とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第27話 オレンジ

 

「こ、ここに蘇生の花が…」

 

「ああ。ほら、あそこだ。行ってこいシリカ」

 

「はい!」

 

タタタタッ…

 

 

2人は今、道を進んだ先の思い出の丘の頂上に辿りつき、蘇生アイテムの出現するオブジェクトの場所に到達していた。そしてそのオブジェクトの前にシリカが立つと、台座が光を放ち、その光の中から種子が芽吹き、一輪の花を咲かす。シリカはその花を手に取る

 

 

「わあ…」

 

[プネウマの花]

 

 

シリカが花を手に取ると、アイテム名を表示するウインドウが現れた

 

 

「これでピナが生き返るんですね?」

 

「ああ」

 

「良かったぁ…」

 

「でも、この辺はまだモンスターが湧く場所だから一旦街に戻ってから生き返らせた方がいい。その方がピナも喜ぶさ」

 

「はい!」

 

 

そう言って来た道を戻っていく2人。もう少しで47層の広場に戻れるというところで、上条はシリカの肩を掴み立ち止まるように示唆する

 

 

「?上やんさん?」

 

「そこで待ち伏せてるやつ、出てこいよ。なんだったら名前を呼んでやろうか?」

 

「・・・あら、私のハイディングを見破るなんて中々高い索敵スキルね」

 

「え?えっ!?ろ、ロザリアさん!?」

 

 

上条が一見すると何も無いように思える木陰に向かって話しかけると、そこからシリカとの元パーティーメンバーだったロザリアが姿を見せた

 

 

「その様子だと、首尾よくプネウマの花をゲットできたみたいねぇ?」

 

「だから言ったろ『見てりゃ今に分かる』って」

 

「???」

 

「ふっふっふ、そういえばそんなこと言ってたわね…一先ずはおめでとう。じゃ、早速花を渡してちょうだい!」

 

「!?ふ、2人とも何を言ってるんですか!?」

 

「やっぱりそれが狙いだったようだな…オレンジギルド『タイタンズハンド』のリーダー、ロザリアさん」

 

「ッ!?オレンジギルド…!?」

 

 

上条の言う「オレンジ」とはいわゆるプレイヤーの頭上にあるカーソルの色である。カーソルの色は二種類存在する。最初は全てのプレイヤーのカーソルの色は「グリーン」。しかし、圏外で自分以外の他人のプレイヤーにダメージを与えると、カーソルの色がグリーンから「オレンジ」に変わる。その中でも「プレイヤーキル」通称「PK」を行なったもの。つまりこの世界で殺人を犯した者はカーソルの色は「オレンジ」のままでも、ゲームの死が現実の死に直結するSAOで人殺しという最大の罪を犯したという経緯から「レッドプレイヤー」と呼ばれる

 

 

「・・・へぇ〜?知ってたのねアナタ」

 

「で、でも…ロザリアさんのカーソルの色はグリーン…」

 

「簡単な手口さ。グリーンのプレイヤーが獲物を見つけて、オレンジが待ち受けているポイントまで誘い込むのさ。昨夜の俺たちの部屋の話を盗み聞きしてたのも、アンタのお仲間なんだろ?」

 

「え〜〜〜?ちょっとアンタどこまで分かってんのよ?」

 

「じゃあ…ここ2週間…ずっと私とパーティーを組んでたのは…」

 

「そうよ〜シリカちゃん。戦力を確認して、冒険でお金とアイテムが溜まるのを待ってたの」

 

そう言ってロザリアは不気味に舌舐めずりをする

 

「!!!そんな…」

 

「1番楽しみな獲物だったアンタがパーティーを抜けちゃった時は残念だったけど…レアアイテムを取りに行くって言うじゃない?だから諦めずに跡をつけさせてもらうことにしたの」

 

「でも、そこまで分かってて付き合ったそこのアンタ、一体どうしてよ?」

 

 

ロザリアが上条に疑問を投げかけた

 

 

「俺はある情報をアルゴから聞いて、お前達を個人的に追っていたんだ」

 

「へ〜?その聞いた情報って言うのは?」

 

「お前達タイタンズハンドが、殺人ギルド『ラフィンコフィン』と繋がってるってな」

 

「!?チッ、バレてやがったのか…」

 

「それともう1つ。あんた達、10日前に『シルバーフラグス』ってギルドを襲ったろ?そしてリーダー以外の4人を殺した」

 

「あ〜?あの貧乏な連中ね」

 

