とある魔術の仮想世界   作:小仏トンネル

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第24話 竜使い

 

ここは第35層北部の森林地帯、通称「迷いの森」である。現在の最前線とはかけ離れているこの場所で、2人の女性が口論を繰り広げていた

 

 

「な〜に言ってんだか。あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒールクリスタルは分配しなくてもいいでしょう?」

 

 

この赤い髪をしたガラの悪い女、ロザリアの言うヒールクリスタルとは、いわゆる回復アイテムである。HPが0になれば現実でも死ぬこの世界では、この手のアイテムはもはやプレイヤーにとっての生命線であるとも言える

 

 

「そう言うあなたこそ!ロクに前衛に出ないくせに結晶なんて必要なんですか!?」

 

そのガラの悪い女に負けじと、小さな青いドラゴンを肩に乗せた茶髪のツインテールの女の子、シリカは強い口調で言い返した

 

「もちろんよ〜お子ちゃまアイドルのシリカちゃんと違って、男たちが回復してくれるわけじゃな〜いもの?」

 

「ッ!!」

 

「お、おい…2人とも…」

 

 

2人と同じパーティーに属する3人の男の内の1人が2人の口論を止めに入る

 

 

「・・・分かりました!アイテムなんていりません!あなたなんかとは絶対に組まない!パーティーも抜けます!私を欲しいって言うパーティーは他にも山ほどあるんですからね!」

 

「あっ!ちょ!シリカちゃーん!」

 

 

そう言い切るとシリカはロザリアとパーティーから背を向け、男の静止を求める声も無視して迷いの森の中へ1人きりで歩き始めた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・迷った…」

 

 

そしてこの男、上条当麻も「とある目的」を果たす為にこの迷いの森に入り、ものの見事に道に迷っていた

 

 

「流石に迷いの森って言うだけあるぜ…迷宮区と良い勝負だな…もう右も左も分かんねえぞ…あ、幻想殺しがあるから右はこっちだー…なんちって…あははは…不幸だ…」

 

「でも流石にこんな下層で転移結晶使うってのも気が引けるなー…さて、どうしたもんですかねー…」

 

 

<ピナァァァァァ!!!……

 

 

なんて冗談を言いながら己の不幸を嘆いていた上条の耳に不意に誰かの悲鳴が聞こえてきた

 

 

「ッ!?誰かの悲鳴!?誰かモンスターと戦ってるのか!?クソッ!間に合ってくれ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ピナ!ピナァッ!!」

 

 

シリカの呼びかけも虚しく、青いフェザーリドラの「ピナ」はHPが0になりポリゴンの欠片となって砕け散り、光る尾羽が1枚だけ残り、しばらく宙を舞ってふわりと地面に落ちた

 

 

「オオオオオォォ……」

 

「あ…あ、ああ…」

 

 

ピナに止めを刺し、1人になったシリカを3体で取り囲むのはこの迷いの森では最強クラスの猿人モンスター「ドランクエイプ」。シリカはHPゲージが既に危険域に達しているにも関わらず、ピナを失った悲しみと自分を襲う恐怖に怯えたからか、動き出す事が出来ない

 

 

(あ、私…ここで死ぬんだ…)

 

 

そんな考えがシリカの頭の中に浮かんだその瞬間

 

 

「可愛い女の子を3人で囲んでイジメようだなんて、流石に心の広い上条さんでも関心しませんのことよ?」

 

「・・・え?」

 

 

そんな声がしたと気づけば後に聞こえてきたのは爆砕音。目の前にいたはずの3体のドランクエイプは爆散していた

 

 

「ふう、大丈夫か?それとも手助けなんて必要なかったか?」

 

(す、すごい…3体もいたドランクエイプを…一瞬で…でも…)

 

「・・・ピナ…あたしを1人にしないでよ…」

 

 

泣きながらピナが残した1枚の尾羽を両手で拾いあげるシリカ

 

 

「ピナ?……その尾羽、ひょっとしてお前『ビーストテイマー』なのか?」

 

「・・・はい…でもその大切な…パートナーだったピナが…ピナが……」

 

 

そう言って瞳から大粒の涙をぼろぼろと流し始めるシリカ

 

 

「・・・すまなかった、もう少し早ければお前の友達も…助けられたかもしれないのに…」

 

「いえ…私がバカだったんです…1人で森を突破できるだなんて思い上がっていたから…ありがとうございました…助けてくれて…」

 

「えっと…その羽根なんだけど、アイテム名とかあるか?」

 

「? はい、確認してみます…」

 

 

そう言ってピナが残した羽根にシリカが触れるとアイテム名を表示したウインドウが現れた

 

 

[ピナの心]

 

「!!!…ヒック…」

 

「あーあーあー!待ってくれ!泣くのはまだ早い!ソイツが残ってるならまだ蘇生出来るから!」

 

「え!?」

 

「さて…そうなったら善は急げだな。よし!俺の右手を掴んでてくれ!」

 

「?」

 

「ほら、いいから」

 

「は、はい…」

 

「よし!離すなよ!」

 

(結局転移結晶使うハメになってしまった…まぁいいか、自分の為だけに使うんじゃないし)

 

 

そう言って上条は左手で転移結晶を掴んで天にかざし、転移の行き先を叫んだ

 

 

「転移!『ミーシェ』!」

 

 





この話で最初の注意書きでも書いたSAO内のシステムの改変がありました。転移結晶については『結晶を使用するプレイヤー及び、そのプレイヤーに触れている者』を転移するという設定です。禁書目録の黒子の「空間移動」をイメージして頂ければ理解が早いと思います。加えてですが、上条の幻想殺しはアイテムには作用しないという設定です。申し訳ありませんが脳内管理お願いします。m(_ _)m

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