とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第38話 生還

 

「・・・ここ……は…?」

 

「!!上やんさん!?上やんさん!ミコトさん!上やんさんが目を覚ましました!!」

 

(ヨルコさんの声…?ああ、そっかここヨルコさんの泊まってた宿か…道理で見たことあると思った…てかそうだったな…そういや俺らヨルコさん達の圏内事件追ってたんだった…はは、一方通行との激闘がすごすぎてすっかり忘れt…)

 

ガチャ!

 

「もう!バカッ!!」

 

ギュッ!

 

「ぐえっ!?」

 

「バカ!バカバカバカ!!本当に…本当に死んじゃったかと思ったんだからぁ!!」

 

「ぐ、苦じぃ…じぬ…」

 

「あ、あのー?ミコトさん?上やんさん本当に絞め落とされそうですけど…?」

 

「はっ!?///な、なななにゃんでもないんです!なんでも!///」

 

「ゲホッ!げほっ!おえっ!あー死んだかと思った…」

 

「上やんさん、あなた3日間寝たきりだったんですよ?」

 

「・・・え?3日も?いやそんなバカな…」

 

「嘘だと思うんなら自分のメニュー開いて日付け見てみなさいよ」

 

「・・・マジかよ!?本当にあの日から3日も経ってやがる!?」

 

「だから言ってんでしょうが。あの原子崩しの攻撃をなんとか電撃で弾き飛ばしながらアンタの体を私と一緒に転移させたんだから。もう生きた心地なんてしなかったわよ」

 

「・・・原子崩し?電撃?」

 

「!!あーいやいや!なんでも!なんでもないんですヨルコさん!こっち側の話ですから!」

 

「は、はあ…」

 

「でも本当にアンタ、HP回復させてもちっとも起きてこなかったんだから。エギルさんもクラインさんも話聞いただけですっ飛んで来て心配してたわよ?後でお礼言っときなさい」

 

「そっか…やっぱいいヤツらだなあいつら。エギルの店には後でちゃんと儲け出してやらねぇとな。クラインは…まあ狩りでも手伝ってやるか」

 

「改めまして上やんさん。この度は本当にありがとうございました。ミコトさんにお聞きしました。何やら大変なことに巻き込んでしまったようで、申し訳ございませんでした」

 

「ああ、別に気にしないで下さい。特にあんまり問題はありませんでしたから。それでえーっと…3日も経ったからどんな事件か忘れちまってんな…えーっと事件の黒幕…そうだ!『グリルチキン』さん!」

 

「グリムロックよ…『グリ』しか合ってないじゃない…グリムロックさんはヨルコさん達がフレンド登録したまんまだったからそこから足取りを掴んで私の部下の血盟騎士団の人たちがとりあえず捕まえたわ」

 

「やはりあの場にラフィンコフィンを仕向けたのもグリムロックだったみたいです。グリセルダさん殺害の時からパイプがあったみたいで…」

 

「殺害の動機についても同情なんて出来たもんじゃないわ。指輪やお金なんてそもそも関係なかったみたい」

 

「元々二人はゲームだけでなく、現実世界でも夫婦だったみたいなんです。でもグリセルダさんはこのゲームの中で変わってしまった。グリムロックさんにとっての理想の人ではなくなってしまった」

 

「それが許せなくて、だったらいっそ殺してしまって自分の思い出の中にあの時のままのグリセルダさんを封じ込めてしまいたいと願って今回の犯行に及んだらしいわ。まぁそんなの、グリムロックさんのただの所有欲でしかないしそんなの愛情の形じゃないと私は思うけどね」

 

「そうか…そうだったのか…」

 

「グリムロックの処遇については、シュミットとカインズが黄金リンゴのメンバーと会わせて、話し合ってから決めることにしたようです。これから先は私たちが決めます。重ねてのお礼になりますが…上やんさん、ミコトさん、本当にどうもありがとうございました」

 

「いえいえ、どういたしまして。てか、結局全部推理してあそこに辿りつけたのはほとんど美琴のおかげですから。お礼なら美琴に言って下さい。俺なんかこうして3日も宿屋のベッド独占しちゃったみたいで…後でちゃんとお金払います」

 