「そのリーダーだった男が、その次の日の朝から晩まで最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちをしてくれるヤツを探してたよ。そして、俺はその依頼を受けた。どうせアルゴから情報を聞いた時から後々お前らを探すつもりだったからな。どうせなら、可哀想だし助けてやろうと思ってその依頼を受けた。テメエらみたいなクソ野郎を更生させてやろうと思ってなぁ!!」

 

「か、上やんさん…」

 

「はぁ?何マジになっちゃってんの?バッカみたい。ここで人を殺したところで、死んだそいつが本当に死ぬ確証なんてどこにもないじゃない。それに、今はそんな他人の心配より、自分たちの心配をした方がいいんじゃなあい?」

 

 

パチンッ!とロザリアが指を鳴らすと7人のオレンジカーソルのプレイヤーが物陰から姿を見せた

 

 

「!?こ、こんなに!?」

 

 

オレンジカーソルを持つ人の多さに驚きを隠せずシリカはすっかり怯えてしまっていた

 

 

「どぉ?これなら流石のアンタも依頼を受けたことを後悔するんじゃない?」

 

「上やんさん!数が多すぎます!逃げましょう!」

 

「いーや大丈夫さ、俺が『逃げろ』って言うまでシリカはここで転移結晶を用意してここで待っててくれ」

 

 

そう言ってシリカの頭を軽く撫でると、上条はタイタンズハンドの方に向かって歩き出した

 

 

「は、はい…!でも…あっ、ちょっと上やんさん!」

 

 

シリカの自分を呼ぶ声には答えず、背負っている盾を右手で持ち上げ自分の正面に持ってくると、その盾の取っ手に左手を通し盾を構えた

 

 

「・・・上やん?今あのチビ、アイツを上やんって呼んだか?」

 

 

シリカが上条のユーザーネームを呼んだ声を聞いたタイタンズハンドの1人が、まるでそのユーザーネームを以前に聞いたことがあるかのような反応を見せる

 

 

「何も装備しない素手の右手に左手のデカい円形の盾…そして黒髪のツンツン頭…ま、まさかコイツ…!」

 

「『右腕の上やん』か!?ロザリアさん!コイツずっとソロで…しかも素手で前線に潜り込んでるって噂のユニークスキル持ちの…攻略組だ!」

 

(こ、攻略組!?上やんさんって攻略組だったの!?)

 

 

タイタンズハンドの男達の言葉に思わず自分の耳を疑うシリカ

 

 

「攻略組がこんなとこいるわけねぇだろ!それに、例えアイツが攻略組でもこの人数で囲んじまえば結果は同じさ!ほら!とっとと始末しちまいな!」

 

「それもそうか…っしゃあ行くぞお前らぁ!」

 

 

ロザリアがそう言うとそれに賛同し7人の男達がソードスキルを使い、一斉に上条に向かって切りかかってきた

 

 

「はー…やれやれ…仕方ねーな…」

 

「か、上やんさんっ!!!」

 

「「「死ねやぁぁぁぁ!!!」」」

 

「ほっ」

 

 

上条が襲いかかる男達に対して取った行動はかなりシンプルだった。「甲羅にこもる」という表現が相応しいだろう。上条はその場に少ししゃがみ、まるで亀のように自分の左手の盾を、自分の頭上で自らの身を守るドームを作るように構えた

 

 

ギィン!ボギン!ガキン!パキン!バギィン!バギン!ボキィ!

 

「「「・・・は?」」」

 

「はい、お粗末様」

 

 

盾を構えた上条に特攻した7人の武器がそれぞれ音を立ててポッキリ折れていく。7人の武器全ての耐久値が上条当麻の装備する盾の耐久値を下回っていた為、一太刀でどの武器も折れてしまい、オブジェクト破砕音と共に跡形もなく消えてしまった

 

 

「く、くそッ!俺たちの武器が!」

 

「あのなぁ、7人で来たってこの世界じゃ耐久値対決は所詮一対一の比べ合いなんだよ。まぁでも7人の武器合計の耐久値でも俺の盾は壊れなかっただろうけどな」

 

「なっ!?アイツッ!?」

 

「す、すごい…」

 

「どしたぁ?もう終わりですかぁ?それとも代わりの武器でも出してくるかぁ?まぁこの盾の耐久値より上の武器がお前らのストレージから出てくるとは思えねぇけどな」

 

「そ、そんなのアリかよ…」

 

「そんじゃま、全員この回廊結晶で牢獄に飛んでもらおうか。それが俺の依頼主の願いなんでな。せめて自分の罪を数えながら牢獄で楽しい生活を送るんだな」

 

「チッ!おい!まだ私が残ってんだよ!かかってきな!もっとも、グリーンの私を傷つければアンタがオレンジに…!」

 

ビュンッ!!!

