ここは第56層にある「パニ」という村。その村の外れにある洞窟では今、多くの攻略組のギルドが集まり、この層のボスへの攻略会議が行われていた。そしてその中に周りよりも一際熱い口論を交わす者が2人いた
「あのなぁ!NPCはその辺にある岩とか木とはちげーんだぞ!悲鳴だってあげる!感情だって表に出る!」
「んーなことは分かってんのよ!でもそれでも所詮あれはコンピューターでしょ!?時間が経ちゃほっといてもまたリポップすんのよ!」
上条当麻と御坂美琴の2人である。口論の原因は美琴の提案にあった。彼女の提案はボスモンスターを村に誘い込み、ボスがNPCの村人を攻撃している隙に、自分達が攻撃して倒してしまおうというものだった。そんな理不尽はNPCにとってみたらたまったもんじゃないと上条が言い返したところからドンドン口論は激化していったのだ
「生き返りゃ誰だって囮にしてもいいのかよ!?それは違うだろ!もっと他に方法なんて探しゃいくらでもあんだろ!人だろうとコンピュータだろうと、作られた物だろうと命は弄んでいいもんじゃねぇ!お前はそれをミサカいもうt…!!やべっ!?」
「!!!!!」
ついつい上条が激昂のあまり我を忘れ、現実世界の美琴と自分との間で過去にあった出来事を引き合いに出しかけてしまい、慌てて口をつぐんだ
「・・・ともかく、今回の作戦は私、血盟騎士団、副団長のミコトが指揮を執ることになっています。ここでは私の言う事に従ってもらいます」
「ッ〜〜〜〜〜!!ああそうかよ!だったら俺は今回のボス攻略戦は降りるぜ!」
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ドサッ!
「ったく!…何なんだよ美琴のやつ…お前だって普段NPCの世話になってんだろうが…NPCあっての俺たちみたいなとこもあるってのによぉ…」
ドサッ!
「おす!よもやまた『閃光』さんと揉めるとは、お前も相変わらずだなぁ…上の字よぉ…」
「・・・クラインか…」
洞窟での口論から数時間した後、上条は村外れの草原に乱暴に腰を下ろした。するとそこに、攻略組として顔を合わせるようになり、いつしかこの世界の友人の一人となった男が同じように腰を下ろし話しかけてきた
「何でお前と閃光さんはいつもああなんだか…まぁとりあえず飲めよ。気分が紛れる」
「・・・俺リアルじゃ未成年なんだけどな…」
「少しくらいはいいだろ…大体がリアルで眠ってる体がこれ飲んで酔っ払う訳じゃなし」
「・・・お前きっとリアルじゃダメな大人だろ」
「バレたか♪」
上条に話しかける赤髪の頭にバンダナを巻いた野武士面の男の名は「クライン」。攻略組の一角であるギルド「風林火山」のリーダーであり、上条とは友人改め、今ではお互いの実力を認め合える悪友とも言える関係となった
「しっかしよぉ?本当何で…ゴクッ…っぺー!お前とミコトさんはああなんだよ」
「喋るか飲むかどっちかにしろよ…まぁきっとアレだよ、俺も美琴もリアルを忘れたくないだけなんだよ、きっと。俺たちリアルじゃずっとああだったからな。元々の気が合わねえんだよ」
「よく言うぜこのモテ男め…」
「あぁ?モテ男?この上やんさんがか?冗談キツイぜ」
「ふんっ!」
バキッ!
