのよ?」
「って言ってもなぁ…お前はずっと素材取りに行く以外はこの鍛冶屋にいるわけだろ?だったら戦いの感覚も鈍ってるだろうし、やっぱり俺が…」
「そのドラゴンから金属を入手するには『マスタースミス』が必要かもしれないらしいわよ?それでも1人で行くつもり?」
リズベットが「私がいなきゃ何も出来ないでしょ?」とでも言いたげなドヤ顔で上条の方を見る
「・・・しょうがねぇなあ、危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ?」
「バカにしすぎだからぁ!」
「じゃあまぁとりあえず行くか、盾が出来るまでの間よろしく」
「ふんっ!よろしく上やん!」
「はいはい、リズベット様」