「本日はどうもありがとうございました…すいません、怖い思いをしたばかりなのに色々と聞いたりしてしまって…」
「いえ…こちらこそ、こんなところまで送ってもらって…」
「いや、気にしないで下さい。それよりもまた明日、お話を聞かせて下さい」
「はい」
「よし、じゃあ行こう美琴」
「ええ」
スタスタスタ…
「さて、現状把握もかねて、ヨルコさんから聞いた話をお互いに確かめておくか」
「そうね、それがいいわ」
2人はあの後、教会の下に集まっていた野次馬の中から、事件を最初から見ていたという紫色の髪をした「ヨルコ」という女性を保護した。それから一連の事情を聞き終わり、彼女を泊まっている宿まで送って行った後だった
「被害者は『カインズ』さん。ヨルコさんとは知り合いで、あの時の少し前、2人は一緒にご飯を食べていた」
「2人は同じギルドいたことがあった知り合いで、食事をし終わった後、2人はそこの広場ではぐれてしまった…ということね」
「そして周りを見渡したら、いきなりこの教会の窓からカインズさんが投げ出されて吊るされていた」
「そしてその時、確証はないけれど、ヨルコさんはカインズさんの後ろに誰かの影を見ていたのよね。でも、その人影に見覚えはなかった」
「そして、カインズさんに関してカインズさんが狙われるような理由に心当たりはなく、彼を狙うような人にも心当たりはなかった…」
「これで全部ね…後は、現場に残されたそのスピアだけ。だけど、そのスピアの出所が分かれば、犯人を追えるかも…」
「となると…鑑定スキルがいるな…美琴、お前上げてるか?」
「上げてる訳ないじゃないそんな実戦に役立たないスキル」
「だよな…って事はエギルに頼むしかねぇな…」
「エギルさん?あの人そういう道に進んでたの?たまに前線にも顔出してるのに」
「装備専門ではねぇよ。ただの雑貨屋さ。俺もたまに世話になってる」
「私も知り合いに専門の武具屋やってる子がいるけど…まぁいっか、今は1番忙しい時間帯だし」
「じゃ、話は決まったな。50層のアルゲードに行こう」
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「なんか…治安悪そうなとこね…」
「こういう路地だから仕方ねーんだよ、夜は特にな…ま、学園都市の裏路地とか思い出すだろ?」
「それ大してフォローになってないわよ…」
「まぁそこは流してくれよ、そろそろだ…っと…」
カランカラン!
<毎度!また頼むよにーちゃん!
「はぁ〜〜〜…」
第50層の主街区アルゲードを歩く上条達がある店の前にたどり着くと、その店の中からエギルの声が聞こえて来たかと思えば、それに続いて、いかにも気だるそうに槍を背負っている青年が出て来た
「ははは、今の人見る限り、相変わらずアコギな商売してるみたいだな、エギル」
「よぉ!なんだ上やんか!なに、安く仕入れて安く売るのがうちのモットーなんでね」
「安く売るのはいいが、仕入れるのはほどほどにしといてやれよ」
「それじゃあウチはあっという間に赤字になっちまうよ」
「よく言うぜ、こんな店を経営しながらも前線に顔出すくせに」
「あっはっは…っておい!そ、そこにいんのひょっとしてミコトか!?」
「え?ああそうだけd…ぐぇ!?」
上条が話している途中にも関わらずエギルは彼の首に腕を回し強引に店のカウンターの内側へと引き込む
「ど、どうなってんだ!?お、お前あの後からずっとソロやってんじゃなかったのか!?あの第1層の時からとかくミコトからは一線引いて距離取ってパーティーとか組まないようにしてたんじゃねえのかよ!?」
「いでっ!?いててて!!あ、あーもうちげーよ!色々と事情があんだよ!てか顔ちけーんだよホモかお前!!」
「誰がホモだ!?現実じゃ俺は所帯持ちだ!」
「え、そうなの?」
「あ゛っ!?つい口が…」
「おいテメーエギル!いい歳こいて奥さん持ちとは聞いてねぇぞ!詳しく聞かせろコンチクショウ!美人だったら承知しねーぞゴラァァァ!!」
「あ、あはははは…」
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「圏内で人が死んだ、か…デュエルじゃないのか?」
あれから上条は奥さんの話は脇に置き、事件の内容と事情をエギルに説明し、美琴と共にエギルの店の裏の居間へ通してもらっていた
「それがデュエルだって分かってんなら、こんな苦労しちゃいねーっつの。WINNER表示は確認出来なかったしな」
「直前までヨルコさんと一緒にいたから睡眠PKの可能性も低いわ」
「それに、突発的なデュエルにしてはやり口が複雑すぎる。他に方法なんざいくらでもあったはずだ。それを踏まえると、確実に事前に計画されてたPKだと思っていい」
「そこで、コイツか…」
そう言うとエギルは、先ほど上条から手渡された事件現場に残された槍を手に取り、鑑定スキルを使って武器の詳細を調べる
「どうだ?何か分かるか?」
「・・・『プレイヤーメイド』だ。つまりはソイツのオリジナル武器。一般的に出回ってるモンじゃねぇ」
「そ、それ本当か!?」
「さ、作成者は一体誰なの!?」
「作成者は『グリムロック』…商人同士の間じゃ聞いたことねぇな…少なくとも一線級の刀匠じゃねぇ、武器自体にも特に変わった性能はない…」
「そう…でも、手掛かりにはなるはずよ」
「そうだな…エギル、その武器の名前って分かるか?」
「えーっと?『ギルティー・ソーン』となっているな。さしずめ『罪の茨』ってとこか」
「罪の…茨…」
「ま、とりあえず返すぜ…」
「おう、サンキュな」
エギルは上条当麻に槍を返し、上条はそれを受け取った
「・・・よし、試してみるか」
そう言うと上条当麻は槍を逆手に持ち、自分の手の平を広げる
「えっ?ちょ、アンタ何を!?」
「ふっ!!!」
ビュッッ!!!!!
「!!!ダメッ!!」
ガシッ!!!
「!?お、おいなんだよ美琴!?ビックリさせんなよ!」
「ビックリしたのはこっちよ!アンタバカなの!?その武器で実際に死んだ人がいんのよ!?」
「いやだって、試してみねぇ事には分かんねぇだろ?」
「そういう無茶はやめなさいよ!何度言ったら分かるの!?少しでも死ぬ要素がある時は自分を第一に考えなさいって!」
「いやでもこれは…万が一原因がこの武器にあったと仮定して…」
「とにかく!これは、エギルさんにしばらく預かってもらってもう少し調べてもらうわ!それから誰かに試し切りするでも遅くないでしょ!?いいわね!?」
「わ、分かったよ…何もそんなにムキになるかよ…たかが自分の腕一本傷つけようとしたぐらいで…」
「おい、俺の意向は無視かよ…まぁいいが…」