 

「ッ!?!?」

 

 

ロザリアが言い終わる前に、上条はそこにいる全員が肉眼で捉えられぬほどのスピードでロザリアに肉迫し、彼女の眼前には上条の右拳が迫っていた

 

 

「言っとくが、俺はこの後カーソル回復クエストでいくらでもカーソルの色なんざ回復できるぞ。それともここでお前が選ぶか?残りのゲームが終わるまでの日々を牢獄で過ごすか、それとも本当に現実で死ぬのかの確証もない賭けに出て俺の右手で砕け散るか。なぁ、ロザリアさん?」

 

「クッ……」

 

 

それからタイタンズハンドは観念し、上条が使った回廊結晶により牢獄まで連れていかれ、全員まとめて仲良く牢屋へと投獄された

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

全ての始末を終え、上条とシリカは朝まで泊まっていた宿屋に戻り、上条当麻が改めて自分の攻略組としての自己紹介や今回の自分の立ち回りについて話していた

 

 

「すまなかったなシリカ…結果的にはお前に囮みたいな役回りをさせちまった…出会って最初に俺の話をすれば、怖がられちまうと思ったんだ…」

 

 

そんな彼の言葉にシリカは首を横に振った

 

 

「いえ、上やんさんは良い人だから…怖がったりなんてしません」

 

「そうか、ありがとう」

 

 

そんなシリカの言葉に、上条も微笑みながらお礼の言葉を返す

 

「その…やっぱり行っちゃうんですか?」

 

「・・・ああ、なんだかんだで5日も前線から離れちまったからな。すぐに戻らねぇと…美琴にどやされる」

 

「・・・こ、攻略組なんてすごいですね!私じゃ…何年たってもなれないですよ……」

 

 

そんな風にあやふやに言葉を紡いでいるシリカの表情は、みるみるうちに曇っていった。それは仕方のないことなのかもしれない。ただの2日程度の関係とはいえど、死と隣り合わせの世界で初めて心から頼りにした人と別れてしまうと思えば、別れを惜しむのも当然だった

 

 

「あの、上やんさん…私…!!」

 

「レベルや装備なんて、所詮突き詰めればただの数字だ。この世界での強さなんて単なる『幻想』だ。そんなものよりも、もっと大切なものがある」

 

「・・・え?」

 

「人との繋がりさ。人との繋がりだけは、強さとかパラメータじゃ測り切れない。それは現実でも、この仮想世界でも変わらないんじゃないかって、俺は思う」

 

「上やんさん・・・」

 

「次はいつか現実世界で会おうぜシリカ。『上条当麻』それが俺の本当の名前だ。いつか向こうの世界に戻った時に探す時の参考にしてくれ。そんでまた出会ったら、同じように友達になれるさ」

 

「!!はい!私の名前は『綾野桂子』です!またいつか会いましょう!約束ですよ!?上条さん!」

 

「・・・ああ、約束するよ綾野。さ、ピナを生き返らせてやろうぜ」

 

「はい!」

 

そう言うとシリカはメニューを開いてウインドウを操作し、アイテムストレージからピナの心とプネウマの花を取り出した

 

 

(・・・ピナ…戻ってきたらいっぱい、いっぱいお話してあげるからね。

今日のすごい冒険の話…私とあなたの…たった1日だけの…とびっきりの『ヒーロー』さんの話を…)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その翌日、 第56層の転移門広場にて上やんの元をとある情報屋が訪れていた

 

 

「よう上やん。一連の活躍は聞いたゾ。ご苦労だったナ」

 

「ようアルゴ。で、例の情報は聞き出せたのか?」

 

「ああ、牢獄の尋問官の繋がりからナ。どうやらお前がアイツらをぶち込んだ後、ロザリアが洗いざらい吐いたらしイ」

 

「で?その詳細は?」

 

「洗いざらい吐いたとは言っても、アジトの場所までは知らなかっタ。分かったのはロザリアが自分へ指示を出していたラフィンコフィンの下っ端から聞いたと言っていたリーダーの名前とユニークスキルの名称だけダ」

 

「・・・その名前とスキル名は?」

 

「1000コル」

 

「クソッ!!!」

 

 


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