「いえいえそんな!それぐらいのことはさせて下さい!危険な目に合わせてしまったのはこちら側なんですから!」

 

「そ、そうですか…じゃあお言葉に甘えて…」

 

「え、ええっと…それでなんだけどアンタ…わ、私からも1つお礼というか…謝らないといけないことがあって…」

 

「え?謝らないといけないこと?」

 

「実は……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

第50層 アルゲードにて

 

 

「よぉ、エギル!」

 

「おお!上やん!無事だったのか!心配したぞ!」

 

「ははは、クラインと一緒に見舞い来てくれたんだろ?サンキューな!」

 

「なーに、いいってことよ。で、さてはお礼がてらウチに儲けを出しに来てくれたってことでいいんだな?」

 

「ははは…まぁ当たらずも遠からずなんだが…なんか良い盾置いてないか?出来れば円形で、前の俺の盾と同等かそれ以上の性能のやつ」

 

「盾?なんでまたそんなもんを?」

 

「実はだな…」

 

 

そう、上条当麻には愛用の盾があった。良き時を共にし、良き時も悪しき時も、長く苦しい戦いも潜り抜けて来た愛着のある盾が。しかし、そんな上条当麻があししげくエギルの店を訪れ、新しい盾を求めるのにはある理由があった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『実は……逃げるのに必死で…アンタの盾、十字の丘に置いて来ちゃったのよ…』

 

『・・・へ?』

 

『あ、後で気づいてもう一回あそこに行って隈なく探したんだけど…やっぱりなかったの…ごめん!』

 

 

美琴が両手を合わせて平謝りする

 

 

『は、はぁ!?あの盾50層のボスのLAボーナスだぞ!?めちゃめちゃ良い性能ですっげえ気に入ってたのに!』

 

『し、仕方ないじゃない!命助けてあげたの私なのよ!?あの状況で命あるだけお釣り来ると思いなさいよ!』

 

『ほ〜〜?じゃあ俺としてもお前の『あの能力』をアルゴに話してもいいんだな〜?さーてアルゴいくらくれるかな〜?それを元手にして新しく新調するのもいいかもな〜?』

 

『!!あ、アンタそれは卑怯よ!他言しないって言ってたじゃない!私の純情を弄ぶつもりな訳!?///』

 

『それはなんか俺に誤解が生じるってか違うだろ!でも…そうだな…美琴、お前なんかいい盾持ってないか?』

 

『私はそもそもが盾無しレイピア使いだから…盾なんていいのがドロップしてもお金欲しさにすぐ売り払っちゃうわよ。辛うじて持ってるって言っても、アンタが使ってた盾には遠く及ばないわ』

 

『だよなぁ…あ!じゃああれだ!お前んとこのギルドの団長さんに口聞いてくれよ!いい盾余ってないかって!』

 

『多分結果は同じだと思うわよ?性能はまだしも、団長がいつも使ってるの十字盾だし。アンタやたら丸いタイプのやつにこだわってたじゃない』

 

『そりゃ上やんさんには攻撃のリーチと幅が少ねえからな。相手を殴りやすくて、いざという時には投げ飛ばせる円形が必須条件だ』

 

『あの、じゃあ私がお礼でそのお金出しましょうか?』

 

『あーいやいや、ヨルコさんは宿代出してくてるのに悪いですよ。それに元々悪いのコイツなんで』

 

『はあああぁぁぁ!?それは反論するわよ!敢えて投げるんだったらそういうリスクは頭の内に入ってんでしょうが!すぐに自分で回収しなかったアンタの自業自得よ!』

 

『あーもう分かった分かった。別にお前に金やら媚びろうなんて思っちゃねぇよ。いい盾持ってりゃ貰ってたが金となりゃ話は別だ。いさぎよく見舞いのお礼も兼ねてエギルの店にたかりに行くよ』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……って訳なんだ」

 

「・・・なぁ上やん、お前今の話の大半が惚気話だって分かって俺に話してんのか?」

 

「はぁ?今の話のどこに惚気があるんだよ。上やんさんには惚気るそもそものネタがありませんのことよ」

 

「はぁ〜〜〜、ミコトのやつも苦労してんだなぁ〜…」

 

 

エギルが頭を抱えてわざと大きめにため息をついた

 

 

「?」

 