「痛えっ!?何でいきなり殴るんだよクライン!」
「今のお前のセリフは殴られて当然なんだよ!!」
「何のことだよ…ゴクッゴクッ…うげぇ、にっがいなこれ…」
「いつかそれが美味く感じる時が来るんだよ…っぷはぁー!」
「・・・でもまぁ、アイツにはパーティー解散した別れ際に『他の誰かとパーティー組め』なんて言いはしたけど…まさかトップギルドの副団長にまでなって、そのレイピアの剣術の早さたるや『閃光』とまで呼ばれるようになるとはな…」
「・・・そりゃきっと、お前への気持ちと罪悪感から逃れたいと思って必死になってんだよ…あの子は…」
「あ?なんか言ったか?」
「何でもねーよ。はぁ〜、俺もお前みたいにリアルで繋がれる仲の良い女の子が欲しいぜ〜もしくは恋人がよ〜」
「はぁ?俺と美琴が仲が良い?冗談はよしてくれよ」
「いいや〜?俺にはお前ら2人はこれ以上なくお似合いに見えるぜ〜?一回ぐらい付き合ってみたらどうだ?」
「おいおい…仲良いまでは見過ごせるけど、流石に恋人はよしてくれよ。あんなワガママで自己中で向こう見ずで高飛車なお嬢様なんかと付き合ったらこっちの身が保たねーよ。それに、上やんさんの理想の女性は『包容力のある年上の女性』ですのことよ?美琴なんかどれにも当てはまってねーよ…はぁ〜…『寮の管理人のお姉さん』に会いたい…」
「い、いや〜でもよぉ?カミの字よぉ〜それは……ッ!?!?」
「んぁ?どうしたんだよクライン、いきなりそんな世界の終わりでも見ちまったような顔して」
「てっ!転移!『ノルフレト』!」
シュン!
「あ!?おい!何だよクラインのやつ急に転移結晶なんか使いやがって…帰るなら一言断ってから行きゃいいのに結晶が勿体ねーだろ…まぁいいや俺とアイツの仲だし許してやるか…さて、昼寝でもしますかね…」
ゴロンッ…
「」
「へぇ〜?ワガママで自己中で向こう見ずで高飛車なお嬢様でどうもすいませんね〜?」
「ら、ラオウだ…俺の目の前にラオウがいる…」
「ふふふ〜♪面白い冗談ね〜?ワガママで自己中で向こう見ずで高飛車な美琴様も思わず可愛い笑顔が溢れちゃうわ〜?」
「め、目が…顔は笑ってても目が笑ってないですよみこ、美琴様…」
「いっぺんぶった切られて死ねコラアアアァァァ!!!!!」
「ギャアアアアアァァァァァ!?!?不幸だーーーーー!!!!!」
「お、奢ります!ご飯でもなんでも奢りますからどうかお許しを!」
先ほどまでクラインと談笑していたところ、美琴に対する上条の愚痴が不幸にも本人に聞かれてしまっていた為、彼は土下座しながらご飯を奢るから許して欲しいと言い出した
「・・・本当でしょうね?」
「本当!本気!マジで!誓います!」
「じゃあ今回は特別に見逃してあげるわ。丁度さっき56層の攻略も終わって次の層のアクティベートも終わったし、新しく到達した57層の『マーテン』って主街区のレストランで夕食でも奢ってもらおうかしら?無論フルコースで」
「ふ、フルコース!?そ、それってちなみにおいくらなんでせう…?」
「さぁー?まだ食べたことないから分かんないけど、NPCの中じゃトップクラスだったから、8000コルぐらいはするんじゃないかしら?」
「・・・不幸だ」
「じゃ、早速行くわよ。誰かさんが反論なんてしなけりゃNPCを囮にしてもう少し楽に倒せたところを、ちゃんと正攻法で私なりにも頑張って倒したんだから。おかげでもうお腹ペッコペコよ…」
「えっ…?それってつまり…」
「・・・転移。マーテン」
シュン!
上条の言葉を遮って美琴は転移結晶にこれから行くレストランのある街の名前を指示し光と共に消えた。彼とご飯を食べられる喜びなのか、それともただの照れ隠しなのか彼女の頬は心なしか少し赤らんでいた
「あ、おい!…ったく美琴のヤツ…大して緊急事態でもないのに割と価値の高い転移結晶なんか使いやがって…転移門まで行けばそれで済む話じゃねぇか…ま、俺もボチボチ行くかな…」
そう言って上条は立ち上がり、転移門広場に向けて歩き出した