「まぁいい。話を戻すが、お前が以前まで使ってた盾と同等の性能で円形の盾…だったな?」

 

「ああ、いいのないか?金ならそこまで困ってねえから問題なく払えると思うんだが」

 

「金うんぬんの前に、ウチみたいな雑貨屋に求める条件が高すぎるぜ。お前の要望はそりゃもう武具屋レベルだ。だが今攻略が進んでる最前線の層の街のNPC武具屋でもお前の出す条件を満たす盾を置いてるとは思えねぇけどな」

 

「だよなぁ…はぁ…しょうがねぇ…妥協するか…」

 

だが、そこでエギルがニヤリと笑う

 

「『NPCの武具屋』…だったらな」

 

「え?」

 

(「あ、あーいやでもな…コイツに紹介してもいいもんか…コイツ誰彼構わずすぐにフラグ立てるからな…あいつが例外とは限らんし…そもそもコイツがそれでまたフラグ立てたらまたクラインのヤケ酒に付き合わされるしな…どうしたもんか…」)

 

「?どうしたんだよエギル。いきなりブツブツ1人で呟いて独り言か?」

 

「まぁいいか…アイツも結構勝ち気なとこあるからな。お前が行っても大丈夫だろ」

 

「?だから何だってんだよ」

 

「実は商売人繋がりで、鍛治スキルが結構高いヤツが個人で営んでる武具屋があるんだ。NPCじゃない武具屋、いわゆるプレイヤー武具屋ってヤツだな」

 

「お!いいじゃねぇか!」

 

「場所は第48層の主街区『リンダース』だ。『リズベット』という歳は丁度お前ぐらいの女が経営してる。俺みたいに片手間に店やってる訳じゃなくて専門でやってるから腕は確かなハズだ」

 

「なるほど。じゃあそこに行ってみるか」

 

「まぁ、その店主のリズベットって女が中々のじゃじゃ馬だからな。扱いには気をつけろよ」

 

「なんだ?職人気質ってやつか?」

 

「いやまぁそうとも言い切れんが…ともかく俺が連絡を入れておいてやるよ。急ぎじゃねぇんだろ?」

 

「あぁ、まぁ今すぐにでも欲しいって訳ではねぇよ」

 

「なら明日の午前中辺りに行くといい。ある程度なら話を通しておいてやる」

 

「サンキュー!恩に着るぜエギル!」

 

「・・・てかよぉ上やん、お前その様子を見る限り防具も丸ごと新調した方がいいんじゃねえか?」

 

「え?何でだよ?」

 

「いや流石にそういうカッコつけたがる歳だってのは分からなくもないんだが…流石に黒一色ってのは…」

 

「うるせぇな!仕方ねーんだよ!俺だって分かってるよこの格好が他人から見りゃ痛い奴に見えることぐらい!でも今の手持ちで最高のパラメータの防具選んだらこうなったんだよ!」

 

 

そういう上条の身を包む防具は、少し生地の厚い所々に銀色の刺繍の入った黒のコートに、下も黒のズボン。おまけにコートの中に着ているシャツも黒なため、まさに黒一色。それは側から見れば中二病患者かV系バンドの衣装にしか見えない

 

 

「まぁお前は元から防御力が高い代わりにスピードの落ちる鎧系装備よりも、ある程度の防御の代わりにスピードを保てる洋服系装備を使うからな。まぁ仕方ねーっちゃ仕方ねーか」

 

「でもこれ見た目はもうちょいどうにかして欲しいけど案外気に入ってんだよな。なんつーか学ランみたいで…まぁ現実の学ランとかほとんど着てねーからまだツルツルなんだけどさ…」

 

「俺は流石にそんな学ラン制服にしてる学校なんか通いたくねーがな…」

 

「ま、性能には代えらんねーさ。前線で命張って戦うのに一々見た目なんか気にしてらんねーよ」

 

「ま。それもそうか」

 

「ま、とりあえず盾の件は助かったぜ!ありがとなエギル!また何かいい素材が手に入ったら売りに来るぜ!」

 

「っしゃ!そういう訳で上やん!今日は何を買いに来たんだ!?」

 

「え、いやだから盾がないなら…」

 

「な・に・を・買・う・ん・だ・?」

 

「・・・不幸だ」

 


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